ぐだ男と野獣のクッキーkiss   作:野鳥先輩

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淫夢バースからシャドバにのめり込んでました(小声)
許しは請わぬ(ノムリッシュ)


特異点K AD.2005 尻穴怒涛強襲岡山(2)

 戦車に騎乗する赤毛の大男はふとこちらへと視線を向ける。かの大男、イスカンダルは俺達を一瞥すると顔をしかめた。

 

「ふむ。見たことも無い連中だな……いや待て。うぬらの連れるその、薄汚い男。よもや変態糞親父ではないか?」

「ビーストの事を言ってるなら完全に人違いだ。他所を当たってくれ」

「そういう訳にもいかぬ。貴様ら、そこのメガデス戦闘員の仲間ではないか?」

 

 黒骨の鎧を纏う男、クーフーリンもこちらの出方を窺っている。あらかたの事情は察した、つまりこの二人、そして秘密結社メガデスは敵対関係、三つ巴の大合戦がこの岡山で繰り広げられている可能性は極めて高い。

 

 ……どうして岡山なんぞで、神話VS古代VSホモビなどというとち狂った諍いが起こっているのか。それはまだ釈然としないが。

 

「……イスカンダル、そしてクーフーリン。この戦闘員はこちらが拘束した捕虜だ。今はこいつが吐いた変態糞親父のいる場所へと向かっている途中なんだ」

「……ほう」

 

 ――ドンピシャ。こちらの推測の回答は、彼らの反応が雄弁に物語っていた。この二人がイスカンダル、そしてクーフーリンであることは最早疑う余地もない。特にクーフーリンは、先ほどまで覆っていた黒骨の鎧が剥がれ、その素顔が露わとなる。紛れもなく、カルデアにいる彼の顔であった。その邪悪な笑みを除けば。

 

「俺の名前を晒されちまったら、別にこいつを隠す必要もねぇな――抉り穿つ塵殺の槍(ゲイボルグ)

 

 刹那、視界は血飛沫に埋め尽くされた。その飛沫が、自身のものでない事に気づく。

 

「……躱せねぇなら心臓で受ければいいってか。ふざけた耐久力だな?」

 

 俺と、飛来した抉り穿つ塵殺の槍(ゲイボルグ)の間に体を滑りこませていたNRKは、自身の心臓を穿ったそれを震える手で引き抜いた。すぐさま治癒が始まり、やがて傷一つすら残らず再生する。ただ一つ言える事は、その矛先は心の臓を僅かに逸れていた。恐るべし、持ち主が保有するアヴァロン。

 

「クーフーリン殿! クーフーリン殿!」

 

 動いたのは、先ほどまで最後方に控えていたシェイクスピアだった。

 

「まず吾輩、世間に名の知れた詩人なのですがな! ここは一旦退いてくれませぬかなー、頼みますぞー!」

「……チッ」

 

 舌打ちを一つ残し、クーフーリンは建物の隙間を縫うように去っていった。

 

 クーフーリンが生前立てた誓い、ゲッシュの一つに『詩人に逆らわない』というものがある。シェイクスピアと言えばそれこそ、悔しいが全世界が認める劇作家であり、詩人である。今回のクーフーリンがイレギュラーな存在であることは見て理解できるが、流石にゲッシュを真正面から破ってくるほどの変化ではないという事か。

 

 こういうことがあるから、英霊にとって真名バレほど痛いものはない。こちらはこちらで、シェイクスピアが交渉役として役立つ事を把握出来た。さて後はイスカンダルであるが……

 

 

「これでも浴びろォー!!」

 

 

 芝居がかった声と共に、安っぽい稲光のエフェクトがビルの屋上から降り注ぐ。マシュがさっと盾を構えどうにか俺だけは庇い、NRKがアマデウスをフォロー。シェイクスピアは自己保存でスルーしたが、ビーストとイスカンダルが被弾してしまう。

 

 見上げると屋上には、昆虫の類のような薄気味悪い頭をした、緑の全身スーツに身を包んだ怪人の姿が夕日に照らされていた。

 

