あべこべポケモン   作:(^q^)!

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Civ6と黒曜石のぴにゃこらた集めで忙しかった


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 彼が右に首をかしげる。

 

「――ミュウ?」

「――ビィ?」

「――メノ?」

 

 すると鏡写しのように空中に浮かんでいる三体も首をかしげる。

 

 そのままずっと右に首をかしげ続けて、彼が床に倒れると彼女らも空中で寝そべるような姿勢になった。

その浮力はいったいどこから出ているのだろうと彼は疑問に思ったが、エスパータイプやゴーストタイプだし超能力とか巫力的な不思議パワーが働いてるんだろうなと考えるのをやめる。

 

 目の前の存在はもちろんポケモンであるのだがユキメノコ以外の二体はどうするかと扱いに困っているポケモンたちである。

 

 ミュウとセレビィ。伝説のポケモンの中でもさらに珍しい幻のポケモンと呼ばれる二体だ。彼はこの二体をある程度知っていた。それは映画の知識だったりゲームの知識ではあるが、ミュウはかつて絶滅したはずのポケモンで、すべてのポケモンの遺伝子を持っていることからあらゆるポケモンの先祖であると考えられているポケモンであるし、セレビィは時を超えてやってくる時間移動能力を持ったポケモンである。

 

 映画などではそのパワーというかエネルギーなどを強大に描かれていた。彼は幼少にみぎりに見た巨大セレビィやミュウツーに拮抗するミュウの姿をなんとなく覚えていた。そんな二体である。

なんであのリングの中から出てきたんだ? とか、なんでこの二体はこんなになついているの? といった疑問は尽きないが愛想良く自分に懐いている二体を無碍に扱うこともできずに研究所に連れてきてしまったのだった。

 

 ちなみにアララギはリングの近くにいたために発光の衝撃で気絶してしまっている。今はフウロとカミツレがアララギを自室まで運び、とりあえずの手当てをしてからジョーイさんを呼びに行っているところである。

彼の護衛として残るのはどちらかということで骨肉の争いをしたようで、フウロはジョーイさんを呼びに行っていて今ここにはいない。

 

 カミツレはチャンスかもと思っていた。どうにも彼に対してのアピールがあまりできていないような気がしていたからだった。

アララギは言わずもがな彼とかなり長いこと一緒にいるし、その友人のマコモも頻繁に足を運んでいるようである。

シロナはシンオウチャンピオンが暇なイッシュチャンピオン同様に暇であることと、アララギの研究テーマであるポケモンの起源というテーマとある程度合致する考古学者という立場から足しげく通っているようである。

フウロも運送のついでにちらっと顔を出したりと彼とよくコンタクトを取っていると聞く。

 

 翻って自分はどうだろうか。ジムは週二くらいであるがモデルの仕事が入ることが多々ある。その結果ライモンシティから出るということもさほど多くなく、彼に会うということは他のメンバーに比べて多くない。

 

 このままではまずい。彼女たちは淑女協定を結んだ仲間であるがライバルであるとも思っている。現在自分はそんな彼女たちに少し水をあけられているんじゃないかと思っていた。今こここそがアピールポイントだ。舞台の上に上がるんだ私! 

 

 いや待った仮にチャンスだったとしてどうするの? なんて話かけるの? 彼は今なんか見知らぬポケモンと遊んでいるようだしそれに割り込んでいくのは難しいんじゃないの? 第一声はなんて言ったらいいの? いやそれよりどんな話題で話したらいいの? カミツレの話のつかみつれ(カミツレ)ーなんつって。

 

「……今のは結構良かったんじゃ……?」

 

「カミツレさんどうかしたんですか?」

 

「えっ!? い、いや、その……そのポケモンたちのことをちょっと考えてて」

 

 彼が唐突に話しかけていたことで自身の思考に没頭していたカミツレは素っ頓狂な声を上げて驚いた。それまでの思考を口に出すのも何となく恥ずかしかったので誤魔化すと、彼は納得したようにうんうん唸ってからミュウとセレビィについて知っていることを話した。

 

 ついでにこの二体をどうするべきか悩んでいるということも話すとカミツレは変なことを聞くなぁという風に首をかしげてから言う。

 

「ゲットしたらいいんじゃないの?」

 

「えっ、いやでも伝説のポケモンだし、方や神様扱いすらされてるポケモンをゲットするだなんて」

 

