オレはオレの幸せに会いに行く   作:ほったいもいづんな

50 / 76
着々と盛り返していく。


49話 Stand Up Heart

 49話

 

 

 

 

 致命傷を負い絶体絶命の状況下で現れたゼストの前に『不ノ九是 愛祝歌(ふのくぜ あいか)』と名乗る男の子。

 たびたびはやての元に訪れていた可愛らしい彼が、ゼストの命を救ったのだ。

 

 そして、このアイカの言葉に一人、とんでもないくらい驚いているのがシグナム。

 

「ふ……『不ノ九是』だと……!?」

 

 その名字に覚えあり……いや覚えありどころではない。

『不ノ九是』とは八神家の恩人であり心の友であった『不ノ九是 祝歌』の名字と同じ。

 

「はい!」

「いや待て! 『不ノ九是』家の方には我々も顔を見せに行った事があるが……息子は祝歌だけで兄弟はいないと……」

 

 かつて八神家全員で祝歌の家族に挨拶に行った事があった。 その際に色々祝歌の話をしたり聞いたりしたのだが、その時には祝歌のみが息子であると聞いていた。

 故にシグナムの目の前に現れた可愛らしい男の子のアイカが『不ノ九是』の性を名乗るのはおかしい話なのである。

 

「あのその、えぇっと……」

「し、シグナム落ち着くのです。 アイカ……君? ちゃん? ……が困ってます」

「あ、あぁ……すまんアイカ……」

「大丈夫でごぜーます。 パパとママも、『みんなに話したら間違いなくびっくりする』って言ってたですからねー」

「パパとママ……?」

 

 ここで、ふと。

 純粋に聞きたくなる事があった。

 アイカがシグナム達に名を名乗る際、自分達の名前を知っていた。

 だが、その際にリインの事を『ツヴァイ』と呼んでいたのだ。

 妙に引っかかることがシグナムの好奇心を動かしてしまった。

 

「アイカ……お前の、パパとママ……とは?」

「パパとママの事でごぜーますか? パパは……」

 

 その質問に、アイカは屈託のない笑顔で答える。

 

「パパは『()()()()()()』でママは『()()()()()()()()()()()()』です!!」

「ーーーー」

 

 その名は、シグナム一人が受け止めるにはあまりにも衝撃的で、不思議で、よく分からない渦に放り込まれた感覚に陥るくらい頭の中でアイカの言葉が反芻する。

 

 なおリインは二人の事は詳しく知らないので事の重大さに気付いていない。

 

「……なぁ、あいつら大丈夫か?」

「さぁ……味方だと思っていたが……どうなんだろうな」

 

 少し離れた所で動向を見守るゼスト達。

 その視線の先にはアイカの言葉を受けほんの少し仰け反りながら目を見開いているシグナムの姿が。

 

「…………」

「……?」

 

 目の前のアイカの姿をよく見る。 背丈はヴィヴィオと同じくらい、髪は黒、おかっぱ頭で瞳の色はリインフォースと同じ赤。 見た目女の子に見えるくらいの可愛らしさがあるが、よく見れば男の子。

 そして祝歌とリインフォースの子ども……ここまで考えてシグナムの混乱しきった脳内はとうとう限界を超える。

 

「……ふふふ」

「シグナム? 大丈夫ですかぁ〜……?」

「ふはははは……フハハハハハハハハハ!!」

「うわっ!? シグナムおねーさんが壊れたでごぜーます!?」

 

 似つかわしくないほど大きな笑い。 しかし、笑い終わった彼女の表情に憂いも困惑もない。 目の前にいる新たな『家族』をしっかりと見つめる。

 

「アイカよ、お前はこれから何をするつもりだ?」

 

 問う。

 それにアイカは答える。

 

「『キリトおにーちゃん』から聞いたんです、「このままだとみんなが危ない」って! だからはやておねーさんを守るんでごぜーます!」

「そうか……我らが主を守るのだな? ……その言葉に偽りはないな?」

「はいっ!!」

 

 またもや引っかかるワードが出てきたが……この場で重要なのはアイカが共に戦ってくれること。

 共にはやてを守ってくれる事だけだ。 今はそれだけでいい。

 

