オレはオレの幸せに会いに行く   作:ほったいもいづんな

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クソ時間かかった割にそんなに長くないな?


72話 Epilogue4 ほんの少し

 72話

 

 

 

 

「おはよ〜ごぜ〜ます!!」

 

 朝から響く幼い声。 アイカの声だ。

 そのアイカの呼びかけの相手ははやて。 しかしはやては起きようとはしない。

 

「うーん……あと5分……」

「ダメでごぜーますよ! アイカははやておねーさんにお願いされたでごぜーますよ、朝起こしてって」

「えぇ〜……もうちょい……今日は貴重な休みだし……」

「はやておねーさーん! 起きるでごぜーますよー!」

 

 この後、アイカの奮闘により3分後にようやくベッドから這い出たはやて。

 そう、今日は貴重な休みの日。 八神家全員が自宅にいる貴重な日。

 

「おはようごぜーます! はやておねーさん!」

 

 アイカも加わった八神家の休日である。

 その貴重な休日、やる事といえば一つしかない。 朝ごはんを軽く済ませ、用意したるは清掃道具達。

 

 はやてが皆の前に立ち宣言する。

 

「これより! 第23回八神家大清掃大会を開催するで〜!!」

 

 お掃除の始まりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわ〜これ買ってから結局一回も着てない服じゃん、どないしよ」

「むっ、これは地球から持ってきた雑誌か……捨てるべきか取っておくべきか……」

「ある程度は断捨離しないとダメよ二人とも。 そのための大掃除なんだから」

「……そう思うならシャマルもこの無駄にある料理関連の本捨てたらどうだ? 大体役に立ってなかったろ」

「うぇっ……そ、ソウネ〜」

 

 まずは捨てるものの選定。 こういう時にしか捨てられないのでズバッと捨てるべきである。 が、どうもそうはいかないのが掃除というものだ。

 

「……いや、これはせめて一回着てから……」

「はやて、それ去年も言ってたぞ」

「よし、やはりこういうものは貴重な品だからな。 保管しておこう」

「シグナムよ、この前の大掃除の時も同じようなことを言っていたではないか」

『うっ……』

 

 勿体ない病のはやてと意外と物が捨てられないシグナム。 その点ヴィータやシャマルはバッサリと捨てられる方である。 特にザフィーラは自身が手にした物が少ない分この大掃除で捨てるものも少ない。

 

 だがこの二人よりも物が捨てられない者が一人。

 

「だぁ〜かぁ〜ら! それいらねぇだろって! 捨てろって言ってんだろ!?」

「いぃ〜やぁ〜でぇ〜すぅ〜!! これはリインの大切な物なんですぅ〜!」

「どう見てもゴミじゃねぇか! その人形とかもう直しすぎて逆にボロボロじゃねぇか!」

 

 リインであった。 リインは時たまアイカの父親と同じ能力である『モノの声を聞く』事ができる。 それのせいなのか物が捨てられない。 声が聞こえてしまうためどうしても毎回捨てる事ができないのだ。

 

「リインには声が聞こえるんですよー! だから捨てられないんですー!」

「知るか」

「むぅ〜! アギトちゃんには分からなくていいんですー!」

「いや、んなこといいからさっさとそいつらを寄越せ。 あたしが全部分別して捨ててきてやるから」

 

 リインの私物には明らかにゴミになっていたおもちゃやアクセサリーがある。 これらは全てリインが偶然能力を発動している最中に遭遇した物達である。 物が持つ声、それを無視できないリインはそれら全てを拾ってきてしまう。

 

 今までであったらナァナァになって捨てられなかったが……今回はアギトがいる。

 

「オラ、隠してるもん全部出しやがれ」

「あぁー! そんな無理やりしないでくださいー!」

「……頼んだぞ、アギト。 我々は些かリインに甘すぎるからな」

「頑張ってや〜アギト〜」

「お前らも手伝え!?」

 

 そんなこんなで本日の八神家は大掃除で大賑わいなのである。

 そんな大騒ぎに一人、ポツンと何もしないで片付けられていくゴミを見ているのがアイカである。

 

