君と俺と私の名前 ~YOUR NAME is ULTRA〜   作:ドンフライ

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23.無限の輪

「日比野先生……?」

「その服……どうしたんですか?」

 

 開口一番、瀧と三葉が揃って尋ねたのは、部屋の中に入ってきた笑顔が似合う青年の服装であった。2人の記憶の中にあるジーンズ生地のジャケットではなく、神木隊長や橘副隊長、そして大地と呼ばれた青年が来ている服にどことなく雰囲気が似た、しかしそちらより派手な色彩の衣装だったのである。

 声に出す事は無かったが、三葉はそれをパジャマが何かかと呑気な考えを浮かべた一方、瀧は何かを思い出しかけているよう気持ちが湧き上がり始めた。あの服装を、彼は昔どこかで見たような気がしてきたのである。ただし三葉とは異なり、テレビやドラマで見たアイドルのような印象であったが。

 

 そんな2人に対し、その答えはこちらから言う事は出来ないと神木隊長は告げた。本人の口からぜひ聞いて欲しい、と大地や日比野先生、そしてもう1人の来客に後を託し、一旦隊長と副隊長はこの部屋を離れる事になった。

 

「「ありがとうございました」」

「どういたしまして」

「ヒビノさん、後はよろしくお願いします」

 

 何故か敬語で語りかけた神木隊長に、日比野先生は聞き慣れた元気そうな声で了承の意思を示した。

そして、この応接室のような部屋の中に、3人の男性と1人の女性、そして瀧と三葉がまだ気づいていない『5人目』が残った。

 

 

「……」

『大地、どうした?いつになく緊張しているようだが』

「ごめん、ちょっとね……でも心配しなくても大丈夫だよ」

 

 まるで『X』と言う文字を描くようなカバーに包まれたスマホのようなものから響く声に促されるかのように、改めてその青年は瀧と三葉に向けて自己紹介を行った。Xioラボチーム所属・大空大地、と。

 既に2人は、彼の顔を知っていた。あの時、超獣が襲いかかる中でも決して臆することなく、隠れ家風のカフェに取り残されかけた人々を適切に避難させたあのXioの隊員の1人が、瀧や三葉よりも背が高い、この大空大地と名乗った青年なのだ。

 

「あの、俺たちもあのカフェの中にいたんです……」

「助けてくれて、ありがとうございます……」

 

 再びお礼を言った2人に対し、大地もまた先程の隊長や副隊長と同じような返答をした。自分が行っている仕事は皆の平和や命を最大限守り続ける事、むしろこうやって2人が無事である事を確認できたのが一番嬉しい、こちらこそ礼が言いたい、と。その言葉には、様々な脅威に真っ向から立ち向かうエキスパートの信念と、その内に秘めた優しさが込められていた。

 そして、大地の発言に日比野先生も同意した。『絆』が途切れなく続いているのをこの目で見る事は、自分たちにとっては宝物に等しいものだ、と。しかし、その優しい補足に対し、瀧と三葉はほんの僅かだが違和感を感じた。確かに彼は瀧のクラスの先生であり、生徒の身を案じるのは当然かもしれない。だが、今の発言はまるで彼もまたあの2つの脅威に立ち向かう最前線に立っているようにも聞こえたのである。

 

一体日比野先生は、何者なのだろうか――。

 

「あ、あの……」

「な、なんでその……パジャマ姿なんですか?」

 

「ぱ、パジャマ……あはは、これかな?」

 

 ――その疑問をつい別の言葉で表現してしまった三葉が顔を真っ赤にしていると、日比野先生は笑いながら、これは自分が一番大事にしている服装、こういう時のために用意していた勝負服のようなものだ、と説明してくれた。だが、それならばスーツ姿の方がこの場には合うはず、一体なぜこのような派手な服を着込むのだろうか――心の中は互いに社会人である瀧と三葉が同じタイミングで疑問に思った時だった。突然、日比野先生の顔から笑顔が消え、2人が初めて見る真剣な表情へと変貌したのだ。

 

「……これから僕たちが語る事は、この建物に現在いる人たち……つまり、僕らやXioの皆以外には絶対に誰にも言わないで欲しい。とても大事な内容だからね」

 

 勿論、瀧や三葉がその言葉に同意しないはずは無かった。その真剣な瞳を裏切るわけにはいかない、と直感で感じた、と言う理由もあったのかもしれない。

 そして、日比野先生はおもむろに体の前方に自らの左腕を見せた。別の宇宙から来た2人の来訪者の注目の視線がそちらに集まった、その時であった。

 

「「……!」」

 

 何も装飾がないはずの袖に、まるで幾つもの光が集まったように見えた直後、突然そこに菱形の大きな飾りがついたブレスレットが現れたのである。まるで炎のような装飾が施され、その中央には命の塊のような不思議な丸い球が埋め込まれているこの奇妙な物体が、マジックか何かの小物であるとは思えなかった。どう見ても、先ほど彼が行った行為は、このアイテムを無から召喚したようにしか考えられなかったのだ。

 

 何が起きたのか、と目を見開き続ける瀧と三葉に対し、日比野先生はあるヒントを告げた。彼が『メビウスブレス』と呼ぶこのアイテムの力で、昨日の自分はあの恐ろしい脅威――ベロクロンとバキシムに立ち向かう事ができた、と。

 

「……え……ま、まさか……」

「た、瀧くん……?」

 

 この言葉に真っ先に反応したのは、高校生の年相応、いやそれより一回り年齢が若くなったような表情に変わった瀧であった。彼は直感と記憶で、目の前にいる日比野先生――いや、『ヒビノ・ミライ』先生の姿を模した彼が何者なのか、気付き始めたのだ。

 

 それでもあまりに唐突、そして強烈過ぎる思いから唖然とし続ける瀧の様子を見たヒビノ先生ははっきりと告げた。このメビウスブレスと言うアイテムの力により、彼の体は元の光の巨人…M78星雲・宇宙警備隊員でありウルトラ兄弟の一員でもある、『ウルトラマンメビウス』の姿に戻る事ができる、と……。

 

「ウルトラマン……」

「メビウス……!」




【余談】
「日々野未来」と言う先生は、原作映画『君の名は。』には登場しないキャラクターです。念のため、ご了承ください。

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