ぐだ男と野獣のクッキーkiss   作:野鳥先輩

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この前のネロ祭で当てた赤王の幕間を消化してたら
うちのぐだ子ちゃんがファッとか言ってました。

よってFGOライターは淫夢民。はっきりわかんだね


無限の野獣製(Unlimited_Tadokoro_Works)

 AOK。『汚濁の御子』の主人公である青年で、Fate/stay nightの衛宮士郎に類似しているとされた。彼の代名詞といえば投影(トレース)、そして固有結界である『無限の剣製』であろう。自身の視認したことがある武器を投影(トレース)する彼の能力は、彼自身の経験に基づくもの。例え他の者が如何に非合法な手段を用いて『無限の剣製』を発動した所で、投影出来る武装などありはしない。

 

 ――先ほどまでの機械的な部屋から一転、赤土の荒野が彼方まで広がっていた。AOKが展開した、固有結界であろう。だがそこに、突き刺さっているはずの武器は一振りたりとも存在しなかった。

 

「……あああァァッ!!」

 

 荒野に佇み、発狂するAOK。相も変わらず演技と思えない程、迫真の絶叫だ。ドン引きした当時の発掘ホモ達の心情も察するに余りある。ギルガメッシュはAOKに対し、並々ならぬ敵愾心を向けた。

 

「AOK!」

「あぁもう滅茶苦茶だよ!」

「ロマンは黙ってて!」

 

 半裸のギルガメッシュの後背に開いた黄金の門から、穂を覗かせていた武器が一斉射される。それらは無情にもAOKへと襲い掛かり――

 

「ンアーッ!?」

「ファッ!?」

「イキスギィ!」

 

 ――その全てが相殺された。余りにも一瞬の出来事に思考が追い付かないが、辛うじて自身の耳が拾ったビーストの声から察せた事がある。どうやらその通りであったようだ。

 

「……雑種め!」

 

 激昂し目を見開くギルガメッシュ。対するAOKの足元には幾つもの『野獣先輩の部位で形成された』60fpsで蠢く武器の残滓が、両手には、同じく野獣先輩で形成された双剣が握られていた。あれは夫婦剣、干将・莫耶を模したもの、そして足元に転がっているのは先ほどギルガメッシュが射出したものの、贋作だ。

 

 衛宮士郎の投影は、極めて個人の特性によるものが大きい。NRKがアルトリア・ペンドラゴンとして十全の力を発揮出来ていないのと、似通った部分があるのだろう。ここからは推測だが、『後天的に衛宮士郎』をぶち込まれたAOKに対し、何かしらの要因で修正が入ったのでは無いだろうか。投影が難しいならば、その素体を万能素材たる野獣先輩に頼るという形で。

 

「ぐだ男さん、あれ!」

「……!」

 

 NRKが指さす先。荒野の果てに一振り、真っ当な剣が突き刺さっていた。見渡すと視界内に数本はそういった武器が存在している。視認した武器、という事か。

 

「――二度とこの世界にいられないようにしてやろう!」

「Be Quiet! お前の口から最早有益な情報も、カタル、カタルシスに至る逸話も出てこない!!」

 

 糞みたいなガチャ、目当てのモノが全くの別人だったこと、更に喧嘩を吹っ掛けられたうえ、自身の財宝をよりにもよって野獣先輩を用いて模倣された事。それら全ての要因によってギルガメッシュは、既に冷静さを失っていた。王の財宝から原初の武装を次々と射出する。結果は幾重にも鳴り響く野獣の断末魔と、武器同士が弾け合う音が示していた。そしてその全てが複製され、見渡す限り何もなかった荒野には一本、また一本と武器が突き刺さっていく。

 

 ――いつの間にか、荒野は武器で埋め尽くされていた。

 

「……こんなの。こんなの規格外だ。あの英雄王と、互角に戦うなんて」

「でも、凄く危うい均衡だ。何とかしないと……」

 

 だがどうする。これがもうマスター一人の尽力で改善が見込める領域を遥かに超えているのは自明だ。ギルガメッシュの争いを令呪なぞ使って止めた日には、人類BADENDが待っている。何らかのサーヴァントの力を借りることが不可欠だろう、だが――

 

「――私。AOK君を助けてきます」

 

 NRK姉貴の決意に、首を縦に振り許可をする。

 

「アヴァロンがあれば多少のダメージは即座に治癒出来る。でも一つ、警戒するべき宝具がある。多分本人は絶対使わないだろうけど――」

「エア。乖離剣エア。それには注意するように」

 

 天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)、ランクEXの対界宝具。あんまりにも規格外の火力を持つ、ギルガメッシュの切り札。だが彼はその性格上、格下にそんなものを振り回すことは絶対にしない。アヴァロンの真名解放が出来れば気にせず突撃させるのもありなのだが……

 

 いや。今俺が考えるべきはこの一連の諍いの終着点だ。必死に思索を巡らせる。使える令呪に限りがある以上、失敗は極力許されない。

 

 

 

 

「覚悟を決めよ!」

 

 一喝したギルガメッシュ。放たれる宝具の数々に、最早慈悲の欠片も無くなっていた。カリバーンの原典である原罪(メロダック)、バルムンクの原典グラム、デュランダル、邪剣"夜"の原典である邪剣『夜域魔鐘音』、聖拳"月"の由来である聖剣『月』、淫夢の一太刀――

 

「くどい!」

 