 そう言った彼であるがカミツレにはミュウとセレビィはもうほとんど彼の手持ちといってもいいような状態であるように思えた。あとはボールに入るかどうかという問題。というか、ゲットしていないほうが問題であるように思える。

 

「そんな珍しいならなおさらじゃない? ゲットしておかないとさらわれたりするんじゃないの?」

 

 さらわれるとすれば男児である彼のほうが優先度高いだろうけどという考えは言わずにいたカミツレの言葉に彼は考えさせられたようである。

 

 カミツレの言うことは彼にとってそれもそうだと思わされることである。ゲームでも頻繁に伝説のポケモンだとか幻のポケモンなんかはそのエネルギー目当てに悪の組織が狙っていたような気がする。だいたい何かしらの悪事に利用されてしまうのだ。

現実でも同じように悪事を働くようなやつがいないとも限らない。そんな時、今目の前にいる二体が酷使されるようなことは望ましくなかった。

 

「……ミュウとセレビィは俺にゲットされても良い?」

 

 少しの不安と期待がこもった問いかけに対する答えは短い返事だった。彼にはポケモンの言葉がわかるわけではないがそこに込められた意味は正確に感じ取ることが可能だった。

 

「じゃあ、これからよろしくね」

 

 赤い光に吸い込まれた二体は一度ボールの中に納まり、しっかりとボールに記録されたようであった。その後すぐにボールから飛び出して彼をもみくちゃにし、それを止めようとあたふたするカミツレに帰ってきたフウロがジト目を向けるのは避けようのない未来であった。

 

 アララギが目覚めてからは大変だった。ジョーイさんが少し手当をしただけで起き上ったアララギは事の顛末を聞いてリングがなくなったことを知りもっとあれについて知りたかったななんて思いながらもあきらめはついた。

 

 しかしそんな風に大人しかったのも彼の横に佇んでいるポケモンを見るまでの間である。

 

「……? ……ッッッ!!! ミ、ミュウ!? そのポケモン! ミュウよねっ!? ちょっとなんでここにミュウがっていやそんな場合じゃないわ、ししし調べないと! でもいったい何から調べたらいいの? あ、そうだ! まずは体毛よね。短くて細い毛が生えてるって聞いたことがあるし」

 

 そう言って急激に起き上った彼女の眼には光がなく、たまに見かけるオカルトマニアのような眼をしていた。起き上がる動きや迫る動きには鬼気迫るものというか怪しい雰囲気があり、ダークオーラ的なものを醸し出していた。それをオーラブレイクしたのは彼である。

 

「ミュウにあんまり変なことをしないでください」

 

 彼が目の前に立ちふさがったので止まらざるを得なかったアララギは困惑の視線を向ける。ミュウは彼の背中に隠れて左わきからこっそりとアララギの方を見ていた。

 

「俺の手持ちポケモンですから」

 

 簡潔にそう言った彼の言葉を十分に理解するまでに少しの時間を必要としたがアララギの優秀な頭脳はその意味をちゃんと飲み込んだ。

 

「……な、なんですってぇー!?」

 

 飲み込んだうえでそう叫んでいた。ミュウは幻のポケモンだ。いくつかの文献や壁画などでその存在を知ることができるがとっくの昔に滅びたとされていた。絶滅したはずのポケモンなのである。それがいま目の前にいる。その事実は研究者としてのアララギを奮い立たせ、暴走させた。

ポケモンの起源を探る研究者としてミュウは研究したい。しかしそのためには彼の了承が必要である。ミュウという珍しいポケモンに対して研究材料を扱うような気持ちがないかといえば嘘になる。

それは研究者として当然の考えという自覚もある。ただそれはアララギが研究者だからこそもちうる視点であり、彼に理解してもらおうとすれば相応に高い壁があることだろう。

 

 もちろんアララギはミュウを不当に傷つけたりするようなつもりはないし、研究をするうえでミュウが嫌がるようなことをするつもりもない。

しかし研究者としての気質がそれらの思いを少しだけ鈍らせる。ほんの少しだけミュウが我慢すれば研究が発展しそうになるなどの状況になった場合、果たして自分は我慢できるだろうか。わからない。

初めは仲良くできるかもしれないがいずれは研究にのめりこむあまりにミュウをないがしろにしてしまうかもしれない。そうしないように努めるが、いつの間にかそうなってしまうのが研究者としての性だ。

 

