愛を忘れた者を、愛という最強で撃ち抜け。
60話
魔力とは本来リンカーコアが生み出しているものである。 そしてリンカーコアそのものが生み出せる魔力量の限界値というものは必ず存在する。 キリンのような転生者の肉体などは例外ではあるが、限界値というものは予め決まっている。
訓練すれば使える魔力の量が増えるだけであって、限界値が増えることはない。 だがここにレアスキルやカートリッジのような特異性が加わると話は別になる。
例えばなのはの持つ『収束』。 これならば周囲の残存魔力を束ね、自分の魔力以上の魔力を放つ事ができる。
例えばカートリッジのような瞬間的なパワーアップ。 これならば時間もかけずに威力の底上げが行える。
だが、今のなのははこれらのどれにも属さない変化。
その魔力量『708万』。 まず間違いなくキリンのような肉体へのダメージが発生してしまうであろう……バカげた魔力量。
「…………」
そしてその魔力のせいなのか、なのはの周囲を謎の熱が覆う。 赤く紅く……
「…………スゥー……」
その熱を、なのはが吸い込むように己の中に収束させていく。 渦巻く紅い熱。 なのはを中心に熱の嵐が吹き荒れる。
『何だ……この熱を……『収束』しているのか……!?』
なのはの中に収束されていく紅い熱は、どんどんなのはの中に溶けていき……少しずつなのはを紅く染めていく。
「ママの髪の毛が……色が変わっている……?」
髪留めが破れたロングヘアー。 綺麗な茶色に、赤い彩りが加わっていく。 いや、なのはの輪郭も赤くなって光り始める。
「…………」
誰も目の前のなのはの変化に言葉を飲むこの状況。
「ーーッ!!」
さらに、息を飲む事になる。
『くっ!?』
「まぶし……っ!」
再び強く発光する。 今度は赤く薄く……
光が収まり始めた時、ヴィヴィオをが見たのは、全く知らないなのは。
髪の色は淡紅色となり、身体の輪郭に沿うように赤い光が縁取り、そして周囲にはより濃い
これが、誰も知らない高町 なのは。
「ママ……すごい綺麗……」
ヴィヴィオの目には、艶やかに姿を変えた麗しいママに見えた。 これほどの熱気を感じようともヴィヴィオにとっては優しい母親の体温のように感じた。
『くっ……い、依然魔力は700万越え……だが!』
ローリの目には異形の存在に見えた。 憎っくきキリンと同じように500万の魔力を超えた姿に、思わずあの日キリンに消させそうになった時の恐怖が、怒りが、屈辱が蘇る。
ローリは先ほどと同じように、目から赤い砲撃放とうとする。
『もう一度食らわせてやる!』
「…………」
赤く光り始めるローリの目。 しかしなのははそれに一瞥もせずに自分の手や足を見ている。
まるで、興味もなければ脅威でもないかのように。
『くらえェ!』
放たれる赤い砲撃。 先ほどと同じようになのはを赤い光で乗り込もうとし……
「……ディバイン……」
『何っ!?』
なのはの目の前で分断される。 いや、なのはが受け止め、砲撃は勢いのまま左右に分かれたのだ。 しかも……
『指先で……防いでいるのか……!?』
人差し指一本で、だ。
しかもローリの考えは外れている。
「バスター」
これは攻撃である。
『なっーーグォアアア!!』
指先から放たれたディバイン・バスターがローリの砲撃を裂きながら直進し、ローリの顔を吹き飛ばした。
『ーーGaーーGaAAAAあああああ!』
「…………」
即座に再生するも、なのははそれに興味も持たずに今ディバインバスターを放った自分の指を見ている。
「…………」
『バカめ……今のも分析して再生させてもらったぞ……!』
「…………」
『その余裕も……へし折ってくれる!』
振りかぶる右腕。 盛り上がる機械部品達。
『ズァ!』
「……プロテクション」
なのはは拳が届く前にプロテクションを張る。 広範囲ではなく、ちょうどローリの拳と同じくらいの盾を生成する。
『ガアアアアアアア!!』
ローリの巨拳がプロテクションをーー
『アアアアアアアアアアアアアアッ!?』
壊そうとして逆に
「何……ママのプロテクションが……いや、ローリの方が耐えきれなかった……の?」
圧倒的な強度。 すでに並みの魔導師はおろか、キリンの『限界突破』でさえ手こずるレベルの強度を誇るローリの拳がなのはのプロテクションに耐えきれなかった。 自分の放つ拳の威力そのままをローリの拳にフィードバックしているのだ。
『こんな……! こんな事が……ッ……!』
「…………」
