いつものバスの行き先は...?   作:風月 雪桜

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今回は、舞鶴第三鎮守府が舞台です


生き残りの潜水艦

起きると、見慣れぬ場所だった

 

「......」

 

周りでは、妖精さん達が寝ている

スヨスヨ

グーグー

スースー

 

そんな様子を見ていて思い出す...昨日の出来事を

 

 

 

 

 

 

オリョール海で資源を回収して帰ってきた私達は、休憩を取っていた

今日の出撃は、緊急以外ないのでイムヤ(伊168)と工廠で妖精さん達と駄弁っていた

 

本当は、てーとくと一緒に居たかったけど...

 

その時、スピーカーから今日の秘書艦の声が聞こえた

 

『本日の出撃、演習、遠征は中止

準備している者は、直ちに作業を中止せよ

また、出撃、遠征している者が全員すぐ帰投する補給担当の妖精さんは直ちに準備せよ

 

それと二時間後に埠頭にて全艦海にでよ』

今思えば、おかしな命令だが、おしゃべりに夢中の私は、気にも留めなかった

 

 

~二時間後~

 

 

「そろそろ時間でち」

 

「そうね...」

何かに悩むような顔をするイムヤ

 

「大丈夫でち?」

 

その時、妖精さんがイムヤに耳打ちする

「駄目みたい...」

 

「え?」

 

その時後頭部に衝撃が

うっ...ドサ

 

「妖精さん、あれ持ってきた?

そう、ならゴーヤ(伊58)に飲ませて」

 

私を拘束した妖精さんが何かを私に飲ませる

 

「な、なぜこんなことをするの?

イムヤ、妖精さん...」

 

「仕方ないのよ

だって...」

 

 

 

 

 

 

 

「おはよー」

「グウスヤ」

「おはおは」

 

「おはようでち

昨日は、何故あんなことを?」

 

「イムヤが言っていた通りだよー」

 

「......信じられないでち」

 

「でも事実だよ」

 

「ちょっと鎮守府を回ってみるでち」

 

「行ってらー

ただ、執務室は駄目だからね」

 

 

 

 

 

 

艦娘寮、食堂、ドック...何処にも艦娘も間宮さんや明石さんすらいない

 

「みんな...隠れてないで出てきてよ...

ゴーヤ寂しいよ...」

 

頼りになるイムヤも温かく見守ってくれる鳳翔さんも第二駆の仲良し組も...

 

「そ、そうだ

てーとく、てーとくなら...」

 

 

 

 

 

 

 

執務室をノックする

 

コンコン

 

「てーとく、みんながいないで...ち...」

 

提督が床で寝ている

 

「もう、てーとくこんな所で寝ると風邪引いちゃうよ?

 

...てーとく...?てーとく起きてよ?」

 

本当は、もう提督が起きないと分かってた

 

だって胸に穴が開いていて、大量の血が流れているんだもん

 

「嘘...いや...」

提督を抱き締めるが提督はピクリともしない

 

だんだん視界がぼやけてくる

 

 

 

 

 

 

 

なんで、ゴーヤがこんな奴の秘書艦なんかしなきゃならないのだろう

 

そいつは、じっと戦況を見ている

 

駆逐艦を盾にしろなんて最低な命令を出して

 

そして、艦隊は...壊滅した

 

最後に残った古参駆逐艦娘時雨とВерный(ヴェールヌイ)

そして、Верный(ヴェールヌイ)が時雨を突飛ばし沈んでいく

 

「...なぜだ」

 

「は?」

 

「いや、なんでも」

 

「そう」

 

その日は、そのまま職務を終え私は、執務室を出ていった

 

 

時雨が帰投すると聞き提督と時雨を出迎えた

 

「ただいま」

 

「...時雨」

 

「なんだい」

 

「何故、お前だけ帰ってきた」

 

「...救いたかったさ!

でも、でも...」

 

「もういい

お前に補給する資源はない」

 

「ッ!?

提督、君には失望したよ

人間なんて、大嫌いだ」

そう言って駆けていく時雨

 

「てーとく、本当貴方は最低な提督でち」

 

「好きに言ってろ

俺は、家族の仇を取る

ただ、それだけだ」

 

そう言って、提督は執務室に戻った

 

私は、そんな提督と一緒に居るのが嫌で少し遅れて戻ることにした

 

 

 

執務室に戻り、ドアをノックしようとした時

中からドン!ドン!!

