あべこべポケモン   作:(^q^)!

2 / 6
森久保がこっちを見てくれたので続きました


2

 フウロはフキヨセシティに住むどこにでもいる普通の少女である。祖母がフキヨセジムのジムリーダーなのでポケモントレーナーであり、もともと目が良かったこととフキヨセシティの土地柄もあって飛行士見習いでもある。

とはいえ子供はみんな一度はポケモントレーナーになるし、トレーナー以外の職業経験を積むというのも普通である。オーソドックスな少女である彼女は当然、オーソドックスな夢を抱いている。

 

 いつか男と結ばれるというのは少女共通の夢だ。その夢をずっと抱えながら大人になり、いつか気が付いてしまう。自分は特別でも何でもなく、男と結ばれるなんてのは無理だと。

そこで諦める者が大半である。しかし中には諦めの悪い者もいてそういう連中は成功すれば称賛を浴びるものの、大抵は失敗してそのあとはアウトローになっていくことが多かったりする。

その結果生まれた組織がロケット団という組織で、この組織は一躍有名になり世間を騒がせたのだがそれは少女フウロが生まれる前の話である。

 

 フウロはいつものようにジムの屋根の上に登って高いところから辺りを見渡していた。目を皿のように見つめる視線は真剣そのものである。なぜ彼女がそんなことをしているかというとそれは彼女の親友であるカミツレという少女から借りた漫画本が理由である。

 

 カミツレはライモンシティに住むライモンジムの娘である。ジムリーダー同士の集まりがあったときについて行ったフウロとカミツレは出会い、友情をはぐくんだ。

フウロは飛行タイプのポケモンの使い手ということもありカミツレとのポケモンバトルは負け越しているが、彼女たちはトレーナーとしてお互いをライバルだと思っていた。

女の友情は単純で、ポケモンバトルを何回かしたらそれはもう親友と呼べるのだ。そのあとはお互いに男がどうこうというガールズトークに花を開かせ、ライブキャスターで連絡を取り合うような仲である。

 

 そんなカミツレから借りた漫画本は流行の発信地であるライモンシティで今最もホットな少女の必須アイテムらしく、郵便で送られてきたときは無邪気に喜び、それを読了した今となってはカミツレに足を向けて眠ることができないだろう。

 

 『タブンネのおんがえし』という題名の漫画である。イッシュ地方で広く生息しているポケモンであるタブンネ。彼らの持つ豊富な経験値を目当てにタブンネを見つけるたびに目を血走らせて狩ろうとするトレーナーは後を絶たない。そんなタブンネをとある女トレーナーが助けるところから話は始まる。

助けられたタブンネはその恩を返すためにポケモンの神様に頼み込んで超美形の男の子に変身してトレーナーに恩を返しに来るのだ。このトレーナーがまたポケモンバトルにしか興味がないような朴念仁でタブンネ君の行動がうまく伝わらずにやきもきしたり、トレーナーのライバルがタブンネ君に一目惚れしていろいろ大変だったりと恋にバトルに大変役立つ参考書だったのである。

 

 私もトレーナーだしワンチャンあるなとフウロが思うのに時間はいらなかった。それから毎日ジムの上から傷ついたポケモンを探すのが日課になっていたのである。その結果、いろいろな傷ついたポケモンをポケモンセンターまで運んでは癒すという行動から周りには心優しい少女として認識されつつあることは本人の知らないことである。

 

(今日は~っと、雪が降った後だからか出歩いているポケモンも少ないな……)

 

 今日の気温や天気は過ごしやすい晴れの日そのものであるが昨日はすごい雪だったのでそんな中わざわざ外を歩いているポケモンも人も見当たらない。まあそりゃそうだよねと納得したフウロが屋根から降りようかとしてふと7番道路を見るとそこには奇妙な一団がいた。

 

 一人は見覚えがあった。ジムに挑戦してきたことのある人だ。名前までは覚えていないが見た目は何となく覚えている。その人の横にいるポケモン。たしかルカリオと言っただろうか。そのポケモンが背負っているものに違和感がある。背負っているのは寝袋だろうか。それには一匹のポケモンがくっついている。

 

「あ、あれは!? 神様!?」

 

 フウロが声を上げてしまったのもしょうがないことだった。寝袋にくっついているポケモン。それこそタブンネ君が願った神様であるウルガモスだったのだ。ルカリオのトレーナの手持ちポケモンだろうか。それとももう一人一緒にいる人のポケモン?

