オレはオレの幸せに会いに行く   作:ほったいもいづんな

63 / 76
これが多分今年最後の投稿かな?


62話 魂の導火線

 62話

 

 

 

 

「ローリは本当に先を見据える男だ、上手く行くことも行かないことも全て見据えて行動をしていた」

 

 スカリエッティの口から語られる、ローリの話。

 

「私が彼に初めて会った時、彼はコンピュータの中から私にコンタクトを取ってきた」

 

 ーーそれは今から何年も前……まだナンバーズもウーノ、ドゥーエ、トーレ、クアットロしかいなかった時である。

 アジト内で研究を行っていたスカリエッティの元に、何処か遠い所から遠隔操作でローリはコンタクトを取ってきた。

 

「彼は私に言ったのだ。 自分を迎えに来て欲しい、と……今思えば奇妙な話だ。 兵器の提供依頼でもなく、技術提供でもなく、ただ迎えに来て欲しいと言ったのだからね」

 

 疑問しかなかった。 何故アジトの場所を知っているのか、この場所にコンタクトを取ることができるのか、そして何故メッセージだけなのか……積み重なる疑問はやがて興味となる。

 

「私はすぐに娘たちに彼を迎えに行くように言った。 そして驚いたよ……彼は()()()()()()()()()()だったのだから」

 

 トーレからの連絡に心底驚いたスカリエッティ。 AIやデバイスなら何かしらの媒体が存在する筈だが、ローリはただのマイクロチップだったからだ。 縦3㎝横4㎝の小さなマイクロチップ。 それがローリ。

 

「帰ってきた娘たちからそれを受け取ると、私の端末に読み込ませた。 すると機械音声で話しかけてきた……ローリが」

 

 これが初めの邂逅。 天才(狂気)天才(狂気)が出会い。

 

「そこから私は彼から、自身が転生者であること、この世界の歴史を知るものだと教わった。 初めは半信半疑だったが……彼の予言にも似た予感は的確にこれまでの次元世界の事件を当てていった。 そしていつしか私は彼を信頼するようになり……きっと彼も私を信頼してくれたんだと思う」

 

 スカリエッティとローリ、共に精神を狂気によって満たされた孤独な存在。 だからこそお互いに理解し合い、共感し、信頼していったのだろう。

 

「ある日、私と彼は共同で彼の肉体となる器を作ることにした。 娘たちとはタイプの違う肉体、特殊な武装を一切付けない純粋なパワーと魔力だけの器。 キミらも知っている最初の器さ」

「最初に会った時の……」

「そう、キミが打ちのめした最初の器。 だけど私も彼もそこは想定内だった」

 

 初めの肉体はキリンの全力に敗北を許した、しかしそれは想定内であった。 何故ならこの段階からローリは次の器を構想しており、最近の肉体はいわば準備運動に過ぎなかった。

 

「ローリが提案していたのは元々『メタルローリ』の器だったのさ。 しかしいきなり人型の器を効率よく操作できると思わなかった私が最初の肉体を提案したのさ……メタルローリの恐ろしさはキミが一番知っているだろう? ムラサキ・キリン」

「…………」

 

 思い起こされるメタルローリの脅威。 どれだけ必死に破壊しても再生され、強化し再び襲いかかってくるあのメタリックの悪魔。 あの時はキリンが限界を超えた魔力を無理やり引き出したから勝てたものの、あれは間違いなくキリンの敗北だった。

 

「私にはなかった発想だった。 私には高速再生までしか形には出来なかったが……ローリのあの演算能力が再生するたびにダメージを計算し強化するのを可能にした。 あれは正に至高の逸品だ……」

 

 戦闘機人からメタル化、スカリエッティとローリの合作と言えばいいだろうか。 それを語るスカリエッティはまるで友人との思い出話を語るように楽しげに……見えた気がした。

 

「だが……それでも……メタルローリが敗北する可能性はもちろんあった。 私も彼もそれをしっかりと理解していた。 だから彼をゆりかごに組み込むまでを計画に入れていたんだ。 ()()()()ね」

「最初からやて……!?」

「一体どこまでを想定して……!」

「いくら転生者だからといって原作から道を外れた瞬間どう転ぶか分からないというのに……そうなる事すら予測してたのかローリは」

「彼は私に並ぶ天才さ……そして彼の狂気もまた私に並ぶほどであった」

 

 スカリエッティの表情が曇り始める。

 

「天才は常に完璧を求め、完璧から外れる。 これは天才故の一種の境地であり、揺るがぬ信念とも言える。 ……しかし、そこに自分という個がなくなったらどうなると思う?」

 

 天才にとって完璧とは絶望だと、天才の誰かが言った。

 常に独創的な未知を発見し生み出す事こそが最大の快楽だとするならば、完璧が出来上がった瞬間、溢れ出る絶望に飲まれて死ぬ事になる。

 だが、そこに心がなければどうなる?