「ならばよし。 リイン、アイカを主の元へ連れて行け!」

「えぇっ!? 本気で言ってるのですー!?」

「今の並外れた回復魔法を見ただろう、生半可な腕をしていない。 それにおそらくまだ主はガジェット達の掃討をしているはずだ。 お前が責任持って案内をしろ」

「ふえぇ!? シグナムは、シグナムは何をするんですかぁ!?」

 

 まさかのアイカの投入に驚き困るリイン。 いくら回復魔法を扱えるからと言って、見た目5.6歳の少年を戦場に連れていくのは流石に難色を示す。

 

「いくらこの子が特殊だからって……」

「よろしくおねげーします、ツヴァイおねーさん!」

「よーし、おねーさんに任せるのです!」

 

 即落ち2コマだった。 おねーさん呼びがまさかのクリーンヒットだった。

 

 後ろでお姉さんぶるリインを放置し、シグナムはゼストに歩み寄る。

 

「ゼスト殿……我々はもう行くが……貴殿はどうなさるおつもりだ?」

 

 再び問う。 今度は目的を達成しかけているゼストに。

 

「俺は……まだ身体を動かせる程の体力は戻っていない。 ここで大人しくしているさ」

 

 答える。 ここでリタイアする、と。

 

「ゼストは我々の医療班で面倒を見る。 ……それに、したい『話』もある」

「レジアス……」

「そこでのびている戦闘機人も我々が監視しておこう……悪いが強力なバインドをしておいてくれ」

 

 ゼストの身柄の安全、そして気絶しているドゥーエの監視を引き受け、さらには空戦魔導師であるシグナム達に頼みをする今のレジアスの姿に、少し驚いたがすぐに表情を元に戻す。

 敬意を払わねば、厳格にして信念を持つ顔をしているのを見てそう思った。

 

「あっ! バインドもアイカはできますよー! てりゃぁ!」

「ーーうぐっ!? 痛い痛い!?」

「……アイカ、締めすぎだ」

 

 回復魔法も強力ならバインドも強力。 シグナムに頼られてつい力が入ってしまったアイカのバインドは締め付けが強すぎて気絶していたドゥーエが起きてしまった。 だがこれはこれで都合がいい。

 

「イッター!? 何このバインド!? 全然壊さないんだけどぉ!?」

「起きたな戦闘機人……」

「……え、何これ。 目が覚めたら超絶不利な状況なんだけど……」

 

 身体はびっくりするくらい動けない状況、ある意味拷問である。

 しかし、シグナム達を前にしてもドゥーエは不敵に笑いだす。

 

「……ふふ、言っておくけど。 私を縛り上げても無駄よ。 私は口は絶対に割らない、ドクターの不利益になるような事は決して言わないわ」

「……そうか」

「私たち姉妹を甘く見ないことね」

 

 この状況でもこれだけの事を言えるのは流石に場慣れしていると賞賛できる。 しかしシグナムの方も対してつっかかるつもりもないが。

 

「それに……あともう少ししたら、ここ地上本部を大量のガジェットが襲撃してくるわ」

「何だと!?」

「まともに動けるのは貴方だけよ騎士さん……? 果たして地上を守りきれるかしら……?」

 

 レジアスはドゥーエの言葉に戦慄する。 まともに戦う事のできない現在の地上部隊。 あてにしていた魔導兵器もスカリエッティによって破壊されている。 ゼストも戦闘続行不可能が現状、控えめに言って詰みの形に入ろうとしているのは容易に想像できる。

 

 しかし、シグナムの口が開く。

 

「……ガジェットか、別に全て斬り伏せば何ら問題はない」

 

 自分が全て破壊する、と。

 

「ガジェット程度、何体来ようと斬れるのであれば私で十分だ」

「あなたバカァ? 地上を壊滅するためにわざわざ送り込むのよ? 100単位で足りる量だと思ってるわけ?」

 

 大量の物量作戦。 ガジェット達を最も有効的に扱える手段。 例えシグナムであろうと全てを破壊するには体力も魔力持たない。

 

「そうかもな……だが私が行く」

「お前……」

 

 しかし、シグナムは征く。 守るべき命がここにあるから。 その背をドゥーエ達に見せる。

 そんなシグナムの覚悟を嘲笑うかのようにドゥーエは戦場の現状を話す。

 

「そんな事をしたって無駄よ。 ガジェット達はともかく、私の姉妹達がいる限り貴方達『管理局』は勝てない」

 

