オレはオレの幸せに会いに行く   作:ほったいもいづんな

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もう12月だけど終わりますかー!?
終わりませーん!!


61話 クレイドル

 61話

 

 

 

 

 ローリとの激戦を終えたなのはの元へヴィータ達が合流を果たしていた。 途中でなのはが撃退したディエチとクアットロを縛りながら。

 

「なのはー! 無事かー!」

「なのはちゃーん!」

「ヴィータちゃん! 大丈夫そうでよかった……それにはやてちゃんにリインに……うん?」

 

 見慣れぬ子どもの姿に頭を傾ける。 ヴィヴィオから見ても全く知らない姿であり、同じ角度に同じタイミングで顔を傾ける。 早くも仕草が似てきた。

 

「わぁー! でっけぇ穴が空いてるでごぜーますなぁ!」

「うおっ、ゆりかごの外装ごと吹き飛んでる……外丸見えになってるなぁ」

「えっと……はやてちゃん、その子は一体……?」

「あ、せやせや。 取り敢えずアイカ、なのはちゃんを治してあげてな」

「あい!」

 

 ヴィータにしてあげたようになのはにも治癒の魔法をかけていく。 少し時間がかかるだろうが、ボロボロだったヴィータがほぼ完治してるくらいには回復するだろう。

 

「この子はアイカ、祝歌さんとリインの息子やって」

「そうなのでごぜーますよ!」

「祝歌さんと……え゛っ!?」

「まぁそういう反応になるよな……」

「……? ママの知ってる人?」

「知ってるというかなんというか……」

 

 実に説明に困る話である。 はやてもヴィータも何とかして納得できた話であり、そもそもリインと聞いて目の前にいる小さいデバイスの事しか知らないヴィヴィオにとって頭の中がハテナマークで一杯になる。

 とってもとっても不思議な話。

 

 だが。

 

「ーーみんな固まって!」

「ッ!?」

 

 それは今紐解かれる話ではない。

 今はこのゆりかごの中にいるのだ。 ゆりかごの話はまだ終わってない。

 

「何だこりゃ……!?」

「急に中身がウネウネ動き始めましたー!?」

「キメーでごぜーますぅぅぅ!!」

 

 突如、ゆりかごの壁や床からワイヤーを始めとする機械部品達が脈動するように溢れ出してきた。

 

「これはローリの……!」

 

 なのはとヴィヴィオには心当たりがあった。 これはローリが度々見せていた『再生と分析、強化』に酷似しているのだ。 その速度はかなりのものであり、例え大きな破損であったとしても……

 

「あっ! ママが空けた穴が閉じちゃった!」

 

 瞬時に修復できる。 そしてこの区画さえも堅く硬く固めていく。

 

「今来た通路も塞がれた!?」

「どけリイン! これくらいぶっ壊してやる!」

 

 ヴィータの一撃。 先程ゆりかごの核となる魔力炉を破壊した彼女の鉄槌。

 

「アイカが直してくれたアイゼンの威力、確かめさせてもらうぜ!」

 

 打ち付けた鉄槌。 しかし響くのは機械と機械が衝突して発生する高い金属音のみ。

 破壊することができない。

 

「くっ!? まだ全開じゃないからってキズ一つねぇだと……!?」

「当たり前だ」

「戦闘機人……どういう事だ」

 

 バインドで縛られ簀巻きの状態になっている二人のナンバーズが懇切丁寧にこの状況を説明してくれる。

 

「これはローリの最後の手段、本当の意味でな」

「……」

「ローリさんの力を持ってしてもこのゆりかご内で敗北した場合の最終処置、それがこれよ」

「『最終処置』……?」

「このゆりかごから聖王……そのおチビちゃんを逃さないためにこうやってゆりかご内部全てを使い、中にいる全ての存在を飲み込む……それが最終処置……ローリさんの『最期のあがき(ラストオーダー)』」

「こうなってしまっては私達でさえ脱出する手段は持ち合わせていない……お前らに利用される懸念があったからな。 ……つまりは絶体絶命ということだ」

 

 淡々と語る。 ディエチは冷静さを取り戻したのか、それとも半ば諦めているからなのか至って穏やかに説明する。

 だがクアットロの様子は明らかにおかしい。 散々管理局をバカにし見下してきた彼女ならばこの状況でなのは達がさらに絶望する表情を見せてくれるために煽りに煽るに違いない。