 

「彼は狂気の心を持つが故に……自分の心がなくなる事すら予測してしまった」

「心がなくなる……?」

「キムラ・シンゴ、キミは人の心が読めるそうだが……それは心があるから出来る事であり、当然心のない人間は存在しないから立証されている能力だ。 だが、彼の魂はマイクロチップの中に詰まっている。 データの一部として搭載されている」

「……まさか」

 

 モノには必ず許容範囲があり積載量が決まっている。 データが一杯になれば不要なデータを消すように、要らないものを捨てるのは自然界においても道理。

 その道理にローリは従ったのだ。

 

「ゆりかごとの同期……それはゆりかごの全機能の掌握を意味するものではなく、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()』ことだ」

『ッ!?』

 

 その言葉に驚いたのは、機動六課ではなく戦闘機人達であった。

 

「ドクター! それはどういうことですか!」

「知らない……! そんなことまでは聞いてない……!」

 

 少なからず、ローリと共に過ごしていた彼女らにだって家族的な親愛がある。 特にクアットロとセッテには、特に。

 

「……最初から、私達はそうすると約束していたのさ」

「どうして黙っていたんですか!」

「言えない……というよりローリから止められていたんだ」

「ローリが……?」

「ローリは言っていたよ……『ナンバーズ達と馴れ合いすぎた。 もし我々の最後の作戦を聞いたらあいつらは確実に反発するだろう……それでは我々の作戦に支障がでる。 いいかスカリエッティ、あいつらには内密にするんだぞ』……とね」

 

『馴れ合いすぎた』。 それはローリの本音であり彼女達に対する感謝の言葉である。

 

「……っ」

 

 元より強く責めることはできない。 だが、こんなにも悔しい思いをしたのはクアットロにとって初めてであった。

 だが、今はそれを優先すべき時ではない。 スカリエッティは話を戻す。

 

「……話を戻そう。 ローリはゆりかごの中で、100%同期が完了するまでに3つの姿を用意していた。 一つ目はゆりかごの魔力炉を守るための『(コア)』、二つ目は玉座でヴィヴィオちゃんの手綱を握るための『玉座(スローンズ)』」

「あれか……」

 

 思わず腹部を触るヴィータ。 結果的に倒すことが出来たとはいえ、はやてにリイン、何よりアイカがいなければ破壊が不可能に近かったであろう。 それほどまでに堅牢であった『核』。

 

 そしてヴィヴィオと共になのはを攻撃した『玉座』。 ヴィヴィオの攻撃に合わせて飛び交う機械の触手はなのはですら手を焼いた。

 

「そして『核』もしくは『玉座』のどちらかが破壊された場合に姿を変形させ最後の三つ目のローリ。 『壊物(モンスター)』となる」

 

 なのはとヴィヴィオはよく覚えているだろう。 溢れ出した機械部品がヴィヴィオを飲み込み、巨大な怪物へと姿を変えたその恐ろしさを。 あの時はヴィヴィオの中にある「聖王の鎧」のリソースをエネルギーに変えていた。 もし逆だった場合は魔力炉のリソースが使われていたのであろう。 どちらに転んでも恐ろしい話である。

 

「『壊物』となったローリはメタルローリと同じ再生と強化能力を持ち、その破壊力はあの日の夜のムラサキ・キリンを超えている。 よく倒した物だと敵ながら賞賛させてもらうよ」

「……」

「だが、『壊物』を破壊したキミなら分かるのではないか? 高町なのは」

 

 スカリエッティの言葉、なのはには心当たりがあった。 それはなのはが拳から力を分けてもらった後の攻撃の最中、攻撃を行いながら何かを探っていた。

 

