オレはオレの幸せに会いに行く   作:ほったいもいづんな

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まぁーた魔改造してるよこいつ……


45話 戦況を変える悪魔的奇手

45話

 

 

 

 

結界に閉じ込められた廃ビル。 その中で続く激しい戦い。

翔次とティアナは3人の戦闘機人を相手に一歩も引くことのない戦いを繰り広げていた。

 

「ツァ!」

「翔次! 次3時の方向!」

「了解した!」

 

翔次が前に、ティアナが後ろに。 以前ギンガが連れ去られた時、翔次はギンガと共闘しながらもナンバーズであるチンクを倒す事が出来なかった。

それは何故か? それはひとえに練度不足である。 ただ単純に翔次が誰かと力を合わせる事が不得手だったから。 ウィングロードを展開するギンガとの相性もさしてよくも無かったからだ。

 

だが、今はティアナと戦っている。

翔次は元来人に指示を出すのは得意ではないし、何より誰かに指揮を取ってもらう方が力を出せる性分だった。

そこにティアナである。 同じ二番子ではあるが、ティアナは翔次に比べてリーダーシップが取れる人間である。 よく状況を『視る』事が出来る。

 

『魔法なら何でも斬れる』というこの世界においてのジョーカーに近い翔次の力、それを正確に制御できる『指揮官』がいるのなら、二人は無敵だ。

 

「5秒後に7時の方向! 打ち込みなさい!」

「応! 「滑砕流」!」

 

ティアナの指示通り放たれた一撃は、同時攻撃を仕掛けようとしてきていたノーヴェとディードに襲いかかる。

 

「グァッ!?」

「ッ……!!」

 

見事に直撃。 霊圧の奔流は二人を呑み込む。

が、不意を突くようにティアナの背後にウェンディが。

 

「本命はこっちっす!」

 

ウェンディのライディングボードに付いている砲塔から光が漏れ始める。

どうやら指示を出すティアナを仕留めにかかるために2人は囮となりウェンディに奇襲をかけに行かせたようだ。 狙われたティアナ、しかし翔次は動かない……というより動く必要がない。

 

「モード2!!」

「うぃ!?」

 

ティアナの隠し刃、『ダガーモード』。 近接戦闘を可能にするその刃で振り向きざまにウェンディの顔面を狙う。

 

「くっ!」

「やああああ!!」

 

済んでの所でボードを縦に浮かせ防ぐ。 だが不思議とティアナの力だけで……押される。

 

「な……んで……!?」

「うりゃあああ!!」

「うわ!?」

 

そのまま後方の壁に吹き飛ばされる。 予想外のティアナのパワー、その秘密は明かされる事なく翔次とティアナが態勢を立て直す為に距離を取る。

 

「ふぅ……上手くいった……」

「上出来じゃあないか」

「あんたもね……これ明日絶対筋肉痛だわ……」

 

ウェンディを押し飛ばしたティアナのパワーの秘密。 それは実に単純な話で。

『遠心力』と『重さ』の単純な足し算である。 振り向きざまという体の回転、そしてダガーモードになる際に魔力を調整し質量を増やした。

だから上からの、顔面を狙った半回転攻撃。 身体を軸に腕を鎖、ダガーを砲丸に見立てた叩きつけ攻撃。

確実に数回しか使えないし、確実に明日筋肉痛であろう。

 

「いてて……狙撃手が近距離も戦えるとか聞いてないっすよー……」

 

ウェンディは後頭部をさすりながら翔次の攻撃をくらった二人の元へ。 よく見ると全体的に火傷や擦り傷に似た裂傷を負っている。

 

「うわっ!? 大丈夫っすか?」

「……問題はない、動きに支障なし」

「あぁ問題ねぇ……だが、この前よりも威力が上がってやがる。 それだけは間違いない」

「……っすよね……こっちも奇襲失敗どころかちょっと危うかったっす」

 

合流した3人は目の前にいる翔次とティアナの評価を改める事にする。

 

「……癪だが……仕方ねえか」

「そう……っすね」

「それでは……『アレ』ですね?」

 

目の前の二人を、強敵と認識する。

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

そして目の前の二人を……確実に排除すると決定する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ〜らあらあら? ようやくあっちこっちで予定通りに動いてくれてるのねぇ〜」

 

ナンバーズ随一スカリエッティに近い存在、クアットロはゆりかご内で各戦況を確認していた。

クアットロがいるのはヴィヴィオがいる玉座、ゆりかごの核となる動力と融合したローリがいるコア部分とは違う場所に一人いた。

 

「アジトの方にも『()()()()』あの雷の魔導師が、ノーヴェちゃん達もようやく動いてくれるしぃ〜……あ! あとガジェット達があのおチビちゃんを串刺しにもしたしねぇ〜」

 

愉快な笑みを浮かべてクアットロは、自分も予定通りの事を始める。

 

「それじゃあそれじゃあ……ルーテシアお嬢様とぉ、タイプゼロ・ファーストの方にも『頑張って』もらいましょうかねぇ……♪」

 

クアットロ、悪魔の一手を投じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エリオとキャロ、二人はルーテシアの説得に努めていた。

戦うよりも話したい、その願いが通じたのかルーテシアは二人に心を許しそうになる。

ガリューもまたこの二人には悪意はない、純粋な気持ちでルーテシアに説得を試みているのだと感じ取っていた。

 