 彼にそういった事実を隠して信用を得ようとすることは裏切りのような気がしてアララギは何も言うことができなくなった。やがてミュウも一声鳴いて彼の頭の上に寝そべっていた。この話題を蒸し返すことはできないような雰囲気になってしまっている。

 

 思考をいったんリセットし、アララギはもう一体のポケモンを見せてほしいと話した。彼はアララギがまた暴走しないかとちょっと渋ったがどうこうする前に件のポケモンが先に出てきてしまった。

 

「――ビィ!」

 

 セレビィは彼の頭の上で寝そべるミュウがうらやましいようで、何とかして自分もそうはできないかと試行錯誤していたところをミュウの尻尾にはたかれてしまっていた。

それに腹を立てたらしいセレビィがミュウをぐいぐいと引っ張っている時に力負けしたようで、飛んできたセレビィをアララギが受け止めたのだ。

 

 アララギはセレビィについて知っていることは少ない。森の神様とされているポケモンらしいということくらいだ。あとはどこかの文献でセレビィが去った町では植物が育たなくなったとかなんとかって話を小耳にはさんだくらいである。

 

 よく観察すると小さい。薄い翅が生えてはいるものの飛行は翅によるものではないようだ。エスパータイプのような飛び方をしていたのでタイプはくさ・エスパーといったところだろうか。

 

 パッと見でアララギがわかることはそれくらいだった。セレビィはセレビィで頭に生えている二本の触角をぴくぴく動かすと、笑いながら一声鳴いた。どうやら信頼されたようだった。

 

 彼もそれを見てまあ大丈夫だろうとミュウが嫌がらない範囲で研究に協力するように言ってみるということになった。

 

「もし私が研究にのめりこんだ時はアスター、あなたが止めてくれる?」

 

「止めるっていうかやらせないですよ」

 

 そういった彼は若干あきれた様子ではあるが嫌悪感のようなものは無いようだった。そこにアララギは何らかのつながりを感じることができ、あらぶった。それを見るフウロとカミツレとジョーイは後で締めようと目線で合図を交わしたのだった。

 

 

 

 そんな騒動が起きて数日。シロナもやってきてミュウについて少し調べたようである、シロナの手持ちであるルカリオは何やらミュウをしきりに気にした様子であったがまあ伝説のポケモンだしなんかあるんだろうなという風にしか彼は受け取れなかった。

シロナは何か感じ取ったようであるが彼女の興味はミュウよりはセレビィに向いているようである。時を渡ると言われているポケモンであるセレビィは彼女の調べているディアルガと何らかの関係性があるんじゃないかと推測したようである。

 

「ディアルガ。ディ、ア、ル、ガ、よセレビィ。知ってる?」

 

「――ビィ?」

 

 言い聞かせるようにそれを言い続けるシロナであるがセレビィは全く知らない様子だった。ふうむと顎に手を当てたシロナは次の質問をする。

 

「クラウンシティって町に聞き覚えはない? こういう町なんだけど」

 

 そう言って携帯端末から呼び出した画像をセレビィに見せるがやはり知らない様子で首をかしげていた。それを見たシロナはそういった方向からの情報収集をあきらめたようで、セレビィの体長などを計測することにしたようである。

 

「――ちょっといいかしら?」

 

 そんなシロナをしり目にニドクインと遊んでいた彼にアララギは声をかけた。どうかしたのかと顔を向ける彼にこの後告げることの重大さを考えてアララギは言葉に詰まる。

 

 貧乏くじだ。いやまあ保護者だし言わなきゃなんないのもわかるけどなんで自分なんだ。ジョーイさんとか医療関係者だし説明してくれてもいいじゃない。っていうかシロナはあからさまに顔そむけたわよね今。事前に淑女協定を結んだメンバーに話してたせいで孤立無援状態だしちょっとこんなの聞いてない。

 

「どうかしたのアララギさん」

 

 彼が聞いてきたことによって急かされているような思いを抱く。実際にそんなことはないだろうが変な汗が出る。

 

「ええっと、その、あの、ね。……あなたの義務についての話なの」

 

 その一言を言った瞬間に重圧から解放されて気持ちが軽くなる思いと、高い所から落ちていくような喪失感のようなものを同時に味わった。彼は変わった様子もなく、ただ純粋にアララギの話を受け入れているようであった。

 