「……ローリの本体はあそこになかった」

「その通り。 あれすらもローリの遠隔操作なのさ」

「……じゃあやっぱり……」

「そう、ヴィヴィオちゃんの中にある『聖王の鎧』、その中にあるゆりかごの操作権限を奪っているということだ」

「私の中の……」

 

 ローリが『壊物』となった時にヴィヴィオを取り込んでいた。 その中でヴィヴィオから『聖王の鎧』による魔力のリソースを全て奪いつつ、その中にあるゆりかごの捜査権限すらも奪っていたのだ。

 だからこそヴィヴィオから『聖王の鎧』を破壊できたとも言えるのだが。

 

「今見えるあの球体はゆりかごを再構築するために作り出された『繭』だ。 あの状態のゆりかごに攻撃を行ったとしてもダメージは与えられない上に……攻撃を行った対象に自動で反撃するシステムになっている」

「繭……それでクロノ君達が砲撃しても効かなかったし……反撃されたってわけなんか」

 

 遠目に見ても分かる程の圧倒的強度、そして破壊力。 あれだけでも十分驚異的だというのにスカリエッティの説明ではまだ先がある事を察せられる。

 

「キミ達がゆりかごから脱出する時に……見なかったかい? ゆりかご内部が激しく蠢いているのを」

「……ローリの最終手段ってやつやろ?」

「そう、あれがローリの……『ローリの心』がやれる最終手段。 あれが終わった今……ローリの心は『ゴミ箱(デリートスペース)』行きさ」

「ローリさん……!」

 

 ちらりと視線を『繭』の状態のゆりかごに移す。 まだ球体の状態を保っているが……誰でも分かる。 時間が経てばあの状態ではなくなる事を。

 

「再構築には少し時間がかかる……今はまだ自動反撃だけだから何もしなければ問題はない……でも」

「……それが終わったら私たちも……ミッドチルダも、次元宇宙が危ないんだよね」

「その通りだ」

 

 肝心な危機的状況を口にするフェイト。 ここまで説明されれば誰でも分かる。 だからいつまでたっても気を落としてはいられない、眼前の脅威を何とかしなければ何もかも終わってしまう。 それは何よりもクロノが阻止したい事だからだ。

 

「『繭』の状態からローリが再構築したゆりかご……さしずめ『真ゆりかご』と言ったところか。 あれになってしまえばもうゆりかごの周囲にいる全ての生命体も機械も何もかも破壊され、そして『真ゆりかご』は破壊できる対象を求めて移動を開始する」

『ッ!!』

「そうなってしまえば私や娘達もタダでは済まない……確実に殺されてしまうだろうねぇ」

 

 完全に破壊のみを目的とした兵器。 破壊と破壊と破壊と……何もなくなるまで破壊し続ける災害と化したゆりかごとローリ。 艦隊を一瞬で殲滅できる破壊力を見たキリン達にとって荒唐無稽な話ではない。 実に真実味を帯びた恐怖である。

 

「……その様子じゃあさしものジェイル・スカリエッティでも打つ手立てはないようだな」

「ないさ。 仮にあったとしてもすでに彼に視られているだろうしねぇ」

「…………」

 

 翔次の言葉に対し心悟を指して答えだと言う。 心の境界を操り覗ける彼が何も言わないのだから真実なのだと。

 

「シンゴさん……」

「…………嘘を言うなジェイル・スカリエッティ」

 

 だがそれを嘘だと知っている心悟。

 

「まだ、確率0%に限りなく近いだけで手立てがないわけではないだろう……?」

「…………」

「お前はこう考えている。 仮に『これ』を行ったとしてもゆりかごを破壊することはおろか傷一つつけられない可能性が大いにある……と」

 

 心悟は決して嘘をつかない。 ならばこそこの言葉には信憑性がある、目の前のスカリエッティよりも遥かに。

 

「なぁシンゴ、その手立てってのはなんだ?」

「簡単な話だヴィータ。 ()()()()のさ、君風に言うならね」

「っ!? アレをか!?」

 

 もっともシンプルな手立て。 ゆりかごを破壊するという今さっき失敗したのが一番の方法だと言う。

 

「ジェイル・スカリエッティ、あのゆりかごが『真ゆりかご』になったらどうなるのか教えてくれたまえ」

「……ゆりかごがあの『球体』の状態ではなくなる。 その姿は私にも分からないが……ローリが予め計算した結果防御力は『球体』の時よりも確実に下がる」

「それってつまり……!」

「あぁ、あの『球体』が解除されれば破壊できる可能性が生まれるということだ」

 

