オレはオレの幸せに会いに行く   作:ほったいもいづんな

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ちょっと体調崩してました。

あと書いていたのが一回消えたんで萎えてました。


50話 クリーンヒット

 50話

 

 

 

 

 心悟が到着する少し前。

 管理局運営の大病院の一室。

 

「…………」

 

 そこのベッドに腰掛けているのはヴァイス・グランセニック。

 彼は先の六課襲撃の際にルーテシアの攻撃によって負傷した一人である。 現在はすでに動ける身体には戻ってはいるものの……心は未だ癒えず。

 

「……こんな俺が、どう戦えってんだ」

 

 ガジェットを瞬時に破壊できる腕はまだあった。 こんな非常事態、自分も共に戦えると思っていた。

 しかし、ルーテシアが目の前に現れた。 その顔に、目に、かつてのトラウマが呼び起こされた。

 

 元々、武装隊所属で本来はパイロットではなくスナイパー。 魔導師ランクもB+あった。 ストームレイダーという愛銃と共に狙撃隊として任務に当たっていた。

 しかし、過去に立て篭もり犯を狙撃する任務でミスショットをしてしまった。 よりにもよって、人質が自身の妹、ラグナの時に。

 この時、ヴァイスは極限にまで緊張した状態で引き金を引いてしまった。 誰に責める事のできない、しょうがない状況下……その結果ラグナの左目を潰してしまった。

 このとき非殺傷のスタン設定を施してはいたが、高速狙撃である為弾丸強度が高く、柔らかい眼球に被弾した事でラグナは失明。

 それ以降ラグナはストームライダーを人に向ける事ができず、パイロットとして配属された今日までずっと引きずっていた。

 

「ラグナ……俺は……」

 

 悔しかった。 不甲斐なさと歯がゆさに、心がどんどん叩きのめされていく。

 

「悔しいか?」

 

 そんなヴァイスに声をかける……一匹。

 

「ザフィーラの旦那……」

 

 未だ完治とは呼べない、全身に巻いた包帯。 狼形態で姿を現したザフィーラ。

 ザフィーラはヴァイスの苦悩を見て、問いかける。

 

「その苦悩を跳ね除けようとは思わないか?」

「……俺には、無理です」

「無理か……それはお前に力が足りないからか?」

「それは……」

 

 ヴァイスには答えられなかった。 肯定する事が出来なかった。

 力が足りないのではないと自覚している、力なぞ皆で補えば十分であると理解している。

 

 足りないのは、意思の力。

 

「……では、シンゴはどうだった?」

「ッ!!」

「あいつは、足りうる力を持っていたか? 十分な勇気を持って敵の前に出たのか?」

「……先生は……」

 

 ルーテシアの前に出た、魔力も持たない非力な心悟。 いくら心が覗けるとは言えども、心の境界を操り心の中に侵入できようとも、魔力による攻撃を受ければひとたまりもない。

 それなのに立ち上がり続けた。 その普遍な態度を、言葉を、姿勢を、決して崩す事なくルーテシアの前に立ち上がり続けた。

 

「あいつはヴァイス、お前よりも非力だ。 そんなあいつが、だ。

 お前を守るために立ち上がり一番の負傷を負い……それでも引く事なく立ち向かい続けたのは……一体何故だ?」

「それは……」

 

 言いかけてやめた。 そこから先は自分が言う資格がないと思ってしまったから。

 だが……

 

「おいおい、僕はそんなに大層な人間じゃあないよ?」

「せ、先生!?」

 

 そこに現れる心悟本人。

 彼はいつもの白衣を身に付けてはいるものの、身体中に巻かれている包帯は指先まで巻かれているのが見えるほど、重篤な状態であったことは間違いない。

 それなのに、いつものように眼鏡をかけ、少しいやらしい笑みでヴァイスの前に現れた。

 

「先生、もう動いて……」

「さっきシャマルに怒られたよ。 『何をやっているの! バカなの!?』ってね。 珍しくキレていたよ」

「じゃ、じゃああんた寝てないとダメだろ!」

 

 誰だって同じ意見を言うだろう。 当然だ、心悟に魔力なんてない。 身を守る事なく魔法を受け続けたのだ、むしろ後遺症なく立ち上がっているのが奇跡なくらいだ。

 だが、ザフィーラは静かに構えている。 非を口にくることはない。

 

