時系列一巻が一番つらいかも……。
「で、どうだったよミソラ。今日の訓練の結果は」
「悔しいけど、大失敗よ……。あたし、二人のこと全然知らないんだなって思い知らされちゃった……」
下校がてら今日の訓練の成果を訪ねるカナタ。ミソラは寮生活ではないらしく、途中までしか一緒じゃない。
(へぇ、人によってはあるんだな)
アキラはまだこの学園のことに疎く、どうしてもわからないところが出てくる。
ちなみにあの特訓受けたレクティは、精神的なダメージが大きく、一休みしてから帰るらしい。
「リコは、哲学書好きなのに、案外かわいいもの好きだったり……、レクティは、なんにでもまじめで一生懸命なのに、どうしてあんなに恥ずかしがり屋なのか全くわからないし……」
しょんぼりと足元に視線を落としながらミソラが歩く。
そんな時、アキラとカナタの目には商店街に人気のあるアイスクリーム屋台が映っていた。彼方から話は聞いていた。
(確か、アイスクリームの屋台なのにソフトクリームがおいしいんだっけ?さらに、シュークリームは数個限定ですごくおいしいって話だったよね?)
カナタからその情報を聞いていたアキラは、何も考えずふらふらとそのアイスクリーム屋台に立ちより、気づけばソフトクリームを三つ買っていた。そのあとに、二人の元に戻る。
「あのね……、あたしは全然わかんなかったって言ったのよっ!ちっともよくないのにいいせいかとか、あんたあたしに喧嘩売って……ひゃうん!」
「そんなにつんつんしないの」
買ったソフトクリームをミソラの口にねじ込む。少しはおとなしくなったようだ。
「カナタも、少しは考えていってあげなよ。僕や特殊小隊(ロイヤルガード)と違ってあんまり遠まわしすぎるとわかんないんだから」
「わりー」
「まぁ、そのアイスは頑張ったご褒美としておごってあげる。おいしい?」
そう、ミソラに尋ねる。
「おいしいかおいしくないかって言われるとそりゃこのソフトクリームはおいしいけど、でもそうじゃなくて…」
どこかしゅんとした調子のミソラが答える。
「全然結果出せてないのに、言い分けないでしょ。リコとレクティのことホントよく知らなかったんだなって反省してるぐらいなんだから」
「へぇ、いい結果じゃないか…どこに不満があるのさ?」
「だってあたしは……小隊の仲間のこと何にも知らなかったのに……」
「いや、いい結果だよ。少なくとも僕は見ず知らずの人に背中を預けたくないね。特に何があるかわからない空の上ではさ」
ミソラの視線に気づきながらも夕空を見上げながら、そう口にするアキラ。
(へぇ、いいこというじゃんか)
少なからずアキラに関心を覚えるカナタと、
「ちょっと! それってどういう意味よっ!」
と、憤った声を発するミソラ。
「自分でわかってるから切れてるんじゃないの? だから怒ってるんじゃないの?」
「うぅ」と言葉が詰まるミソラ。アキラの言うことごもっとも、ミソラ自身もわかっているからこそ怒ったのだ。
(何かあったときに背中を任せることができるのは小隊の仲間ってことぐらい、知ってるわよ)
お互いを認めることができないから打ち解けられない。
「そ、そりゃあ今まで仲間のことを知ろうとしなかった自分が情けないとは思うけどさ」
それ以上言葉を紡ぐことができず、うつむいてしまうミソラ。
と、ここでカナタが自信に満ちた不敵な笑みを浮かべながらこう告げる。
「だったらさ、これからは昼飯一緒に食べるようにして、もっとみんなと仲良くしていけばいいじゃねーか?」
「えっ!」と顔を上げるミソラにそっけなく言い放つ。
「なら今日の特訓、お前は合格」
「そうなると、明日から本格的な訓練だね。あ、今日の訓練の感覚、忘れちゃだめだよ? いざというとき頼りになるのは同じ小隊の仲間なんだから」
「ちょ、ちょっと、ホントの特訓ってどういう意味よっ!?」
「あれ?聞いてなかったの? これは小隊長としての訓練、明日からは個人訓練だって」
「き、きいてないわよっ!」
「そっか、まぁ、予定変更はないから、じゃあね~」
アルテミア寮の分かれ道、あっけにとられているミソラをそのままに、二人は寮に帰っていった。
教官就任、そして入隊してから二日目を終える。
アキラとカナタが夜遅くにアルテミア寮の自室で膨大な量の資料に目を通す。すべてミソラたちのものだ。
「カナタの彼女さんかな? 結構堂々と入ってくるあたり」
「おまえさ、気軽に入ってくんなよ。ここ男子寮なんだぞ」
アキラの発言はスルーのようだ。
「うーん、窓から入れば寮監には見つからないし。それにカナタの部屋に来るのって私とロイドくらいでしょ。ほかのみんなからは嫌われちゃってるし」
「だからってなー、俺は嫌だぞ。男子寮に女子連れ込んでるなんてうわさされるのは。しかも、もう同居者もいるんだぜ?」
散らかり切っていたはずの部屋がきれいに掃除されている。どうやらアキラの仕業のようだ。しかも面白いことに、同じ小隊の仲間は同じ寮に集まりやすい。
「僕は別にいいよ、なんか違和感ないし。あ、でも違和感ないっていうのも変か」
「アキラもかよ」
「まぁまぁ、同じ小隊の仲間じゃないの」
やんわりとした笑顔でなだめてくるクロエと、少しまじめに考えているアキラのツーコンボ。これはいくらカナタでも黙って認めるしかない。
「それで、その小隊長の女の子にはどんな特訓施すつもりなの? その加速力の原因って何かわかったりしたの?」
「うーん、実はさ、あいつの魔力値、Aランク越えてるんだよたぶんそれが関係してんだろーな」
「ふーん、すごい才能のある子なんだ。……でもそれでなんでFランクなの?」
クロエが抱いていたクッションを危うく取り落としそうになる。魔力値は生まれに大きく依存する。ミソラの場合は天賦の才能といても過言ではない。そういうものなのだ。
「魔砲剣士みたいなんだけど、どうも魔剣術の才能がからっきし見たいでね。それでカナタと考えたのは、魔砲剣士から、魔砲士にコンバートさせようかなって思ってるんだけど……ってとこ」
「アキラ君、どうかしたの?」
「実は、彼女の資料に目を通すと、魔砲剣士に異様なこだわりが見て取れたんだ」
「それで? 二人は本当にコンバートさせたいの?それともさせたくないの?」
「それがね……」
どういう風にするかをクロエに伝える。
「なるほどね、でもその子から嫌われちゃうかもしれないよ? 裏切者は裏切り者だって、しかもアキラ君はまだ全然小隊活動してないのに、これから先つらいかもよ?」
「いや、アキラは大丈夫だ、こいつの武術の才能はすごいものがある。しかももう完全に染みついている感じでな、一連の動作を無駄のないシャープな動きでやってのけるんだ」
「カナタの評価はそうなってたんだ。でも、ほんとにそうかはわからないよ? 僕に関する資料は全くなくく、しかも僕も何も覚えてない状況だからね。まぁ、手放しでほめられて悪い気分じゃないけども」
そして、カナタのように不敵な笑みを浮かべて言い放つ。
「僕が嫌われることで彼女が死ななくて済むのなら、全然大したことじゃないよ」
「そうだぜ? 俺が嫌われることによってあいつらが強くなれるのなら、そんなのぜんぜん、大したことねーよ」
そう言って翌日に備えるのだった。