 

 フウロは混乱しつつも、あの集団に近づこうと思った。困っているようなら助けてあげたいし、ついでに神様に祈っておきたかった。

 

 ピョンと屋根から飛び降り猪突猛進に走っていくフウロの様子を見た住民はまたフウロちゃんがなんか見つけたのかなと思った。

 

 

 

 アララギは困っていた。現在位置はカノコタウン。自分の研究所の中である。ネジ山から脱出した後7番道路を進み、フキヨセシティに着こうかというところで一人の少女に見つかってしまった。彼女はフウロと名乗っていた。

 

 彼女が自分たちを誘拐犯扱いしてきたときはぶっ飛ばすぞと考えたものだが、ウルガモスに宥められてからはすんなりと素直にこちらに協力してくれるようになった。ポケモンに負ける私の信用度とはいったい……。いや、よそう、私の勝手な推測でこんらん状態になりたくない。

 

 その後少女が操る飛行機に乗ってカノコタウンまで帰ってきて(フライト中に彼女が飛行士見習いであることを知ってパニックになった)、研究所で彼を安静にした。

シロナにジュンサーさんとジョーイさんを呼ぶように言伝し、自分は持ち帰った物の整理をして、フウロは彼を見張る役を与えた。本音を言えば自分が彼のそばに付いておきたいが今は我慢だ。彼の素性をある程度知っておきたい。

 

 持ち帰ったもので一番最初に調べるべきは彼のものと思しきリュックサックだろうか。ワンショルダーのリュックであり、中にはいろいろと詰まっている。一番大きなチャックを開くと中にはあふれんばかりの木の実とモンスターボールと使用用途不明の道具があった。携帯獣学の研究のちょっとした応用が使われているのか、このバッグの中は見た目以上の収納スペースがあるようだ。

その中でカタカタと動くモンスターボールがあった。中身が入っているのだろうか。気になり、それらを取り出すとバッグから出たとたんにボールが開いて五匹のポケモンが飛び出した。

 

 それらのポケモンは一目散に彼がいる部屋に駆けていき、部屋からはフウロの驚いたような声が聞こえる。

 

「アララギ博士ー? ジュンサーさんとジョーイさん連れてきたわよー」

 

 ちょうどよくシロナが帰ってきた。アララギはこれ幸いと彼女に事情を説明し、とりあえずポケモンを出した状態で部屋まで行く。そろりと部屋を覗くと彼を囲むポケモン達とそれをオロオロとしながらどうしたらいいかわからなくなっているフウロがいた。

 

「フウロちゃん、彼らは彼のポケモンだと思うから、そのままで大丈夫よ」

 

 アララギがそう言うとフウロは彼女たちがいることに今更気が付いた様子で驚き、そのあと納得したような顔になった。シロナに随伴してきていたジュンサーさんとジョーイさんはまさか本当に男がいるとは思ってもみなかったようでしばし呆然とした後にアララギに詰め寄る。

 

「は、博士! 男性誘拐は重罪ですよ!」

 

「シロナさんから聞いてないんですか? 私たちは彼を誘拐してきたわけではなくてネジ山で倒れていったところを保護しただけよ」

 

 アララギとジュンサーが問答をしている間にジョーイが彼へと近寄っていき、フルフルと震える手で彼を触診し始める。その手つきや胸裏に少しばかりの情欲がないかといえば嘘になるが、診断は真剣だ。

 

 フウロはその光景をまじまじと見ていた。彼は目を閉じたままでいる。その様子は眠っているふうにしか見えない。まぶたにかかっている黒色に薄紫がかった髪は自分のそれとは違って硬そうだ。体はまるで自分とは違う。胸も無い。それに、股についているあれはもしかして……。

 

 フウロが顔色を変えることなく大人の階段を上りつつある頃、シロナは彼のポケモンをまじまじと観察していた。トレーナーの性であるのかもしれないが、興味のある方向に夢中になってしまうのは彼女の癖でもあった。

彼のポケモンはタイプが偏っていない。トレーナの主流は一つのタイプを極めるといった方向であり、彼やシロナのようにいくつものタイプのポケモンを持つということはメジャーではない。

 