 しかしそれがない。 ただ天井を見つめて、静かに話していた。

 

「もう終わりなのよ……私たちも、ローリさんも……」

「……」

 

 静かに、悲しいのか憂いでいるのかも分からないその表情はまるで人間のようで、儚げに見えた。

 オマケにクアットロの言っていることは事実であり、今の状況は例えアイカの力があっても解決するのは難しい。

 この空間から抜け出すには、先ほどの『真紅の熱』をまとったなのはと堂々レベルの魔力で、一点集中の砲撃で壁を抜かなければならない。

 

 そう、『500万オーバー(規格外)』の魔力が……

 

「ッ!?」

「全員伏せろ!!」

 

 なのはの目には一瞬、自分がブチ抜いた壁に光が走っているのが見えた。 次の瞬間にはヴィータが伏せろと叫んでいた。

 その次の瞬間、金色と藍色の二つの光が壁を突き抜け輝いていた。

 

「きゃっ!!」

「ば……バカな……ゆりかごの……もっとも硬い装甲で守られている外壁からブチ抜いてきただと……!?」

 

 光はそのまま貫き続け、塞がれたスターライトブレイカーの痕跡のサイズまで穴を広げた。

 そう、まだ修復が済んでいなかったのだ。 ローリの弱点、修復中は無防備である事を見事についていたのだった。

 

「こんな規格外の事が……」

「……ハッ、忘れたのか戦闘機人ども」

「ウチにはいたやろ、ローリと唯一タメで殴り合える……『規格外』が!」

「……まさか!」

 

 再びこじ開けられた鉄の塊。 差し込んでくる空の光と……二つの稲妻。

 そこにいるのは最強雷カップル。

 

「なのはちゃん、お ま た せ !」

「無事でよかった……」

 

『限界突破』モードのキリン。 そして再びキリンの魔力をリロードした藍色のフェイト。

 二人がこの頑強なゆりかごの外壁をぶち抜いたのだ。

 

「……何かフェイトちゃんが青い」

「フェイトママは青くなっちゃった……」

 

『藍色』の魔力をまとったフェイトの姿を見たのはキリンやジェイル・スカリエッティ達を除いたら誰もいない。 その深い青に、艶やかな藍に目が吸い込まれそうになり……

 

ーーーーーーあれ?」

「ふぇ?」

 

 気が付けばなのはとヴィヴィオはフェイトに運び出されていた。 そよ風のような優しい風を感じたと思った時にはすでに外にいた。

 

「よかった……無事だったんだね二人とも」

「え、あ、うん」

「一瞬で外に出ちゃってる……フェイトママすごっ……」

 

 ヴィヴィオを抱えるなのは、を抱えるフェイト。 時間にしてコンマ0.0000……? 速度に比例してかかるGもフェイトの魔力によってガードされている。 何と優しい閃光だろうか。

 キリンもフェイトに比べて遅いが、それでも素早くはやて達の元に着地する。

 

「んじゃ、オレはそこの簀巻き持ってくから。 ちょっと離れた所にヴァイス君のヘリがあって、みんなそこにいるから」

「はいよ、それじゃあ行こかヴィータ、アイカ」

「おう」

「あい!」

 

 アイカを抱え脱出するはやてとヴィータ。 その後ろで簀巻き状態の二人のナンバーズを抱えながらキリンはアイカの事を見ていた。

 

「……なんだあのドチャクソ可愛い男の子は……!」

『バカ言ってないで行きますよマスター』

 

 ローリがロリコンの変態ならばキリンも別ベクトルの変態なのだと、抱えられたディエチは無駄に学習した。 ちょっとイラッときたそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆりかごからおおよそ1km離れた空域にいつものヘリが滞空していた。

 そこに合流するキリン達は開いたハッチから中に入る。

 

「よっす、ただいま」

「キリンさん! それになのはさんも無事だったんですね!」

「ただいま……みんな」

 

 なのはの顔を見た全員が安堵の表情を浮かべる。 やはり心配だったのだろう、人一倍無茶をして無理を通すのがなのはだ。 誰もが心配していた。

 

