ぐだ男と野獣のクッキーkiss   作:野鳥先輩

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今回きたない上にいつにも増して罵詈雑言が飛び交ってます。注意


冬木にて。少年と

 アヴェンジャー。"復讐者"のサーヴァントであり、ビーストと同じエクストラクラス。だが彼は決して復讐者などではなかった。復讐を考えるかもしれない相手はいるものの、実際に行った訳ではないのだ。

 

 見るもおぞましい、自分を少年と名乗る男は誰からも憎悪を向けられた。凄惨な虐待を受けている姿を見てなおそれは変わらず、彼の名自体がやがて、相手の死を望む呪詛にすらなった。彼以外の者に向けても、彼の名が送られるようになったのだ。

 

 ――ぼくひで。ひでしね。ほんとひで。

 

 何気ない侮蔑かられっきとした殺意まで。彼の名が口にされる度に、全ての憎しみを一身に受け、変質に変質を重ねた。憎悪は膿の如く蓄積し、やがて彼自身は微塵も持ち得なかった"復讐者"としての資質を得る事になる。

 

 

 

 

 

 

 

「ひでしね」

 

 マシュは通り魔の如く冷徹に言い放った。

 

「あっ。ごめんなさい、何故だかこう、無意識に。口を突くように出てしまったので」

 

 マシュは本来、そんな言葉を吐く人物ではない。だがそんな心優しい彼女でも抗えないほどの不快感を、その全裸に白靴下の男は放っていた。

 

 某女優を彷彿とさせる顔面にがっちりとしたガタイは、とてもではないが少年とは形容しがたい。ひで。acceed作品に"少年役として"出演していた男優であり、出演作として有名なのは『ショタコン』や『悶絶少年 其の伍』の『少年拉致強姦』だろう。どちらも彼は"小学生"という設定の下、acceed特有のマジキチ脚本を演じさせられた。

 

『ひでしね――あっ。また言っちゃったや。ここまで来ると一種の呪いだね』

 

 モニターのロマンがははっと軽妙に笑う。実際の所はアヴェンジャーのスキルである『紅顔の美少年(偽)』による魔術的効果であるから、呪いという表現は全く外れていない。当のアヴェンジャーは特に気にすることも無く、全裸のまま廃墟の町を、一年生になったらなどとほざきながらスキップで進んでいた。

 

 今現在俺たちは、特異点冬木にレイシフトしている。といっても半ばアヴェンジャーに連れられるようにだが。好意的に見るならば、特異点に何かしらの異常でも見つけたのかと思うが……

 

「うー☆うー☆」

 

 本当に何か考えているのだろうか、あれは。原作のホモビでも散々職業意識の低さを露呈させていたアヴェンジャーの事だ、人理修復という大事に対しても、持ち前の性格の悪さと意識の低さ全開で挑む事だろう。まだシェイクスピア(淫夢)の方が自分にストイックである分ましな性格かもしれない。

 

「ひでしね」

「それは喋れるんだな、ビースト……」

 

 今回はマシュとアヴェンジャーの他にビーストも連れて来た。見た目は汚いが、戦闘要員としてはこれほど優秀で汎用性の高いサーヴァントもそういない。

 

『――っと! 敵性反応だ! 数は30以上、骸骨だよ』

 

 

 

 ロマンから通信が入る。骸骨か。何かいるなというのは此方からも観測できていたが。というのも前方から、『ヒデシネ』という呪詛の大合唱が此方まで響いてきているからだ。骸骨にまで死ねと言われるのは、果たしてどんな気分なのだろうか。

 

「ビースト!」

「白菜かけますね~ホラホラホラホラ」

 

 日本刀を両手で握り、淡々と骸骨に対して袈裟斬りを仕掛けていく。全ての骸骨はビーストなどお構いなしで、まるで誘蛾灯に引き寄せられるかの様にアヴェンジャーへと向かっていた。眼中にない状態となったビーストは、さながら薪割りのように面白いほどに骸骨を斬り捨てていく――

 

 

 