ドゥーエが吠える。

 

「 S級魔導師と互角、いやそれ以上にでも戦える私達に! ドクターの命令に従う『ナンバーズ(私達)』に『人間(貴方達)』は絶対に敵わない! ここでどれだけのガジェットを潰そうとも、大局は揺るがない!」

 

 ドゥーエの言葉通り、各地の仲間達は現在不利な状況どころか絶体絶命の死地に立たされている。

ここでシグナムがどれほど健闘しても、最終的には複数体のナンバーズに殺されてしまうかもしれない。

 それでも、シグナムは揺るがない。

 

「……お前は、明日夢が叶うと知った時、今日死ぬと言われたその日を生き抜く事ができるか?」

「何の話よ……?」

「今日死ぬと宣告されたとしても、明日己の夢が叶うと知った時、お前は死ぬ気で生きる事ができるのか?」

「何をバカな事を……私達はナンバーズ、代わりなんていくらでもいるわ」

 

 その言葉を聞いて、シグナムは振り返る。 嘲笑うドゥーエを見て、再度確認する。 自分達の勝利足る理由を。

 

「そこだ。 だからお前達は我々に敗北する」

「何ですって……?」

 

 ドゥーエはシグナムの言葉が理解できなかった。 確かに自分は今、確かに拘束され身動きが取れなくなっている。 しかしナンバーズはまだまだ残っている。 スカリエッティもまだ捕縛されていない現状、順調にコマを進めているのは自分達の方なのだと信じて疑わない。

 

「お前達は、ジェイル・スカリエッティは少なくとも、管理局に対しての復讐、そして全てを破壊しようとしている。 それは過去から現在まで続く負の連鎖だ。 それそのものは同意しかねるが、その熱量と信念は敵ながら驚かされるばかりだ」

「そうよ、ドクターはこの世界で一番素晴らしいお方。 そのドクターを蔑ろにして利用したあいつらは死んで当然。 そしてこの次元世界に存在する全ての存在もドクター以下の有象無象! だから死んで当然なのよ!」

 

 ジェイル・スカリエッティは『無限の欲望』。 だから復讐というのも理由の一つに過ぎず、また自分の持つ力の誇示すらも理由の一つに過ぎない。 だからこそ次元世界を崩壊させようとするその悪意は凄まじいパワーがある。

 

 だが、それはあくまで今を殺すだけの力に過ぎない。

 

「だが、ジェイル・スカリエッティの力は所詮『過去』から『今』に対する恨みだ。 「今を殺すだけ」の力なんぞ、脆く弱い」

「ふんっ、所詮ドクターの崇高な使命を理解できない凡族め……」

「そうだ、我々は()()()()だ。 他人と違う所のある、ただの凡人だ。 だが、現にお前はその凡人であるゼスト殿にレジアス中将の暗殺を止められ、その上で返り討ちあっているではないか」

「ッ……!」

 

 痛い所であった。 だがドゥーエはあくまで潜入に特化した戦闘機人。 仕方のない事ではあるが、その仕方のない部分で凡人に負けてしまっては立つ瀬がない。

 悔しそうに唇を噛むドゥーエに、シグナムは言葉を続ける。

 

「我々凡人は、誰かに未来を託される。 その未来を、明日を生きるために今日を死ぬ気で戦い抜く。 明日いなくてもいいお前達に、替えが利くと『死ぬ覚悟』すらない貴様らに、今を『死ぬ気で生き抜く』凡人(我ら)が負ける道理はない!」

「ッ!!」

 

 シグナムの言葉に、気付かされる。

 自分は、替えが効くのだ。 誰か一人でも生き残ればまたやり直せる。 ならば自分の明日すら意味はない。

 人間(凡人)を超越した筈なのに、何もかもが満たされた理想の形なのに、『()()()()』のだ。

 

「例え我々一人一人がお前達に劣ろうとも、命をかけてくれる仲間の為に我々は命をかけて必ず勝つ! それが明日を生きる凡人(人間)の強さだ!!」

 

 足りないのは、自分が人間ではないから? 否。

 ジェイル・スカリエッティの為に戦っているから? 否。

 

 足りないのは、スカリエッティの思想に近いと驕り、勝手に向上心を無くし盲目的に戦っていたからだ。

 