「おーおーうちはええんか〜? 上司の心配はええんか〜?」

「も、もちろん八神隊長の事も心配してましたよ! ね、ティア!」

「と、当然です!」

「ふーん……ほーん……へぇ〜?」

「はやてちゃん、そんなにいじけないの……」

 

 どうやらヘリにはスバル達フォワード及びシャマルやザフィーラ、アジト方面のシャッハやヴェロッサまでも中にいる。

 そして……

 

「やぁ二人共、見事なまでに簀巻きっぷりを見せてくれてるね」

「ドクター!?」

「敗北した我々が言える義理ではないが……情けない」

「トーレ!?」

 

 ディエチとクアットロは驚きながらもヘリの中をよくよく見てみれば……

 

「あ、クアットロ……ディエチ……」

「あーやっぱ二人もやられたんすね〜」

「ちょっとちょっと……まぁさか……!」

「どうやら我々は全員やられたようだ。 遠くにいるドゥーエもな」

「ほぼ全員ここにいるのか……!?」

 

 ウーノ、トーレ、チンク、セイン、セッテ、オットー、ノーヴェ、ウェンディ、ディード。 ドゥーエを除く全てのナンバーズがこのヘリの中にいるのだ。 圧倒的窮屈。

 ちなみにチンクは目を覚ました後に事情を把握してすぐに降伏した。 戦況をすぐに見定め、妹達にこれ以上の被害がでないように申し出たのであった。

 

「やはり狭いねぇ」

「座れるだけありがたいと思え」

「ふふ、捕虜には優しくした方がいいからねぇ。 流石はプレシア・テスタロッサを制した朱澤翔次、捕虜の扱いは心得ているというわけか」

「違う、あれを見ろ」

 

 監視の意味でスカリエッティの隣にいる翔次がヘリの隅の方にいる心悟を指差す。 ギンガにしなだれるようにもたれ掛かかられている心悟を。

 

「シンゴさん♡」

「……」(ものすごい不服そうな顔)

「アレのおかげで席が一つ空いているだけだ、勘違いするな」

「そうかい……それじゃあ感謝と同情をしておこう」

「そこの二人、聞こえているからな」

 

 微妙に仲が良いというか、やはり天才スカリエッティというか。 人のペースというものを把握するのが上手い。 くだらない雑談くらいならもうお手の物だ。

 

「ドクター……」

「おっとそうだ。 二人の拘束も解除してくれるかな? 今の我々はキミ達と争うつもりはないからね」

「ドクター?」

「ふーん?」

 

 スカリエッティの言葉にはやては探りを入れたくなった。 ジェイル・スカリエッティは狡猾で残忍な科学者である。 もちろんこれがフェイクの可能性は大いにある。 しかしはやての目には普段のスカリエッティとは違う様子が見て取れる。 まるで何かを危惧しているような、何かを焦っているような、そういう違和感だ。

 

「……ま、暴れたりしたらキリン君とか翔次君が何とかするやろし、ええで。 アイカ、バインドを解いてあげてな」

「あい!」

「あぁそれと、高町 なのははしっかりと治療してあげるといい」

「……? そのつもりだけど……」

 

 ディエチとクアットロのバインドを解き、アイカはなのはの治療を続ける。 その姿にまだ説明を受けていないザフィーラとシャマルが困惑する。

 

「そういえばはやてちゃん、その子は誰?」

「あぁ、この子は……アイカ、自己紹介をザフィーラとシャマルにしてあげて」

「あい! アイカは『不ノ九是 愛祝歌』、アイカでごぜーます!」

「えっ!?」

「『不ノ九是』……だと!?」

「よろしくおねげーします! シャマルおねーさん! ザフィーラおにーさん!」

 

 本日何度目かの驚き。 もうそろそろデジャヴとなってきたアイカの自己紹介によるやりとり。 これにはシグナムの心を見ていた心悟も流石に少し驚いている。

 

 なのはが治療されているのを確認したキリンとフェイトはエリオとキャロ、そしてガリューが見守っているルーテシアとその隣で共に眠っているルーテシアの母、メガーヌの様子を見に行く。

 

「どうだい、二人の様子は……っておお、起きたのか」

「はい、先程ルーは目を覚ましました」

「そっか……もう大丈夫みたいだね」

 