 彼の名は知っている、超人サイバーZに出演していた敵役、メガデス怪人。相手を操るホモビームを駆使し濡れ場を構築したり、戦闘員に対しセクハラを敢行したりとやりたい放題の屑である。

 

「さぁ、お前達、この辺りから立ち去るのだ」

「……」

 

 ホモビ―ムを浴びた以上、イスカンダルが彼の命令に従わない道理もなかった。戦車を駆り轟音と共に去っていく。周りを見渡した限り、NRKやマシュは全く問題がない様子。女性には効果がないのだろう。ただビームを受けた被害者、ビーストは明らかに男性である。

 

 だが――だが、ビーストはそれに従う事は無かった。いつもの不機嫌そうな面で、ふてぶてしい上目遣いでメガデス怪人を睨む。

 

「……立たねぇなぁ。俺が立たせてやるか、しょうがねぇな」

「先輩、これは一体……」

 

 マシュも半ば呆然とそれを見ていた。散見される状況証拠、今眼前に厳然と存在する現実。考えられる可能性は、一つしかなかった。

 

 

「――ビーストは、男ではなかった……!?」

 

 我ながら珍推理も良い所だと思う。ただ野獣先輩には『女性説』なるものが存在し、野獣先輩の正体を探るという名目で様々なものと共通点をこじつける動画シリーズ、通称新説シリーズにおいても半数以上が女性キャラを対象としたものである。今の野獣先輩はそれら全てを内包した存在であり、男性とも女性とも区別をつけられない存在なのだろう……ではないだろうか。いやどう見ても男性だしあれが女性などというジョークはホント御免こうむるが。

 

「な、なんだとぉ!? 俺様のホモビームを受けて……」

 

 困惑するメガデス怪人は放置し、捕虜のメガデス戦闘員の吐いた進路を進む。こちらの目的はメガデスの殲滅でもなければ英霊とのガチバトルでもない。ただ特異点を修復してしまえばいい。その条件は変態糞親父に、やったぜ。から始まる例の文書を投稿させる事ならば、その通りにこなすだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 喧噪の遥か遠く。ホテルの一室に、明らかに浮いた人物が存在した。一人は黒いタイツに身を包みし、日本人離れした絶世の美女である。そしてもう一人。

 

「あもしもし。佐々木さんですか?」

 

 携帯電話を片手に話す褐色肌のギャル男。端正な顔立ちをした彼の片手には、ビール缶が黄金色の輝きを放っていた。それは明らかに異質な、しかし確かに、聖遺物に並ぶほどの神秘を帯びていた。

 

「良いの見つかったんすよ~、頑張りますんで、はいよろしくゥ!」

 

 女――影の国の女王スカサハはそれが俗にいう聖杯とほぼ同等の位を持つこと、そしてそれを自身の目の前で生成して見せた男が、救世主に匹敵あるいはそれ以上の神性を持つことを、十分に理解していた。なにせ微塵も縁のないクーフーリンはおろか自身すら、他ならぬこの男が聖杯を介し召喚したのだから。

 

「……一つ聞くが」

「何? なんでも聞いてよ」

 

 電話を終えた男は軽薄に応える。常にこの男は、その実力に見合わぬチャラさを隠そうともしない。

 

「あれは、何時のクーフーリンだ?」

「うーん、そうだねー」

「……私はあまり気が長い方ではない」

「まま、そう焦んないでよ。大丈夫ヘーキヘーキ、流石に"神殺し"と殺り合う程間抜けじゃないからさ」

 

 男は少し間を置いて、無責任な笑みを浮かべながら言った。

 

「あれは強いて言うなら未来のクーフーリン。邪悪な女王に望まれ悪に染まった、『君を殺しうる……かもしれないクーフーリン』さ」

 

 刹那、男に対し無数の魔槍が降り注ぐ。だが既にそこに男の姿はなく、スカサハは一人そこに残された。


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