並行世界から来た空戦魔導士   作:白銀マーク

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やっと、かけましたぁ。
も、もっと頑張ります。


10話 私、魔砲士になります!?

 カナタとアキラが特訓を施した翌日の昼休み。ミソラは小隊長としてある決断をしていた。

 この日空戦魔導士科予科二年C組の教室には、ミソラが招待した三人の姿があった。四つの机を互い違いにくっつけ、それぞれの昼食と共に、席についていた。

 「うん、みんな今日は集まってくれてありがとう」

 満面の笑みを浮かべてミソラが言う。朝早く登校して二人の机の中に「一緒にお昼を食べよう」と手紙を入れていたのだ。

 「ふん、私は孤高の女神だから、群れることは好まないぞ。単にミソラが私のことを崇めたいとたたえる内容があったからわざわざ赴いてやっただけだ」

 「うん、わざわざご苦労様」

リコが驚いたように目を見開く。

 「そのぅ……ミソラさん。私も先日はお世話になりました。ミソラさんのおかげでどうにか特訓初日を耐えることができました。今後ともよろしくお願いします」

 「む、昨日とは何だ?」

 「そのぅ……ミソラさんがバニーさんの格好をして一緒に廊下を歩き回ってくれたんです。わたしはメイドさんの格好をしていて、ものすごく恥ずかしかったんですけど」

 「……ふむ、ミソラがそんな恰好をしていたのか」

 「ちょ、ちょっとリコっ!あんたなんであたしだけをじーっと見るのよっ!?」

 アキラはおなかを抱えてクスクス笑っている。さもおかしいものを見るように。

 「ち、違うわよっ! あ、あれは少し込み入った事情があって……」

 「少し込み入った事情でか。常人の考えることは理解に苦しむ」

 「あ、あのねーっ! いくらなんでもあたしが好き好んでそんなコスプレみたいな恰好するわけ————」

 アキラはまだ笑っている。助ける気は毛頭ないようだ。ミソラの助けを求める視線を軽く受け流している。

 「ふっ、冗談だ。ミソラとレクティがそろってそんな恰好をするなど、通常では考えられないことだと察しが付くだろう?」

 「え? そうだったんだ……」

 そう言って戸惑うミソラと、ちょっと驚いたような顔をするアキラ、ふっと鼻で笑うリコ、そしてきょとんと首をかしげるレクティ。

 (この二人とこんなにのほほんとした会話、初めてかも)

 (へぇ、いい仲間じゃない。これなら小隊内の人間関係は一応心配ないかな、なんてしらふでそんなことを考える当たり、そういう経験があったのかな?)

 記憶の手がかりというか、引っかかりを見つけたアキラと、意外と不思議な空気にちょっと戸惑うミソラ。まだうまく容量はつかめてなさそうだが、なかなか悪いものでもないようだ。

 だが、お互いがお互いを知らないがために、そこからの会話が続かない。静かな食事っていうのも悪いものではないのだが、それでは本末転倒。何か話題を探す。

 「みんなはさ、なんで空戦魔導士を目指してるの?」

 助け舟をアキラは渡す。

 「なんだ、そんなことか」

 ふっと鼻で飛ばし笑いながら、

 「女神なわたしの存在の証明として、自らの手で倒さねばならない相手がいるのだ。≪ミストガン≫の頂点を極めし者の一人として胡坐をかいているあの女だけは絶対許さん」

 何やら復讐心をあらわにしたリコがそう告げる。

 (っ! なんだろう、今復讐の感情を感じた時に少し頭痛がした)

 いろいろとこの会話だけで、記憶のカギの断片を少しずつ拾えそうな雰囲気を醸し出す会話を少し神経質になって聞き始めた。

 「わ、わたしは……あのぅ、自分の習った魔双剣術で……浮遊都市に住む人々を守るために目指したいと思ったんです」

 おどおどしているが、明確な意思を持ってレクティが告げる。

 「ミソラは?」

 「あたしはね…忘れられない人がいるの。その人のことを忘れないために空戦魔導士を、その中でも魔砲剣士を目指してるのよ」

 何やら遠い目をし、どこかはかなげに答える。

 「魔砲剣士だと? 確かあの男もランキング戦では魔砲剣の使い手という噂だったが……」

 裏切り元の元エースとミソラノ胸の中に浮かぶあの人とを見比べる。思わず苦笑してしまった。

 「あいつと話全然違うわよ。あいつよりもっと責任感が強くて、あたしがこの世界で一番尊敬できて、一番感謝してて、そして絶対に忘れちゃいけない人なの」

 とても分かりやすい意思表示をしたミソラは、アキラにも聞く。

 「アキラはどうして?」

 「僕は……」

 記憶がないことを伏せていたいアキラはちょっと答えに窮した後、

 「自分を見つけるため…かな。いろいろ混ざりすぎて、うまく言葉にできないや」

 ちょっと苦笑しながら、我ながら悪い出来だと、自負するしかなかった。

 

 午後の実習訓練。訓練グラウンドの片隅に呼び出されたミソラは手持ち無沙汰な様子で、訓練に励むほかの学生に目を向けていた。

 魔剣や魔槍、魔戦斧などの武器を握りしめた学生たちが戦闘訓練を行っていた。

 金属と金属がぶつかり合う音。巻き上がる土埃。裂帛の掛け声。

 こんな光景が空戦魔導士科では毎日のように繰り広げられている。

 「ごめんね。遅れちゃった」

 そう言ってアキラがミソラに近づく。

 「遅いっ! あんた何してたのよっ!」

 「これを取りに行ってたんだ」

 灰銀色のシリンダーが四つしかない魔砲剣状のものと、どの学生も最初に使う魔砲杖(まほうじょう)だった。

 「な、なによこれ」

 「えっとね。君がなんで魔砲剣士目指してるかは聞いたんだけど、死んでしまったら元も子もないから」

 そう言って魔砲杖を目の前に差し出す。

 「今日から魔砲士になってもらいたいんだ」

 「えっ!?」

 ミソラも驚きの声を上げる。

 「君が魔砲剣士を目指す気持ちは痛いほどわかるんだけど、僕はだれにも死んでほしくない。だからこれは僕のエゴでしかないけど、今日から魔砲士になってもらいたいんだ」

 「嫌っ! 絶対に嫌っ!」

 「じゃあ、なんで嫌なの? どうしてそこまで魔砲剣士にこだわるの? 実技試験なんて134連敗じゃないか、そこまで負ければいくらなりたいからって才能がないのはわかるよね?」

 「それでも…それでも魔砲剣士になりたいのっ! 努力するっ! 努力して結果を出すからっ!」

 「じゃあ今までは努力してなかったの?」

(努力してない?)

 今までの努力を…何も知らないくせに……っ!

 「あんたはあたしの努力を何にも知らないくせに調子に乗らないでっ! あたし帰るっ!」

 大股でそれでいながらうつむいて、時節目元をぬぐいながら去っていく。

 「アキラ、お前、なんかやったのか?」

 いつの間にか来ていたカナタがアキラをとがめる。

 「まぁ、ちょっとやりすぎちゃったかな」

 そう考えるしかない。そう考えるしかないのだ。

 (なんで、あそこまで攻めるような言い方をしたんだろ?)

 その答えは今のアキラにもたらされることはなかった。

 


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