君と俺と私の名前 ~YOUR NAME is ULTRA〜   作:ドンフライ

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4.非日常的日常
28.先生はスーパーヒーロー


 ごく普通の高校に通い、ごく普通の青春を過ごし、ごく普通の日々を暮らし続けている男子高校生、立花瀧。しかし、彼には一部の地球人や宇宙人以外には家族でさえも一切明かしていない秘密がいくつか存在した。彼には、女子大学生の姿をした恋人、宮水三葉がいると言う事。そして、彼はその三葉と共に、ここから遥か遠く離れた別の宇宙から迷い込んできた、と言う事である。

 

 そう、この事は友達や家族にも秘密のはずであった。しかし自分たちや世界に纏わる真実を知った日から、学校で彼は時々妙な視線を感じるようになった。会話を交わすいくつかのグループの視線が、どう見ても自分に向いているとしか思えないのである。

 

「まあな……瀧もドンマイだぜ」

「Xioの人に保護されたって感じだからなー、仕方ないよ」

「やっぱりそれか……あの視線は……」

 

 幸い、そんな彼にはいつも応援してくれる友人が『この宇宙』にもいた。眼鏡をかけた知的な同級生の藤井司と、体の丈夫さと運動神経には自信がある高木真太の2人である。

 立花瀧が怪獣災害に巻き込まれ、一時的に何らかの理由でXioに確保されていたと言う情報は、やはりと言うか何というか、噂としてこの学校に広まってしまっていた。その話を聞いた生徒たちが様々な憶測を考える余白を大量に残していたのも不味かったかもしれない。友人はそのうち噂なんてすぐに忘れるから気にするな、と励ましてはくれたものの、肝心の噂の張本人はどうしても普段の元気が湧かないままであった。何せ今の自分自身の正体は、噂話の中で誰かが言っていたように、この地球とは別の場所からやって来た「宇宙人」なのだから。

 

 そんな心が顔に出てしまったのか、友人2人は突然立ち上がり、瀧にたまにはこの長い休み時間を使ってバスケでもしないか、と告げた。勿論ゲームではなく1対1のミニ勝負なのだが、暗い時の気分転換には、たっぷり体を動かすのが一番だという事を彼らは知っていたのかもしれない。

 

「……そうだな、サンキュ、司に高木」

「よし、久々に瀧の名プレイを見せてもらうぜー♪」

「俺はのんびり見させてもらおうかなー」

「司は俺を応援しろよー。応援の分まで勝負は互角にしないと」

「なんだその理屈……」

 

 宇宙を超えても変わらぬ友情に顔を緩ませつつ、瀧は無駄な時間を消費しないように急いで校舎の外へ出た後、倉庫から出されていたカゴからバスケットボールを取り出した。そして、制服に汚れがつかないよう緩めにやろう、と互いに注意しあった後、早速高木を相手に勝負を始めた。

 昔取った杵柄と言う言葉通り、バスケの腕には自信がある瀧はなかなか彼にチャンスを与えなかった。

 

「くそっ……瀧……!」

「悪いな高木」

 

 そして、何とか隙を見つけた真太の投げたボールが見当はずれの場所に飛んでしまった直後――。

 

「あ、あれ……?」

「日比野先生じゃないですか」

「やあ、みんな」

 

 ――そのボールを受け止めたのは、偶然その場を通りがかったという教育実習生の日比野先生であった。普段通り、先生の顔は爽やかそのもの、まるでテレビの中で活躍するヒーローのようであった。

 

 ありがとうございます、と言いながら瀧がボールを受け取ろうとした時、突然高木が日比野先生もこの勝負に加わらないか、と誘った。止めようとした瀧であったが、先程から完全に彼のペースに呑み込まれ、なかなかゴールを決める事ができない高木は、先生相手なら何とかなりそうだ、と考えたのだ。そしてそのままとんとん表紙で話が進み、教師と生徒と言うハンデを考慮した上で、攻めの日比野先生対守りの瀧・高木コンビ、形だけ審判の司と言う形でミニ勝負をする事になってしまったのである。

 

「おい、本当にいいのかよ高木……」

「大丈夫だって、生徒2人、しかも俺と瀧の連携には勝てないだろうよ♪」

「……ま、それもそうか……」

 

確かに体育の授業ならばその自信満々な発言もありだろう、と瀧は思った。そう、『地球人』しかいなかった今までの生活ならば。だが、残念ながら現在この場にいるのは、3人の地球人と1人の宇宙人――しかもテレビの中の世界からやって来たヒーローなのだ。

そんな彼に、無謀にも挑んだ場合、一体どうなるだろうか――。

 

~~~~~~~~~~~

 

『……そりゃ凄かったんやなあ……』

「ああ、凄いよ……俺でもマジで腰抜かしかけるぐらいのな……」

 

 ――その夜、三葉に電話をかけた瀧が、その声を震えさせるほどの出来事として語る事からも、察する事ができるだろう。相手が高校生だったとはいえ、日比野先生――いや、ウルトラマンメビウスはその実力の一端を見せつけ、目にも留まらぬ素早い動きで全く瀧や高木を寄せ付けなかったのである。しかも最後には、後ろ向きで投げたボールが呆気なくネットに入ると言う、パフォーマンス顔負けのプレイまで出る始末だった。次の授業に何とかギリギリで間に合ったと言う苦労を忘れさせるほど、あの勝負は見る価値があったかもしれない、と瀧は熱く語った。

 

『私もいつか見てみたいなぁ……瀧くんがそんなに興奮するなんて……』

「まあ、その時は……あ、そうだ。もしかしたらって事もあるから連絡するが……」

『?』

 

 本日の放課後、瀧以上に日比野先生へと憧れの目線を向けていた司と高木は、先生にある誘いをした。教育実習生として毎日非常に忙しい事は分かっているのだが、それでもぜひもっと詳しく話を聞きたい、と。そして、そんな前置きを踏んだ上で、瀧も含めた4人で一緒にカフェに行かないか、と誘ったのである。

 

『良かったやん瀧くん、憧れのヒーローと食事だなんて♪』

「まあそうだけど、司たちもいるから実質いつも通りなんだよな……場所もどうせいつもの所だし」

 

 そんな情報を恋人はいえ何故わざわざ連絡したのか、それには重要な理由があった。今の所この事実を完全に認識しているのは、立花瀧と宮水三葉しかいない、ある意味2人の最重要機密事項なのである。

 

 

 そして、この情報の共有が、男子4人によるカフェ巡りの日に大いに役立つ事となってしまった。

 

「あちゃー……何でこんなタイミングに……」

 

 ここ数日起きていなかった『入れ替わり』によって、瀧の身体はこの町のどこかに住んでいる宮水三葉の元に入り、三葉が彼の代わりに日比野先生や友人に会う事になってしまったからである。

 少しだけ残念な気持ちもあったが、彼はすぐ気持ちを入れ替え、大学生の三葉としての休日をのんびりと味わう事にした。思い出はまた言葉として共有すれば良いのだから。

 

「……それに……ふぅ……やっぱり気になるんだよな……これ……」

「あー!またお姉ちゃんがおっぱい星人になりかけとる!」

「げ、四葉!!」


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