 あの瞬間レジアスを守ったゼスト。

 ゼストはあの時に満ち足りたのだ、だからレジアスを庇えた。

 それを理解できなかったあの瞬間の自分は、確実に人間よりも()()()()()

 

 それだけが、確かな敗北感となって脳裏に焼き付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 スバル・ナカジマは以前ピンチのままであった。

 善戦していた前半から一転、黒い蒸気を纏うギンガの動きについていけず、良いように攻撃をもらってしまっていた。

 

「(もう……打たれ過ぎてどこが痛いのか分からないや……)」

 

 たった数分の猛攻の中、スバルは黒い蒸気がギンガにもたらしている効果について理解した。

 この黒い蒸気はギンガの全体的な身体能力の向上に加え、ギンガの肉体への負荷を無視した高速移動まで可能にしているのだ。

 決してバリアやシールドが張られているわけではないので、攻撃は先程までと同じように通る。 しかしそれも相打ちでようやくだ。

 

「ギン……姉……」

 

 立っている場所も空中のウイングロードからはすでに落ち、地上に足をつけている。 だが、その足取りも確かなものではない。

 

「次の一撃で意識を奪える確率……98.5%」

 

 ギンガは無機質な言葉を口にした後、スバルに向かって急接近。

 

「(ーーあぁ、これは避けられないや)」

 

 やけにスローモーションに見えた、拳を振りかぶる動作。

 間違いなく直撃コース、前にも後ろにも避けるほどの動きは間に合わない。

 

「ゴメン……みんなーー」

 

 スバルの意識は遮られるーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『左足を右足の前に、倒れこむように踏み出せ』

 

 謎の念話に。

 

「ーーぇ?」

 

 無意識のうちに、念話通りに身体を動かしていた。

 すると不思議な事に前方斜め右方向にズレた事でギンガの拳を回避していたのだ。

 そして間髪入れずに次々と指示が飛ぶ。

 

『そのまま身体を右に捻り背を向けたまま右の裏拳を頭の隣に』

「ッ!?」

 

 背を向けたままの攻撃、当然スバルは見てはいないのに……当たる(ヒット)

 訳が分からなかった。 スバルもギンガも。 ただひたすらに困惑して……スバルだけは分かった。

 

 この声の主に従う事が一番だと。

 

『そのまま右回転で前を向きながら……』

「リボルバー……」

 

 次の指示は何となく分かる気がした。

 スバルは左の拳に魔力を込める。

 

『全力で打ち込め!』

「シュート!!」

「回避ーー不可ーー!!」

 

 ギンガの顔面に叩き込まれた左拳はそのまま彼女を打ち抜き吹き飛ばす。

 これで距離が稼げた。 ここでスバルは自分に念話の主を探す。

 

「にしても一体誰が……? ティアじゃないし……そもそもーー」

 

 そもそも『男』だった、そう呟こうとして聞こえてきた足音の方向に振り向き、固まる。

 

「ーーぁ……あぁ……!」

 

 歩いてきたのは、()であった。

 

「あぁぁぁあああ……!!」

 

 全身白衣、所々見える包帯が全身の怪我の具合を測らせてくれる。

 

「よ゛……よ゛か゛っ゛た゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」

 

 その男は、()()にプレゼントされた、現在はちょっとヒビが見えるメガネをクイっと上げながらスバルに近づく。

 

 そう、この男は……

 

「シ゛ン゛ゴざん゛ん゛ん゛ん゛ん゛!!」

「どうやらボロボロになってるみたいだけど、泣くほどの元気はあるみたいだねぇ」

 

 ルーテシアに重傷を負わされた、しかしルーテシアとの勝負には一切引かなかった魔力を持たない男。

木村 心悟(きむら しんご)』、その人である。

 

「さぁて、それだけの元気があるなら大丈夫そうだねぇ……」

 

 何故ここに? まだ身体も快調とは言えず、管理局の特別病室で寝ていたはずなのに?

 そんな疑問は今ここでは重要ではない。

 真に重要なのは……『心を覗ける』彼がここに来たことだ。

 

「勝とうか、ナカジマ妹」

 

 木村 心悟、戦場に立つ。

 

 




時間がかかるのはね、久しぶりに短編を書いてたからです。
でも違う名前で、なろうに投稿したんで宣伝はしません。

今回も誤字脱字等のミスがありましたら、コメントにてお教えください。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。