「寝てる暇はないさ、こう見えて仕事熱心だからねぇ……そうだザフィーラ」

「む?」

「僕はいつでも、患者の治療のためにやっているだけさ……っと、ほら、入ってくれるかい?」

 

 先ほどの訂正の続きをしながら、部屋に誰かを招き入れる。

 その誰かとは……

 

「ら、ラグナ!?」

「久しぶりだね、お兄ちゃん」

 

 ラグナ・グランセニック。 ヴァイスとは大きく年が離れた12歳の少女。 左目には眼帯をしており、そこがヴァイスが誤射した場所でもある。 今は傷そのものは癒えてはいるものの、視力を失ったままだ。

 

「ど、どうしてここに……」

「僕が連絡して、ここに来てもらったんだ」

「な、何でだよ!」

 

 ここ何年もヴァイスとラグナはギクシャクしたままであった。 本当ならお見舞いに来てくれたのも逆効果。 無様な自分の姿を晒したくもないし……その原因を作った挙句被害をもたらしてしまった妹には、今一番会いたくなかった。

 

「それは当然、君のためだヴァイス」

「なっ……!?」

 

 もちろん、治療のためである。 当然、心のだ。

 

「ヴァイス、君の問題は君と君の妹の問題だ。 勝手に解決するから特には手を出すつもりもなかったけど……まぁ僕もお節介焼きになったものだ」

 

 心悟は眼鏡を外し、二人の手を取る。

 

「さぁてグランセニック妹、話はさっきした通りだ、心の準備は大丈夫かい?」

「はい、大丈夫です!」

 

 目の前で勝手に話を進められてもヴァイスには何のことかさっぱり。 だが、そんな事はすぐに気にしなくなる。

 

「さてヴァイス」

「せ、先生……一体何を……」

「ここからは『心の時間』だ。 無限に話をするといい」

 

 そう言うと心悟は二人の手を繋がせる。

 

「……『紫の境界眼(パープル・ボーダー)』」

「ッ!?」

 

 心の領域が、重なった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 心悟の転生特典は元々『心を覗く目』という能力だけだった。 だが、心悟が『闇の書』が見せていた夢を超えた事で能力が成長した。

 その名も『紫の境界眼(パープル・ボーダー)』。 今度は心の領域、その境界を操る事ができるようになり、相手の心を読む、覗くに留まらず、相手の心に入り込んだり、自身以外の心の境界を重ねてその者たちだけの領域を作ることもできるようになった。

 普段のカウンセリングでは心を読んだり覗くだけで済むが、今回はヴァイスのために、ひいては彼とその妹のために人肌脱いだ。

 

「ああやって本人同士に解決してもらう時は、僕はただ心の境界を繋げるだけで済むんだから、給料泥棒だよねぇ僕は」

「お前にしかできん事だ……だがシンゴよ、あとどれだけかかるんだ?」

「さぁ? 心に時間なんてものはない。 現実時間がどれだけかかろうとも、まだ心は1秒も経過してないかもしれないし、5年経過したのかもしれない」

 

 ヴァイスとラグナの手を繋がせた時点で心悟は二人から離れザフィーラの隣でコーヒーを飲んでいる。 病み上がりなのに、熱々のやつをだ。

 そんな中、流石に時間を気にするザフィーラ。 当然だろう、何せ仲間の元へ向かわねばならないのだから。

 だが、コーヒーの濃い香りを嗅ぎながらザフィーラは気付いた。

 

「……それほどかかるものか……いや、かかって当然か」

「その通り……ヴァイスが妹の目に誤射してから6年だ」

 

 6年。 それは兄妹が失った時間としては余りにも大きすぎる時間。 失った時間なんて取り戻す事すら出来ないのだから。

 だから、時間がかかってもいいのだ。 これから先の方が時間が長いのだから。

 

「二人には、これから先ある50年以上を守るために……6年分の心の隙間を埋めていかないといけない」

「それを同じ6年……いや倍の年数をかけても行えるかどうか分からない……だからお前の能力か」

「そうだ。 心に時間なんてものはない。 老いもない。 ただ今ある心の感じるままに想いをぶつけ合えば……6年なんてあっという間さ」

 

 心の領域というものはかくも不思議なものである。 未だに科学を持ってしても解明できず、また心悟の能力を持ってしても()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから、正しい形というものは心悟でも分からない。

 だが、この分からない領域に本心というものが隠れている。 見栄と意地とプライドという鎧に隠された本当の心。 これは心悟でも探し当てることは難しい、だから本人の方から出てきてもらうのが一番なのだ。 無理やりは心によくない、だから彼の妹に来てもらった。

