君と俺と私の名前 ~YOUR NAME is ULTRA〜 作:ドンフライ
「2人ともお疲れ様。ごめんね、長時間になってしまって……」
Xioの特殊車両・ジオアラミスを駆けながらアスナが謝った通り、瀧と三葉は気づけば1日以上、Xioの本部内に身柄を拘束されていた。しかし2人はほとんど気にしていなかった。確かにこの世界の概要を一気に説明された挙句、ウルトラマンを正体込みで知ってしまうというのは非常に頭を使う体験であったが、2人が出会った全ての人物が、自分たちのことを最大限信じ、そして彼らを心から応援してくれる非常に頼もしい存在である事をしっかり認識できたからである。
「良かった……大地とエックスの事も聞いたんでしょ?」
「はい、確か合体してウルトラマンになるって……」
「あれ、ユナイトって言ってなかった……?」
正解は三葉の方、私もちゃんとその事は知っているから心配無用だと告げつつ、アスナからも2人に様々な連絡を行った。今回の一件はそれぞれが無事帰宅した時点で終了であるが、2人に纏わる重大な要素……元の世界への帰還について、今後も何度かXioの本部へお邪魔してもらう事になる、と。瀧と三葉、この2人が揃わなければ、無限にある宇宙から故郷を絞り、そこへ向かわせると言う途轍もなくスケールが大きな事業を成功させる事が出来ないのだ。
「それに、私や大地以外の隊員にもまだ会ってないからね」
「他にもいるんですか?」
「うん、みんな優秀な人たちばかりよ」
どんな人だろうか、もしかしたら美男美女揃いか、など様々な想像を巡らす後部座席の2人の様子にアスナが微笑んだ時、突然背後から三葉の大きな声を聞いた。今の今までずっと拘束――と言うより基地内でゆっくりさせて貰っていた間の言い訳を、全く考えていなかったのを思い出したのである。
「い、言われてみればそうだ……あ、あの!」
「ま、まさかばれてないですよね……私たちの秘密……!」
「大丈夫、貴方達の『秘密』は全て極秘事項にしているから」
それに、こういう時に備えてしっかり先手の『言い訳』は用意していた、とアスナは少し悪戯っぽく告げた。
そう言えば、先に彼女は自分たちがXioの基地内で寝ている間の事は心配ない、とフォローを入れてくれていた。一体何をしたのだろうか、と互いに顔を見合わせる瀧と三葉がそれを知ったのは――。
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「お姉ちゃん!ほんっとーに、お姉ちゃんなんやね!?」
「だから心配しなくてええって四葉、私はちゃんと宮水三葉だってば」
――帰宅した際に、家族から『宇宙人』に乗っ取られていた体は大丈夫か、と言う奇妙な心配をされた時であった。あの後、Xioは公的機関としての権限を用い、立花瀧や宮水三葉の家族のうち連絡が取れる人々に、2人が侵略目的の宇宙人に乗っ取られた事が判明したため、精密検査を1日かけて行う、と『言い訳』をしたのである。確かにこれならば、しばらく身柄が確保されたとしても納得せざるを得ないだろう。
ただ、三葉の妹である宮水四葉は、それでも心配が拭えない様子であった。
「だいたい最近のお姉ちゃん変やったもん、おっぱい揉み始めたり、昨日閉まったものの場所すぐに忘れたり……」
「え、あ、ああ……そうやったんか……知らなかったわ……きっと宇宙人の仕業やな……」
「え、宇宙人?」
「そう、宇宙人」
とは言え、この四葉の心配事の原因が悪意ある宇宙人でない事は、三葉自身がはっきり認識していた。正確に言えば、その時の宮水三葉はここから遠く離れた別の誰かと体を互いに『侵略』し合っている状態なのだから。
そして何とか妹を宥めつつも、三葉はその推理に乗るように四葉に告げた。確かに体に宿っていた悪い宇宙人は追い払われたが、Xioの科学力でもどうしても『後遺症』が残ってしまうと言われたので、今後もしそういう事態になったらまた宜しく頼む、と。
幸いすぐに納得してくれた妹であったが、不思議とその顔にはどこか呆れ混じりのような感情が溢れていた。しかもその相手は姉では無さそうだった。どういう事なのかと疑問に思っている彼女の元に、共に暮らしているおばあちゃん――かつて宮水神社の要として活躍していた老婆が、安心した顔でやってきた。
「おばあちゃんごめんね、心配かけて……」
「ええ、ええ。これも『ムスビ』やからな」
優しさの中に非常に太い芯を持つおばあちゃんの声は、様々な緊張や興奮で疲れ切った三葉を癒すのに十分なほどの力を秘めていた。やはり糸守の血を引く者は丈夫、空から来た者に負けたりなどしない、と言うおばあちゃんの掌は、いつでも暖かかった。
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そして、家族を思いやる心は、こちらも同じだった。
「ただいま……」
「おかえり」
アスナに礼を言いながら別れた瀧が家に戻ると、そこには彼の父が待っていた。いつも口数少なく、息子の行う様々な事についてあまり干渉しない父を見た彼もまた、あまり言葉を交わさないまま自室へと戻り、着替えを済ませようとした。
しかし、そんな息子を父は止め、そして低い声で言った。
「……良かったな、悪事に利用されなくて」
そう言いながら、父は滅多に見せない笑顔を瀧に送った。それが何を意味するのか、彼はすぐに理解した。例え言葉をかわす機会が少なくとも、父はいつでも息子の事を見守ってくれているのだ、と……。
「……ありがとう」