ぐだ男と野獣のクッキーkiss   作:野鳥先輩

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バトルする相手を思いつかなかったので日常回です
ぐだ男くん、やっとまともなサーヴァントが出て来たぞ(疲労困憊)


カルデアにて。知将と

「誰の許しを得て服など着ている。獣め」

「オォン! アオォン!」

 

 跪き野太い喘ぎ声を上げるビーストを見下ろす金色の英雄王は、ソファにもたれ掛かりながら、チラリとデスクにあった紙へと目を向けた。

 

「そこの貴様。マシュといったな」

「ひっ……」

「この獣の服を脱がせ。あくせよ」

 

 ニヤリと邪悪な笑みを浮かべて見せる英雄王。対するマシュは猛禽に睨まれた小動物が如く縮こまり震えていた。

 

「……いや待てよ。止めだ。脱がすのはそこの、『選ばれなくてほっと胸を撫で下ろした』貴様だ」

「わ、吾輩!?」

 

 戸惑うシェイクスピア(淫夢)。確かに何一つ失点の無い可愛らしい女の子に罰ゲームを任せた上でほっと息をつく様な者には、それこそ罰が必要だろう。例え彼が脚本を書いたとして、そんな登場人物がいれば悲劇、喜劇に問わずそれなりの結末を用意する事だろう。観客のカタルシスの為に。

 

「……凡夫め」

「ぐぅっ!?」

 

 普段他者を呼ぶ際には雑種という言葉を使うギルガメッシュが、凡夫と口にした。即ちそれが最も効果的にシェイクスピアの自尊心にダメージを与えられるという確信を持っての事だ。

 

「仮にも演者の端くれなれば、(オレ)を楽しませるべく疾く演じよ。あくせよ」

「ご、後生な! この視界に入れただけで異臭を放つ、中世パリの擬人化の様な男の服をなど……」

「ロンドンも似たようなものであったようだが。些末な事だ、あくせよ」

 

「せ、先輩ー! 助けて、先輩ー!」

 

 

 マシュが縋るような声で助けを求めていた。超豪華メンツによる真夏の夜の淫夢一章再現は見ている分には中々に楽しいが、あいにくオレはロマンとダヴィンチちゃんに呼び出されている身だ。いつまでも寸劇を眺めている訳にもいかない。フォウ君を連れて、その場をそそくさと立ち去った。

 

 

 

 

「やれやれ。ようやく召喚システムが機能したのかと思ったけどね」

「いやいやちょっと待ってダヴィンチちゃん。召喚自体は成功してるんだ、それも飛び切り強大な英霊の」

「とは言うけど、本人が『戦う意思はない』なんて言うんだ。これは失敗と取っていいんじゃないか」

「いやだからそれは……あくまで召喚に応じた英霊個々の話であってハード面の不備は――」

「そこが発想の穴だ。むしろ、『戦う意思のない』サーヴァントばかりが召喚されるという可能性を考慮に入れるべき――っと。来たみたいだね」

 

 ギルガメッシュは召喚時に、戦う意思はないと断じた。この戦いに特別興味も無ければ、顛末も見えている。(オレ)は主賓の席にて傍観に徹する、と。

 

「……英雄王の件は仕方ない。次を見据えよう」

「前向きだねぇ君は。普通ならもっと発狂してもおかしくない、中々絶望的な状況だよ?」

「なんだかんだ、どうにかなってるので。そこまで絶望的ではないです」

 

 戦闘員は確かにビーストとマシュ、そしてクーフーリンくらいだ。シェイクスピアはカルデアでPCの前に座りBB劇場を作り、ギルガメッシュは暇そうにしているが、一向にカルデアから出ようとしない。それでも何とか、第一の特異点は解決できた。

 

「……召喚、試してみるかい?」

「はい」

「もしかしたらギルガメッシュの召喚を経て何か変化があったかもしれないからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ポッチャマ……」

 

 ロマンもダヴィンチも、驚愕を隠し切れない。きたない髭に五厘刈りの頭、上下の下着は白の、何の変哲もない一般人の様な外見。まるで糸が切れた人形のようにへたりと座り込み、口をポカンと開けて座り込んでいる。

 

 だがそれでも――

 

【真名】三浦

【クラス】ライダー

【性別】男

【身長・体重】21歳 176cm・78kg

【属性】混沌・中庸

【ステータス】

筋力 B 耐久 B

敏捷 D 魔力 D

幸運 A 宝具 B

【スキル】

対魔力:D

騎乗:A-(MUR肉のみAランクで行使出来る。他のものに対してはE-)

迫真空手:C

 