 

「……しかし、彼女にヴァイスの本心を引き出す事ができるのか? 返って頑なになりそうだが?」

「それはグランセニック妹の頑張りしだいだ……だが」

 

 心悟はコーヒーを飲み干し、二人を見る。

 

「彼女は嘘をついていなかった。 ()()()兄を想ういい妹さ」

 

 そう言ったその時、二人は同時に目を覚ます。 心の領域から意識が浮上する。

 

「ラグナ……」

「だからきっと……私達、昔みたいに笑い合えるよね?」

 

 二人に何があったのか、それは心悟にも分からない。 だが、ヴァイスの目はしっかりと妹を見ていた。 妹のラグナもまた、笑顔で兄を見ていた。

 

「……あぁ……あぁ!」

 

 ヴァイスは初めて、笑顔で答える。

 6年あった空白の時間は、今ここで清算された。 必ず、笑うと約束しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこからヴァイスがヘリを運転、心悟、ザフィーラ、シャマルを乗せてスバル達のいる方面へ向かい……そして今心悟がスバルと合流を果たしたのであった。

 

「本当に目が覚めてよかったよぉ……」

「泣くな、まだ終わってないのだから」

「ズビズビ……ハイッ!!」

 

 先ほどの反撃は心悟がかつてキリンと翔次の戦いで、翔次の心を覗き動きを把握しキリンに伝える、いわば小狡い戦法なのだが。

 それが今は必要なのだ。

 

「ナカジマ妹、君にはやってもらいたい事が2つある」

「ハイ! 何でもいってください!」

 

 スバルの隣に立ち、殴り飛ばされたギンガを目で追いながら作戦を伝える。

 

「1つ目、さっきみたいに僕の指示に従って戦ってほしい」

「問題ないです。 ……ぶっちゃけそろそろ私が自分で考えて動くのも限界ですし」

 

 いくら体力バカのスバルといえどもすでに限界は近い。 むやみに自分で動くよりも必要最低限動く方が今はいい。

 黒い蒸気をまとっているギンガの攻撃を目視で防げる自信もないのだから。

 

「そして2つ目だ。 今の彼女を僕に近づけさせるな」

「それはもちろんですけど……シンゴさんの力でどうにかするなら近距離の方がいいんじゃ……?」

「それは勘弁してほしいなぁ……今の僕がナカジマ姉の拳を受けてみろ? 腹パン一発でダウンだ。 正直死ねる」

「アッハイ……」

 

 珍しく口調のノリが良い。 どうやら穏やかにはいられない状況だからだろうか。

 ノリが、キリン達に対するものと同じになっている。

 

「何にせよ、シンゴさんを信じて戦っていればいいんですよね!」

「あぁ、心が読めるなら必ず勝利できる」

 

 燃え尽きかけていた闘志に再度火が灯る。 活力が内から次々と湧き始め、拳に握る力が戻る。

 

「よしっ! いけます!」

 

 スバル・ナカジマ、復活。

 

「よしそれじゃあ……勝とうか」

 

 第三ラウンド、開始。

 

 まず口火を切ったのは、殴り飛ばされていたギンガ。

 その身にまとう蒸気を更に増やし、超高速でスバル目掛けて突進する。

 

『両手を前に突きだせ』

 

 スバルに激突する前に、両手を前に出させる。 腰を低くし、衝突に備えるのかと思えば……

 

『ギンガを手で跳び越え、ジャケットの襟を掴め』

「ーー!?」

 

 拳を突きだした激突の瞬間、スバルは両手でギンガの両肩を掴みながら跳躍。 ちょうど、跳び箱のように。

 

「ーー回避ーー修正ーー!」

 

 ギンガもすぐさま次の手を瞬時に計算して導き出す。

 答えは掴んでいるスバルの両手を握り潰すこと。

 

『そのままギンガを地面に投げつけろ!』

「ーー!?」

 

 スバルの両腕による全力の叩きつけ。 ギンガは空中を回りながら顔面を地面に激突させられる。

 が、すぐに体制を直そうと顔を上げる。 スバルの現在地を探るため。

 だが……

 

「ーー!」

『起き上がりざまに顔面に蹴りをぶち込め!』

 

 すでにギンガの顔面にはスバルの右脚の甲が。 そのまま顔面を打ち抜く。

 