「はぇ〜……」

「どうしたんやアイカ?」

「みんなの声を聞いていたでごぜーます!」

「『声』? あぁそっか、祝歌さんの能力もあるんやったな」

「アイ! パパみてぇに聞いてるんでごぜーます」

 

 アイカは母親譲りの桁外れの魔力に多種にわたる魔法、そして父親から受け継いだ『能力』。 アイカはまさにこの世とあの世の中で最も潜在能力を秘めた存在である。

 そのアイカが聞く『声』ははやて達のモノの声であり、それは歴史の『声』である。

 

「ここにあるものは、み〜んなはやておねーさん達の事を知っていやがります。 だから昔の、アイカがよく知らないみんなを教えてくれるでごぜーますよ!」

「……そっか。 そうか……」

 

 恐らくは今までの事を見ていたのであろう。 アイカの口ぶりからすると、あの世と呼ばれる場所で。 父親と母親と一緒に。

 

 はやてはその事を知りたいとふと思った。

 

「……なぁアイカ。 アイカが今までいた場所ってどんなところなん?」

「アイ?」

「アイカやって私らの事を知りたいんやろ? 私らもアイカの事知りたいんや」

「そういうことでしたら問題ねーでごぜーます!」

 

 アイカはその場にチョコンと座りながら自分がかつていたあの空間について話す。

 

「アイカがいたのは『終わりの世界』ってところでごぜーます」

「『終わりの世界』……?」

 

 そのワードに頭を傾げるはやて。 『終わりの世界』、その字面だけを見るのであればあの世の世界とは違う印象を受ける。 果たして何が『終わり』なのだろうか。

 

「えー……っと、キリトお兄ちゃんが言うには……『役目を終えたありとあらゆるものがたどり着く最後の世界』……だったはずでごぜーますよ」

「役目を終えた……?」

「アイ。 だからパパやママは同じ世界にたどり着いたって言ってたでごぜーます」

「……? あの世とは違うんか? 天国とか地獄とかは?」

「あるみてーでごぜーます。 アイカは行ったことはねぇんでごぜーますが……行っちゃダメだってママに怒られちゃうでごぜーますよ」

「ふーん?」

 

 あの世という概念はあり、天国だとか地獄だとかの概念もある。 のであればますます『終わりの世界』というのが気になる存在だ。

 そもそも死人であるリインフォースと祝歌との間に産まれたという事実そのものがおかしいのであるが、ならばリインフォースと祝歌はあの世ではなく『終わりの世界』にいるのだろうか? そう考えてしまう。

 

「じゃあ二人が亡くなった後その世界に直接行ったっちゅうことなんかな?」

「うー? でもパパもママも天国って所にいたって言ってたでごぜーますよ?」

「???」

 

 しかしアイカの言葉でさらなる疑問。 ならば『終わりの世界』とはどこの位置にある世界のことなのだろうか? 現世、あの世、終わりの世界、そして『管理会』のある世界、これらの世界はどういう繋がりなのだろうか?

 それを解き明かすには確実に拳に話を聞かないといけなくなるが……今はこの場に拳はいない、今日はなのはとヴィヴィオと共に大切な用事をしにいっているのだ。

 

 この疑問はまた後日。 しかしてそのヒントは零れ落ちる。

 

「うーん……アイカもよく分からねぇんでごぜーますが、『終わりの世界』から新しいモノが生まれるから『終わりの世界』なんだってプレシアおばさんが前に言ってたでごぜーます」

「……!」

「あっ! おばさんって言ったら雷が飛んできちまうでごぜーます! ごめんなさいプレシアおばさん!!」

「ハハァ、そういうことかいな」

「……?」

 

 はやては気付いた。

『終わりの世界』とは即ち『始まりの世界』なのである。 『終わる』からこそ『始まる』、故に役目を終えた存在が集まるのであろう。 現世もあの世も、この世界に存在する上での必要な役目全てを果たした先に『終わりの世界』に辿り着くのだ。

