君と俺と私の名前 ~YOUR NAME is ULTRA〜   作:ドンフライ

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21.見知らぬ部屋で

「……はっ……!」

 

 目覚めた時、立花瀧の顔や体は流れ出た汗で濡れていた。彼の意識の中にも、正体がわからないなんらかの恐怖の心が残っている。きっと直前まで自分が見た夢は、まるで世界の終わり、三葉との永遠の別れのように恐ろしいものだったに違いない、と確信し始めた彼は、それ以上の違和感に気付いた。

 

 先程まで大事な人と久しぶりに会い、仲睦まじい時間を過ごし、それを打ち破るような邪悪に巻き込まれ、そして夢のようなヒーローが見事にその破壊を打ち砕いた――そこまでの内容は、はっきりと心に刻まれている。だが、彼の目に映っていたのは、それまでの景色とは明らかに異なる、まるで病院の一室のような天井だったのである。

 

 ここは、どこだ。

 

 そう呟いた時、体を横たえていたベッドの近くから、ずっと聴きたかった声が彼の耳に響いた。その途端、彼は反射的にベッドを飛び出し、その声の主の方へと急いで駆け出した。そして意識を次第に取り戻そうと目を開けようとしているその体を――。

 

「ふえっ……!?」

 

 ――大胆にも思いっきり抱きしめたのである。

 

 まったく前触れもないまま男子高校生の肉体の感触を服越しに感じてしまった側は一瞬どう反応すれば良いか分からなかったが、顔を上げないままずっとその姿勢をやめない様子に全てを察し、安心した笑顔を見せつつ、ちゃんとここにいるから大丈夫だ、と彼の頭を優しく撫でた。

 

 それからしばらく後、三葉に無事な顔をようやく見せた瀧の目頭は、少しだけ赤くなっていた。

 

「すまん、三葉……つい……」

「ううん、今回は許すよ……それにしても、ここどこなんやろ……」

 

 ベッドの形や布団など見た限りは病院のようだが、それにしても明らかにおかしい点があった。周りにそう言った器具はなく、その代わりに小さなタンスや机が置いてあった。まるで簡易的な寮を思わせる内装を見せていたのである。

 ところがもう1つ、ここが病院だと言えない理由を同時に思いついた途端――。

 

「あああ、どうしようー!せっかくデート用に選んだ服なのにシワだらけで滅茶苦茶になったー!」

「お、俺は大丈夫だけど……」

「いやーっ!瀧くんに見せたら恥ずかしい状況やー!」

「落ち着け三葉、その瀧くんはここにいる!」

 

 ――自分たちがあのデートの衣装のままでぐっすりベッドの中で眠っていたせいで大変な事になった事に気づき、三葉は混乱してしまったのである。この日のために選んだ俺の服も滅茶苦茶になってしまったからおあいこ、だから心配しなくて良い、と何とか瀧が宥めた事で、ようやく互いにこの不可解な状況を推理するだけの心の余裕が生まれたまさにその時、突然この部屋につながる扉が開いた。

 

 心臓が飛び出そうなほどに驚き、一瞬仰け反り帰りそうになったのを耐えた2人の目の前に現れたのは――。

 

「気がついた?2人とも」

 

 ――あの時、彼らを助けてくれた勇しき女性、山瀬アスナであった。

 

~~~~~~~~~~

 

「えっ……!?」

「それ、本当なんですか……!?」

 

 不思議な部屋を抜け、アスナに案内されるように見慣れない廊下を歩き続ける男子高校生と女子大生の耳に入ったのは、予想だにしない事実だった。あの時、がれきに埋もれてしまった東京の一角を抜けてどこかへ向かう車の中で眠りについた2人がその疲れを治し再び目覚めるまで、なんと1日近くからの時間を費やしてしまったのである。その証拠に、窓に映る空には、昨日デートを始めるより少し前の位置に輝く太陽があった。

 

「あ、あの!俺、学校の方が……あと父さんが!」

「私も大学に妹におばあちゃんに……!」

 

 眠っている間に蓄積してしまった様々な事態を想像した2人は慌ててアスナに問いただしたが、彼女は笑顔でその心配はない、と告げた。2人の関係者にはこちらからちゃんと『事情』を説明し、その身に心配はない事を伝えている、と。

 

「良かった……いや、全然良くない、良くないです……」

「アスナさん……ここ、どこなんですか?」

 

「この場所?ここは『オペレーションベースX』。平和を守る要塞、みたいな所かな」

「「へ……?」」

 

 あまりにも自然にヒーロー番組のような単語が出たせいか、瀧も三葉も一瞬何を言っているか理解できなかった。しかし、歩きながらじっくりとアスナは彼らに向けて詳しい事を解説してくれた。昨日現れたあの存在のように、『この宇宙』には平和を脅かす怪獣や宇宙人などの存在が多数潜んでいる。それから人々や自然、そして地球の平和を守るのが、その志を共にした仲間が集うエキスパートチーム『Xio』、そして自分たちの戦いを全力で支えてくれる上部組織『UNVER』の人々である、と。この場所にいる限り、貴方達の身の安全は確実に確保されるから安心して欲しい、とアスナは2人に告げたのだが――。

 

「あ、あの……ちょっと良いですか?」

「どうしたの?」

「さっき、アスナさん『この宇宙』って言いました……よね?」

 

 ――再びさらりととんでもない言葉が飛び出した事に、瀧も三葉も気づいてしまった。確かに自分たちはある意味では別の宇宙……このジオやらなんやらが現実にいない世界からやって来たかもしれない。それを一言も言っていないにもかかわらず、何故既に彼女は知っているのだろうか。

 

「……その答えは、この部屋で尋ねれば分かるよ」

 

 そう言いながらアスナは2人を応接室のような部屋に招き入れ、そのまま一礼してその場を離れていった。そして、何をすれば良いか分からず唖然とした瀧と三葉は――。

 

「……緊張しなくてもいい、私たちは決して敵じゃない」

「そこのソファーに座っても大丈夫よ」

 

 ――2人の親ほどの年齢に見える男性と、お揃いの制服のような衣装を着込んだ妙齢の美女に誘われるかのように、柔らかいソファーに腰掛けた……。


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