 その全てを、無数の野獣先輩を用いて一瞬で形成し、相殺する。だがその中に混じっていたAランク宝具を形成する際、僅かな隙が生まれ、蓄積した。高速で飛来する剣に対しそれは、命を奪われるに十分な時間であった。

 

 

 ――AOKと剣の間に体を滑りこませた者がいた。AOKは驚愕し、目を見開く。

 

「……先生」

「……AOK君」

 

 あの時のように優しく微笑んだNRK。その背には幾本もの宝具が突き刺さっていた。それほどの傷であろうと治癒出来る、それが『全て遠き理想郷(アヴァロン)』。

 

「……先生ごめんなさい」

 

 AOKが視線を落とし、NRKの持つ『約束された勝利の剣』を一瞥してすぐ背中に刺さった武器を抜く。ギルガメッシュはそれを黙して観察していた。

 

「女。貴様を消す前に一つ問おう。何故(オレ)の前に立ち塞がった」

「……彼女が。私の中にいる彼女が言うのです。『あの暴君に屈してはならない』と」

「……ハ。ハハハ! そうか! 貴様の内には曲がりなりにもあのセイバー(憎らしき女)の志が通っているという事か!」

 

 ギルガメッシュは双眸を見開き、高らかに笑う。その傍らに開いた王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)から鍵の形状をした剣を取り出す。

 

「王律鍵バウ=イル!? ぐだ男君、まずいですよ!?」

 

 口調までぶれるほど動揺しきったロマン。そんなことは分かり切っている。あれが出て来たという事は、次に出て来るのは――乖離剣・エア!

 

「――ならばこれを振るわぬ道理もなかろう! 天の理を見よ!」

「――ハハハ、ハハハハハ!!」

 

 目を血走らせ、発狂しながらもAOKの手には二対の干将・莫耶(かん↑ちょう↓・ぶっちっぱ)が握られている。彼は、英雄王がそれを引き抜くまでに足を踏み出し、握る二対の双剣を投擲した。

 

 ――互いが互いを引き寄せ合う特性を持つ干将・莫耶。それを最大限に活用し、回避不能の同時攻撃を実現する、衛宮士郎という青年が築き上げた奥義。鶴翼三連。それを完全に再現している以上、今のAOKが衛宮士郎のデミ・サーヴァントに近いものであるのかもしれない。

 

「ええぃ! あくせよ!」

 

 彼の動きを察知したギルガメッシュが焦り、『王の財宝』から普通のAランク宝具を数振り取り出そうとする。だがそれすらも間に合わないと判断したギルガメッシュは、取り出してすぐの不完全な状態から乖離剣エアを握らざるを得なかった。

 

「『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』ッ!!」

「令呪を以て命ずる、来い!」

 

 耳が僅かに拾ったダイナマイッなどという苛立たしい声は、乖離剣エアの一振りに掻き消された――

 

 

 

 

 

 

 

 

 乖離剣のもたらす圧縮された真空波の渦に、固有結界が耐えられる筈もなかった。戦いの舞台はカルデアへと戻る。見慣れた景色の中、先に矛を収めたのは、なんとギルガメッシュだった。

 

「……興が削がれた。らしくもないが、憑き物が落ちたような心地だ」

 

 それはNRKやAOKも例外ではないようで――

 

「もういいよ……先生大丈夫だから」

「……先生」

 

 投擲された干将・莫耶(かんちょう・ぶっちっぱ)の姿は何処にもなく、両手に握られていたものはンアーッなどという野獣の咆哮をあげながら消滅した。

 

「……えっなにこれは。ぐだ男君、どういうことなの?(レ)」

「令呪でひでを呼び出した。後はひでが双方の攻撃と憎悪を吸って――」

「あっ、ふーん(察し)」

 

 鶴翼三連と天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)を一身に浴びたひではというと、血みどろになったままピクリとも動かない。それでも誰も悲しまない辺りが、ひでである所以であろう。

 

「ぐだ男」

 

 ギルガメッシュに呼び止められた。緊張を解くには、まだ早いようだ。

 

「……あの状況で助太刀を入れるとは。貴様は(オレ)の契約者たりえぬ」

「いや多分ぐだ男くんは」

「いや。ギルガメッシュの言う通りだ」

 

 そもそもギルガメッシュの息の根を止めるならば、即座にピンキーを投入すればいい話だ。そうすればロマンは犠牲になるが、その程度の穴ならダヴィンチちゃんを馬車馬の如く酷使すれば塞がる。カルデア消滅と天秤にかける必要は微塵も無い。

 

 ただ……出来れば、もっと上手な解決方法が欲しかった。犠牲を最小限に抑えるような、そんな一手が欲しかったんだ。

 

「……だから特等席から見ていて欲しい。凡夫なりに、与えられた仕事は演じて見せるさ」

「奇特な奴だ。好きにせよ」

 

 

 

「あぁ、そうだ。こと喋れる程度の半殺しに陥らせる技術で(オレ)の右腕に出る者はいない。今ならばそこの不快な汚物も、間に合うかもしれんぞ?」

「ぼ……ひ、で……」

 

 ふと思い返してみると確かに、ギルガメッシュと戦い負けた人は数知れないが、一言も発す隙も無く即死した人というのは、あまりいなかった様な気がする。変なジンクスだと思いながら、なんだかんだで殺さずに済んだドクターに声をかけるのだった。




※この作品でシリアスをやる英雄王ギルガメッシュはこれで最後です。
以後はギルガメッシュ(淫夢)でお送り致します。

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