君と俺と私の名前 ~YOUR NAME is ULTRA〜 作:ドンフライ
14.再会の日
たくさんのビルが立ち並び、毎日のように大勢の人が行き来する大都会から少しだけ離れた、比較的静かな郊外の場所。そこに、少しだけ急な階段が1つあった。バリアフリーを意識してかしっかり手すりはついているものの、意識しなければ少しだけ急だと感じてしまうような所である。
その日、この場所は1組の男女の再会の場所へと変わっていた。
「みつ……は?」
「瀧くん……?」
「三葉!!三葉か!」
「瀧くん!瀧くんや!」
立花瀧と宮水三葉。2人にとって、ここは絶対に忘れてはならない、忘れる事ができない、すべての思い出が詰まった場所。彼らが新たに生まれたと言っても過言ではない所なのだ。
もう1度、互いの名前を呼びあった男子高校生と女子大生は、満面の笑みを浮かべながら手を繋ぎ、改めてこの『別の世界』における最初のデートを始める事にした。
「ねえ、瀧くん、なんかいつもより緊張気味やね」
「そりゃそうだろ……俺、こうやって大学に通う三葉がそばにいるなんて、初めてなんだから」
言葉こそ少し否定的だが、瀧も三葉も顔は満面の笑みであった。彼らは三度出会ってからというもの、今まで忘れていたものを一気に取り戻すかのごとく何度もデートを行い、互いの趣味嗜好をほぼ把握するにまで至っていた。だが先ほど述べた通り、それはあくまで両者とも『大人』であると言う中での付き合い。今回のように、瀧が高校生、三葉が大学生と言う、昨今一部界隈の流行りの言葉で言えばおねショタに近い状態で一緒に歩くのはこれが初めてだったのである。
そして、それは三葉にとっても同じだった。
「三葉も、なんかいつもより顔がにやけてるぜ」
「え、そ、そうなん……!?で、でもお姉さんだって高校行ってる瀧くんとまた会えて嬉しいんだから!」
「お姉さん……まあそうだよな、あははは……」
「あははは……」
互いに繋いだ手を離さず、そのまま歩き続けながら、2人は笑い合いながらこうやってまた出会えた事への嬉しさを共感しあった。
しばらくそのまま目的もなくのんびり街を歩いているうち、話題はそれぞれの家族へと移った。怪獣やらウルトラマンやらが普通にいるこの世界でも、瀧の父親は口数こそ少ないがしっかり息子の事を見守り、三葉の妹や祖母も故郷を失うと言う悲劇を乗り切ったかのように元気に過ごしている。そんな彼らに、今回のデートを上手く誤魔化すのは正直心が痛かったが、何とか互いに友達と1日中遊んでくる、と理解させる事には成功した。
「おばあちゃんも元気そうで良かったよ……あと、四葉もな」
「四葉はどこでも元気やからな、お姉ちゃんやってるのも大変やよ」
凄い分かる、と大いに同感しているうち、瀧にふと気になる疑問が浮かんだ。昨日、またもや三葉と入れ替わった際に、彼女のおばあちゃん……かつてこの世界にあった糸守町の神社を纏める人が、電話で誰かと話していたのである。それも、あの神社に伝わるであろう言い伝えのような内容を。
「あ、あれ?多分あれやろ、どっかの考古学の人」
「考古学?」
「うん、消えた糸守の文化を守りたいって言ってくる……まあ、あんまり良い気分が出ない人々よ」
「まあ、そうだろうな……」
どうせああいう類の人は利益優先だ、と語る三葉の心と、少々面倒臭そうに語っていたおばあちゃんの心は、きっと同じだったのだろう、と瀧は考えた。何かを失うという事に付け込むような連中は、やはりどこにでもいるのである。
「多分おばあちゃんが言ってるのはデタラメやろな」
「で、デタラメ……でも俺にはリアルに聞こえたが……」
「そこなんやろなー。瀧くん以外の外部の連中に、宮水の心は受け継げない、ってかな?」
少し意地悪っぽく笑う三葉の顔に、瀧はあの厳しくも芯が通った良き理解者であるおばあちゃんを重ねた。時にはその伝統を否定的に捉えることもあるようだが、やはり宮水三葉は、今も糸守町を代々守り続けてきた宮水神社の巫女の1人である、と。
ただ、そんな事を気にしていたら、せっかくのデートを楽しめないと言う事にも、瀧や三葉はすぐに気づいた。そして、気づけばかなり歩いたからどこかのカフェに寄って休もう、と互いに提案しあった。
「私の行きつけのカフェで良いかな、瀧くん?」
「大丈夫だぜ。むしろ俺の行きつけなんてあいつらや先輩とほぼ被ってるし……」
秘密のデートというのは面白いが大変なものだ、と再び笑いながら、瀧と三葉は一緒に目的地へと向かう事にした。そして、横断歩道を通り過ぎた時、2人の横を赤と黒で塗られた、やたら派手な車が通り去った。
何故か瀧も三葉も、その車に目線が入ってしまった。
その名前を「ジオアトス」と言う、Xioがパトロールに用いる車である事を知らないまま……。