と音がする

 

なんだろう、と思い耳を澄ます

 

「なんでだよ

一番辛いのは時雨だって分かってるだろ!

なんで俺は時雨に八つ当たりしちまったんだよ」

 

バンバンと机を叩く音がし

くしゃくしゃと紙が丸々音がする

 

「これも、俺が他の鎮守府の報告を鵜呑みにしたからだ

増援が来る可能性を考えなかったからだ

すべては!すべては俺の責任だ...」

 

何か軽いものが執務室のドアに叩きつけられ跳ね返る

 

堪えきれなかった私は、ドアを開ける

 

「てーとく!」

 

提督は驚いた顔をし、すぐ顔を拭う

 

「なんだ、ゴーヤ

緊急のことか」

何もなかったかのように話す提督は、満身創痍だった

身も心も見るだけでボロボロだと分かる

何故、さっきまで気が付かなかったのが不思議なくらいだ

 

「てーとく、もう無理はしないででち」

 

「俺は、無理なんかしてねえよ

どうした?いきなり?

媚びでも売り始めたのか?」

冷たい目で、私を睨む

 

「そんなことないでち

さっき、怒鳴っていたこと聞いたでち」

 

「あれは...」

 

「何故、てーとくは嫌われるようなことをするの?

教えて欲しいでち」

私は、提督の投げた紙を拾い広げる

 

内容は

『カムラン半島の敵主力艦隊の編成について』だった

そこには、壊滅した連合艦隊から時雨とВерный(ヴェールヌイ)が抜けていても余裕で勝てるような敵主力艦隊の編成が記されていた

 

「...辛いんだよ

家族を失うのが

艦娘と親しい仲にならなければ、少なくとも俺は悲しい思いはしないからな」

 

「てーとく、貴方が辛いとき誰も傍に居てくれなかったでち?」

 

「......」

 

「その人達もてーとくと同じくらい辛かったんじゃない?」

 

「......ああ、そうだな

いつも、俺の傍には辛さを分かち合える誰かいたな

俺は、恵まれてたのか...

 

だけど、今度こそ俺は独りだ」

自虐するような笑みで提督は、独り言のように言った

 

「大丈夫でち

ゴーヤが代わりにてーとくの傍にいるから」

 

その日以降提督は少しつつ変わっていった

 

 

 

 

 

 

「だから、執務室は駄目って言ったのに」

 

「妖精さんは知っていたでち?」

私の声は怒気を含んでいた

 

「知っていたよ

でも、もう私達が執務室にたどり着いた時、提督は息を引き取っていた」

 

「妖精さんは悲しくないの?」

 

「悲しいに決まってる

彼が辛いことを乗り越えようとしてたことも知ってたからね」

 

うぅ...

嗚咽を止めようにも、提督と駄弁ったり、笑い合ったりした時を思い出すと止まらない

 

プルプルプル

 

執務室に置かれた電話が鳴る

妖精さんは、取るのが大変なので仕方なく私が取る

 

「はい...」

 

『あ、こちら、呉第三鎮守府の司令官なのですが』

 

「なんですか」

涙声で、返事をする

 

『あの大丈夫ですか?

泣いているようですが』

 

「大丈夫でち...」

 

『そうですか?

なら、いいのですが

提督に代わって貰えませんか?』

 

「て、てーとくは...てーとくは...」

その先がどうしても言えない

 

『え、あの本当に大丈夫?』

 

「てーとくは、死んじゃったでち...」

 

『え?

どういうことですか?』

 

提督が執務室で胸を撃ち抜かれていたことや艦娘が全員いないことを話す

 

『分かりました、舞鶴第一、第二鎮守府に救援艦隊を送るように要請します』

 

「分かったでち...」

 

その後、救援艦隊が到着し捜索が行われたが艦娘はゴーヤ以外見つかることはなかった




最後まで読んでくださりありがとうございます

舞鶴第三鎮守府の艦娘達は、どうなってしまったのでしょうか...

次は、シリアスでない感じにしたいと思います

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