 見え始めた光明。 だが世の中上手い話だけではない。 スカリエッティがなぜ0に近い確率だと断定したのか、それが肝である。

 

「そう、そして『真ゆりかご』は完全な姿となり……能動的に敵を排除するようになる。 ……もちろんその攻撃を防ぎながら長距離による戦艦砲で攻撃し続けられれば破壊は可能だろう。 『真ゆりかご』となった場合の破壊力は『球体』の時とは比べ物にならないけどね」

 

 破壊力の増大。 それはシンプルに防ぐ手立てがないと言うことだ。 躱すことはできるのかもしれないが、向こうはスカリエッティ超えの演算能力を持つローリ。 躱されても早い段階で完璧に捕捉され、終わる。

 光明はいとも容易く奪われる。

 

「もちろん『真ゆりかご』になったばかりの初動は最高出力とは言えないが……それでも戦艦を破壊するのは容易い」

「……」

「だから手立てはないんだ。 実行に移す材料も火力もないからね」

 

 用意するものは二つある。

 一つは火力。 それもゆりかごの外壁を破壊して一気に消滅させる程の圧倒的瞬間火力。 おそらくは戦艦砲以上の物が必要になるであろう。

 これはまだキリンを始めとする広範囲魔法使いが複数いるからまだ何とかなる。

 

 もう一つは陽動。 用意した火力、そもそもこれを用意するまでに確実に『真ゆりかご』に察知される。 これから攻撃を防ぐもしくは的を増やし壁となる人員がいる。

 だがこれがもっとも難しい。

 何故なら戦艦を破壊する以上の威力の攻撃が入り乱れるのだ。 仮にスバルが防御に魔力を全振りしても致命傷は避けられない。 確実にその時点でリタイアである。

 今陽動を行えるのはフォワード陣4人、ヴァルケンズとリイン5人、シスターシャッハ、ギンガ、翔次を含めた11人。 ヴェロッサの使役魔法を考慮してもそう多くはない。

 このメンバーで火力が用意できるまで攻撃を防ぐ……そして用意した最大火力で攻撃をしている最中も守る必要がある。 それは確実に難しい。

 

「今のボク達では『足りない』というわけか……」

 

 せめてこの倍の人数がいなければ実行する最低限に満たないであろう。

 

「…………」

 

 だがこの場で一人だけ違う事を考えているのが一人。

 

「……ねぇドクター」

「なんだい……セッテ」

 

 セッテだ。 セッテだけは瞳に宿す憂いが違う。

 

「……ローリは、ローリはあのままだとどうなるの……?」

「…………」

「だってローリ……ずっとゆりかごと一緒だから……ゆりかごはエネルギーが尽きる事がないって言ってたから……ローリはあのままだと……ずっとあそこにいるの…………?」

「……」

 

 セッテの言葉に一瞬言葉が詰まるスカリエッティ。 だが彼は娘の質問に誠実に答える。

 

「ローリはずっとあのまま、ゆりかごがどれだけ暴れまわって、もう何も破壊するものがなくなっても……あそこに居続ける。 自爆するプログラムが作られる可能性も否定できないが……もう心を捨てている彼にそういう自らが不利になる不安要素は作らないだろう」

「じゃ、じゃあ……!」

「……もし、仮にヴィヴィオちゃんがゆりかごでローリの代わりにリソースを回していた場合、彼の心は残ったまま。 私達の作戦が上手くいった場合だけ彼は死ぬ事ができた。 だが今はそれももうない」

「ッ!!」

 

 本来ならば、スカリエッティの復讐が成功した暁にはヴィヴィオはローリの自由にしてもいいと言う話であった。 そこからローリはヴィヴィオを自分の娘に仕立て上げるという当初の目的(狂気)に身を任せていた。

 だがそれももう望めない。

 

「じゃあ……ずっとローリはあのままなの……っ!」

「セッテちゃん……」

「ローリは……ずっと……ずっと……!」

 

 その悲しみに何かが動かされる。

 

「ローリは大切な人に会いたかった!!」

「セッテ……!」

「ずっとずっと会いたかったんだ! 本当に大切な家族に! 本当の家族に!」

 

 セッテから溢れ出す感情、祈り……涙。

 溢れ出て止まらない。

 