 メガーヌは未だ機械の中で眠ったままであるが、スカリエッティ曰く時間が経てば自然と眼が覚めるとの事。 すでに必要なレリックはスカリエッティ本人が所有していたので、もうルーテシアの目的は達せられたのである。

 

「……あの、二人が母さんをここまで連れてきてくれたんだ……よね?」

「ん? まぁフェイトちゃんが、だけど。 あとスカリエッティの野郎が色々したからだけどな」

「……それでも……ありがとう……」

「……どういたしまして」

「まま、きにすんれよ。 オレ達はいつだってガキ共の味方だからな」

 

 ようやく、ルーテシアに笑顔が、少しだが戻る。

 

 何せ後はスカリエッティ達を輸送して、地上本部のゼストと残されたドゥーエを回収して、後の処理なりレジアスから証拠なりを集め後処理が済めばそれで終わり。

 

「お、皆さん来ましたよ」

「おーあれかぁクロノ君が乗ってる戦艦ってのは」

 

 あとはクロノ率いる艦隊がゆりかごを上空にて艦隊砲で散り一つ残さずに消滅させるだけである。

 もはやムードは勝利当然の空気である。

 

「……」

 

 だがスカリエッティは違う。 一人ゆりかごを見つめている。 ゆりかごの中にいるローリを……

 

「……ジェイル・スカリエッティ」

 

 そしてそのスカリエッティを見ているのは、心悟。 心を覗ける、心の境界を操る心悟が、スカリエッティを問いただす。

 

「僕は相手の心を覗くことができる。 息を吸うようにできる。 だからお前の心も簡単に覗ける上に今お前が何を心で思い描いているのかも手に取るように分かる」

「……シンゴさん?」

 

 心悟にくっついているギンガは何かを察知する。 何か、不穏な何かを。

 

「お前のその心の内にある『それ』が事実であるとするならば……! お前、ふざけるなよ……!」

「……」

 

 大きく目を見開いてスカリエッティに詰め寄る。 彼らしくない、非常に感情を乱した状態である。

 スカリエッティの胸元を掴んだ所で、この異変にようやくギンガ以外が気付く。

 

「うおおおおお!? し、心悟君どうしたの!?」

「何や何や、どうしたの心悟君?」

「……?」

 

 普段の彼の様子を知っている六課の面々は慌て、何も知らないナンバーズ達はただただ困惑している。 ちなみにスカリエッティが胸ぐらを掴まれるのは割りかしスカリエッティに問題があり、それはナンバーズ達にとって周知の事実なので特には騒がない。

 

「……分からないのさ、こればかりは」

「何だと……?」

「シンゴさん、お、落ち着いて……あっ、でも珍しい怒ってる顔がカッコいい……♡」

「ギン姉……」

 

 アホなことをやっているギンガを尻目に、スカリエッティは静かに言葉を紡ぐ。 その間にもゆりかごを破壊するための準備は着々と進んでいく。

 

「……もし、仮にもし、『()()()()()()()()()()』場合は、それで全てが終わりだ。 だが……」

「なんかよく分かんねぇが、皆さん、ゆりかごに艦隊砲が発射されましたぜ!」

 

 ヴァイスの言葉に全員が外のゆりかごに視線を向ける。 皆の目には複数の戦艦から発射される戦艦砲に晒されているゆりかごの姿が。

 ゆりかごはそのまま光に飲み込まれ……

 

「よし!」

 

 大きな爆発を起こした。 着弾したのであろう、誰かが喜びの声をあげる。

 

「ローリ……」

 

 同時にナンバーズの誰かが呟くローリの名。 このまま爆発して消滅してしまう場合、それはローリの死をも意味する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()

 

「お、おい……」

 

 晴れていく噴煙。

 しかし映るはずの空は見当たらず、代わりにそこにあるのは『()()』。

 メタルカラーの球体が、そこに浮かんでいる。

 

「ヴァイス君! ハッチ開けて!」

「うっ、うっす!」

 

 開いたハッチから次々とナンバーズを含む全員が外に出て状況を確認する。

 一番最初に外に出られたのはシグナム。

 

「なんだアレは……!?」

 