「ーー回避不能ーー何故ーー!?」

 

 計算外。 いや、計算が追いつかないスバルの猛攻。 吹き飛ばされながらギンガの演算能力はフル稼働。 今までのスバルの攻撃とは全く違うパターンに、これまでのデータが役に立たなくなっていた。

 

「ふぅー……!」

「捕捉再開ーー!」

 

 すぐさま立ち上がりスバルを視界に捉える。

 だが、ここが、今のギンガとスバル、そして心悟のとの差なのだ。

 

『いいかい? 今のナカジマ姉は機械のように完璧に動くようにプログラムされている。 つまり確実に君の姿を捉えないと動けないんだ』

「(つまり……どういうことです?)」

『人間には、『勘』や『危機回避能力』、データ化することのできない本能部分での動きがある。 君だって避けようと思ってなくても勝手に身体が動く時があるだろう? やつら戦闘機人にはそれがない、というかジェイル・スカリエッティによって機能しないようになっている』

「(そうか……だからさっきみたいに視界から消えたり顔を攻めたんですね)」

 

 戦闘機人の戦闘内容は事前にプログラムされている内容プラス個々人の戦闘能力によって決まる。

 だが、それは最新式に思える戦いであり、古式の戦い方に勝るという事ではない。 最新式はあくまで『データ』。 データに乗っ取らなければ戦えない。

 つまり……

 

「うおおおおおお!!」

「ーー攻撃ーー阻まれーー!!」

 

 今、最新式を捨てて……否、自分の戦闘思考さえ捨てた、心悟の命令にのみ従う……いわば『個』を捨ててまでの戦い方をしているスバルにギンガの演算能力はほぼ機能しない……というより出来ない。

 

 ギンガの予測や読みは、視界に捉えたスバルの筋肉の細かな動きを捉えて行うもの。 今のギンガにとってフェイントなどの小細工は児戯以下。

 しかし、心悟が来てからのスバルは違う。

 全ての動きを、攻めも守りも心悟の指示が来るまで行わない。

 予測も予見も無意味な『0』からのスタート。 愚直に、しかし呆れるほど信じている心悟の言葉に従っている。 もちろん無茶な動きもしているだろうが……スバル・ナカジマという魔導師にとってティアナの作戦以上に無茶なモノなど存在しない。 殴れと言われれば殴る。 飛べと言われたら飛ぶ。 瞬発力に限ってみれば今のスバルはキリンと同レベルにまで達していた。

 いくら戦闘機人とはいえ、瞬時に対応できない。 何故なら計算をしないといけないから。

 

 もちろん、ローリレベルのチートの領域ならば可能なのだろうが……ギンガではもちろん、仮に他のナンバーズでも、今のスバルを倒すことはできない。

 

「うだぁ!!」

「ーー!!」

 

 何度目だろうか、スバルの攻撃がギンガの顔面に深く刺さる。

 ギンガの身体に打ち込まれたスバルの打撃は確実にギンガを消耗させ、先程までボロボロであったスバルと何ら変わりないまでに、勝負は振り出しに戻り始める。

 

「ーー接近戦不利ーー」

 

 捉えきれないスバルの攻撃。 何度も受け続けたギンガもバカではない。 今まで接近戦を行なっていたのは確実に意識を奪えるからだ。 もはやこれ以上手をこまねいている状態は自らの敗北に繋がる。

 ギンガはその手を前に出し、魔法による攻撃を開始する。

 

「ーー魔法による攻撃に切り替えーー」

『ーーられるとでも?』

「ーー!?」

 

 ギンガの手に収束されていた魔力光は突如霧散する。

 理解ができなかった。

 もちろんスバルも。

 

「ーーリンカーコアの接続不備ーー!?」

「えっ? 今何が……もしかしてシンゴさんが……!?」

 

 スバルは何も支持されていない。 のであれば、この場にいる心悟しか選択肢はなくなる。 つい振り返り確認したくなるも、それはギンガに狙われる危険が増すので何とかギンガから視線を離さずに心悟に心の内で聞く。

 

「(一体何をしたんですか……?)」

『……これはまぁ君に説明してもよく分からないだろうから専門的な説明は省くとして』

「(また……シンゴさんの能力で……?)」

『そうだ』

 

 スバルに念話を送りながら、目の前で何度も魔法を行使しようとしてはかき消されるギンガの様子を確認する。

 どうやら、心悟の企みは上手くいっているみたいだ。

 