「ローリはずっと会いたかった! だから転生が嫌いだって言ってた! 本当は死んだ時すぐに再会したかったんだ!!」

「……もういいのよセッテちゃん」

 

 だが、それを制するクアットロ。 彼女の表情は諦めと悔しさが混じったなんとも言えないものになっている。

 

「ローリさんはもう助からないし……誰にも助けられない。 方法だってあってないようなものなんでしょうドクター?」

 

 気怠げにスカリエッティに質問をする。 実にらしくない態度で。

 

「……もし、『真ゆりかご』から無事ローリの本体であるマイクロチップを回収し、もしまだローリの心のデータが『ゴミ箱』の中で削除されずにいたのなら……まだ何とかなるかもしれないねぇ」

「それなら!」

「無理よ……無理無理。 どうやってあの中からローリさんの本体を取り出すっていうの? どこにあるのかすら分からないのに、戦艦を容易く破壊できる攻撃を避け、頑強な外骨格を破壊し、驚異的な再生が完了するまえにローリさんを連れ出す……無理よ」

 

 そもそもゆりかごを破壊すること自体、今現在困難を極めている上にローリの本体をそこから回収するのは……土台無理な話である。

 

「だからもう、ローリさんは諦めましょう」

 

 だから諦めた方が建設的である。

 そう言い聞かせる。

 

「……」

「……チンクちゃん……?」

「ふん!」

「痛っ!?」

 

 そんなうじうじした所にチンクのチョップが脳天に落ちる。

 

「……あ、なるほど」

 

 誰かがそういうと、ナンバーズの面々が次々とクアットロに近づき……何か一発加えていく。

 

「いたいいたいたい!! 何で!?」

 

 殴られ叩かれつつかれ蹴られ……何故かすごい叩かれる。 とにかく困惑しているクアットロに、口火を切ったチンクがいう。

 

「何でもヘッタクレもない。 クアットロが腑抜けてたから活を入れてただけだ」

「チンクちゃん……」

 

 静かに、だが凛とした声でチンクは言う。

 

「え、そうなの?」

「とりあえずノリで叩いたなんて言えないっす……」

 

 だがその隣で小声で話すコンビがいるが……この際は一先ず置いておく。

 

「クアットロ、お前は知っているはずだ。 ローリが我々にしてくれたたくさんの事を」

「……それは……」

 

 ローリがナンバーズ達に、スカリエッティにしてくれたたくさんの事柄。

 その数多くある中から一つずつ言葉にして紡いでいく。

 

「ローリはよくドクターや私たちと会話をしてくれました。 作戦のことから他愛のない話まで」

 

 ウーノとよく話をしてくれた。 スカリエッティの良き理解者として、仲間としてウーノ達と話をしてくれた。

 

「ま、あんなのでも私によく気をかけてくれるし。 気遣いとかぶっきらぼうにしてくれたしね」

 

 ドゥーエは潜入して任務にあたる事が多い。ローリはその動向を常に確認しドゥーエの事を気遣っていた。

 

「私の戦闘の基礎はあいつにある。 ローリが私に指示してくれたおかげでナンバーズ全体の戦闘力の向上を図れた」

 

 トーレの戦闘シミュレーションに付き合い、ナンバーズ全体の戦闘能力を見通し訓練を行っていた。

 

「お前も知っていることだ、クアットロ」

「……!」

 

 そこから順番に次々と言葉にしていく。

 

「妹達の面倒を見ている時、ローリはよく声をかけてくれた」

 

 チンク。

 

「あたしはよくチンク姉に迷惑かけるなって言われたっけなぁ」

 

 セイン。

 

「戦闘時の作戦だったりはあいつが立ててくれたからな……まぁそれで勝てなかったのは申し訳ねぇが」

 

 ノーヴェ。

 

「あいつは気持ち悪いやつだが……あいつがいなければ危険な場面が多かった。 私たちはいつもローリに助けられている」

 

 ディエチ。

 

「意外とノリよかったりするっすからね〜冷たいけど優しかったりするし」

 

 ウェンディ。

 

「生まれたばかりの私たちにもよく気にかけてくれました」

「ローリ様のおかげでお姉様達にも早く馴染めました」

 

 オットー、ディード。

 これだけの言葉が容易く紡がれる。 きっとたくさんの物語が彼女達とローリの間にある。 もちろんセッテにも。

 