 ()()は歴戦の将であるシグナムですら、戦乱時代のベルカの中に登場すらしなかった謎の物体。

 綺麗なまでに真球の形を成している謎の物体を、次々と出てきた全員の目にしっかりと入る。

 

「ど、ドクター……あれは一体……!?」

「……クアットロ、何か知ってる……?」

「いいえ……ウーノ姉様は……」

「私も……これは私も知らない……!」

 

 ナンバーズ達ですら知らない、謎の現象。

 全員が、ただひたすらに困惑に包まれる中、()()は動いた。

 

「不味い……!」

「シンゴさん……?」

 

 ギンガのウィングロードの上に立っている心悟の額から汗が浮き始める。 彼らしくもない、嫌な汗だ。

 

 そうギンガが隣で感じていた瞬間ーー

 

『ーーッ!?』

 

 ーーキラリと一瞬の閃光。

 

 後に起こる()()()()()

 

「……ぇ」

 

 空を照らす赤く眩しい光。 その光の発生源は、クロノ達管理局の魔導師達が乗り込んでいた艦隊。

 理解が追いつかない脳、しかし必ず辿り着くであろう結論。

 

『あの球体にクロノ率いる艦隊が破壊された』……と。

 

「クロノ!!」

 

 フェイトの大きな声が弾け出た。 それを皮切りに全員に伝わる緊迫した状況、少々のパニック。

 

「ジェイル・スカリエッティ! 貴様……!」

「お、落ち着いてシンゴさん!」

「クロノ君……嘘やろ……!?」

「……ッ……!!」

 

 それは機動六課だけではない。

 

「どういうことだよ……もうオーダーは何もないはずだろ……!」

「あたしらに伝えてないだけとかじゃないっすよね!?」

「ローリさん……」

 

 ナンバーズ達でさえ混乱している。 当たり前だろう。

 何せ『()()()()()()()』からだ。

 ローリをゆりかごに組み込む事は知っていた。 そのローリがゆりかごを乗っ取り操作する事も知っていた。

 だがあれは知らない。 ()()は全く分からない。

 

 正体不明という根源的な恐怖を感じてしまっていた。

 

 こうなってしまっては誰かが止めなければならない。 このパニックを。

 しかしはやてすら目の前で親友が謎の物体にやられた事にショックを隠せないこの状況、適任者はいない。

 

「…………」

 

 この場には。

 

「落ち着かんか、お前たち」

『ッ!?』

 

 この場にある誰でもない声に、全員が言葉を閉ざし目線をやる。

 そこにいたのは、老齢の猛者。

 

「揃いも揃って情けない。 非常事態であり異常事態でもあるが……一先ずは呼吸を直せ。 息を整えろ」

「旦那……!」

 

 そこにいたのは騎士ゼスト。 脇にドゥーエを抱えながらの登場である。

 

「何やら胸騒ぎがして急遽こちらに向かってみたのだが……どうやら状況は俺が想像している以上に危険なものになってきているようだ」

 

 ゼスト全員の表情を確認し……その中で唯一慌てる事もなく落ち着きを払っている一人に、問いかける。

 

「ジェイル・スカリエッティ、お前なら知っているのだろう? あれを」

「…………」

「お前とローリはいつもナンバーズやルーテシア達に聞こえぬ様に、秘密の作戦を立てていた事くらいは分かっている。 話してもらおうか」

「…………」

 

 スカリエッティはゼストの言葉を受け、謎の球体のみを瞳に写して語る。

 

「……あれは」

 

 その絶望の名を。

 

「私の作戦全てが失敗に終わり、全員が管理局に拘束ないしは殺害された場合の最終処置。 ローリの全機能をゆりかごと同期させ、ローリの演算機能以外を消去し、ただひたすらにこの次元を破壊するための最期の姿……」

 

 ーー『遥かなる異界より転生せし者、その身を鋼で纏う時、全てを飲み込む闇と化し、有象無象を破壊する』

 

 キリン達はカリムの予言の言葉の意味をここで理解するであろう。

 

「『ローリ・墓標(クレイドル)』……アレがローリの最期さ」

 

 空が落とされるまでの、カウントダウン。

 




次回から大変だでよ……
何せキャラが多いから確実に喋らない奴がでるからなぁ!

今回も誤字脱字等のミスがあった場合は、コメントにてお教えください。

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