君と俺と私の名前 ~YOUR NAME is ULTRA〜   作:ドンフライ

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22.別宇宙との接触

「「ごちそうさまでした……」」

「ふふ、美味しそうで何より」

 

 1日中ずっと眠り続けた瀧と三葉の腹は、応接室のような部屋のテーブルに用意された、トーストやサラダなどが美味しそうにセッティングされた食事で満たされた。目の前に見知らぬ年上の男女がいたのを気にしないまま食べるにつれ、次第に目覚めた時から抱いていた緊張感は薄れていった。

 

 そして、黒字に赤のラインが幾つも入った服装を身につけた男性が指示すると扉から係と思われる人が入り、一礼をした後に瀧と三葉が食事をし終わったプレートを持ち帰っていった。

そのような形で見知らぬ人たちにまるでおもてなしのような事をされたからからだろうか、瀧も三葉も最初に口に出したのは――。

 

「あ、あの、すいません……」

「なんか凄い迷惑かけたみたいで……」

 

 

 ――テーブルを挟んで向かい合う男女への謝罪だった。

 

 しかし、意外にも戻ってきたのは彼らの方からの謝罪であった。むしろこちらの方が、更に謝らなければならない、と。その理由はすぐに分かった。どんな時にも冷静に対応しそうな真剣な心に、どんな場合でも必ず大切なものを助けるという意思を混ぜたような視線で、その男性は立花瀧と宮水三葉、2人のフルネームを告げたのだ。

 

「え……なんで俺たちの名前を……」

「すまない、我々にとって緊急を要する事態だったんだ。君たちを敵だと見なしかけてしまった」

 

「わ、私たちが……そ、そんな事ないです……私たち!」

「そうよね。貴方たちは何も悪いことをしていない。むしろ、被害者と呼んでも良い立場。でも、申し訳ないけど私たちは貴方たちを即急に調べる必要があったの」

「そ、即急に……?」

 

 2人が眠りについている間、この男女は自分たちの身元などを調べ上げていたという事実を、瀧と三葉は説明の中で知らされた。一体なんの権利があって調べたのか、と言う批判交じりの疑問も当然芽生えたのだが、2人にはその勝手に調べられる理由に対して身に覚えがあった。自分たちが何者か、何故ここにいるのか、その根底的な部分から、瀧も三葉もこの世界にとって『異質』な存在なのだから。

 

 それにしても、こんな2人の事情を既に把握しているような、この2人は一体誰なのか――。

 

「あの……お二人は一体……?」

「どなたなのですか……?」

 

 ――不安そうな瀧と三葉に、男女は優しく微笑みながら告げた。

 

 Xio日本支部隊長・神木正太郎、同じく副隊長・橘さゆり。

 あの時、東京を襲った2体の脅威と戦った、勇敢な隊員たちを率いる者だ、と。

 

「「……!」」

 

 その瞬間、まるで『名前』が持つ力が形を成したかのように、瀧と三葉の心が全てを理解した。Xioと言うのは、恐ろしい災害、いやそれを凌ぐほどの絶望から人々を守るために奮闘し続けている組織。そして目の前にいるのは、あの時自分たちの未来、そして奪われるかもしれなかった明日を守ってくれたアスナさんを含む人々の要石のような存在なのだ、と。

 とっさに瀧も三葉も立ち上がり、まるでシンクロするかの如く一緒に頭を下げ、神木隊長と橘副隊長に礼を言った。

 

「大丈夫、そんなに気を揉まなくて良いわ」

「我々は、我々の仕事をしたまでさ。君たちを始めとする人々の平穏を守るためにね」

 

 その言葉に、防衛隊のトップと言うよりもまるでもう1人の両親のような響きを覚えた瀧と三葉は安心し、そのままもう一度柔らかいソファーの上に腰掛けた。

 そして、しばしの沈黙の後、このように4人がこの部屋に集った理由を瀧が尋ね――。

 

「あの……俺たちに、何が起きたんですか?」

「やっぱり私たち、別の世界から来ちゃったんですか?」

「み、三葉……?」

「あっ……!」

 

