ぐだ男と野獣のクッキーkiss   作:野鳥先輩

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皆が続きあくしろって急かすからあくしちゃったじゃないか
笑い所さん!?が行方不明です。ゆるして


オレルアンにて。竜の魔女と

 ある者は言った。あの悲劇の聖女が憎悪を抱かぬはずがない。自身を裏切りし祖国に、煉獄が如き憤怒を向けぬはずがないと。偏見はやがて虚なる影を生んだ。影は自らが望まれた通りに振る舞い、オルレアンを恐怖のどん底に陥れた。聖女が決して辿り着くはずもない、人に造られし英霊。

 

「人生を他者に否定され改竄され、好き放題言われて……クク。本当に哀れね、貴方も。私も」

 

 ビーストはどうだろうか。彼の本体がTDNホモビ男優であることは自明である。それ以外の要素は全て、他者に付け加えられたもの。身長と体重はインタビューでの自己申告であるが、田所浩治あるいは浩二という名は、真夏の夜の淫夢が知れ渡った頃に起きた、田所という姓を持つ性犯罪者の名を継ぎ足されたに過ぎない。

 

「んにゃぴ。やっぱり自分が一番ですよね」

 

 ビーストを一言で表すならばそれこそ、『人に造られし真作無き英霊』であろう。彼はその骨子以外の全てを他者に形作られた存在。真の姿と呼べるものは、最早何処にも存在し得ない。

 

 ――彼女とビーストは、何処か似通っている。

 

 

 

「先輩。あの汚いのと同列にするのはまずいですよ」

 

 長い旅路を経て、すっかり毒舌と化してしまったマシュ。個人的には、ビーストに慣れてくれた事に一抹の安堵を覚える。怯えられてはたまったものではない。

 

「うーむ。これは実に面白おかしいカードですな。どちらも吾輩の著と関わりがあるというのは、何らかの因果を感じざるを得ません」

 

 オレの隣で意気揚々と筆を走らせるシェイクスピア。ビーストを召喚して以降、召喚に成功した唯一のサーヴァントだ。彼の代表作と言えば真っ先に思い浮かぶのはハムレットやリア王、ロミオとジュリエット辺りだが、こ↑こ↓この場において特筆すべきは『真夏の夜の夢(A Midsummer Night's Dream)』だろう。個人の意見を言わせてもらうならば、ホモビ会社がシェイクスピアなんて知っている訳が無いから松任○由実の『真夏の夜の夢』のパロディだと考えるが。

 

 またシェイクスピアは著作にて、ジャンヌ・ダルクを魔女としてこき下ろした事があった。多少悪いことをしたかもしれない、なんてぼそっと呟いていたが、敵として相対しているジャンヌが魔女化していると聞くとまたハッスルしていた。書き終えたら物語をマスターに真っ先に見せてやろうと意気込んでいたが、多分ジャンヌはまた愚かな田舎娘役だろう。

 

「期待しておりますぞービースト殿。吾輩ここで執筆活動に勤しみますから」

「ぬわあああああん疲れたもおおおおおおん! 辞めたくなりますよ~」

「……疲労を訴えている、という事でしょうか。先輩どう思います?」

「状況的にそうなんだろう」

 

 マシュが着々と淫夢語録を取得していっているようでなによりだ。根が素直なのだろう、例え個人的に相手が苦手だろうと、きちんと向き合うのはマシュの良い所だ。

 

 ここに至るまで。ファフニールやジルをビーストは一人で屠って来た。少々酷だが、非戦闘要員のサーヴァントが一人と防御型サーヴァントが一人では、正直援護のしようがない。

 

「……ファフニールを倒したのが、こんな汚物なんてね」

「ファッ!? 頭に来ますよー!」

 

 憤怒の表情を浮かべ身を震わすビースト。味方サイドにも散々汚物扱いされているが、敵に言われるのは我慢ならないらしい。とはいえ彼は、例え糞アドリブを連発しようが腐っても男優(アクター)。心底怒り、挑発に乗る事はしないだろう。

 

 先に動いたのはビーストだった。ビーストは珍妙なフォームで駆け出す。頭を上下に振り、陰茎を勃起させて海パンを隆起させ、右手は常に掌底を前に出す。ハッハッハッハッとまるで機関車の様に声を出す様は、およそ人と形容するのが難しいほどだ。シェイクスピアはこみ上げる笑いを堪え切れていない。