便乗:A

 本来持ち得ないスキルも、他人が使用している間だけ自分も行使出来る。

 該当するスキルは騎乗、剣術、芸術、カリスマ、軍略、等。

 ランクA以上ならば、肉体面での負荷(神性など)すら獲得できる。

理性蒸発:C-

 蒸発している期間に波があり、最低でスキル無し相当まで変化する。

天賦の叡智:A

 前人未踏の領域へ辿り着いた英霊に匹敵するほどの才能、観察眼、そして思考速度。人数を問わない戦略眼と不屈を得る。現在はスキル理性蒸発により機能していない。

 

【宝具】

『MUR肉』

 肌色の珍妙な生き物。魔獣。池沼時の自身と同程度の知能を有する。

誘惑のラビリンス(ゆうわくのらびりんす)

 二人の友、そして自らの師範を召集する。ただしこの宝具はあくまで召集を行うのみ。

 

 

 ――戦えない性能は、していないッ!

 

「はぇ~……すっごいポジティブ」

「馬鹿言ってる場合じゃないよロマン。これは明らかに、イレギュラーな英霊だ。待っていたまえ、少々解析する」

「それにしても、MURかぁ」

 

 淫夢厨である可能性が高いロマンがそんな事をぼやく。三浦大先輩、『BABYLONSTAGE27 誘惑のラビリンス』の第三章、空手部・性の裏技にてビースト(その時の役柄名は鈴木だった)と共演したホモビ男優である。その時はビーストの糞アドリブに翻弄され、便乗と強引な話の進め方しか出来なかった。ビーストと共演している以上確かに知名度は高いが、戦闘のイメージはあまりないキャラクターだ……

 

「また外れか……英雄王クラスまでは望まないけど、せめて戦闘能力の高いサーヴァントが欲しいね。戦いは激しくなるばかりだし」

 

「――そうだよ」

 

 先ほどまでの呆けていた無精髭の男は何処へやら。今そこにいるのは、白のポロシャツを着た、きりっとした眼差しを此方へ向ける青年であった。先ほどまでと纏うオーラが余りにも違う。

 

「先ほどの無礼は許してほしいゾ」

「もしかして、その状態が君の本調子なのか?」

「そうだよ。理性蒸発が機能していない、次の波が来るまでの短い間ゾ。今の内に、英霊の立場から一通り説明しておくゾ……まずこの召喚システムだけど、既に修復不可能なレベルで変質してるゾ」

「そ、そんな馬鹿な!」

 

 真っ先にロマンが反論した。

 

「英霊の召喚には成功している、現に今君だってこうして」

「召喚可能なサーヴァントがほんのごく一部、特定のサーヴァントに限定されてしまっているゾ。多分この召喚システムの、本来のスペックからは遥かに遠ざかってる。正常と呼ぶには少々苦しいゾ」

「ごく一部……まさか! ビーストに関連する人物しか呼べないようになっているとでも言うのか!?」

 

 ダヴィンチちゃんの推測を、MURは首を縦に振り肯定した。

 

「ご明察ゾ。正確には、"真夏の夜の淫夢"というカテゴリに関連した存在以外の召喚が不可能となっているゾ」

「……そんな」

「きっかけはやっぱり、ビーストの召喚?」

「飲み込みが早いマスターで助かるゾ……そもそも召喚システムは、エクストラクラスであるビーストの召喚に対応してなかったんだと思うゾ。それも今回のビーストは飛び切りのイレギュラーサーヴァント。召喚の際に、システムにダメージを負わせるくらいに」

「拳突っ込まれ過ぎて尻穴ガバガバになったみたいな?」

「ちょっと例えが汚すぎるんじゃないかなぁ!」

「素晴らしい例えゾマスター」

「ええっ!? それでいいの!?」

 

 ロマンのツッコミが冴え渡っているが、敢えて無視しようと思う。普段なら付き合うけど、今回の話の主役は制限時間付きだ。

 

「じゃあ、シェイクスピアやギルガメッシュは……」

「シェイクスピアは言うまでもなく『真夏の夜の夢』、ギルガメッシュは恐らく『バビロン』繋がりゾ」

「うわぁこんな事英雄王に知られたら黙っちゃいないぞぉ」

 

 ロマンはこんな事を言っているが、むしろギルガメッシュほどの男が、真夏の夜の淫夢周りの知識を与えられた上でこんな事に気づかないはずがない。むしろ勘付いてしまったからこそ興味もやる気も失せ、引き籠り宣言をしたのではないだろうか。

 

「待った。……君はその推論を、どうやって引き出したんだ?」

「召喚装置をちょっと観察すれば分かったゾ」

「そうか。止めて済まなかった」

 

 ……しかし修復不可能とまできたか。おかしいとは思っていたが、事態はどうもこの場にいる全員が予想していたより遥かに深刻だったようだ。僕らには人類史がかかっているというのに。

 