 新たな存在が生まれる場所、故に祝歌とリインフォースの子どもが生まれた。 アイカという新たな存在が産声を上げた。 アイカから聞いたそこにあるもの達、プレシアやリニス、アリシアにキリト等、あの世での役目を果たし終えたから同じ世界にたどり着いた。 だから出会い交流できた。

 

 どのように新たな存在になるのかは不明だが、少なくともその世界とはやて達の世界は繋がっているのだ。

 こうしてアイカがこの世界に現れたように、一方通行な繋がりが存在するのだ。

 

 はやての目の前にいる小さな男の子は、そうやって巡り巡ってきた運命なのかもしれない。

 

「……ヨシヨシ」

「うひやぁ! はやておねーさんどうしたでごぜーますか? アイカの頭を撫でて……えへへ」

「なんとな〜くやけど分かったわ。 アイカ」

「あい?」

「これからもずっとよろしくな?」

「アイ! もちろんでごぜーます!」

 

 改めてよろしくお願いすることにした。 不思議とそうしたくなった。

 そして本日のメインイベントへ戻る。

 

「よし! それじゃあそろそろお掃除再開しよか! アイカはみんなのお手伝いお願いな」

「頑張るでごぜーます!」

 

 気合いを入れ直し、掃除を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから昼を跨ぎすでに夕方。

 数時間の格闘の末に、ようやく最後のゴミ袋をまとめ終わる。

 

「よーし、これで今日の大掃除は終わりや! みんなお疲れ様!」

 

 本日のメインイベント終了。 アギトやアイカという新しい家族のおかげでいつも以上に捗った大掃除は例年以上の成果を上げた。 具体的には捨てる物が増えた。 八神家は文字通り綺麗に片付けられたのだ。

 

「うぅ……さようならリインのお友達達……」

「だぁもう泣くなよ。 きっぱり処分してやるのも優しさってやつだろ?」

「うぅ……そうですよね……モノはしっかりと供養することも大切ですよね」

「……いやまぁゴミとして出してるから供養かどうかは知らねぇけどな」

 

 リインのモノも多く捨てられることになった。 おかげで家の中のスペースか増えたので大喜びであるが、今は黙っておこうとリイン以外が思った。 地味に残酷な話である。

 

「さて、色々と時間がかかっちゃったし。 今日はみんなで外に食べに行こか」

「さんせー」

「わーい! 外食でごぜーます!」

 

 大掃除の間買い物に行けなかったので食材がない、だからというわけでもないが大掃除をした日は決まって外食するのが八神家の暗黙のルール。 こういう日くらいは料理を作るはやても休みたくなるのである。

 

「どこ行くんだ? あそこのファミレスか?」

「ファミレス!」

「最近出来たという小料理屋はどうでしょうか?」

「小料理屋!?」

「せやなぁ……アイカの反応的にもファミレスにしよっか」

「おおー!」

 

 場所は決まった。 そこに徒歩で向かう。

 八神家から歩いて5分10分の場所にちょうどファミレスがあるのだ。 ファミリー層がよく利用しているファミレス、大所帯になったはやて達でも行って文句は言われないだろう。

 

「いぇいイェーイ!」

「なんやご機嫌やなアイカ」

 

 アイカが一番歩幅が小さい、のではやてはアイカの歩幅に合わせるために最後尾をアイカと共に歩く。

 そのアイカは実に嬉しそうにはしゃいでファミレスに向かっていく。

 

「アイ! アイカはファミレスなんて初めてでごぜーます! お外でご飯を食べるのも初めてでごぜーますよ!」

「そうなんか? ……いや、考えてみればそらそうか」

 

 アイカのいた『終わりの世界』にファミレスなどあるのか、いやそもそも食事をするという行動が必要なのかどうか定かではない。 そして恐らくは『生きている存在』はアイカだけなのだろう。 祝歌や他の者達は『終わり』から『始まり』に向かう途中の存在、生きているとも死んでいるともいえない存在。

 そう考えてみればファミレスというごく当たり前の経験すらアイカはしていない。

 