右手の再生を始めるローリ。 だが、ここでようやくローリを視界に捉えたなのはが自ら打って出る。
「アクセルシューター」
左手から淡紅色の魔力弾を生成し、放つ。 だが今度は一発だけ。
「……一つだけ?」
ヴィヴィオの疑問はすぐに納得のいく答えをだす。
放たれた魔力弾はローリの再生中の右手の中に侵入し、内部から破壊しながら肩から飛び出てくる。 再生中は全くの無防備、その隙をつかれ初撃以上のダメージを負う。
『ぐおおおおおおおお!? バカな!』
「ローリの再生は一瞬なのに……早いっていうか一撃が大きい!」
再生が追いつかない、いや再生はしてない部位ですらも破壊する程のアクセルシューター。 再びローリの再生中の部位から中に侵入し内部を破壊する。
『グアアアアアアアアア!!』
「…………あれぇ? おかしいなぁ……」
破壊しながら、何かしている。 なのはは首を傾げながらレイジングハートに問いかける。
「ないね、レイジングハート」
『そのようですね、マスター』
「んー……」
ない、何かがない。 アクセルシューターをローリの中から外に出し、発見することのできないナニカに首を傾げていると、ズタボロになったローリが笑い始める。
『くっくっ……ど、どうやら
「……」
『言ったはずだ……これが最後の姿だと……! 故に無限に再生し強化され続けるのだ!』
破壊された部分の再生を始めるローリ。 だがそれを阻む、なのはお得意の魔法。
「ーーーーバインド」
『ぐぉ!?』
ローリを抑え込むようなバインド。 キリンの腕力では破壊さえできなかったバインド。 ローリに破壊する術はない。
『グギッ!? こ、こんなものぉ……!!』
「無駄だよ……もう、あなたは何もできない」
『なん……!? このバインドはぁ!? グォオオオオオオオオ!!』
稼働するのは僅かな頭周りのみ。 ローリの首から下全ての機能が静止する。 がんじがらめ、何てレベルではない。 その空間に固定されているのだ。
「あとはヴィヴィオにプロテクションを……」
「大丈夫だよ! ママ!」
「ヴィヴィオ……」
なのはを制するヴィヴィオ。 ヴィヴィオにはこれからなのはが何を行うのか気付いた、その上で自分を守る防壁を拒んだ。
それはある種の強がり。
「私、強いから! 平気!」
子どもながらの強がり、だけどその背伸びした強がりに強い思いを感じたなのはは、ヴィヴィオの言う通りにした。
「……頑張ってね、ヴィヴィオ」
優しく微笑み、空に浮く。
「レイジングハート、行くよ」
『All light』
収束を開始する、この場にある全ての残存魔力。 なのはが発している熱気も、赤い魔力も、全てがレイジングハートに収束していく。
『(しゅ、収束していく……!? やはりこの熱は魔力なのか!?)』
バインドに縛られながらもローリはなのはの観測を続けていた。 先程までのなのはの不思議なパワーアップを疑っていたローリであったが、今こうして魔力として収束されているのを見て驚いている。
『(だ、だが……! こんな魔力、この世界に存在していたとは記憶にない! 魔力変換気質が炎ならまだしも……高町 なのはには何もない! それなのに熱を持っている!!)』
収束された魔力が、熱が、真紅の光が部屋全体を照らす。
『(ぐっ……マテリアルの可能性もなきにしもあらず……しかし! これは間違いなく高町 なのはだ! 高町 なのはが放っているものだ!)』
閉ざされた時の中に、炎を纏った魔導師が存在していた事をローリは知っている。 だが、それは確かに高町 なのはとは別の存在であり、なのは本人が生み出している現象。
ますます答えを導き出す事が難しくなる。
『なんなんだ……!』
計算不能。
『なんなんだお前はー!!』
「私は……」
なのはの身体から溢れ出てくる赤い魔力がブワッと燃え広がるように周囲を飲み込む。
「ただの、お母さんだよ」
瞬間、放出された全ての魔力が圧縮され、レイジングハートの先端に収束されていた魔力の塊の中に吸収されていく。
そして放たれる。
『
「ーー『スターライト・ブレイカー』」
星を破壊する光。
赤く、淡く、真紅に包まれた桃色の光がローリの身体を一気に飲み込む。 ローリの身体は防ごうとした両腕から消滅を始める。
『ぐぅおおおおOOOOOOOOOOaAAAAAAAAAAAA!!!』
「っうううう!」
ヴィヴィオも耐えていた。 これは魔力攻撃によるスタン狙い。 そしてヴィヴィオの中にある『聖王の鎧』を破壊するための攻撃でもある。 だがその負荷は確実にヴィヴィオに襲いかかる。