 

「……『吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)』!」

 

 瞬間ビーストは紅蓮の業火に包まれる。更に追い打ちとばかりに無数の黒槍が撃ち込まれた。マシュの宝具、そしてシェイクスピアの自己保存により後方への被害は最低限で済んでいるが――

 

「ビーストッ!!」

「バッチェ冷えてますよー!」

 

 炎より飛び出したビーストの姿は更に変質していた。妊婦の様に膨れた腹を天井に向け涅槃顔を晒し、その体色は先ほどまでの浅黒い茶色から、目に悪いピンクと水色に変質していた。上げた足には落書きの様な眼が描かれている。

 

 ポリゴン2GB。ボテ腹先輩BBから派生したGBであり、ポケモンのポリゴン2の能力を一時的に得る。かのポケモンの能力は弱点の少なさと超耐久力、そして自己再生。ファフニールと戦った際もそれの吐くブレスを、対魔力性能の低いビーストが切り抜ける際に切っ掛けとした。

 

 これも野獣先輩のスキル『変化EX』による、自身を構成するBB全てに一瞬で変身できる能力のほんの一端。新説シリーズと呼ばれるものは、ある程度名の知られた有力説で無ければ能力の一端しか得られず、変化に時間がかかるため、基本は内蔵したBBを用いる戦闘を行っている。

 

「ホラホラホラホラホラ!!」

 

 飛来したビーストは再び変化し、無数の腕を顕現して怒涛の拳撃を浴びせる。だがその攻撃は、ジャンヌ・オルタにあっけなく振り払われてしまった。野獣ラッシュBBはかませとはいえ、見掛け倒しにも程がある。

 

「ビースト! 令呪を以て命ずる、宝具を使用しろ!」

「ファッ!?」

 

 ビーストは驚愕するが、すぐに従った。先ほどまでとは打って変わって、威風堂々と、ねっとりと歩を進めるビースト。纏う雰囲気すら違って見えた。ジャンヌ・オルタもそれを感じ取り、警戒する。

 

「まずウチさぁ。屋上、あんだけど――『焼いてかない』?」

「嗚呼、良いっすね」

 

 野獣先輩の宝具の発動条件は特殊で、対象の同意を必要とする。対象の同意を得て初めて、周囲の生命体全てを、彼の領域へ引きずり込むことが可能になる。同意を得る相手は一人で構わない。

 

 ならば結論は至ってシンプルだ。マスターたるオレが了承するだけで何の問題もなくそれは発動する。一瞬世界は、青一色に塗り潰された。

 

 やがてジャンヌ・オルタが目を見開き驚愕する。そこに広がるのはオルレアンの城などではなく、東京都世田谷区北沢に存在するコートコーポレーションの屋上。曇天の空と蝉兄貴の迫真の演技が光る。それは何千万回と再生され、幾度となく消失を繰り返しても不死鳥の如く復活した、真夏の夜の淫夢を見たすべての人間の心に焼き付きし心象風景。

 

「こ、固有結界!? そんな、馬鹿な」

 

 『第四章・野獣と化した先輩(よんしょう・やじゅうとかしたせんぱい)』は、ジャンヌ・オルタが言うように固有結界。一つ注釈を付け加えるならば、『体内展開型の固有結界』だ。体内展開であるから抑止力の影響は受けず、ビースト程度の魔力でも、こんな未熟なマスターの魔力でも長時間の展開が可能となる。

 

 一瞬展開された青。あれは何も描かれていないブルーバックを継ぎ接ぎに展開したものであり、当然ビーストの本体でもある。変幻自在なビーストならではの、強引な展開だ。

 

「†悔い改めて†」

 

 ビーストの一言に、ジャンヌ・オルタは歯噛みをする。先ほどの『焼いてかない?』という発言、全身を焦がすような熱気の中でのその一言は、ジャンヌ・ダルクという人物にとっては強烈な挑発になり得る。本来の聖女であれば立ち止まれたであろうが、『自分を焼き殺した者全てを恨む事を強いられている』今のジャンヌ・オルタに、乗らないという選択肢は存在しなかった。

 

 激昂したまま旗を振るうジャンヌ・オルタ。それを刀による斬撃でいなしていくビースト。一瞬見出したジャンヌ・オルタの隙に放ったのは激烈な蹴り上げ、邪翼崩天刃。大きく吹っ飛ばされた彼女だがまだ体力は尽きていないようだ。