 ――その勢いで、今まで黙っていた真実を三葉はつい隊長と副隊長に告げてしまった。互いの親友にも家族にも一切伝えずに暮らしていたのに、地球防衛の要というともすれば固苦しく厳しい存在にも見えてしまう2人へとあっさりと告げてしまったのだ。

 だが、顔を見合わせて先程の行為に困惑気味の瀧や三葉とは対照的に、神木隊長も橘副隊長も、優しげな表情を崩さなかった。

 

「……やっぱりそうだったのね。ありがとう、正直に言ってくれて」

「「……え?」」

「実を言うと、我々は以前からこの都会の中で『奇妙な反応』を確認していた。君たちにわかりやすく言えば、別の時間や別の世界から来た存在を示す反応だ」

 

 その反応が現れてから、Xioはずっとその正体や行方を探ろうと各地を調査し続けていた。万が一、その反応を出す者が侵略者やそれに値する存在だとすれば、対応を後手後手に回す事など出来ないから――その言葉には、平穏な生活を守り抜くという強い意志と、それに伴う苦悩が感じられた。Xioの面々にとっても、まさかその反応を出しているのがごく普通に大都会の中で暮らす2人の男女だとは予想していなったからかもしれない。

 

「勿論、君たちにそのような意思が無い事は知っている。だが、それでも別の世界から来た存在として、こうやって君たちの身柄をこちらで確保する必要があった……」

 

「……そうですよね……」

「三葉……」

「ねえ瀧くん、考えてみて?『あの日』、私たちが知り合った時、瀧くんは最初どうしようとしたん?私が誰か、知ろうとしたんやろ?」

「ああ……そうか……」

 

 同じ日々を歩み続けているとはいえ、人生経験については彼より長い三葉の的確な言葉に、瀧もようやくXioが何故あの場所から2人をここへ連れ込み、そして本名や先程の事実を知ろうとしたのかを理解した。

 ただ、それでもこちら側――公的な組織が他人のプライベートを覗き込むという行為をしたのは事実、許してほしい、と橘副隊長は神木隊長と共に、改めて謝罪した。先程までなら瀧も三葉も困惑してどう返事をすれば良いか分からなかったが、今なら目の前にいる頼り甲斐ある2人の人物なら自分たちの平和を託す事ができると言う思いがあった。

 

「わ、私は大丈夫です……皆さんに知られたのは本名と別の世界から来たって事だけですし……」

「俺も……って、あの、もう1つ聞きたい事があるのですが……」

 

 瀧が抱いた疑問とは、2人と共にこの場にやって来たもう1人の人物であった。あの時、2体の超獣が暴れ回った場所にごく普通に現れ、そして自ら同行を願った、瀧の高校の教育実習生である『日比野未来』先生である。

 

 一体彼はどこへ行ったのか、と尋ねた時、誰かがこの部屋のドアをノックする音がした。

 

「……その事については、『彼ら』から聞いて欲しい」

「いいわ、入ってきても大丈夫よ」

 

その声と共に、この部屋に新たな来客が訪れた。1人は瀧や三葉が気にしていたあの日比野先生、そしてもう1人は、あの時アスナから『大地』と呼ばれていた背の高い大学生くらいの年齢に見えるイケメンの男子だった。

 

しかし、まだ瀧と三葉は気づいていなかった。いや、気づける訳が無いだろう。大地という名前のイケメンの腰に下がった派手なスマホの中に、3人目の来客がいると言う事実には……。




【余談・瀧と三葉の調査について】
瀧と三葉が眠っている間、2人の素性調査を提案したのは、人類にとって障害となる相手はできるだけ排除すべきという考えを持つXioの橘さゆり副隊長でした。

普通の高校生と大学生じゃないかという反対意見も出ましたが、エネルギー反応より別の宇宙から来ている可能性が高い事や何故か自分たちが知らないウルトラマンの名前を知っていたというアスナ隊員の証言、そして自ら正体を明かしたヒビノ・ミライ=ウルトラマンメビウスからの助言も踏まえ、Xioの神木正太郎隊長はその意見を受け入れる事にしました。

ただし、何も知らないであろう2人にその事を説明する責任があると言う事から、事情聴取には橘副隊長も同席する事になり、本編の流れに至っています。

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