だが、ヴィヴィオは弱音を吐かない。
「ッ!!」
いつかの記憶。 自分が転んでしまった時に、なのはは自分に立ち上がれると言葉を投げた。 あの時は立ち上がれなかった。 自分一人は何て弱っちい存在なんだろうと今になって思い返す。
だが今のヴィヴィオは、かつての自分よりも強くなりたい。 強くあろうと、弱くても強くあろうとしたい。 そう心から思い始めていた。
これがその最初の一歩。 絶対に弱音は吐かない、そうヴィヴィオは強く決心し、なのはのスターライト・ブレイカーを受け止めている。
『GuaAaAaaaa!!』
この男は自身の消滅に、痛みと屈辱に耐えきれずに声を上げる。
『Gaaaageeeee……ぐぅ……だがぁ!』
そう、負け惜しみにも聞こえる……予言を。
『分かっているはずだ……Taかまthi なのはあああああああ!! この私は『
「…………」
『『
チリとなりながら、光の中に消えながらローリは叫ぶ。
『この戦いの中で……私は適合率を100%まで高める事ができた! 私という『個』はゆりかごと融合し、最強の兵器となってーーーー』
そして、光の中に消えた。
スターライト・ブレイカーの威力はとてつもなく、玉座から後ろの空間全てを吹き飛ばし、ゆりかごに風穴を開けていた。 そしてもうローリの姿はカケラもなく、再生される事はないだろう。
「はぁ……はぁ……」
なのはは床に膝をつき、両手もつき、肩で息をする。 髪の色も元に戻り、纏っていた熱も消滅している。 そして襲いかかる痛み。
「うっ!?」
全身に走る鋭い痛み。 だがそれも仕方ない事である。
己の本来の許容範囲内の量よりも遥かに超えた量の魔力を扱っていたのだ。 キリンのように皮膚が裂け血管が千切れるレベルでないのが幸いである。
「限界を超えた魔力……拳君のおかげで守られてたけど……それを解いた途端にこれかぁ……」
『大丈夫ですかマスター?』
「大丈夫……じゃないけどぉ……」
絶対に大丈夫ではない。 しかし、なのはの目に映る、彼女の姿を見ていると弱音は吐かない。
「うぅ……」
「ヴィヴィオだって耐えたんだもん、泣いてられないよ」
「ママ……」
ヴィヴィオが弱々しく立っていた。 娘がそこに立ってくれていた。
「ヴィヴィオ……クッ!?」
今すぐにでも抱きしめに行きたい。 しかし、痛みでもう身体は動かない。 それを見ていたヴィヴィオは、ゆっくりと歩き始めた。
「待っててね、ママ……」
「ヴィヴィオ……」
ヴィヴィオも当然疲弊している。 無理やり大人の姿にさせられ、洗脳され、なのはと戦わされ、ローリに魔力リソースを一方的に使われ、なのはのスターライト・ブレイカーを受け止めた。 いくら『聖王の鎧』があったとはいえ、それがなくなれば今までの疲労が襲いかかってくる。
まだヴィヴィオは子どもだ。
それでも歩く。
「はぁ……はぁ……」
今すぐに、目の前に行きたいから。
「はぁ……うっ!?」
「ヴィヴィオ!」
おぼつかない足元に、もつれ、転ぶ。
「大丈夫!」
「ヴィヴィオ……」
「私は……つよく……なりたい……っ!」
「ヴィヴィオ……っ……」
それでも立ち上がる。 手を使い、足を使い、全身を使い立ち上がる。
「だって……だって私……」
前のめりに、いつ倒れてもおかしくない足取り。 しかしヴィヴィオはなのはの元へ歩く。 絶対にやめない。
「私……っ!」
ようやく、なのはの前に着いた。 何度も転んだ。 膝や顔は汚れている。
でもヴィヴィオは泣かない。
膝をついてずっとヴィヴィオを見ていたなのはの前に立ち……ヴィヴィオは言う。
「ママの……娘だもん」
「ッ……ヴィヴィオ……!」
涙が溢れた。 なのはの目から涙が止まらない。 止まらない。
気が付いたらヴィヴィオを抱きしめていた。
「ヴィヴィオ……」
「……うん」
抱きしめ、ずっと言いたかった言葉を伝える。
「私……ヴィヴィオのママになってもいいかなぁ……?」
「……うん!」
ずっと言って欲しかった言葉が、ヴィヴィオに届いた。
「まだまだ未熟なママだけど、よろしくねヴィヴィオ」
「まだまだ未熟な娘だけど、よろしくねママ」
高町 ヴィヴィオはこうして生まれた。
そこにいたのは、優しい母親と優しい娘。
家族が生まれた瞬間であった。
なのはは『真(トゥルース)』の力を得た!!
いやなんやねんそれは。
次回は急変します。
今回も誤字脱字等のミスがありましたら、コメントにてお教えください。