 何より、彼のポケモンはかなり鍛えられているように見えた。それだけではなく美しさやカッコよさ、かわいさなどにも磨きがかかっているように見える。これほどのブリーディングを彼が施したのだろうか。あるいはこのポケモンは借り物なのか。しかし借りているとすればこの懐き様の説明がつかない。いやもしかして育て終わってから長い時を過ごしたとか。でも育てきったポケモンを交換するような人はいないだろう。だとすればこのポケモンたちは彼が育てたということになる。まさかこの十二三歳くらいの子供が育てたなんてことは。いやしかしでも……。

 

 シロナの思考が停止したのはアララギとジュンサーの問答が終わり、ジョーイが診察を終えた後のことであった。つまりシロナは彼の裸体をじっくり拝む機会を逃したのだ。それに気づいたとき彼女は“ポケモン(直喩)じゃなくてポケモン(隠喩)を見るんだったー!”と嘆いたがすべては遅かった。

 

 ジョーイによると彼に外傷はなく、肉体的にも健康的な状態であるようだ。一応この後ポケモンセンターで精密検査をする予定であるがこれは念のためである。

 

 次は彼の素性である。彼のバッグをジュンサーと一緒にアララギやシロナなどもそろって漁ると彼のトレーナーカードを発見した。それ以上にいろいろな発見物があったがそれは彼が起きるまで謎のままである。

 

 折り畳み式のトレーナーカードは下側に付属されているバッジ収納ケースが失われており、上側に記されているプロフィールの情報しかわからない。そのプロフィールの情報も情報と呼んでいいのかわからない。この書いてある文字がわからないのだ。どこの地方の文字だろうか。見たこともない。

 

 研究者であるアララギが見たこともない文字というのはかなり珍しい。考古学者であるシロナですら見たこともない文字であるという。とすれば彼はどこから来たというのだ?

 

 ひとまずはジュンサーが彼の写真を撮り捜索願が出ていないかを調べ、ジョーイが精密検査をすることとなった。また臨時的にアララギが彼の保護者という立場に落ち着くこととなる。これは適任者がこの場にアララギしかいなかったためだ。

 

 ジュンサーの結果次第であるが彼とはもう会うことはないだろうなとアララギとシロナは思った。捜索願が出された男性は保護された後、常に誰かが傍につくことになるという。これは女性側の過保護というべきものなのだが、アララギやシロナにもその気持ちは何となくわかる。

 

 そして傍に付く女性がいる以上不用意に接触しようものなら不審者として通報されてしまってもしょうがないように思える。そもそも彼はずっと眠っていて自分たちを認識すらしていないのだ。どう言って近づけばいいというのか。

 

 彼女たちはポケモンセンターの治療室の前で待ちながらそんなことを考えていた。やがて精密検査が終わり、彼の体に異常がないことを知らされる。

 

 やがて目が覚めるだろうと言っているうちに一週間が経過し、ジュンサーから彼の捜索願が出ていないどころか彼という人間が存在した痕跡すらないという結果が届いたころには一か月が経過していた。

 

 彼は目を覚ました。覚ましはしたが、それは覚めたといっていいのだろうか。

 

 彼にはおおよそ意識と呼べるものがなかった。彼は生理的反応を示しはするものの、意思も何もなかった。まるで抜け殻のようであったのだった。魂が抜けたというか、体のみがそこにあるといえばいいのだろうか。心臓は動いている。瞳も開くし、食料も流動食であるが口に入れれば飲み込む。消化もする。しかしそれはすべて生きるための行動というだけで彼自身と呼べるものは何もない。

 

 そんな彼を、アララギは保護することとなったのだ。

 

 それからアララギは大変だった。彼という男性が存在することを証明するための書類をいくつも提出し、彼を自分が保護するに足りる証明もいくつも行った。彼の世話も献身的に行った。それはすべて彼の保護者になってしまったからだった。

 

 後悔があった。何せ彼は意思がない。そんな存在を保護したところで自分に何のメリットがあるというのだろうか。何もない。何もないのだ。

 

 アララギは疲れ、彼の寝ているベッドに腰掛けた。夜のことだった。もう冬になっていて、彼を見つけてから三か月が経過していた。あの時は喜びのが大きかった。彼という存在は自分にとっての王子様であるなんて考えてもいた。彼を保護することが決定的になった二か月前には自分がやらなきゃなんて使命感もあった。そして独占欲も。

