オレはオレの幸せに会いに行く   作:ほったいもいづんな

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長い……いやほんと長くなってしまいました。
ですが、ようやく終わりを迎える事ができました。

それでは、楽しい楽しい結婚式の始まりです。


最終話 スピーチ

 最終話

 

 

 

 

「はぁ……まだ来ないのあいつらは」

「まぁまぁ、約束の時間までは時間があるから」

 

 ぼやくアリサとなだめるすずか。場所は海鳴の教会。

 二人の姿は大人しめなドレス。

 

「今日この日に帰ってこれるっていうから今日にしたっていうのに」

「ずいぶん大変そうだよね。フェイトちゃんが一緒にいて全然予定が組まないのんて」

「どうせあの変態がまたお節介で面倒な所にまで手を出したんでしょまったく」

 

 本日の海鳴は快晴。

 

「今日は()()()()()()()()()だってのに……何やってんのよもう!」

 

 今日は実にめでたい日であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁまぁ、色々あったんよ私たちも」

「……知ってるわよそれくらい」

 

 アリサをなだめるはやて。すでに一度説明しているものの、改めてはやて達はキリンとフェイトの事情を話す。

 

「キリン君は拳君と一緒にこの世界に存在する残りの『転生者』を探して別の惑星へ。フェイトちゃんはたまたま偶然調査出来ていた星で二人に再会したんや」

「そこからなのはが合流した……まさかあんな辺鄙な星で『転生者』が恐ろしい計画を企んでいたとは私らも予想だに出来なかったからな」

「我々も合流……というか元機動六課含め空も陸も総動員した。あれほど凄まじい事件は初めてだった」

「長くなりそうだったから拳君とフェイトちゃんはヴィヴィオちゃんの様子を見るために一度戻ったんだけど……色々あってなのはちゃんだけ残って拳君だけ行っちゃったのよね」

「そうしてキリン、拳、フェイト達によって『転生者』の野望は打ち砕かれた……だが」

 

 代わる代わるはやてからヴォルケン達によって行われる説明。それはなのはと拳の結婚式が遅れて今日行われることに対する壮大な前振り。

 そして一番肝心な部分を、横から現れた心悟が言う。

 

「まさかそこから数ヶ月も二人で行方不明になるとは思わなかったねぇ」

「思わないわよ!!」

「どうどう……もう心悟君? あんまり面白がってアリサちゃんの反応を見ようとしたらダメだよ?」

「ふふふ、なぁに問題はないさすずか」

 

 そう楽しそうに笑うと心悟はどこかへ向かい始める。

 

「あれ? どうしたんですか心悟君?」

 

 リインフォースが問う。何故なら足先が向いているのは式場の中のスタッフの方だからだ。

 

「ああ、今さっき連絡があって、先に始めてていいそうだ」

「……それって!」

「ああ」

 

 心悟は携帯の画面を皆に見せながら言う。

 

「『今、海鳴に到着した。今から超特急で向かう』そうだ。フェイトも一緒との事だ」

 

 ようやく、めでたい式が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「急げ急げ!」

「どうする? タクシー捕まえる?」

「うーん……でも道ちょっと混んでそうだからこのままダッシュ継続で!」

「分かった!」

 

 走る、走る。 

 

「ぐわー! もうちょい早めに到着しておめかししようと思ってたのにー!」

「私思いっきりスーツなんだよね……仕事帰りだから仕方ないけど」

「オレなんていつも通りすぎるだぼだぼスウェットだしジーパンだし……せ、せめてシャワー浴びたかったー!」

「ごめんね? 私だけ身体洗っちゃって……」

「いやしかし仕方なし。 ともかく、あと何分くらいで着くんだミョルニル!」

『そうですねぇ……このペースだとあと10分くらいじゃあないですかね?』

「もう始めてもらってるから……ギリか? あのゆっくり進むやつあるからギリか!? せめてなのはちゃんと拳君のキスシーンだけ見たい!」

「ま、まぁそこら辺はみんなに映像任せてるから間に合わなくても大丈夫だよ」

『私もできればじっくりネットリ撮影したかったんですけどねぇ〜これじゃあちょっと厳しいかもですねぇ』

 

 走りながら二人と一機は忙しそうに話している。街中なのに騒がしいのはご愛機。通り過ぎていく人たちは微笑ましそうに見てくれるからだ。

 