『リンカーコアという魔導師にとっての力の核があるだろう? だが、リンカーコアと心の領域は深く繋がっている。 その時の体調、疲れ、ストレスその他諸々全部がリンカーコアに密接に関わっている』

「(それは何か勉強した覚えがあります……忘れちゃったかもしれませんけど!)」

『リンカーコアの領域と心の領域、大分昔から研究をしていてね。 今こうしてナカジマ姉の心を見ていればよく分かる。 リンカーコアにまで伸びているジェイル・スカリエッティの手が』

 

 リンカーコアと繋がっているのは肉体だけに非ず、心の領域とも繋がっている。 ギンガの今の状態はスカリエッティによって改造されている、つまり心の領域にまで彼の魔の手が、触手のような機械のコードによって侵食されている。

 リンカーコアにまで達しているそれは、ギンガの心との接続を切り離しコードによって無理やり魔力を出力させられている状態にある。

 

『だからこれを何とかリンカーコアから引き剝がさないといけない。 そして今こうやって……リンカーコアからのアクセスを切り離せたというわけだ』

「(いつの間に……)」

『なぁに、簡単な事だ。 君の攻撃に合わせて()()()()()()()()()だけさ。 ナカジマ姉の心の中で、洗脳されたあいつの心に……ね』

「(……!?)」

 

 心にも、現し身というものがある。 自分の現し身だ。

 それはいわば現実に姿を現している姿の現し身。 その心が傷付けば現実にも傷が、現実が傷付けは心に傷が。

 まさに表裏一体の鑑。 そこに、スバルによって与えられる打撃に、心の中からも同じ打撃を心悟がギンガに加えていく。

 

『実際問題、生身の肉体にどれほどダメージを負っても心が折れなければ人は負けない。 そのダメージが蓄積され、その量に心が耐えられなくなった時に人は敗北する。 だが……ここでもし、肉体と心、同時に同じ箇所にダメージを負えば……どうなると思う……?』

「ッ!! ……ダメージ二倍……なんて話じゃない!!」

 

 スバルは気付いた。 思わず声を出してしまうのも仕方ない。

 肉体と心、その両方にダメージを負ってしまうという事がどれほど恐ろしいのか?

 ……よくある格闘技のインタビュー。 「最後まで諦めなければ必ず勝機はある」……なんてのは肉体がどれだけ痛めつけられても心が折れない、いわば反骨心による言葉だ。

 

 だが、心をへし折る攻撃を受けても同じことが言えるのか?

 例えば、腕を折られたり、目を潰されたり……

 恐らくは……言ってしまうだろう。

 

 それは何故か? それは肉体のダメージが心に響くものの、決定的なものにはならないからだ。 彼らファイターの心には、腕が折れようとも心の腕は折れず、目が見えなくなろうとも心は敵の顔を写し続ける。

 闘争心が折れることは決してない。

 

 しかし、ここに、()()()()()()()()()()心悟がいる。

 この心悟が、だ。 スバルの動きと同時に心にも攻撃を与えている心悟のダメージはどれだけ洗脳されたギンガに届くと思う。

 答えは決まっている。

 

『クリーンヒット』だ。

 

「でりゃぁ!」

「ーーッ!!」

「うだだだだだ! うりゃぁ!!」

「うっーーくっーー!!」

 

 このクリーンヒットは、ギンガのリンカーコアにまで伸びているスカリエッティのコードを破壊する。 リンカーコアとの接続を断つ。

 つまりリンカーコアをギンガの心に返すという事だ。

 

 心の領域、ほんの少しだけギンガに取り戻させた事により、未だ戦闘が行われるものの、魔法を使う事はできない。

 ギンガが今使えるのは身にまとう黒い蒸気のみ。

 

「何故ーー魔法ーー不可ーー!?」

「だぁぁぁ!!」

「計算ーーエラー発生ーー!」

「ッリャァ!!」

 

 何度目か、ギンガの顎に突き刺さる拳。

 

「ーーーーッーーーー」

 

 ギンガのプログラムに広がる大量のエラー音。

 ジェイル・スカリエッティのプログラムに入った亀裂は、ギンガの心身全体に広がっている。

 

 決着の時は近い。

 

 

 

 




もっと書こうと思ったけど、流石にこれ以上ギンガをボコボコにする意味もないのでやめました。
次回ギンガ戦決着です。

今回も誤字脱字等のミスがありましたら、コメントにてお教えください。

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