あべこべポケモン   作:(^q^)!

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及川さんの胸が許してくれなかったので続きました


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 彼がポケモンと向き合う。体をふにふにと触ってみると弾力の奥には筋肉と思わしきものがあるが柔らかい。

 

「エンペルト“てっぺき”」

 

 指示を聞いたエンペルトは両手を上げて吠えると皮膚や筋肉が先ほどよりも固くなっている。本当に鉄か何かのようなはがねタイプに相応しい硬さである。

彼のエンペルトを触る手は止まることがない。一心不乱に触りつづける彼に対して嬉しいようなめんどくさい様な微妙な表情を浮かべているエンペルトは彼の後ろに控えているウルガモスに視線を送った。

 

 やれやれといった様子で嘆息したウルガモスが彼のそばに近寄り、短い四つの足で彼をつかむとぐいと引き離した。それによって正気に戻った彼はエンペルトに謝罪をしてから次はエルフーンの角を両手で触り続けた後に顔から綿毛に突っ込んだ。

エルフーンもエンペルトのような表情を浮かべていたが嫌がっている様子はそれほどなくその性格の図太さがうかがえる。その柔らかさを堪能した後に彼はまた指示を出す。

 

「エルフーン“コットンガード”」

 

 それを聞いたエルフーンは頭を左右に揺らすと、それに連動したように綿が揺れだしてその量を増したように見える。倍以上に増えたように見える。彼の知識として“コットンガード”は物理防御力三段階上昇の変化技なので150%増量したと考えていいのではないだろうか。

 

 増えた綿毛を触ると先ほどまでの綿毛よりも反発力が大きいような気がする。これを間に挟んで攻撃を受けるだけでだいぶ威力は減衰するだろう。

 

 ここで疑問がわく。たとえば“ハイドロポンプ”などは威力が特殊攻撃力で産出される技であるが、この“コットンガード”がある状態と無い状態で受けた時の威力は同じなんだろうか。“ハイドロポンプ”の現象としては大きな力で押し出した水を相手にぶつけるという点で考えれば物理的であるはずだ。しかし特殊技であるので計算は特殊防御で産出される。

これが“サイコキネシス”だとか“かえんほうしゃ”であれば綿じゃ受けれないよなあと納得もできるが“ハイドロポンプ”だとか“りゅうせいぐん”なんかは物質をぶつけてるわけだし物理防御なんじゃないのかと彼は考えた。

 

 そんなわけでエルフーンに“コットンガード”をさせてエンペルトに“みずてっぽう”を撃ってもらったのだが、結果としては受ける威力に違いはなかった。どうにも特殊技はそれ自体が不思議な何かであるようで、綿毛での威力減衰はないようである。よくよく考えてみればエンペルトの体積以上の水を吐き出しているようにも見えたしそれはそうだなといったところだろうか。

 

 じゃあなにを吐き出してるんだという疑問があるが彼にはそれが水以上の何かに見えることはなかった。

 

 とりあえず仕様というか計算式というか、ダメージなどのシステム的な面はゲーム的であるようだと彼が考えるのはその結果からすると当然だった。しかしそれはなぜだろうかと考えるとそこには不確定な要素が入り込む。

すなわち、自分のポケモンだからこそゲーム的な仕様が適用されているのではないかという考えである。ゲームの世界からやってきたポケモンであるからこそ現実世界の物理法則を無視しているのではないかということだ。

 

 とはいえ、彼らと触れ合った今としては彼らがポリゴンのような電子的な存在とは考えづらい。代謝しているし物も食べる。感情もあれば思考もする。メリープの夢を見るアンドロイドなのかもしれないがそれであったとしても彼らは生命としての要件を満たしているだろう。

それは生き物であることと何が違うというのだろう。エンペルトの吐き出した水と同様に、彼にはその判断がつかなかった。

 

 とにかくこのぼうぎょに関する仕様は比較検証でもしてみない限りは結論付けることは不可能だろう。それらの意味も兼ねて新しくポケモンと捕まえたいなというのが彼が最近強く思うことであった。

 

 しかしそれは叶えられていない。理由としては“危ないから”ということだった。ちょっと草むらに行ってなんか適当に捕まえるだけといってもだめだと言って頑として首を振ることがない。

 