 被虐体質EX。それがアヴェンジャーの二つ目のスキルだ。他者に向けての憎悪すら自らへと向けさせる究極の自己犠牲。因果応報とまで言うつもりはないが、ここまで極まると逆に便利だ。彼が戦場に出ている間、ほぼすべての敵がアヴェンジャーを狙い、憎悪を叩き付ける。

 

「Hu^~気持ちいい~」

『それにしても、この数は流石に妙だよね』

 

 事が終わってからロマンが呟いた。

 

「そうでしょうかドクター」

『うーん。なんというか、引き寄せられてたりするのかな?』

「あまり憶測で物事を語られても困るのですが、もしかしたらアヴェンジャーの被虐体質が働いたのかもしれませんね」

 

 ……戦闘中アヴェンジャーを観察していたが、本当にこいつ微塵も戦う気が無いな。骸骨が近寄ってきても無視していた。精々、斬りかかって来た骸骨の斬撃を受けて、反撃の拳を浴びせたくらいか。筋力Aであるからそれなりに強力な打撃だ。

 

『――っと!? 不味いぞ皆! 強大な敵性反応発生! 数は――とにかく沢山だ!』

 

 

 

 ロマンが言うのとほぼ同時に、それは轟音を立てながら地面より湧き出た。純白のヴェールが被さった、髑髏の集合体。魂の群れ。傍から見てわかるのは、それ()が抱える妄執の重さのみ。

 

「アァッ……アッ」

 

 ビーストが目を見開き震えていた。ホラーには耐性が無いらしい。と、なにやら不快な音が鳴り始めたのでマシュを抱き寄せ視界を塞ぐ。

 

「なッ!? ちょ、ちょっと! 先輩?」

「ブッブチュチュチュッ! プッ! ブッチッパ!」

「せ、先輩! これでは敵も見えません、せめて状況把握だけでも」

「ビーストが出て来た巨大亡霊にビビッて脱糞した。覚悟が出来たなら離れていい」

「うっ……」

 

 マシュは嫌悪感で顔を歪めながら、それでもすぐに僕から離れた。そして見てしまう。ビーストの周辺に撒き散らされた下痢便の沼を。彼の脱糞シーンはイチジク浣腸によるものだ、淫夢を知る者は"下痢便(それ)"以外のイメージを知らないから、こうなるのも無理はない。ブッチッパという音がなまじ有名になりすぎたのも災いの一端を担っている。

 

「あっ……出る……!!」

 

 不幸は時として重なるものだ。アヴェンジャーは何か言ったかと思うと、音を立てて小便を漏らし始めた。マシュが泣きそうになりながらも、必死で亡者の集合体の方を向いて、オレを守る様に盾を構えている。

 

「う、うぅ……」

「気をしっかりもって。マシュ」

「は、はい先輩……」

 

 女の子ばかり戦わせて自分達は失禁とは良いご身分だ。少し強制が必要だな。

 

「――令呪を以て命じる! 戦え、ビースト、アヴェンジャー!」

「ファッ!?」

「やだ! 小生やだ!」

 

 ビーストはまだ抗戦の意志が残っていた。まるで後輩を掘っているときの様な苦悶の表情を浮かべながらも、何処からかブローニングm2重機関銃を取り出すと、銃口を上げて放ち始めた。重機関銃、といってもそれも彼を構成するBBの一つ。一種の神秘を持つのは当然であり、亡霊の集合体に対し一定のダメージを与えたように見受けられた。

 

 一方のアヴェンジャーも、弓を使っての抗戦を行っている。筋力Aから繰り出される矢は、例え技術が伴っていなかろうとそれなりの打撃にはなっていた。

 

 亡者の塊から生える、二対の巨大な腕が振り下ろされる。かまいたちが発生し、メンバー全員が巻き込まれた。

 

「アオォン!」

「くうっ!」

「痛いんだよおおおおおお!!」

 

 痛いのは分かってんだよオラア! と叫んでやりたい所だ。そもそもアヴェンジャーは耐久A+で頑健スキルも持っているから一番被ダメージが少ないはずなのに。

 