 

「せ、先輩……」

「む。限界ですかな? もう少しの辛抱ですぞ」

 

 ……サーヴァントの抵抗すら貫いて、じりじりと体力を削る固有結界だ。そんな中にマスターが入って、無事でいられる道理はない。だがまだ、我慢が出来ない範疇ではない。皮膚がじりじりと焼けるように痛いのは、オイル無しで焼き上げる為に出力を上げている為。

 

「じゃけん夜行きましょうね~」

 

 何気なくビーストが発した一言。その次に放たれた斬撃は、それまでのものとは次元が違っていた。空中のジャンヌ・オルタを空間ごと引き裂き、そこで一旦固有結界は暗転した――

 

 

 

「加熱した欲望は、ついに危険な領域へと突入する――!」

 

 シェイクスピアが朗読調で語っている内に視界が帰って来た。今度は地下室である。先ほどまでの身を焼き焦がすような暑さはもう既に無い。

 

 ジャンヌ・オルタはベッドに寝かされて拘束されていたが、意識はあった。睡眠薬を混入したアイスティーを盛っていないから当然ではあるが。ただ、もがく程度で抜け出せる拘束ではなかったようだ。

 

「キツかったっすねー今日は」

「よくやったビースト」

「アーイキソ」

 

 この地下室へ飛ぶには条件がある。敵対者の精神が混濁する、あるいは敵対者の体力が、拘束を解けないレベルまで損耗しているとビーストが判断したとき。今回は後者だった。

 

 つまりは、この地下室へと飛んだ時点で勝敗はほぼ決しているのだ。後は素直にとどめを刺すだけなのだが、今度はシェイクスピアが止まらない。何故か、負けた相手に感想を聞く。ただそれだけの為だ。

 

「ふむふむ。見事に負けてしまった訳だが。感想はどうかね? 是非お聞かせ願いたい」

「……早く殺しなさいよ。それで、この特異点も終わりなんですから」

「感想になっていないではないか、ん?」

 

 ギリギリと歯音を立てるジャンヌ・オルタ。

 

 ふと気になる事が脳裏に浮かんだ。

 

「ところでジャンヌ・オルタ。聞いておきたいんだけど」

「……話す事なんてない」

 

「いや。野獣先輩を知ってるってことは、真夏の夜の淫夢も知ってるってことで。つまりそこで行われた行為も知ってるはずだよね?」

 

 ジャンヌ・オルタは一瞬言われた事の意味が分からなかったようだが、やがて理解したのか白い顔を耳先まで真っ赤にして抗議し始めた。

 

「ち、ちち、知識だけ! 知識だけです!」

「へぇー……」

「流石吾輩を召喚せしめしマスター、何と面白おかしい着眼点! これは後で白い方のジャンヌ・ダルクにも詳しく聞かねばなりませぬなぁ! ハッハッハ!」

「……あーもう! 早く、早く殺しなさいよ! 私何か悪い事した!? ねぇ、ここまでされるほど悪い事した!?」

 

 

 

「……ビーストさん」

「ハァイ」

「その、これは……止めた方が良いんでしょうか」

「……駄目みたいですね」

 

 その後、オレの魔力が尽きるまで質問攻めにした。そしてシェイクスピアはオレルアン編の執筆を終えた後、BB先輩劇場を作る様になった。シェイクスピア(淫夢)。




 シェイクスピアは多分準レギュラー化する。

 野獣先輩から見たシェイクスピアの戦闘時の相性は限りなく最悪に近い。野獣先輩というサーヴァントは武器を展開する手段をBBに頼っている。武器本体はあくまでBBに付随するものでしかないから、エンチャントする対象は必然的にBBになる。そして野獣先輩はコロコロと変化スキルでBBを変更するから、エンチャントは実質ほぼかけられない(例外、というかエンチャントを受けて有効なものもある。それはそれで、野獣先輩の優秀な手札を全部封じる事になるから結局相性は悪い)。

 ただ、野獣先輩は非常に手札が多く飽きが来ない、割とハイリスク戦術を取っても勝てる性能、『野獣と化した先輩』における焼却ダメージは自己保存でスルー出来る事、地下室で無抵抗な敗北確定の相手に幾らでも感想を聞ける事などからシェイクスピア的には万々歳という関係。これもうわかんねぇな。

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