 なんだかこれからする話で彼のそんな純粋さを汚してしまいそうで怖かったが、同時になんだかちょっと興奮している自分がいたという事実にアララギは戦慄したが悪い気分ではなかった。

 

「義務って納税とか労働とか教育のこと? 学校かなんかに通うの?」

 

「いやまあそれはこっちでやるからいいの。教育も私が教えられるから学校に行く必要はないわ」

 

「じゃあ何のこと? なにかあるの?」

 

 その目は純粋だった。そんな目で私を見ないで、と少し眩しそうに目を細めるが彼はそんなことはお構いなしにアララギを見る。彼女には限界だった。これ以上この状態が続けば何か新しい扉的なものが開いて性癖が進化するような恐れすらあった。

 

「その、…の提供義務のことなんだけど」

 

「え? なんだって?」

 

 くっとアララギは小さく唸る。どんな羞恥プレイだ。というか、彼は知らないのだろうか。確か倒れていた時の年齢は十二か十三といったぐらいだったし、教えられていてもいいんじゃないのか? いやでもアレがまだだったら説明されてないはずだしおかしなことではない。彼が寝ていた三年の間に排出されたアレは検査の結果良好だったとかなんとか。アレの良し悪しなんて自分はわからないがジョーイさんがテンション高めだったし相当なものだったのだろう。

 

 精液片手に喜ぶようにはなりたくないと頭の片隅で考えながら、どう伝えるかをじっくり考えなおす。

 

 精液の提供義務とは男性に対して課されるものである。精通時からおよそ四十年ほどの間、週三~四回の提供義務が発生する。いくつかの条件によって回数や年数を控除されるとはいえ男性にとっては大きな負担であると聞く。長年にわたって彼を縛り付けるそれの説明はアララギにはとても重く思えた。

 

 彼は不思議そうにアララギを見ていた。彼女が葛藤しているということは何となくわかる。しかしそれが何であるかはわからない。

彼女は義務がどうのと言っていた。それはもしかするとこの世界特有の何かであるのかもしれない。そしてそれは言いづらいものであるようである。

 

「アララギさん」

 

 彼がそう声をかけた。アララギはハッと顔を上げて彼を見る。頭の中はぐちゃぐちゃだった。唐突に声をかけられて大きく混乱もしていた。どうしようという言葉だけが頭の中でこだまする。

そんなアララギとは裏腹に彼は特に何かを気負ったような様子なく、努めて明るくアララギに言った。

 

「何でも言ってください。俺はそれであなたを嫌いになんてなりませんから」

 

 高慢な物言いだなと彼は感じる。しかしこれこそがこの世界での男性の立ち位置だと彼も学んでいた。男性は少ない。それで優遇されている。その優遇されっぷりは社会制度一つとっても顕著であるし、彼女たちの反応から彼は実感している。ここにおいて女性側がへりくだったりすることは至極当然だったのだ。

 

 彼自身の性根からしてあまりに横暴な行動をとることもなかったが、人間は適応する生き物である。彼も何となく男性らしい行動の仕方というものを学びつつあった。

 

 アララギが何を言わんとしているかはわかっていないが、彼女が何かを言いやすくするにはどうしたらいいかということはわかった。それを行動することは彼にとって容易かったのである。

 

「……わかったわ」

 

 アララギはどこか安心したような表情を浮かべていた。彼女のその行動は彼にも安心感を与えた。

 

 男性の行動の仕方は学びつつある。しかしそれは彼にとってみれば嫌な行動であることが多いのだ。先ほどの高慢な物言いもそうだ。あんな態度で接するような奴に誰が好意を抱くというんだ。“俺は嫌いにならない”? その保証はどれだけの価値があるというんだ。男女の比が傾いてでもいなければ無価値どころかマイナスにもなるだろう。

 

 そんな行動をとることは、彼にとっては怖いことである。好意的に接してきてくれている相手に対して嫌な態度をとることはできればしたいことではない。しかしそれがメリットを生み出すのであれば今のようにやったほうがいいのだ。

 

 アララギが義務の説明をする間、彼は歪だなとこの世界を思うのだった。




幻のポケモンはさほど研究が進んでいなくて一部地域などに伝承などが残っている程度で、それぞれの幻のポケモンについて詳しいことを知っている人は極僅かであるという設定にしてあります。
ただしミュウは化石などがあるのでふんわりとしたことがある程度周知されているという風にしました。

続くかどうか未定

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