君と俺と私の名前 ~YOUR NAME is ULTRA〜   作:ドンフライ

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1.プロローグ1・アンバランスゾーン
1.始まりの雨


 もしも世界や地球が今にも消えようとしている時、もしも全てが絶望に包まれようとした時、大事な人たちをどこまでも守り通すと言う強い勇気、強い意志を守り続ける事ができるだろうか。

 

 

 そう問われた時、2人の答えは即「Yes」であった。

 

 勿論、1人じゃ何もできない。彼らはごく普通に暮らし、ごく普通の力しかないちっぽけな地球人にしか過ぎないからだ。でも、もし2人ならどうだろうか。どこまでも大事な存在と一緒なら、どれほどの困難や不可能な事が襲いかかろうとも、乗り越えられないなんて選択肢が思いつくだろうか。

 

 あの時、彼らは間違いなく深い「ムスビ」の力で、この世界に奇跡を生んだ。

だがそれが新たなる困難と奇跡の始まりだった事を、何年も彼らは知らないままだった――。

 

~~~~~~~~~~

 

「雨か……」

 

 ――オリンピックの賑わいもとうの昔に過ぎ去った大都会の夜に、突然のにわか雨が降った日。新社会人の『立花瀧』は、アパートの中で1人夜空を眺めていた。星が見えず、黒い雲が広がるだけの空であったが、彼はそこに1つの価値を見出していた。空からの光を覆い隠すようなこの街にも、美しく永遠に輝く光が、いつも瀧の側についているのだから。

 

 しばらく経った頃、その存在が彼の元に戻ってきた。

 

「ただいまー……」

「おかえり……って三葉、大丈夫か!?」

 

 彼女の名は『宮水三葉』。瀧と同じく東京に住み、日々社会を動かす一員として働く女性だ。しかし、扉を開いた彼女の体は、あのにわか雨に濡らされ大変な姿になっていた。

 ずっと待ち続け、ようやく共に過ごせる時間を得ることができた存在がこのような事になるのは見ていられないと言わんばかりに、瀧は彼女を急いで自宅の中に入れた。2人が共に同じ時間を歩む空間へ。だが、感謝の言葉を言いながらずぶ濡れの体を何とかしようとしていた三葉は、突然瀧の顔を睨みつけた。

 

「な、何見つめとるん!?」

「い、いきなりどうしたんだよ…別に濡れてるから胸が……げ!」

 

 想い人同士である彼らだが、その暮らしに欠点がないわけでは無かった。互いに安心し合うせいか、つい口から本音が漏れてしまう時があるのだ。特に瀧の場合、様々な三葉への思いを簡単に口に出しては、このように文字通り自爆してしまう事がしばしばあった。

 

「変態!変態!もー、昔からずっとこれや!」

「わ、悪かったって……でもあれは昔で……!」

「昔も今も関係ない!絶対覗かんといて、な!」

 

 ふん、と怒ったような素振りで洗面所の扉を閉めた三葉。それを見てため息をつく瀧。

 だが、彼らの顔はすぐに笑顔になった。あのやりとりのお陰で、昔何度も経験していた不思議な日々を思い出したのだ。

 

 はっきりここで明言してしまうが、瀧はこれまで幾度となく三葉の胸を揉んだ事があった。別に彼らがそんなやましい関係だからとかそう言う訳ではなく、揉まざるを得ない状況にあったのだ。そして三葉の方も、昔から幾度となく瀧の体をじっと眺めたり弄ったりしていた。

 確かに双方にとってはとても恥ずかしい事なのは間違いなかった。だがそれは同時に、彼らが昔から繋がっていたと言う証でもあった。

 

「お待たせー」

「おう」

 

パジャマに着替えた三葉からは、先程の慌てぶりはだいぶ薄れ、のんびりと瀧と会話できる余裕が生まれていた。そして、あのずぶ濡れにさせたにわか雨について語る余裕も。

 

「へぇ……優しい雨か…」

「そうや、瀧くんはあんまりそんなの感じない?」

「うーん……感じるのは感じるけど、冷たいとか生暖かいとかネガティヴな感じばかりだな」

「まあ、それもそうやな……でも、私が浴びた雨はなんだか暖かくて……」

 

 雨宿りをするのも忘れて、つい身体中にその温もりを感じてしまった、と三葉は気恥ずかしそうな笑顔を見せると、瀧もそれと同じような表情を返し、同意の意思を示した。

 

 彼らはあの日から、ずっと繋がっていた。嬉しい時も悲しい時も、そして全てが終わろうとしていた日も、2人は奇跡のような不思議な繋がり……三葉の故郷の言葉で言う、「ムスビ」の間柄だった。でも今は、そんな不思議な日々を体験しなくても、こうやって一緒にいられる。

 

 

 その日、2人でのんびり寝るまで、ずっと彼らはそう思っていた。

 

 

 

 

 

 だが、目覚めた時――。

 

 

「……へ?」

 

 ――三葉の眼下にあったのは、ずっと隣にいた立花瀧でもなければ、宮水三葉自身でもなかった。いや、確かにこれは間違いなく立花瀧そのものである。だが、その体がどうして自分の首から下に伸びているのだろうか。

 

「……う……嘘……?」

 

 その時、突然どこからか振動音が鳴り響いた。その場所をはっきりと覚えていた『三葉』は、慌ててスマートフォンを取り出し、そこに見慣れた着信先の電話番号を見出した。大学生の時に自分が持っていたスマホの番号そのものだ。

 そして、スマホの向こうから聞こえてきたのは――。

 

『三葉……三葉なんだな!』

 

 

 ――やけに男らしい三葉本人の声だった。

 その声の主が誰なのか、『三葉』は既に知っていた。これは間違いなく、自分が知っている『瀧くん』そのものだ、と。

 

『なあ、まさか……俺たち……』

「うん…まさか……私たち……」

 

 

「「また入れ替わってる!?」」

 

 全く同じタイミングで響いた声が、長い長い、ムスビと冒険の日々の始まりだった……。


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