 

 しかし今はどうだろう。たった二か月で疲れ切ってしまっていた。基本的に彼のサポートの多くは彼のポケモンが行っていた。アララギがしたことといえばあまり多くはない。それでも彼女は疲れてしまっていたのだ。

 

 多くは嫉妬だった。アララギは博士として研究所を構えたとはいえまだまだ若手である。才能が豊かでもまだ若手。先達には枚挙に暇がない程で、彼女自身もそれは自覚していた。だからこそ研究会などの場ではあまり目立たないようにしていたつもりであるし、研究成果も惜しまず公開していた。

 

 先進的な研究だとか画期的な発見だとか、彼女は多くの発展に寄与してきたのである。だから、若手とはいえ研究所を構えることができているしいくつもの研究会に呼ばれることもあった。そんな研究会でも若手としての立場を崩さずに、淑女然として弁えた立ち振る舞いをしてきて周りからの評判も上々であったのだ。

 

 ここ一か月はそうではなかった。どこから漏れたのか、アララギが男性を囲っているという噂が流れたためだった。研究会では針の筵のような状況であり、研究の発表では意味のない質問やヤジが飛ぶようになった。

 

 彼女は疲れていた。彼を保護することによってなんでこんな苦しまなくてはならないんだと思った。それは彼女の覚悟の甘さと楽観視が生み出した理想と現実のギャップである。なぜ自分がこんな目にと思わなくもないがそれだって望んで受け入れたことであるはずだった。

 

 アララギを無責任なと罵ることはできないだろう。実際、彼の保護者は必要であったし、それを発見者以外である自分たち以外の誰かに預けることこそ無責任であるはずなのだ。アララギの目から涙が伝う。

 

 ぽたりぽたりとシーツにシミができる。声を上げずに泣くアララギはやがてベッドに倒れ、眠ってしまった。

 

 悔いるように泣き、疲れ果てて眠ったアララギを彼のポケモンたちは見ていた。賢い彼らは何となく今の状況を理解してはいたが、その力になることができなさそうだということも理解している。

 

 どうしたもんかと六匹集まってごにょごにょと会議しているそんな時である。

 

 彼が動いた。眠るアララギを抱きしめ、慰めるように頭を抱いたのだ。驚いたようにエスパータイプのポケモンが彼にテレパシーを送るが彼はまるで反応がなかった。

 

 朝目が覚めたアララギはその状況に全く理解が追い付かなかった。状況を整理し、確認。理解不能。そのプロセスを幾度繰り返したことだろう。ようやくその状況から抜け出したのは彼のおなかがグゥと空腹を告げたからであった。

 

 彼に抱きしめられるという状態はアララギに無限の活力を与えてくれたような気さえした。一発で疲れもぶっ飛ぶ。アララギは、頑張ろうと思った。また疲れたら彼がああしてくれるんじゃないかなんて計算もあったが、何より彼の意識的とも思える行動が見られたのが嬉しかった。希望はある。彼は目覚める可能性はかなり高い。

 

 そう思えたから、アララギは頑張ろうと思える。

 

 それから三年。雪の降る夜のことである。とてもとても寒い夜のことである。

 

 アララギが白い息を吐き出しながら研究所に帰宅し、彼のいる部屋の様子を見る。

 

 彼の無気力に開かれた瞳には、意思が宿っているように感じられ、アララギが入ってきた扉を振り向くという行動には確実に彼の意思が介在していることが見て取れ、アララギは彼に抱き着いてその喜びを表現したのだった。




今さらですが注意点
・男女比の関係でもともとのキャラクターで男性であるキャラクターが女性になっていることがあります。
今回でいえばフウロの前のジムリーダーは彼女の祖父であるのですが、祖母とさせてもらいました。こんな感じでジムリーダーとかも女性になるかもしれません。BLっぽい感じにはなんないと思うので安心してください。

・キャラ崩壊があります。
アララギ博士の葛藤っぽいものが今回の後半にありますが、まあこんな世界じゃそういう嫉妬も普通にあるかなって思ったのでそうなりました。アララギ博士、お許しください!
見ず知らずの人をそれが貴重な男性とはいえずっと保護するのってありえんくないとか思ったけどまああべこべ世界ってことで許容してもらえると助かります。

続くかどうか未定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。