では、お楽しみください。
(あうあう……ど、どうしよう……)
アキラにおいて行かれて後、着る服を選ぶため、更衣室に入っていた。
(それにしても、アキラさんから言われた……)
『そのあがり症を克服する気があるのなら、この訓練を受けるべきだよ。ま、あくまでもアドバイスでしかないけど……』
そう、アキラはレクティが泣きそうな顔でしょんぼり八の字眉を浮かべているときにうっかり口を滑らせてしまった。その時のセリフがレクティの頭の中をぐるぐるとまわる。
(うぅ……こ、こんな恰好を人前で……)
結局メイド服に決めたわけだがいざ着てみると、外に出て歩くのが恥ずかしくなってくる。
しかし、外に出ないことには始まらない。そこで思い切って外に出てみて……。
「うぅ……、ミソラざぁ~ん」
教室の隅に置かれた掃除用具入れの、影に隠れるように泣いていたレクティは、ミソラに声をかけられた途端、彼女に抱き着きそこからえんえんと泣きはじめる。
人目に付きづらい場所だったため、探すのに手間取ってしまったようだ。
「あのさレクティ、泣いているところもそうだけど……、なんだかすごく目立ってるっていうか……何でメイド服きてるの?」
「こ、これが……と、特訓なんですっ!」
「?メイド服着ることの何が特訓なのよ?」
「ち、違いますっ!メイド服を着ることが特訓じゃなくてメイド服を着て廊下を歩き回ることが特訓なんですっ!」
そういう風にアキラは伝えた。確かに伝えたのはコスプレをして構内を歩き回ることなのだが……。
「?だからそれの何が特訓なのよ?」
(……)
尋ねられ思い出したのだが、レクティには辛すぎたため……。
「うぅ……、ミソラざぁ~ん」
と、泣きじゃくってしまい答えることができない。
詳しい事情の分からないミソラだが、とりあえず優しく頭を撫でてやる。
「ほらほらレクティ。元気出しなさい。誰も見ていないから」
それからレクティが泣きやむまで、ミソラはあやし続けた。
今まであまり付き添ってもらうことのなかったレクティだが、遠慮無くミソラに抱き着いている。そして落ち着き出したところで、
「ほら少しは落ち着いた。何があったか知らないけど、あたしに手伝えることがあるなら言いなさいよ」
レクティが反応する。
「うぅ、ミソラさん……(ぐずん)、ほ、本当に手伝ってくれるんですか?」
「まぁ、あたしにできる範囲のことだけど……」
(これで少しは楽になる)
と、考えたレクティは、パンパンに膨らんだ紙袋の中からおもむろに清潔感漂う純白の衣装を取り出すと、
「……こ、これを着て、一緒に廊下を歩き回ってくださいっ!」
「これって――何よ?もしかしてバニーの衣装(こんなもの)を着て、あ、あたしに歩き回れっていうのっ!?」
咎めるかのようなミソラの声にレクティは、こくりとうなずいた。
破れかぶれのお願い、普段のおどおどしている彼女ではなかった。
「まぁ、レクティが苦しんでいるようだからしょうがないわね。今回だけ特別よ、あたしもこれ来て手伝ったげる」
レクティはミソラを仲間にすることに成功した。
ちらちらちらちら。廊下を歩く生徒の視線がレクティを突き刺す。中にはじっとぶしつけな視線を送るものもこちらに指を向けひそひそ話す声も。
何度逃げようと思ったことか。しかしレクティは一緒に歩いてくれているミソラの姿を見て、どうにか思いとどまっている。
「あの、ミソラさんっ!、ひ、一人にしないでく、くださいねっ!」
レクティは穢れのない瞳をうるうるさせながらミソラに懇願する。
生徒たちから奇異と好意のまなざしを向けられること30分。そろそろミソラが飽き始めてきたころにアキラが姿を現した。
「ちょっとあんた、いったいあいつからレクティにどんな訓練伝えられたのよっ!なんだか知らないけど、レクティ教室の端で泣いてたのよっ!」
「う……、そこまでなのか」
「ほら、こんなに苦しんでるじゃないのっ!」
「ねぇ、レクティ。そんなに苦しいならやめる?ここで止めてもだれにも迷惑かからないし」
何度辞めたいと思ったことか。レクティが首を縦に振ろうとしたとき、
「でもさ、そんなにかわいい格好してるんだからさ、別に恥ずかしがる必要はないんじゃないかな?」
レクティの動きが止まる。
(い、いま、かわいいって言ってもらえた)
「ちょっと、あたしの格好についてはスルーなわけっ!?」
「……ノーコメント、とでも言っておくよ」
アキラは180度体の向きを変えて、
「ミソラ、あとをよろしくね」
そういって立ち去って行った。
「ち、ちょっと、あんたがレクティをこんな状態にさせたんでしょっ!?ならちゃんと自分で責任取りなさいよっ!……行っちゃったし」
「ほ、ほら、レクティ。いつまでもめそめそしていないで、元気出しなさいよ。それと一体どうして制服じゃなくて、そんなにかわいい格好してるのよ?」
(か、かわいい……)
可愛いという単語に反応を示すレクティ、その単語のおかげで少しは気持ちが楽になったらしい。涙で真っ赤に目元を腫らしたまま、弱弱しくだがはっきりと言葉を口にする。
「うぅ……、ち、違いますっ!これは……特訓、ですっ!特訓なんですっ!」
「?さっきからよくわかんないけど、そんなに恥ずかしいならやめたら?あたしからあいつらにはなしをとうしてもいいわよ」
「……ま、まだ、続けてみます。アキラさんだけじゃなくて、ミソラさんにも可愛いって言ってもらえましたし。それにアキラさん、強くなれるって言ってましたから」
そういってめそめそしながらも、ミソラという名のカーテンから姿を現し、自ら衆目の的となる。そして羞恥心とはずかしさで、貌を真っ赤にし、膝を震わせながら、どうにか我慢してみせる。
「だからいったいどこが訓練なのよ……」
ミソラが眉を寄せながらつぶやいた。