君と俺と私の名前 ~YOUR NAME is ULTRA〜   作:ドンフライ

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24.英雄との遭遇

 あの日――ごく普通の階段で偶然すれ違うという本当に些細な出来事がきっかけで、それぞれが長い間ずっと思い出せないまま、ただ悲しさのみを秘めていた記憶を、喜びへと変えることができた立花瀧と宮水三葉。そんな2人が改めて自分たちの思いを伝え会った日、その言葉を言った直後の三葉は、完全に気が動転していた。顔を真っ赤にしながら急いでトイレに駆け込んだのは、用を足すためではなく、『瀧くん』がいない場所で先ほど自分たちが口に出してしまった言葉を整理するためであった。

 どれほど深呼吸しても動悸は止まらず、近くの鏡に映った自分自身の顔も涙ぐみ、最終的に我慢できなくなった彼女はそのままトイレから愛する彼の元へと戻り、存分に自分の気持ちをたくさんの涙とともに伝えたのであった。

 

 

 それと似たような状況が、地球防衛の要であるXioの基地内で起きていた。ただし、今回そのような感情を抱いたのは立花瀧の方であり――。

 

(メビウスだ……ほ、本物の……ウルトラマンだ……!)

 

 ――想いの『恋人』に巡り会えたというよりも、子供の頃のヒーローが目の前に現れたと言う憧れの気持ちが溢れたからであった。今の彼は、本物のウルトラマンが目の前にいると言う興奮で心がいっぱいだった。しかも、よりによってそのウルトラマンの正体――いや、この地球での姿が、現在の自分自身が通う学校の先生だなんて誰が予想しただろうか。

 新社会人であるはずだった瀧の心は、ヒーローに憧れていた少年時代の頃に戻っていた。それと同時に――。

 

(い、今の俺大丈夫かな……メビウスさんに見せる顔か……?)

 

 ――別に気にしないと言っても身だしなみに気を配り続ける三葉の気持ちを改めて察する事が出来たようであった。

 

~~~~~~~~~~

 

「瀧くん顔真っ赤やけど……」

「だ、大丈夫……具合悪いわけじゃないからさ……」

 

 用を済ませた瀧と三葉はそれぞれ様々な想いを抱えつつ、ヒビノ先生ことウルトラマンメビウスやXioの大空大地隊員と一緒に話をするべく応接室へと戻った。そして開口一番、大地以上に緊張しきっていた瀧は、もう一度先生に、本当にウルトラマンメビウスなのか尋ねた。

 

「瀧くん、凄い興奮しとるやね……」

「いや、だって目の前に子供の頃のヒーローがいるんだぜ……!」

 

 まるで新しいオカルトの話題をみつけた時のテッシーみたいだ、と思いつつ、三葉はヒビノ先生と瀧くんの会話を眺める事にした。何せこんな彼の姿を見たのは初めてなのだから。

 

「なるほど……立花君、昔からずっと僕の事を応援してくれたんだね」

「す、すいません……昔なのであ、あまり覚えてないところも……」

「構わないよ。その『光』、必ず僕の心に届いている」

 

 例え住んでいる場所や空間、時代が違っても、誰かを思う心、誰かを助けたいと思う心は必ず繋がる――宇宙の平和を守り続けるヒーローの言葉を聞いて、まるで眼が覚めるような想いを抱いたのは瀧だけではなかった。まるで目の前の凛々しい笑顔のイケメンが、2人が経験した事をそのまま言い当てているように三葉もまた感じたのである。飾り気や格好つけた心が微塵もない、あまりにも眩しく純粋な言葉であった。

 その言葉を反芻するかのように、しばらく流れた沈黙の時間を解いたのは――。

 

『それならば、私たちも忘れてもらっては困るな』

「「?」」

 

 ――大空大地隊員が持ち歩いている、派手な装飾がついたスマホのような何かから聞こえる声であった。

 このタイミングで発言して良いのか、と言う大地の問いにも、今のうちに全て伝えた方が良いと言った声の主は、机の上に置かれたスマホ状の機材の映像に――。

 

「あれ、これ……」

「ウルトラマン……?」

 

 ――自分自身の姿を映し出した。

 

 瀧の記憶にしっかりと焼き付けてあったメビウスとはまた違う、まるでヘッドホンのような耳に銀色が目立つどこかサイバーチックな外見。それが、この『エクスデバイザー』と言うスマホのような形をした装備の中に宿っている主だ、と大地隊員は丁寧に説明した。

 

「あの時、俺はアスナに2人を任せた後に、このエクスデバイザーを使って一体化……俺たちの言葉で言うと『ユナイト』したんだ」

『その通り。そして私たちは、超獣に立ち向かうことが出来る大きさになれたという訳さ』

 

 その言葉が何を意味するのか、瀧も三葉も次第に理解し始めた。あの時、自分たちを始めとする街に暮らす人々の平和を守り通すべく奮闘したのはウルトラマンメビウスだけではなく、彼と共に戦う名前も知らないもう1人のウルトラマンがいた。それが今、目の前に『2人』となって座っているのである。

 

「ウルトラマンが……2人も……」

「私や瀧くんの目の前に……」

 

 再び驚く別の宇宙からの迷い人の2人に、エクスデバイザーに宿る戦士は改めて自身の名前を名乗った。ウルトラマンエックス、宇宙の調和を守る役目を持つ者である、と。しかし、その言葉を聞いた途端、瀧も三葉もその名を目にしていた事に気がついた。

 

「エックス……エックス!」

「もしかして、新聞に書かれていた……!」

『私の名を知っていたか。それはありがたい』

 

 既にこの世界において、『ウルトラマンエックス』と言う存在は日常の一部と化していた。新聞だけではない、テレビもネットも、瀧の友達でさえも、ごく普通にウルトラマンの活躍を語るような世界が自分たちの周りにどこまでも広がっている事を2人は改めて感じた直後――。

 

「……ちょ、ちょっと待ってください!」

「え、どうしたの瀧くん?」

 

 ――子供の頃からウルトラマンを応援していた瀧は、ある違和感に気付いた。彼の記憶の中に、ウルトラマンの正体が人間である事は門外不出、もし知られてしまうと様々な不都合が生まれてしまうと言う内容が刻まれていたのだ。確かに2人ともこの世界とは別の世界からやってきた存在かもしれないが、ここまで簡単に明かして大丈夫なのか、瀧は3人の戦士に問い質した。

 

その答えは、笑顔から真剣な表情へと再び変わったヒビノ先生から告げられた。ここで自分たちの身の内を明かす事は、今後の2人にも大きく関わる事象に繋がるものだ、と。

 

「……君たち2人がやって来た、元の世界を探すために、ね」

「「……!」」


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