「私……ずっとローリが寂しそうな目をしているのが不思議だった……だから少しでも居られる時は側にいようって…………みんないるのに悲しそうなのが嫌だった……」

「セッテちゃん……」

「だから! ……ローリがあそこで一人ぼっちだなんて……私は嫌だ!」

 

 セッテはもちろん、ナンバーズもスカリエッティもおおよそ普通とはかけ離れている存在。 だが彼らは家族である。 同じ目的のため行動し、同じ信じるもののために戦ってきた。 そんな彼らもアジトに戻れば談笑をし、共に食事だって食べる。

 彼らは家族である。 そしてそこにローリもいるのである。

 

「クアットロ」

「ドクター……私は……」

 

 皆、ローリがスカリエッティと共に行動している理由は知っている。 知っているから家族なのではない。 ただそこに居てくれてたから家族になっていたのだ。

 だから。

 

「クアットロは……本当にローリに死んでほしいかい? 今でも……」

「ッ〜!!」

 

 スカリエッティの言葉に、もう耐えられなかった。

 

「えぇ! もちろん!」

 

 クアットロの言葉は実に彼女らしく……だがそこに嫌悪も憎しみもない。

 それを知っているスカリエッティは、ただ黙って静かに見守っている。

 

「いきなりドクターと意気投合して、いきなりドクターと同等に仕切り出して! あんなムカつくやつ、さっさと死んでほしかった!!」

 

 剥き出しになる感情が、クアットロの目尻に涙を持ってくる。

 

「あんな……! あんなやつ……!」

 

 クアットロの脳裏に浮かぶローリの姿、言葉達。 それら全てをクアットロは知っている。 そしてクアットロにだけ見せたその姿も声も……

 

()()()()()()()()()() だからあのまま()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 クアットロの目に、意志が宿る。 強い強い、人間のような強い意志が。

 

「引きずり出して腹の底から笑って見下してやらないと気が済まないわ!」

「クアットロ……!」

「ごめんねぇセッテちゃん、それにみんなも。 ちょっとカッコ悪い所見せちゃったわぁ」

「ふっ、そうしてくれると……やはりムカつくが頼りになる」

「ふふっ、セッテちゃんもありがとね? ……セインちゃんとウェンディちゃんは後でお話ししましょう〜?」

『ひえっ!?』

 

 全員の意志が一致する。 覚悟もまた同じ。

 ナンバーズ全員の顔を見たスカリエッティは、振り返りはやてを見る。

 

「さて、機動六課の諸君。 これで『12人』追加だ……!」

「……ええんか、ジェイル・スカリエッティ」

「もちろん。 今は何よりもローリのために、我が友のために……そういうことなのでね」

「……おーけー、監獄に入れたら多少は優遇したるわ」

 

 これで『23人』になった。 その様子を見ていたエリオとキャロがルーテシアに問う。

 

「ルーちゃん達は避難しておく? お母さんもいるし……」

「もうルーに戦う理由はない、ここは僕達に任せても……」

 

『残る』か『否』か。 二人の問いにルーテシアは迷いなく答える。

 

「うぅん、私も……一緒に。 せっかく母さんと再会できたのにローリが暴れて大変な事になっちゃうのは嫌だから……私も一緒に戦う」

「ルーちゃん……!」

「うん、一緒に頑張ろう!」

 

 これで『24人』。 ルーテシアの覚悟を聞いていたシグナムがアギトとゼストに問う。

 

「ゼスト殿とアギトはどうする?」

 

『残る』か『否』か。

 

「へっ、バカ言っちゃいけねぇ。 ユニゾンした時から最後まで戦い抜くって決めたんだ。 そいつは野暮だぜ」

「……そうだったな」

「俺はこの戦いでルーテシアの騎士として最後まで戦うつもりだ。 ルーテシアが残るというのなら俺も残って戦う」

「あい分かった……頼もしいかぎりだ」

 

 これで『26人』。 これだけの陽動があるのならば特大の砲撃を用意する時間を稼げる。

 もちろん砲撃するのは決まっている。 なのは、フェイト、はやて。 そして……

 

「さて、後は……キリン?」

「んぐっ!?」

 

 キリンしかいない。 だがキリンはまだ決まりきってない。

 

「んがが……」

「キリン?」

「うぅ〜……」

 