『まぁ、仕方ないですねぇ』

 

 その理由は。

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

 白髪の男が抱えている小さな子どもにあるのだろう。

 

「嫌でも気合いで間に合ってみせる! うおおおおおおおおおお!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 間に合わなかった。

 

「お、終わってた……なのはちゃんと拳君のキスシーン見たかった……」

 

 即落ち二コマにも程がある。

 

『まぁまぁいいじゃあありませんか。友人代表で挨拶出来たわけですし』

「馬鹿野郎! オレは二人が幸せそうなキスをするシーンが見たかったの!」

『ハイハイ、まぁ着替えてきたなのは様達が来るまでマスターも大変なんですから』

 

 ミョルニルの言う通り、項垂れているキリンの側には沢山の人集りができ始めている。何せ合計3年もなのは達の結婚式を遅らせた原因の張本人なのだから、聞きたいことは山ほどあるであろう。

 

 ちなみに、フェイトは諸事情により式には顔を出しておらず、席を外している。

 

「キリンさん! お久しぶりです!」

「おおスバルちゃん! というかナカジマ家オッスオッス」

 

 キリンの前に来たのは控えめなドレスで着飾ったナカジマ家のシスターズ。スバル、ギンガ、チンク、ノーヴェ、ウェンディ、ディエチ。そして後ろにはもちろん一家の大黒柱であるゲンヤの姿も。

 

「おー元気してた?」

「もちろんっすよ!」

「私達はまぁいつも通り元気、です」

「ウェンディは無駄にうるさいけどな」

「ノーヴェ! 無駄とはなんすか! 結婚式なんて生まれて初めてなんすからテンション爆上げで当然っすよ!」

「少しは落ち着け……今日くらいは構わんが」

「でもウェンディはちゃんと大人しくしてたから偉いわね」

「もちろんっすよギンガ! これでもTPOは弁えてるッス!」

「……と、まぁウチは毎日賑やかだよ」

「ハハハ! ゲンヤのおっさんも楽しそうで羨ましいぜ」

 

 ナカジマ家はかなりの大所帯となってはいるものの、ギンガやチンクがしっかりとバランスを取り、ゲンヤがそれをしっかりと支えているため今日も賑やかで安泰である。

 

「久しぶりですね」

「おー! カーさんじゃん! 相変わらずムッツリな空気出してんねぇ! 通りでねぇ!」

「あ、アハハ……」

「キリンさん、セクハラはいけませんよ」

 

 聖王教会の面々は今日ばかりは修道服からドレスに着替えている。聖王教会からはカリム、シャッハ、オットー、ディードが来ていた。

 

「お久しぶりですねキリン様」

「お変わりなくて幸いですわキリン様」

「お、双子も元気そうだな。……流石にオットーちゃんも今日はドレスなんだね」

「もちろんです。今日の僕はこの服で来たかったですから」

「今回はコーディネーターにお願いして見繕ってもらったんです」

「マ? 羨ま」

 

 聖王教会は最近シャッハが連れてきた新しい女の子がいるそうだが、今回は出席してないとの事。新しい顔も増えた事で聖王教会もまた賑やかになっているようだ。

 

 

「……お? ティアナちゃんに翔次君じゃん。おひさー」

「はいお久しぶりです」

「久しぶりじゃないわこのバカが」

 

 ティアナはあれから髪を伸ばして結ぶことはなく下ろしている。大人な雰囲気が出るようになった。対して翔次は特に変わりはないものの、よく見ると少しだけ身長が伸びたように見える。

 

「あっれー? ティアナちゃん髪伸ばしてんだね。似合ってる似合ってる」

「そうなんですよ。このバカが『いつまでも髪を結んでいると子どもみたいだぞ』とか言うんですよ」

「誰がバカだ。ボクは事実を言ったまでだ」

「あんですって?」

「はは、二人ともなんかいつも通り仲良しなんだね」

「ま、まぁ否定はしません……」

「仲悪いやつと同居なんてしないからな」

「……ちょっとは慌てるとか恥ずかしがるとかしなさいよ」(ボソ)

「……どうしたティア?」

「何でもないわよ!」

「ほほ〜? 中々大変ですなぁティアナちゃん」

「……ノーコメントで」

 

 二人の関係はあまり進展してない様子。しかしそれもまたイジらしくて、らしいとキリンは感じた。

 