 それは誰でも同じであった。アララギ博士やシロナ、マコモはその筆頭であるし、結構な頻度でくるフウロやカミツレという少女たちもそうである。

彼女たちが介護をしていてくれた恩人であるということは重々承知であるし感謝もしているのだが、ことあるごとに危ないから云々と行動を制限されることは彼にとって苦痛であった。前の世界では自由というかそんな制限が無かっただけに余計にそれが不自由に感じる。

それが保証の代償であるというのを知っているだけになんと言えばいいのかわからないし、彼女たちも善意で言ってくれているので文句も言えない。

 

 彼がそんな不自由を自身のポケモンと触れ合うことで癒すようになるのは早かった。抱きついたり寄りかかったりというスキンシップが増え、モンスターボールの中に彼らを入れておくことのほうが珍しくなるくらいだった。

 

 そんな彼が脱走を企てるのもまた当然だったのかもしれない。歳の程も向う見ずに何かやってみたくなるような活力溢れる肉体である。何かを考え付いたらとりあえずやってみようと考えるのはすぐだった。

 

 

 

  ポケモンバトルは壮絶だ。ポケモンバトルといっても様々あるがその中でもプロと呼ばれる、いわゆる職業としてポケモントレーナーを続けるということは並大抵のことではない。

 

 プロの使用するポケモンともなれば卵のころから育てなくてはならない。孵化にはかなりの時間を必要とする。ウツギという研究者がそれぞれのポケモンが孵化するおおよその歩数という研究テーマを掲げているが、それも実証段階であまりに時間がかかることが原因で難航している。

 

 そんな孵化を終えていよいよポケモンが生まれたとする。しかしそのポケモンはまだ赤ん坊である。そんな生まれてすぐにバトルができるなんてことはないのだ。その赤ん坊を育てることも時間がかかるうえにかなりの根気を必要とする。

ポケモンによって千差万別の食事の用意が必要なのである。赤ん坊であるポケモンは消化器官が未熟であるために一律でポケモンフードを与えればいいというわけでもない。その用意も大変であるし、その生態について詳細な知識も必要である。

 

 守ってあげなくてはいけない赤ん坊の時期が終わるとようやく本格的なブリーディングに入る。ポケモンをポケモンバトルができるように教育するということ。このことの大変さを知っているのはブリーダーかポケモンを卵から育てたことのあるものだけだろう。

ポケモンは基本的に好戦的であるしポケモン同士で戦いあうことが自身の強化や進化に繋がっているということを知っているが、それをただ行うのでは野生のポケモンと変わりない。ただ敵に対して戦略も何もなく戦うということはポケモンバトルでは負けにつながる。

また、本能そのままに動くということはポケモントレーナーの指示を聞かないということだ。それではトレーナーも困ってしまう。

 

 そこでポケモンがただ戦うのではなく、ポケモンバトルをできるように教育するということが必要になってくるのである。

トレーナの指示の中には現状にそぐわない指示もあるだろう。しかしそれでもそれをするようにポケモンを育てるということは本当に難しい。頭のいいポケモンならばそのあたりの教育も簡単であるのだが、虫ポケモンなんかだと幼いころは本能のほうが強く出てなかなか指示を聞かないということも多い。

 

 これらの作業をプロはすべて一人でやる。そうしたほうがポケモンのことがよくわかるし、とっさの指示も彼らを知っている分やりやすくなるからだ。

 

 そしてそういった孵化の作業。それをしなくてはならなくなったのが今のアララギである。

 

 アスターと名乗った彼が意識を回復して二か月が経過した。最初の一週間は検査やジュンサーの事情聴取などがありアララギもそれに同行したりしててんてこまいだったがようやくそれも落ち着き、彼は引き続きこの研究所にとどまるようだった。

 

 ィヨッシャァ! と心の中で勝利の雄たけびを上げたのはアララギだけではなかったはずだ。ガッツポーズをとったアララギを彼は不思議そうに見つつ、ご迷惑をおかけしますなんて言っていたがどうせ部屋は余りに余っていることだし全く問題はない。彼はできる限り研究だとか生活面で手伝えることは何でも言ってくださいだとか言っていて、こちらのほうが問題である。

 

 なんでもってなんでも(R-18)? とは聞けないのだ。

 

 どうにも彼はアララギやシロナなど世話をしていた人たちに対してとてつもない感謝と尊敬をしているようで、彼女たちを聖人君子か何かを見るような無垢で穢れのない視線を送ってくることが多々ある。