「ママのお料理はすんげー美味しいんでごぜーますが、ファミレスとかはパパ達のお話でしか聞いたことないから楽しみでごぜーます!」

「あ、料理は作ってもらえてたんか。 ……ますます不思議な世界やな、材料はどこかで仕入れられるんやろか」

「ファミレス楽しみでごぜーます! ワクワク!」

 

 楽しそうに両手を振りながら歩くアイカ。

 その姿を見てはやては気付かされる。

 

「(そうやったねぇ……アイカにはみ〜んな初めてのことやもんねぇ)」

 

 アイカにとってこれからある事全てが初めての経験なのだ。 嬉しい事楽しい事、辛い事悲しい事、それら全てが初めてなのだ。

 普通の家族が経験すること、普通の男の子が経験すること、何もかもが初めて。 それはこの世界におけるギャップと言ってもいい。

 

 何もかもが初めて、ならば共に側にいてあげることが正解であり……遠くから見守ることも正解である。

 その難しい選択をこれからはやて達がしていかないといけない。 アイカの両親の代わりに。

 

「……なぁアイカ」

「アイ?」

 

 足を止め呼び止める。 振り返った先にあるはやてを映すその瞳は何よりも無邪気な輝きを帯びたままはやてを見つめる。

 

「アイカは……これから色んなことをする、していくんやと思うんだけど」

「アイ! パパのふるさとにも行ってみてーですし、色んな星にも行ってみてーでごぜーます!」

「……アイカは夢とかある?」

「あるでごぜーます!」

 

 アイカは両手を上げグッと力を込めてポーズを取る。

 

「アイカ、はやておねーさんよりも『ほんの少しでいいから強くなりたい』でごぜーます!」

「……私よりも?」

 

 思ったよりも不思議な夢であった。 すでに魔力量だったり使える魔法だったりでだいぶ匹敵すると思われるが、しかしアイカにとってはそうではないらしい。

 

「アイ! だから色んなコト、やってみてーでごぜーます! 学校っていうのにも行きてーでごぜーます!」

 

 アイカの無邪気な笑顔から感じ取るのは『無垢』。 この無垢な魂をこれからはやては導かねばならない。

 時に優しく、時に厳しく。 だがその道のりは間違いなく……楽しいものになるに違いないとはやては決定づける。

 

「そっか……なら大人の私らが色々助けてあげんとな」

「ほんとーでごぜーますか!? ありがとうごぜーます!」

「よし、ほんならまずは人生初のファミレスを楽しもうか!」

「アイ!!」

 

 アイカの小さな手を取り、スキップ気味に足を躍らせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイカが生まれたのは、奇跡といってもいい程の現象であった。

 

『産まれた……産まれたぁぁ!!』

『よかった……よかったぁ……! よく頑張ったねリインフォース……!』

『あなたの声がなければ途中で挫けていました……ありがとうございます、祝歌』

 

 本来ならば終わり新たに生まれる場所、『終わりの世界』にて愛を持って生まれた存在。 それが『愛祝歌(アイカ)』である。

 

『あらあら玉のように可愛いとはこの事ね』

『アリシアが産まれた時の事を思い出しますね、プレシア』

 

 その祝福の側にいたもの達が数人。 この愛を見守っていた者達。

 

『リニス、これはつまり私達の弟ってことだよね!』

『そうですね。 お姉さんとして頑張らないとですね』

『やったー! 頑張ろうねキリト!』

『うん、僕達が色んな事を教えてあげようね』

 

 側にいるのはもちろん、この世界で終わりを迎えた者達である。

 

『翔次を思い出すな……弟かぁ』

『頑張ろうね最年長お兄さん』

『そうだなぁ頑張るかぁ!』

 

 終わりを迎えた者達が祝福を送る。 産声を上げたばかりのアイカはただ泣いていた。 元気に生きていることを証明するために泣いていた。

 

『これからよろしくね、アイカ』

『あなたに祝福を……アイカ』

 

 アイカはこの世界に祝福され、そしてこの終わりの世界の祝福となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからアイカは『終わりの世界』で成長し続けた。