「キリンさん!」

「おっ! エリオきゅんにキャロちゃん! それにルーテシアちゃんにメガーヌさんも!」

「お久しぶりです!」

「お久しぶりで〜す!」

「……え? ルーテシアちゃんなんかこう……なんかすっごい年頃の女の子女の子してる!?」

「娘は元々こういう子なのよ〜」

「ね〜?」

「アハハ……キリンさんもそのうち慣れますよ」

「おおぅ……。そういやゼストのおっさんは来てないの?」

「ゼストは来てないのよねぇ。陸の方々も何人か来てるんだけど、ゼストは来なかったんですよ」

「ふーん、おっさんもくればよかったのに。ルーテシアちゃんが可愛い格好してんだから」

 

 3人とも子ども用の可愛らしい正装を着ており、メガーヌもまた優美なドレスを着ている。

 ちなみにフリードも胸元に蝶ネクタイをして参加していた。ガリューもまた隅の方で静かにキリンに会釈をしていた。

 

「お、いたいた。この大遅刻者め」

「八神家のみんな」

「まぁむしろよく戻ってこれたって話だ」

「テスタロッサと逃避行でもしてるんじゃないかとよく話をしていたんだがな」

「ヴィータちゃんもシグナムそんも知ってるだっしゃろ? 大事な用事があったんだって」

「分かっている。だがそれはそれとしてお前の事はそれなりに弄らせてもらう」

「そうねぇ、これはしばらくは大変そうねキリン君」

「うおっ、ザフィーラってば見ないうちにノリがよくなってんな」

「キリンちゃんがいない1年半でみんな色々ありましたから」

「道場始めたり色々やってたんだぜ」

「あったんでごぜーますよー」

「確かに……アイカ君も背ぇ伸びたねぇ」

「そうなんよ! グングン成長してるんやで〜」

 

 久しぶりの八神家はいつも通りであり、アイカの成長がまた八神家の時間の流れを感じさせてくれる。

 

「……!」

「おー! 心悟君、クロノ君、ユーノ君!」

「元気そうだな、この大馬鹿者めが」

「元気元気よー! みんなも元気ー?」

「はい。こんな嬉しい日にみんなでなのはと拳さんのお祝いができるんです。元気で当然ですよ」

「なはは! オレもだぜ」

「……ところでキリン、フェイトはどこに行ったんだ? 一瞬だけ姿は見たが……」

「あぁ、フェイトちゃんは()()()()、ね」

「……キリン」

「うん? どったの心悟君」

「……やれやれって感じだ」

「ニヒヒ、そうなのよ」

「???」

 

 心を覗いた心悟にだけ分かる、この後起こるであろうプチパニック。だがそれを笑って仕方なさそうに受け止める。

 クロノとユーノは何のことか分からないが、二人が笑っているなら気にする事ではないと判断した。

 

 そして。

 

「……で、何でお前らもいるんだよ」

 

 この会場内でキリンがもっとも異質な存在と認識している者達。

 

「おやおや、別にいいじゃあないか。我々とてめでたい日くらいはお祝いしたいものなんだけどねぇ?」

「ジェイル・スカリエッティ……と、ナンバーズ達。……それとローリ……!」

「……ふん」

 

 本来であるのならば幽閉されているはずのジェイル・スカリエッティ一派。何故か今回の結婚式に参加しているのである。

 

「大体スカリエッティお前、こんな時でも白衣を着るな。ドレスコートはどこにいった!?」

「これが私なりのドレスコートというわけさ」

「……すいません、ムラサキ・キリン。うちのドクターが迷惑をかけます」

「あぁいやどうも……ウーノお姉さん達はちゃんとドレス着てるんすね」

「もちろんよ。何せ合法的にドレスアップできるんですもの。やらなきゃ損に決まってるでしょ?」

「……結構……気に入った」

「あらよかったわねぇセッテちゃん。なら後でこれだけ貰えるか聞いてみましょうか」

「うん……!」

「……犯罪者でもドレス着てるのにオレは一体……(´・ω・`)」

 

 ジェイル・スカリエッティはいつも通りだが、ナンバーズ達はしっかりとドレスアップしている。

 そしてその隣で無愛想な顔でいるのが……ローリである。

 

「ローリお前……」

「……なんだ」

「何でお前……受肉してんの!? いつの間に!?」

 