そんな彼に対してドロドロとした思いをネタとしてもぶちまけることは躊躇われた。言うとしたらガチで言うべきであろうし、もっとこうなんて言うかロマンチックな感じでそういうのやりたいというのが二十代も半ばに差し掛かった乙女なアララギの本心である。

 

 そんなわけで性欲とかなんやかんやのこともいうに言えず、とりあえず何を手伝ってもらおうかななんてアララギが考えているうちに思い出したのがポケモンのブリーディングである。

 

 ポケモンの研究者というのはたくさんいる。その彼らが全員アララギのように研究所を持っているかというとそんなことはない。研究所を持つということはステータスであり、貧乏くじでもある。

学問にはいろいろな種類があるが同じ研究をする者というのは必ず複数人いる。もちろん彼らは研究成果を競い合うライバルであるのだが、同時に情報を共有し合う仲間でもある。

となれば必然そういった仲間は集まっていたほうが得だし、施設の維持費なんかも一人で負担するよりよっぽど安上がりである。そういった事情から携帯獣学に携わる者は大学だったり既存の研究所に所属するというのがセオリーだ。

 

 だがアララギは違った。彼女はポケモンの起源の研究というテーマについて画期的な研究成果を学生のうちから発表し、大学卒業時には博士としての要件を満たしていたので研究所を構える権利を得たのだ。

そして彼女はそれを行使した。親も研究者であった彼女は研究所を建てるくらいの資金はあったし、自由にいろいろな場所に行ってみたい彼女は誰かの都合が介在する組織の所属することはデメリットのほうが大きいと判断したからだった。

 

 だがそれは罠である。研究所を構える権利を持つ研究者は多いというわけでもないが居る。しかしその権利を持つ彼らはその権利を行使することはない。何故かといえば義務が発生するからである。

 

 その義務というのが今アララギを悩ませているポケモンのブリーディングだ。携帯獣学に関する研究所を構える者はその規模に応じて社会貢献として初期段階の育成済みポケモンを用意する必要があるとイッシュ地方の法律で定められている。

当然アララギはそれも承知のうちだったが現在抱えている研究や彼の処遇に関する手続きなどを考えるととても育てているような暇はない。卵からのブリーディングは時間と労力がかかるうえに、細心の注意を払わなくてはポケモン自身も不幸にしてしまうという責任のある仕事だ。

 

 ブリーダーを雇うという手段もあるが彼が家にいる今は事情を知る者たち以外を家に入れるというのは避けたい選択である。

一応このブリーディングは義務とはいえ社会貢献であるので期間なども意外と融通が利くが、それをするとほかの研究者連中に何を言われるか分かったものではない。できるだけそれはせずにいたい。しかし暇はない。

 

 どうしようかなあなんて考えているその時だった。

 

「アララギ博士ぇ!」

 

 涙目のフウロが部屋に飛び込んできた。彼女が取り乱すというのは珍しい。どうしたのだろう。

 

「アスター君が脱走しました!」

 

「なんですって!?」

 

 アララギの気苦労は絶えないようであった。

 

 

 

 トウコとベルは仲良しである。幼馴染と言ってもいい。お互いに隠し事なんかない。そんな二人であるが最近はそうでないようだった。

 

 トウコはベルが何か隠しているんじゃないかということに気が付いていた。それは年齢が一けたから二けたに変わって少しした頃のことである。ベルが旅行に行って帰ってきてからのことだった。なんと言えばいいのか、トウコはベルが変わったように感じた。

 

 どうしてかはわからなかったがそうであると唐突に本能がそう告げたのだ。

 

「ベル、何か隠し事してない?」

 

 なんてトウコが聞いてみてもベルはすっとぼけたように答えるのだ。

 

「え!? わ、わわ私が隠し事なんてするわけないじゃん!」

 

 あわあわと手を振りながらそう言う彼女の様子は隠し事をしていそうに見えたがそれ以上踏み込んでも何も言わないだろうなと思ったトウコは納得したふりをした。

 

 そしてそんな日からだろうか。ベルと遊べる日が少なくなった。彼女は最近引っ越してきた家に遊びに行っていることが多くなったようだった。友達がとられたような喪失感は幼いトウコにとって大きなものであったが、ベルに会うと別に彼女が自分の友達で無くなったというわけではないと実感できるのでなんと言っていいのかわからないような燻る感情が胸の内に生まれた。

 