「それと俺は、本来なら無辜の怪物として召喚されるはずだったんだゾ。でもその能力は――」

「……無辜の怪物のスキルを、持っていない」

「単純な否定であれば話は簡単だったんだゾ。ただ今回は状況が違う、これは確証は持てないけど、無辜のスキルは持っていないんじゃない。預けたんだゾ」

 

 ……仰る意味が良く分からなかった。

 

「俺は自分の存在の在り方を、"真夏の夜の淫夢"という物語群及びその象徴たる鈴……ビーストに依存している。つまり今の俺は、ビーストみたいな多くの人が作り上げた"三浦大先輩"ではなく、真夏の夜の淫夢という物語の"登場人物"ゾ」

「……つまり?」

「ビーストが座に帰ったら、連鎖して俺が消えてしまうかもという架空の話ゾ。一応、頭の片隅に置いといてくれ」

「……分かった。これからよろしくな、ライダー」

 

 オレの差し出した手に応じ、握手を返してくれたライダーが露骨に昂ぶり始めた。

 

「……年下の後輩はいいゾ~これ!」

「あ、あはは……」

「マシュがいたらまたブロックされてたねぇ」

「……あっ」

 

 唐突に。ライダーが声を漏らした。ライダーは頭を掻き、残念そうにこちらを見る。

 

「……そろそろお別れの時間みたいだゾ。次の波は多分、明日の昼下がりくらいになりそうだゾ」

「……そっか」

「ま、待て待て! 君はそんな不規則な事まで予測できるのか?」

「天賦の叡智でちょっとシミュレートしただけゾ」

 

 ライダーは誇らしげにそう言った。それに食いついたのはロマンではなく、ダヴィンチちゃんだった。今まで見た事も無い真剣な面持ちを浮かべている。

 

「――最後に一つだけ。私の個人的な質問をいいか」

「良いゾ。なんでも聞いてくれ」

「……君は、自分の智慧が抜け落ちる瞬間が、分かるのか?」

「分かるゾ」

「……怖くは、ないのか? 自分が今まで考えていた事が、途端に分からなくなる。喪失を、恐ろしいと感じた事は無いのか?」

「考えてたことも分からなくなるから大丈夫ゾ。それに――」

 

 ライダーはそれを言葉に乗せ切る前に、糸が切れたように座り込んでしまう。髭がまた伸び、服装もいつの間にか先ほどまでの、白いシャツとパンツという格好に戻っていた。

 

「……ポッチャマ」

 

 そこに、先ほどまでの叡智に溢れた青年の面影は無かった。

 

「……分からない。どうしてだ、何故ここまでの退化を恐れずに受け入れられる。例えもう一度手に入るものだと分かっていても……」

 

 

 

 

「MURさん!」

 

 何処からともなくビーストが現れた。ライダーは、ビーストの姿を視界に入れた途端表情を明るくし、目に見えて喜び始めた。

 

「おっいいゾ~コレ! ケツの穴舐めろ!!」

「ファッ!? これもうわかんねぇな、お前どう?」

「僕も分からないや。ごめんねビースト」

「……駄目みたいですね」

 

 それでも何だかんだ言いつつ、ビーストとライダーは仲良く何かを喋っていた。もしかしたらビーストも、口には出さずとも寂しさを感じていたかもしれない。同郷の者が来れば安心もするだろう。

 

「ダヴィンチちゃん」

「……なんだい?」

「オレは、なんとなく分かった気がする」

「ほう?」

 

「彼が何も分からなくなっても。彼が便乗しか出来なくなっても、一応は慕ってくれる人がいる。だから多分彼は、それこそ家のソファーに飛び込むように安易に智慧を捨てられるんだと思う」

 

 私には分からなさそうだ、天才のまま座に座れたからね。ダヴィンチちゃんは、盛り合うビーストとライダーから目を逸らさないまま、微笑みを湛えていた。




池沼モードで理性蒸発してる期間は直感積んでる状態みたいなもんだけど、騙されやすい。騙されやすいせいで一回便乗を見切られたら、英霊特有の技量でフェイントかけられてお陀仏。天賦の叡智取った知将モードだとそれは無いけど、直感相当スキルが死んでる。そもそも不定期。そんな中で宝具の召集能力は池沼時は仕切り直しに、知将時は押しの一手に最適という何時撃ってもうまあじな宝具。

 なお、魔獣クラスのMUR肉に騎乗Aで乗って適当に轢き殺せば結構事足りる模様。

 後、登場人物うんぬんはスキル欄を整頓する為の口実なんだよなぁ。全員野獣と同じ形だと無辜の怪物で埋まっちゃうからね、しょうがないね。要約すると

 淫夢(MADや劇場含む)は神話だった……!? という事です。

ぬわあああああああん長くなっちゃったもおおおおん!
辞めたくなりますよ~不定期更新~

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