 そう。キリンの目の前にいるのは肉体を持ったローリなのである。一番最初にキリンと遭遇した時の、ナンバーズ達と同じ肉体の構造をしているあの姿なのだ。

 

「どうもこうもあるか。『以前の事件』で手を貸した時の見返りだ。といってもパワーは型落ちだがな」

「こ、このロリコンに肉体を与えてはいけませーん! このクソロリコン何すっか分かんねぇぞー!」

「やかましい……」

「おっと安心したまえムラサキ・キリン。このローリにはしっかりと()()()()()

「ナニを安心すればいいんだよ!?」

 

 ナニも安心できない言葉であった。ちなみに、会話を聞いていたクアットロは顔を赤らめ、それをドゥーエに弄られている。

 

「……ローリてめぇ……」

 

 キリンはローリを見る。無機質なローリの瞳を。

 

「てめぇ、一体何だって今日来たんだ」

「……ふん。大した理由はない。ヴィヴィオの親が挙式を上げる……ならばヴィヴィオのめでたい日を祝う……それだけだ」

「あんだと……?」

 

 ローリはその無機質な瞳でキリンに視線を返す。

 

「ヴィヴィオは私にとっても大切なロリだ。純粋に祝福しているだけの話だ」

「……散々そのロリを殺してきた野郎のセリフだとするなら……ぶっ飛ばすぞテメェ」

「……無駄な杞憂はやめるんだな」

「あん?」

「私の娘は『ただ一人だけ』だった。ただそれだけの事に気付くのに多くの尊いロリの命を奪ってしまった」

 

 ローリは淡々と、己の心内を少しだけ明かす。

 

「娘は『サクラ』ただ一人、妻も『アレックス』ただ一人。ただそれだけだった。だからこれ以上我が娘の代わりを探そう等と下らないことはしない。ヴィヴィオも別にどうこうしようという気もない」

 

 ローリは、もしかしたら初めてその心境をスカリエッティやナンバーズ達以外に話すのかもしれない。

 その相手は、自分と殺し合い続けてきたキリン。

 その関係が変わる事はないが……変わる部分もある。

 

「……だが、私は私のしてきた事を無駄と切り捨てはしない。全て必要な事だと認識している」

「……その言葉を聞いて安心したぜ」

「む……?」

 

 キリンは不適に笑い、その全身を金色の光で包み……()()を一つ超える。

 

「それなら何かあった時に、何の躊躇もなくお前をぶっ飛ばせるぜ……!」

「『神の領域』……面白い。その座でせいぜい胡座をかいていろ」

 

 輝凛を前にしても、ローリはその不遜な態度を変えない。

 

「『我々』はいずれその領域を踏みにじる……覚悟しておくんだな」

「やってみろよ……そん時はオレだってお前らを超えてやる」

 

 未だ遺恨の消えない二人。しかし今はお互いにそれぞれの大切なものがあり、そして揺るがぬ信念がある。

 正義と正義、二人のこれからの衝突は目に見えて明らかではあるが……その果てにあるのは決して憎悪だけではなくなった。

 

「……ちょっとあんた、何変身してるのよ」

「アリサちゃん?」

「わ〜本当に元の姿に変身できるんだね」

 

 そこに登場するのはアリサとすずか。二人ともあれだけバチバチしている空気の中、何ともないかのように入ってきた。

 

「遅れてやってきたから一発二発くらいしばいてやろうかと思ったら……さっさと変身解きなさい。殴れないじゃないの」

「え? 何それは……暴力反対!」

「いいから戻りなさい!」

「ひぇ〜!」

「あ! 逃げるな!」

 

 小走りで逃げる輝凛を追いかけるアリサ。途中で元の姿にキリンが戻ってしまったのを見るや否や一気に飛びつきキリンをしばき始めた。

 

「このっ! 何年二人を待たせたら気が済むのよこのド変態! 名実ともにド変態じゃない!」

「ぎゃあー!? なんだか久しぶりなこの感じー!!」

「あ、アリサちゃん程々にね……」

「うわっ、今ナチュラルにすずかちゃんが肯定してたゲブェ!」

「ふー……無駄に腹筋鍛えてんじゃないわよ。……で、あんたが件のローリってやつね」

「むっ」

 