 そんな燻りは日ごとに小さくなったり大きくなったりする。誰に相談できるわけでもない。というか、相談することはなんだか恥ずかしかった。家の中に居たってどうにかなるわけでもない。トウコはその日もいつもと同じように家から飛び出して近くの草むらに出かけた。

 

 野生のポケモンは基本的には穏やかであることが多い。もちろん彼らだってバトルを挑まれれば応戦するが、普段からそんなに戦いたがるようなポケモンはそう多くない。傷ついたポケモンを癒すタブンネなんかはそれこそ穏やかであるし、ミネズミやヨーテリーなんかはじゃれてくることも多い。

 

 トウコは最近はそんな野生ポケモンを観察することが趣味になっていた。いずれポケモントレーナーになろうと考えている彼女からしたら今の行動はそのための修行であるなんて考えるのは若さゆえであった。

 

 そんな彼女の行動はいつも通りにのんびりと過ごすだけであるはずだったのだが、今日は違った。見知らぬ人がいる。見知らぬポケモンを傍らに置いたその人物は今まで見たことがなかった。

カノコタウンの人ではないのだろうか。トウコはそんな風に考えてたがその人物の声を聴いたとき、それらすべての思考はぶっ飛んだ。

 

「ミネズミ……ヨーテリー……? ダイパとかBWのポケモンだったかな? あの辺やってないからわかんないんだよなぁ」

 

 その声は自分やベルの高い声とは違って少し低かった。まるで、そう、話に聞いた男のそれであるように思えた。

 

 一瞬思考が停止したがトウコの立て直しは早かった。その早さは未来のポケモントレーナーとして有望であることを表しているに違いない。ゆっくりと確かめるようにトウコは彼に近寄った。

ゆっくりな足取りとは変わって心臓は早鐘を打っていた。ドクンドクンではなくドッドッドッと重低音で走っていくような鼓動は風の音や遠くで鳴くマメパトの声も聞こえなくする。

 

「あ、あの!」

 

 トウコの声は思ったより大きかった。目の前に立つ人物もその声に驚いたのか肩を大きく跳ねさせた。ゆっくりと振り返ったその人物の顔は女である自分たちとは違って男性であるなと思える顔だった。

 

「……ああびっくりした。フウロさんが追ってきたのかと思った。君は今まであったことないよね? 何かようかい?」

 

 彼が自分を見てくれているということに体が震えた。雷に打たれたようなそんな衝撃と、びりびりとする心。トウコはこの日に人生が変わったと実感した。

 

 彼に対して何を言うべきなのか。口はうまく回らなかった。彼が首をかしげてどうしたのだろうと疑問を感じている様子である。トウコはそんな仕草にもいちいち心臓が跳ねる。彼のすべてを知りたい。そんな欲求が胸の内に充満してくる。

 

「あ、あなたの名前はなんていうんですか?」

 

 そう言うことができたのは、トウコの言った言葉がそのまま少女漫画にある言葉だったからである。ロマンチックなワンシーンのそのままな言葉。その漫画では舞台が王城のダンスパーティーだったのでまったく今の状況とは違うがトウコとってはこの一番道路こそがショボンヌ城である。

 

「うん? アスターって名前だけど……君はなんていう名前なの?」

 

「わっ、私はトウコって言います! カノコタウンに住んでて、十二歳です! あ、ポケモントレーナーを目指しててですね、あの、その」

 

 トウコはあたふたとした自分がとても恥ずかしかった。顔がクリムガンのようになって熱くなっていくのを感じる。今にも逃げ出してしまいたい。そんな気分だった。

 

 すると、彼は小さく笑った。嘲笑されているようには感じなかったが、顔はもっと熱くなったように感じる。

 

「そんなに焦んなくたっていいよ。ゆっくりでいいから、落ち着いて話を聞かせてよ」

 

 いちげきひっさつ! 彼の笑顔と優しさにトウコはひんし状態になったが耐えた。そのあとのことはあまり覚えていない。彼と和やかに話したような気もするしそんな彼を取りに来た悪い奴と戦ったような、なんかそのあと仲良くなったような気もする。

 

 ただ一つだけ言えることは、トウコもベルに秘密ができたということだ。




超能力とか普通にあるポケモン世界で物理法則云々とか言ってらんないと思った
体積より吐き出す水のほうが多いポッチャマのみずてっぽうとかその筆頭

続くかどうか未定

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