君と俺と私の名前 ~YOUR NAME is ULTRA〜   作:ドンフライ

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11.星空のファーストコンタクト

 ごく普通の生活を過ごしていた立花瀧と宮水三葉が、怪獣、宇宙人、そしてウルトラマンと言う彼らにとって非現実的な存在がいる世界に迷い込んでから、少しの月日が経った。

 

 時に体が入れ替わったり、時に予想もしない現実を目の当たりにしたり、様々な事態を迎える中、彼らは次第にこの世界に順応し始めていた。確かにこの世界は、ずっと瀧や三葉がいた場所とは違うことも多いが、大事な仲間や大切な思い出はそのまま残っている。それに何より、『瀧くん』も『三葉』もいる。それだけでも、彼らにとっては大きな支えになったのである。

 

 ただ、それはすなわちこの状況を楽しむ余裕が生まれたと言う事であり――。

 

「ぱ、パンケーキ!?」

「何だよ瀧、昨日あれほど美味そうに食ってただろ~?」

「あのチョコたっぷりの!」

 

 ――自分の知らぬところで事態が動く場合もあると言う事でもあった。

瀧にとって、身に覚えのないパンケーキの話題を友達からやけに楽しそうに持ち出されるのは本当に久しぶりであった。だいたい何が起きたのかは、わざわざ友達2人から聞かなくても承知していた。例え滝の昨日の記憶が宮水三葉の体で味わったものだとしても。

 

(三葉……久々にやりがったな!)

 

 あの時――2人が思い出すまで何年もかかったあの時、三葉は男子高校生の体を得たのを良い事に、彼の体を利用して思う存分夢だったカフェでの日々を味わっていた。パフェやパンケーキなど様々なスイーツを思う存分堪能していたのである。勿論、その分のお金は瀧持ちで。

 

「と言うか、何で誰も俺を止めなかったんだよ……変な言い方だがな」

「えー、何でって言われてもさー、あの時の瀧、なあ♪」

「すげー楽しそうだったし」

 

 止めるのは申し訳ないと思った、と言う2人の顔からは、あの様子をたっぷり楽しんでいたのが見え見えだった。昨日のうちにまた軽くなった財布に、瀧はため息をつくしか無かった。

 

~~~~~~~~~~

 

(全く……三葉……仕方ないとは言い切れないぜ……)

 

 この状況を懐かしがりつつも心の底に少しだけの怒りを溜めつつ、学校が終わった彼は普段通りバイトに励んだ。

 幸いこの世界でも瀧の主なバイト先はあの有名なイタリアンレストラン、同僚や先輩後輩も見慣れた顔ぶればかりだった。勿論その中に宇宙人が混ざっている、なんてシュールなコント番組のような状況にはなっていなかった。

 

そして――。

 

「あ、今日もお疲れー♪」

「奥寺先輩、こちらこそお疲れ様です」

 

 ――瀧とこれから長い付き合いになるだろう頼もしく美しい女性、奥寺ミキ先輩もまた、彼の記憶通りこの場所に勤めていた。どこか弟を見るような表情で自分を眺めるこの笑顔に久しぶりに会えた事も、瀧や三葉にとって別の世界で生きる上での大きな支えになっていた。

そんな彼に、奥寺先輩はある事を告げた。

 

「なんか最近、変わったよね」

「え……そうですか?」

「何て言うのかな……前よりどこか大人っぽくなったと言うか、私よりベテランって感じ?」

 

 確かに、『この』立花瀧は、目の前にいる過去の奥寺先輩よりも様々な大変な出来事を積んでいる。ベテランといえばベテランかもしれない。

 

「それに、昨日はどこかお母さんっぽかったし。ふふ、私って変な事考えちゃうのよね」

「そ、そんな事無いですよ……その……ありがとうございます」

 

 昨日、奥寺先輩たちと一緒にこの場所で働いていたのは瀧ではなく三葉だ。あの後互いに電話しあった流れから、間違いなく奥寺先輩に感銘を受けさせる何かを三葉はしたのだろう、と瀧は考えた。とはいえ、あのパンケーキとは異なりこちらはそこまで悪い事ではないし、むしろ褒めたいぐらいである、と心の中で惚気ようとした時、突然奥寺先輩は手を叩き、彼に顔を近づけた。突然の事で反応に困る瀧の耳に入ったのは、予想だにしない言葉だった。

 

「もしや、今の貴方、立花瀧くんじゃなくて……」

「……!?」

 

「三面怪人、ダダなんじゃないの?」

「……??」

 

~~~~~~~~~~

 

 三面怪人ダダ。

 宇宙から密かに来襲し、地球人の人々、特に女性を宇宙へ攫おうとしていた宇宙人の事である。幸いその暗躍は防衛組織のエキスパート部隊であるXioによって防がれ、囚われの身となったダダもその計画の全てを白状する事となったが、悪あがきをするかのように証明写真を撮る際に顔を変え、担当者を困らせる最後まで厄介な奴だった――それが、あの奥寺ミキ先輩がごく自然に瀧に語った話であった。

 

「……やっぱり、ここは微妙に違う時間なのか……」

 

 

 そう独り言が出るほど、瀧にとってその一言は衝撃的だった。勿論その後、唖然とした彼を見た奥寺先輩は慌てて前言を撤回し、あんなスケベな宇宙人なんかと一緒にしてしまった自分が馬鹿だった、と謝ったが、あの先輩の口からさらりとこのような台詞が出てしまうと言う現実を、瀧は改めて突きつけられた。

考えようによっては、瀧も三葉もその「ダダ」とやらと同格の存在であった。元々この地球――いや、この宇宙にはいない存在である可能性が高いからである。しかし、だからと言って宇宙人が身近にいたとしても、自分はどのような対応が出来るだろうか。

 あの先輩の言葉から様々な思いを馳せようとした彼だが、まさかそれをいきなり実戦段階に移行する事になるとは全く思わなかった。

 

「……?」

 

ふと、ビルの間に何かの人影が入り、座り込むような動きを見せたのが気になり、覗き込んだ瀧が見たのは――。

 

「……!!?」

 

 ――あの時奥寺先輩が言っていた、おかっぱを思わせる模様がある大きな頭と、シマウマよりもさらに複雑な縞模様を体に描く、自分たち地球人とは明らかに違う存在――三面怪人ダダだったのである!


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