 手を軽くはたきながらローリを見るアリサ。無機質なローリの瞳と向き合うもアリサは一歩も引かない。

 

「……」

「あんたがこれまで何してきたかは知ってるわ。……まぁ、今日くらいは見逃してやるわよ」

「驚いた……いち一般人であるキミが私を一切恐れる素振りを見せないとはな」

「はっ、あんたみたいなのはもう慣れたものよ。大体キリンに負けたんでしょ? なら別に私もすずかも気にしやしないわよ」

「うん、そうだね」

「……なるほど、これが原作との違いか? それともこれが本来の二人だとするなら……流石は高町なのはの親友というわけだ」

「どういたしまして」

 

 アリサとすずかは一目見ておきたかった。親友達が絶望のギリギリまで追い込まれた強敵を、どんな顔をしているのかを見ておきたかった。

 ローリの顔を見た二人は判断する。ローリという存在の恐ろしさと、その上でなおこの恐ろしい冷たさを持った男に最後まで屈しなかった親友達の強さを。

 ならば恐れる必要はない。いつものように、二人らしく振る舞うことにした。

 

「アババ……アリサちゃん普通に腕力上がってない? 痛い……痛くない?」

「何やってんだお前……」

「あっ、恭也さん達!」

 

 アリサに殴り飛ばされた先にいたのは高町家の面々であった。

 

「お久しぶりっす、皆さん」

「あはは久しぶりだねキリン君」

「『さっきのスピーチ』、とても良かったわよ」

「そうっすか? 即興に近かったんだけど、どもっす!」

「ふふ、実にキミらしい言葉だったよ」

「士郎さんにまで言われちゃったら照れますよ〜デュフフ」

「笑い方が汚いぞお前……」

 

 キリンにとっては本当に久しぶりな再会。海鳴にいた頃は特に世話になった一家である。

 

「さて、そろそろブーケトスをするらしいし、外に出ようか」

「おー……え、このメンツでブーケトスしたら戦争では? 主にギンガちゃんとか」

「それは妹に先を越された私への挑戦状かなぁ?」

「な、何でもないデスヨ〜」

「……あれ? なのは達じゃないか?」

 

 会場にいた面々がなのはと拳、ヴィヴィオが会場の入り口にいることに気付く。しかし、その様子は少し困惑気味で……

 

「えぇ……っと、キリン君は〜……」

「おおっ! なのはちゃん!」

 

 その手にはこの後で行う用のブーケが握られているが、そんな事は重要ではない。

 駆け寄ってきたキリンになのはは問う。

 

「えぇっとぉ〜……ドウイウコトデスカ?」

 

 視線を後ろへずらす。

 なのはが視線を向ける先にいるのはフェイトがいた。

 しかし、フェイトだけではなかった。

 

「フェイトちゃん」

「あ、キリン。ようやく落ち着いてくれたから『私達』も来たの、ちょうどそこでなのはに会って先に挨拶すませちゃった」

「あぁいいよいいよ。……よぉ〜しよし、急いで来ちまったからびっくりしちまったなぁ『歌凛(カリン)』」

 

 フェイトが抱いているソレを、キリンが受け取りあやし始める。

 ソレは誰の目に見ても分かる通り……『()()()』だった。

 

『ナニィ!?』

「うおっ!? 何だよみんな! びっくりするだろ『娘』が」

『娘だとォ!?』

 

 一瞬で会場全員に理解させる。「このバカップルは子作りしてやがった」と。

 

「うぅ……!」

「あやっべ! またカリンがグズってきた! やべーぞ!」

「うぅ〜……!」

「お〜よしよし! こういう時は母さんの胸に飛び込んどけ〜!」

「はいはい。……もうみんな? 赤ちゃんがいるんだから大きな声を急に出さないの」

『はいすいません……?』

 

 フェイトに抱かれて少しずつ落ち着き始めるカリンと呼ばれた赤ん坊。それを見ていた心悟は一人気付く。

 

「なるほど、その赤ちゃんがさっき心で見た『転生者』か」

「……ああ」

 

 心悟の言葉に全員が驚き声を飲む。この小さな存在が世界を揺るがしたキリンやローリ達と同じ存在であることに。

 そしてこの小さな命が『一度死んでいる』ことに気付き言葉を飲み込む。

 

「やはり時間がかかってしまったな……俺の『管理会』としての力がもう少し残っていればここまで時間はかからなかったんだがな」

「いいさ。時間はかかったが……何とか間に合ったからさ」

「……おやおや、その子は随分と特殊な転生者なんだねぇ」

「そうだ。この転生者は……『赤子の時に死んだ転生者』だ」

『っ!?』

 

 拳の言葉に絶句。転生者とは今までの傾向を見るに、少なくともある程度成長した子どもから上が対象だと思い込んでいた。

 しかし、ここに来て物心つく前の生命が転生してきたのだ? 