 母親から受け継いだ膨大な魔力に数数多の魔法、父親から受け継いだ不思議な能力。

 そして親切な隣人達から様々なことを受け継いだ。 特に稀代の魔女からは魔法の知恵から世界の成り立ち、立ち振る舞いまで丁寧に。

 

 そうやって成長を続けたアイカは『終わりの世界』の先にある世界を見る事が出来るようになった。

 魔法によるものか、それともこの世界で元々できた事なのかは定かではないが、いつからかアイカははやて達がいる世界を見ていた。

 

 見ていただけではあるが、なのはの事もフェイトの事も、キリンや翔次の事もアイカは見ていた。 家族や隣人達と一緒に。

 

 そこで初めてアイカははやてを見た。 父親と母親が何度も何度も話をしてくれた、両親にとって大切な存在。

 その時アイカは初めて両親の寂しそうな目を見た。 生まれて初めてのことだった。

 

 そこからアイカはずっとはやてを見ていた。 はやての持つ苦悩、待ち受ける困難、立ち向かう勇気……たくさんのはやてを見てきた。

 

 しかしそれでもアイカは気になって気になって仕方なかった。 何故頑張るはやてを見て両親は寂しげな目を見せるのか。

 

 何故そんなにも悔しそうなのか聞いてみた。

 

『うん? それはね……お父さんもお母さんも、たくさんの時間をはやてちゃんと過ごしたかったんだ』

『私は常に主の側にいたが……その悲しみに寄り添う事すらできなかった。 こうしてリインフォースという名前を得たのに、主の側にほとんどいる事ができなかった』

『本当はもっとはやてちゃんの成長を側で見ていたかった。 今でこそこうやってアイカのおかげで見る事ができるからいいけど……それでもやっぱり悔しいんだ』

 

 両親の言葉を聞いて、アイカは意味が分からなかった。 側にいれないことが悔しい、その理由が分からなかった。

 

 だが、次に零した母親の言葉で気付いた。

 

『もっと我々が、自分達の宿命に打ち勝てる程度の、ほんの少しの力があれば──』

 

 ほんの少し。 自らの運命に抗える程の、ほんの少しの強さが足りなかった。

 だから悔しいのだ。 そうアイカは言葉でなく心で理解した。 感情を受け取って理解した。

 

『だったら、アイカが強くなってはやておねーさんの側にいるでごぜーます!』

 

 アイカは決めたのだ。 両親が何よりも大切に思っている一人の少女に会うと。

 

『パパとママもずっとはやておねーさんを見ていたって教えてあげるでごぜーます!』

 

 ずっと一緒に見てきた両親の思いを、あの時では足らなかった『言葉』を伝えるために。

 

 そしてアイカは『終わりの世界』から向こうの世界に行くための準備を少しずつ始めた。 少しずつ、最初は短い時間から身体を慣らしていき……ゼストの窮地に駆けつけることができた。

 

 しかし『終わりの世界』とこの世界は一方通行。 行き来する事はもちろん戻ってくる事も叶わない。

 つまりアイカはもう二度と両親に会う事ができない。

 

 それでもアイカははやての元に向かう事を選択した。

 

『アイカ、はやておねーさんよりもほんの少し強くなるです。 それでずっとはやておねーさんよりも長〜く生きるでごぜーます! そしたらパパやママの時みたいにはやておねーさんに寂しい思いをさせないでよくなるです! だからほんの少しでも強くなるでごぜーます!』

 

 両親から託された意思、受け継がれた沢山の『言葉』、それらをその小さな身体に背負う少年。 これから少年がどのように成長していくかは誰にも分からない。

 

 しかし少年は受け継いでいく人間である。

 未来も過去も全て受け継いでいく人間である。

 

『アイカ、頑張るでごぜーます!』

 

 これは、『不ノ九是 愛祝歌』という人間の物語の始まりである。

 




ほんの少し、強くいるよ。

今回も誤字脱字等のミスがありましたら、コメントにてお教えください。

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