 ゆりかごと一つになったローリは破壊しなければならない。 だが、もう完全にローリを助ける方向になっている。 それはキリンにとっては嬉しくないのである。

 

 大切なキリトを殺したローリを、助けるのは実にキリンにとって難しい問題である。

 

「……」

 

 だからフェイトはもう問いかけるのを止める。 どうするべきなのか、キリンはすでに理解している。

 だからこそキリン自身にしっかりと口にしてもらいたい。

 

「んだぁぁ!」

 

 キリンはヘリの屋根の上で頭を悩ませる。 胡座をかき腕を組み何度も何度も考える。

 

「んあああぁぁぁぁぁぁ……」

 

 声をだして、寝そべる。 見える青空にキリトの姿を描きながら。

 

 ーーボクはね、本来ならお姉さんに身体をあげた時点でもう会わないはずだったんだ。

 

 思い出す、あの日の事を。 最期の別れになったあの日の悲しみを。

 

 ーーボクは『幸せだった』。

 

 何故、伝えてくれたのかを。 言葉にしてくれたのかを。

 

 ーーお姉さん……お姉さんはもう自分を許していいんだよ。

 

「……」

 

 キリンはセッテを見ていた。 必死にローリを救いたいと願った一人の少女を見ていた。

 

「…………」

 

 キリンは身体を起こし、胡座をかいてセッテに話しかける。

 

「ローリは……俺ははっきり言ってローリの事が大っ嫌いだ」

「…………」

「あいつのせいで大勢のガキ共が死んで……キリト君も死んだ。 そんでオレがこの世界にきてしまって……元を辿っていけば何もかんもあいつのせいなんだ」

 

 ポツリポツリと話し出すキリンの言葉を、セッテは黙って聞いている。

 

「ローリの事は大っ嫌いだし、正直助けたいだなんて思えねえ……」

「…………」

「……でも、でもなぁ……()()()()()()()()んだ」

「……?」

 

 キリトの言葉を思い出す。 『もう自分を許していい』と、キリトは言っていた。 キリンはずっと自分が許せなかった。 だから旅に出た時、強くなりたいと思った。 沢山の人を守れるようになりたいと思った。

 そして今、大切なフェイトを守りたいと強く思っている。 これはもう、キリン本人の意志である。

 

 だが、ローリを許せないのは違う。 ローリを許せないのは……キリンが『自分を許していない』からだ。 まだ、許せてない自分がいる。 だからローリが許せない。 その事にキリンは気付き始めている。

 

「あいつには奥さんがいて、生まれてきた赤ちゃんがいて……ローリはきっと大切に思ってたし、思われていたんだろうなぁ……」

 

 キリンにキリトがいたように、ローリにも妻と子どもがいた。

 

「だから……もしかしたらオレ達は逆の立場だったのかもしれねぇ……そんな風に思っちまう」

 

 二人の境遇は似ている。 だからたまたまお互いにこういう立場にいるだけなのだ、とキリンは気付いた。

 

「……なぁ、ローリは君達にとって家族だったんだろ?」

「……うん!」

「そっかぁ……そうだよなぁ……」

 

 セッテの迷いない言葉に、キリンは目を伏せる。 数秒の後、覚悟が決まったのか目をゆっくりと開く。

 

「きっと、キリト君ならローリを助ける。 でもオレはそんなつもりであいつを助けない」

 

 立ち上がり、ミョルニルを起こす。

 

「でもあの子はオレの姿に憧れていてくれてた……だからオレは、キリト君を裏切りたくないからローリを助ける」

『……よろしいんですね、マスター?』

「あぁ。 いつも言ってんだろ? 『()()()()()()()()()』ってな!」

 

 これで砲撃役は揃った。

 

「よし。 スカリエッティ、あとどれくらいで真ゆりかごは動きだす?」

「そうだね……あと4分5分ってところかな?」

「それならちゃっちゃとやろか」

 

 機動六課、戦闘機人、今ミッドチルダの歴史においてこれ以上は存在しない、管理局と犯罪者の共闘。

 

「ラストブリーフィングや!」

『おー!』

 

 これが本当に最後の戦いとなる。 この物語の決着の時も近い。

 




年が明けたらいよいよ最終決戦でっす!
お楽しみに!

今回も誤字脱字等のミスがありましたら、コメントにてお教えください。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。