 

「赤ちゃん……そっか、その子を早く保護するためにキリン君とフェイトちゃんは頑張ってたんやな」

「この転生者……カリンか。この前の転生者による事件の後にカリンが転生して来たと情報が特別に俺に回って来てな。カリンの持つ『転生特典』も謎だったためにキリンとフェイトだけに理由を話して任せてたわけだ」

「発見自体は早かったんだけど……」

 

 キリンはフェイトとヴィヴィオにあやされているカリンの頭を撫でる。その表情から察するにカリンには何か大きな事情を抱えていると察せられる。

 

「ま、ともかくとしてオレとフェイトで子育て中ってわけよ」

「みんな、カリンをよろしくね」

 

 キリンとフェイトは笑ってそう言う。事情はあれど、間違いなく言える事はただ一つ。

 

『もちろん』

 

 後悔もなく、ただただ新たな出会いと未来に希望を抱いている、そういう笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よもや、キミも私たちと同じことをする運命にあったとはね」

「あ、お父さん」

 

 なのは達より一足先に外で待っている間、キリンに話しかけるのはキリン……ひいてはキリトの父親である正刀。

 実に幾年越しの、親子の会話である。

 

「ずっと、キミと話がしたかった。あの手紙をもらってから……いや、キリトからキミに変わった時から」

「オレもだよ」

「だが……不思議だな。言葉が出てこないんだ、たくさんの話をしたいと、聞きたいと何度も思っていたのに……」

 

 少し恥ずかしげに笑う。だがそれを見てキリンは言う。

 

「大丈夫だって」

 

 キリンは何でもないように話す。

 

「親子の会話だろ? もっと気楽でいいんだ」

「……!」

「これからはもっともっと会いに行ける。オレもフェイトちゃんも落ち着けるし、カリンもお父さんやお母さんにもたくさん会わせたいし……紹介したい仲間や友達もたくさん増えた」

 

 キリンは当たり前のように話す。

 

「今度の週末にでも、遊びに行くよ」

 

 笑って、ありふれた家族の会話のように。

 

「あぁ……待ってるよキリン」

 

 キリンと正刀。それはこの世でもっとも奇妙な家族の絆で結ばれた親子である。奇妙な出会い、しかしそれは決しておかしな繋がりではない。

 二人は家族なのだ。心がそう、在り続けようとするからだ。

 

「そういやお母さんは?」

「あそこで井戸端会議中みたいだ」

「おー……ウチのみんなとも楽しそうでよかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さーて、行くよみんなー!」

 

 いよいよ始まるブーケトス。アンダーから大きく振りかぶって空に放り出される。

 

「キタ! 私とシンゴさんのためにキテー!」

「いやギン姉恥ずかしいからやめて!?」

 

 物凄い盛り上がり方をする者もいたが、大きく放られたブーケは弧を描き遠く遠くへ……

 

「……え?」

 

 遠く遠くで、一人の青年の手に渡る。

 

「お前……何普通にキャッチしてんだよ」

「そ、そう言われても落とすわけにもいきませんし……あ、ノーヴェさん要ります?」

「は、ハァ!? い、いるか!!」

 

 ノーヴェの隣にいた青年がどうやら手に取ってしまったようだ。元々は幸せのお裾分けのために始められたのがブーケトスなので男性が受け取っても構わないのだが……微妙に気まずい空気になる。

 

「じゃあそうだな……あっ、そうだ」

 

 何故か顔を赤くしてノーヴェに拒否されてしまった青年は、ブーケを手にヴィヴィオの元へ歩み寄る。

 そして膝を着いて目線を合わせると、ブーケをヴィヴィオに手渡す。

 

「はい、ヴィヴィオちゃん。あげるよ」

「本当に!? いいの?」

「ああ、ノーヴェさんは要らないって言うし。多分ヴィヴィオちゃんが貰うのが一番良さそうだ」

「わーい!」

 

