君と俺と私の名前 ~YOUR NAME is ULTRA〜   作:ドンフライ

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17.燃える超獣地獄

 「イクサ!」とも「エクサ!」とも聞き取れる勇ましい声を合図に、その戦いは始まった。

 

 次々に襲いかかる振動を物ともせずに戦場から逃れるべく全速力で走り続ける車の後部座席で、1人の男子高校生と1人の女子大生は、何が何だかさっぱり理解できない、といった様相で、前方で運転し続けている1人の若い女性と、後方で繰り広げられている戦い――今までテレビの中でしか見た事がなかった激闘を、ただ唖然と見続けるしかなかった。

 

 そんな2人の集中力を回復させるかのように、車を運転する長髪の女性は、瀧や三葉に尋ねた。怪我など分かる範囲で体の不調はないか、と。

 

「そ、そっちは……?」

「わ、私は、大丈夫です……」

「お、俺も……」

 

 互いを気遣うように声を発した事がきっかけで、次第に瀧や三葉の中に判断力が戻ってきた。そして、今起きている状況がさっぱり理解しきれていない、と言う現状とも改めて付き合わざるを得なくなった。

 

「あ、あの……!」

「い、今一体何が……」

「「起きてるんですか!?」」

 

 声を文字通り『ユナイト』させて尋ねた2人に、まるでSF映画で見る以上のような格好をまとった女性は、三葉の体から発する声と同じくらいの年齢を思わせる声で、冷静に応対した。

 突然この街に現れ、破壊の限りを尽くそうとしているあの怪獣――いや超獣の名前は、Xio内部の分類でタイプGに分類される『ミサイル超獣 ベロクロン』。あの時2人を襲ったビルも、あの超獣が全身から放ったミサイルの影響で崩れたものだ――その応対からは、一切のおふざけも騙しも感じられず、ただ任務を遂行する1人の戦士のように感じられた。

 

「今現れたのはあなた達も知ってるでしょ?ウルトラマンエックスよ」

 

「え……エッ……クス?」

「た、瀧くん……エックスって……何……?」

「お、俺も名前しかわからないよ……」

 

 混乱しきって思い出す暇もない2人の回答に対し、えっ、と一瞬その女性が驚いたような声を上げた、その時だった。突然彼女が運転し続けている車の左側から、巨大な爆音とともに衝撃波がこちらに向かい襲いかかってきたのである。もしシートベルトを締めていなければその勢いで座席から投げ出されるような勢いだった。

 一体なんなんだ、何がどうなってるん、と恐怖が口から漏れ出すまでに至った2人だったが、その状況を知るためにはこの爆撃を何度も耐え抜くしかなかった。後部座席の2人の混乱とは対照的に、必死の顔になりながらも女性は懸命にハンドルを離さず、何度も急カーブを繰り返しながら次々に捲き起こる攻撃を交わし続けた。

 

 そうこうしているうち、次第に坂道に入った車の後ろ側を覆うマジックミラー越しに遠くで何が起こっているのかその目で確認できるようになっていた。

 だが、瀧と三葉の瞳が映し出したのは――。

 

「……!?」

「そ、そんな……!!」

 

 ――女性が『エックス』と呼ぶウルトラマンが、ベロクロンという名前がつけられた超獣の前に苦戦を余儀なくされている様子であった。口から放つ火炎放射はその銀色に輝く腕で防いだり、パンチの勢いでそのまま消火したりしながら耐えていたが、ベロクロンが放ち続けるあの無数のミサイルによる一点集中攻撃に対しては、まるで町の破壊をこれ以上起こさないかのように防戦一方になっていたのだ。

 勿論、2人の視界には、暴れまわる邪悪な存在を食い止めようとする人類側の武装も懸命に援護しているのが見て取れた。その軽やかな動きを駆使し、エックスとは別に放たれたミサイルを交わし続けていたのだが、こちらも決定打は浴びせられないままの状態が続いていた。

 

 そして、運転席に座る女性までもが驚きの顔をみせる事態が起きた。

 

 突然ベロクロンは、虚空の一箇所めがけて大量のミサイルを放った。次の瞬間、まるでその衝撃を受けたかのように、空が砕け散った。比喩でもなんでもない、本当に青空の中に赤く光るもう1つの空――あの『カタワレ時』とは似て異なる禍々しい色の空が覗いたのだ。そして、まるでその時を待っていたかのごとく、不気味な空からもう1体、ベロクロンと同じ背丈をした、地球のどの生命体とも似ていない巨体の怪物が姿を現したのである。

 

『エリアC-F1に新たな怪獣出現!タイプG、グルマン博士の資料に基づき、一角超獣バキシムと思われます!』

『ワタルとハヤトはエックスの援護、アスナは救助者の保護をそれぞれ続行!』

「了解!」

 

 突然入った通信から聞こえた声は、演技でもなんでもないエキスパートのやり取りそのものだった。最早瀧も三葉も、雰囲気に威圧されて何も口に発する事が出来なくなってしまった。

 

 しかし、それでも彼らの視界の中で状況は悪化の一途を辿っていた。オレンジ色と青色の毒々しい体に、まるで鳥の頭蓋骨のような顔を持つ、バキシムと呼ばれた生命体のような何かもまた、エックスを苦戦させるににふさわしい力を持っていたのである。しかもベロクロンの攻撃も収まる気配を見せず、迫り来る2つの巨体を前にあの光の巨人は追い詰められていった。

 

 そして――。

 

「……あ!!」

 

 ――瀧が大声をあげ見上げた空の上で、エックスを援護し続けていた空の戦力が、バキシムの放った一撃を受けて煙を上げ、そのまま墜落しようとしていた。

 

「ハヤト!!」

 

 あの女性が必死な形相で叫び、まるで助けを求めるような声を上げた、その瞬間だった。

 

 車に乗っていた3人全員が、突然誰かが自分たちと真反対の方向に走っていくのを確かに見た。急いで車を止め、避難のために急いで載せようとした時、窓に映ったその人物の姿を見て瀧と三葉は同時に叫んだ。

 

「「ひ、日比野先生…!?」」

「えっ!?」

 

 だがその瞬間、3人の目の前でさらに信じられない出来事が起きた。日比野先生と呼ばれたその青年が徐ろに道路に立ち、腕を曲げるような仕草を見せた瞬間、突如そこに新たな輝きが生まれた。そして、彼は左腕を大きく上げながらこの場にいる者たちとは全く異なる名前を叫び――。

 

「メビウゥゥゥゥス!!」

 

 ――その真の姿、赤く輝く光の巨人の雄姿を、瀧、三葉、そしてあの女性――山瀬アスナに見せながら飛び立った……。


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