「『ああ逃れられない!』」

 

 その場にうずくまったアヴェンジャーの眼光が光り、狂気の笑みを浮かべた。その双眸が亡者の塊を捉える。

 

 ビーストは必死で重機関銃を乱射し、マシュも盾での攻撃を行っているが、あの圧倒的な物量には届かない。そもそもビーストたちはその霊格や能力の低さから、超高性能の一を相手取るのが極端に苦手だ。手札はあるが全てを踏み潰されては元も子もない、という奴だ。現に今がそれかもしれない。

 

「ロマン。万が一には撤退を――」

『ま、待った! 敵性反応がいきなり消え始めたぞ!?』

 

 アヴェンジャーの全身に文字が浮かび上がる。日本語によるひでしねという四文字が、まるで紋様の様に刻まれていった。文字が刻まれる度に亡者の塊は縮小していき、やがて跡形も無く消え去った。

 

「……ぼくひで」

 

 すべてが終わった後、アヴェンジャーの全身から紋様が消え失せた。

 

「な、一体……なにが?」

「一旦帰還する。ロマン、お願い」

『あ、あぁ。分かった』

 

 ――こうして冬木での探索は、良く分からないうちに終了した。残ったのはマシュの心的疲労だけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結論から言うよ。アヴェンジャーは、あの亡者の群れの憎しみを食い尽くした」

 

 ダヴィンチちゃんの分析によると、それがアヴェンジャーの能力らしい。向けられた憎悪を、自己回復ついでに食らい尽くす。

 

「本来憎しみなんてね、八つ当たりでどうこうなるもんじゃないんだ。でもアヴェンジャーに対しては……」

「肩代わりしたのか? 全部」

「どっちかというと、散々恨み辛みをぶつけてスッキリしたと言った方がいいかもね。つまりはサンドバッグさ」

 

 怨霊なんてものはつまり、何か心残りがあるから地上に縛られている。ならそれを根こそぎ奪われれば? 当然魂はあるべき場所へ帰るだろう。復讐心を拠り所にしている者がいれば、その支えも根こそぎ奪われれば存在も危うい。

 

「言ってしまえば、対復讐宝具。宝具と呼ぶには特殊過ぎるね」

 

 つくづくイレギュラーなサーヴァントだ。マナプリに変えてやりたい。それでも使い所は見つかった以上、使いこなしてみせるのがオレに課された役目なんだろう。

 

「……やっぱりあれの相手をずっとするのはしんどい」

「ははは。それも含めてそろそろ、彼が出て来るといいね」

 

 ロマンがそんな事を言う。あぁ、アヴェンジャーをまともにしばき倒せるのは、原典に沿って考えるならあの人くらいだろう。彼ならば戦闘能力も高いだろうし、申し分ない。




復讐レ○プ!アヴェンジャー絶対殺すサンドバッグと化したひで!
なんとなく思い付いた。後悔はしてない。


【真名】ひで
【クラス】アヴェンジャー
【性別】男
【身長・体重】18歳 158cm・53kg
【属性】中立・中庸
【ステータス】
筋力 A 耐久 A+
敏捷 D 魔力 D
幸運 E 宝具 EX
【スキル】
忘却補正:A(ほんとぉ?)
自己回復:A

紅顔の美少年(偽)A:人に不快感を与える偽の美少年としての性質。成年でありながら少年としてのロールを余儀なくされた事に起因する。男女を問わず魔術的効果として働くが、抵抗の意思があれば軽減出来る。対魔力スキルでの回避は不可能。
被虐体質EX:最早呪いの領域である上に、他者への復讐心すら肩代わりする。サンドバッグに最適。
頑健C

【宝具】
悶絶少年(大嘘)(ひでしね)
 自身に向けられた憎悪を吸収する。吸収速度は自己回復スキルのランクに比例する。



機関銃先輩はブローニングm2重機関銃で合ってる……よね? 角度もそれっぽい画像があったし……

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