 受け取ったブーケを手にヴィヴィオは満開の笑顔でお礼を言う。

 

「ありがとう! ()()()()()()!」

「……お兄ちゃん?」

 

 ヴィヴィオの一言にキリンが首を傾げる。するとそのキリンの姿を見た青年がそちらへ向かうと自己紹介をし始めた。

 

「あなたが……『村咲輝凛』さんですよね?」

「キミは……あっ! そっか、キミがそうなのか!」

 

 何かに気付いたキリンに答えを示し合わせるように自らの名を明かす。

 

「はい。俺は『春街 華(しゅんがい はな)』って言います。キリンさんのことは皆さんから聞いてます」

「そっかそっか、キミが()()華君かぁ!」

 

 それは、新たな登場人物。

 

「聞いてるぜ〜? ノーヴェちゃんに色々教わってるっていう地球の子、特に喧嘩が大好きなんだってな」

「はい。……是非ともキリンさんともヤリ合いたい……!」

「嬉しいこと言ってくれるじゃ〜ん……!」

 

 しかし、華の事が語られるようになるのはもうしばらく先の未来。

 

「おにいちゃーん! みんなで写真撮るってー!」

「分かった、じゃあ行こっかヴィヴィオちゃん」

「おら、お前何キリンさんにガン飛ばしてんだ」

「ノーヴェさん、だってあの人があのキリンさんなんですよね? 一目で分かりましたよ、めちゃくちゃ強いって」

「まだお前には早い、この間私に勝ったからって調子に乗んな!」

「お、おっす!」

 

 ヴィヴィオとノーヴェに連れられて先に並ぶ華。その姿を見ていたキリンは……

 

「……ハハッ!」

 

 新たな物語の予感を抑えきれず笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ撮るよ〜」

「そういやチーズ? それとも足し算?」

「そんなのどっちでもいいでしょ」

「そもそもミッドの人たちに通じるのそれ?」

「さぁねぇ、でもそういう描写はあったかな?」

「……確かなかったはずだが」

「何でもいいだろう……」

「そういうわけにゃいかんざき! ここぞという時にずっこけるような写真になっちゃあいかんでしょ!」

「そこはカメラマンさんに任せればいいんじゃないかな?」

 

 その日、海鳴にて行われた結婚式は。

 

「よっしゃ、なら任せたぜ頼んだぜカメラマンさん!」

「……魔法で遠隔でも撮ってるから音頭は何でもいいんと違うんかな」

「まぁまぁ、こういうのは雰囲気だから」

「せやなぁ……そんなら頑張ってもらいますか」

 

 恐らくはこの先にも例を見る事ないくらいの……

 

「せ〜の……!」

 

 ──はい、ピース! 

 

『ピース!!』

 

 大賑わいだったそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──これは、とある結婚式にて友人代表のスピーチの録画内容である。

 

『えー、皆さんお久しぶりでぇございます。村咲輝凛でーす! いやぁ何とか間に合ったよぉ〜……いやまぁ間に合ってないんだけどね。滑り込みだったんですけどね! 拳君となのはちゃんの幸せなキスをして終了じゃなくなったんですけどね! ……まぁそれはそれとして。

 何にしても二人共おめでとう。なのはちゃんはもうようやく叶った事だしぃ、拳君に至っては住む世界を変える事になって大変だったけど、まま、今この瞬間を思えばプライスレス! ハッピーエンドだで! 

 ……思えば本当に長かった。でもよ、これからはもっともーっと長い時間になるんだ。そんで、いつかオレの子どもに二人の事を自慢したい。「最高の仲間」だって、「最高の親友」だって。きっと、大事な事を教える時は二人といた時の事を話してやりたい。本当にそう思ってる。

 だからさ、これからも末永く一緒に仲良くしてくれよな! そんでオレとも仲良くしてくれよな! 

 つーわけで以上! 村咲輝凛でした!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「またな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 完




というわけで三部作となった「オレシリ」はこれにてグランドフィナーレと相成りました。
色々投稿までに時間がかかって申し訳ありませんでしたぁ!!

また後日設定公開を行いますので、そこでまた私にはお会いしましょう。

ともあれ、これで本当にキリンが主人公の物語は終わりとなります!

長い間ありがとうございました!!

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