そこに、悪魔(クアットロ)の横ヤリが。

 

「ーーッ!?」

「ルーちゃん!?」

「ガリューもどうしたの!?」

 

突然頭を抱えて苦し始める。

 

「うわあああああああああああ!!!」

 

その目は正気を失ったのか、剥き出しになった白目は空を仰ぎ見る。 しかしルーテシアの目には空など映しだされる事なく、目の前に広がるのは自らを蝕む苦痛の赤。 全身を蝕む痛みがルーテシアを暴走させる。

 

「アアアアアアアァァァ!!!」

「2体同時召喚!?」

 

ルーテシアが呼び出した2体の召喚獣。

一つは召喚獣「地雷王」。 これまでの戦いでも何度か召喚され、その巨体を生かした攻撃や、魔力による振動で地震を起こす事ができる巨大甲虫。

そしてもう一つは……『見た事がない』。

 

「この召喚獣は……!? ヴォルテールと同じくらい大きい!!」

 

硬質な外骨格、屈強な肉体、その背からは二つの羽が見えるが……虫と断定するには余りにも判断材料が少なさすぎる。

そして何より……『巨大(デカい)』。 シャロの最大の召喚であるヴォルテールと同じ巨体、白を基調とした巨体。 二足歩行で佇む姿からは腹部にある大きな水晶体のようなものまで見える。

 

名を、『白天王』と呼び……とにかく『巨大(デカい)』。

 

しかし警戒すべきはルーテシアと同時召喚された二体の王だけでない。

 

「ーーッーーッ!!」

「ガリュー!? どうしたんだ一体!」

 

暴走し、怒りや敵対心が剥き出しとなった主人であるルーテシアの心に呼応してしまい、ガリューの持つ全ての武装が展開される。

 

止まる事が出来なくなった二人の力が、暴力となりエリオとルーテシアに襲いかかる。

 

「アアアアアアア!!」

「ルーちゃん!!」

「し……アァ……! 幸せな貴方達が……ガ……ガ……私に手を差し伸べるなアアアアアァァァァ!!」

 

地雷王が起こす振動はキャロの近くにあるビルを倒壊させ、地上にいたキャロに瓦礫となって降りかかる。

 

「キャローーーー」

 

そこからキャロを救うべく咄嗟に駆け出すエリオ。 だがそのエリオの行動を許さないかのように……

 

「ーーガハッ……!?」

「ーーッ!!」

 

ガリューの足が腹部に深々と突き刺さる。

ルーテシアの為にだけ動くガリューは、目の前にいるエリオを自分の主人に近づけてさせるのが危険だと『身体が勝手に判断して』エリオに攻撃を追加していく。

 

「ーーッ!!」

「うああああ!!」

 

突き刺した足を抜き、そのまま空中で高速回転を加えた蹴りをエリオに叩きつける。 向かう先はビルの瓦礫、しかしそこに叩きつけられる前にエリオを拾う白き竜。

 

「大丈夫エリオ君!?」

「ぼ……僕は大丈夫……だけど二人が!」

 

降り注ぐ瓦礫が直撃する前にフリードの力を解放して事なきを得たキャロはそのまま空を駆けエリオと合流する。

このまま一度距離を離して対策を練らなければならない。

ならないのだが……

 

「白天王!!」

 

ルーテシアが許さない。 白天王の腹部にある水晶体から薄紫色の魔力砲が放たれる。

それを視認した時、キャロを守らないといけないとエリオの本能が咄嗟に身体をフリードから飛び降りさせる。

 

「ストライダー!!」

 

そして自身の魔力でシールドを展開し、もうそこまで来ていた砲撃を受け止める。

咄嗟に仲間を守る為に自身をキャロとフリードの前に出し、慣れないシールドを即座に展開できるのは、エリオが騎士として成長している証である。

 

だが、目の前の『巨体(デカい)』敵には小さな存在である。

 

「うわあああああああ!!?!」

「エリオくーーきゃああああああ!?」

 

薄紫の光は容赦なく二人をまとめて飲み込む。 エリオのシールドは、まるでホースか何かで簡単に洗い流されてしまう汚れのようにあっさりと破壊……いや消されてしまう。 激しい光の奔流に押され、フリードに激突するとそのまま廃ビル群を何度も貫通していく。

その光が遥か彼方まで行き、消えた頃には……

 

『ーーーー』

 

二人とも、崩れゆくビルに飲み込まれていった。

 

「…………ハァ…………ハァ…………」

 

力を振り回したルーテシア。

だが、二人の死体を見るまでは止まらない。 自分の頭から存在が消えるまでクアットロからの蝕みが解放されることは無い。

 

「ハァ……ハァ……ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スバルの戦法である「シューティングアーツ」は姉であるギンガから教わったものである。

故にスバルの実力ではギンガを組み伏せる事は容易ではない。 容易ではないが、無理な事ではない。

 

機動六課での訓練、上官や客員魔導師達の教授もあり、スバルの実力はギンガに肉薄しつつあった。 「シューティングアーツ」を基盤に、スバルオリジナルのアーツの全てを持って戦いに挑んでいる。

 

「うおおおおお!」

「直進ーー軌道予測完了ーー」

「うおりゃあああ!!」

「計算外の加速ーー回避不可ーー!!」

 

空に敷かれたウイングロードを加速しながら一直線にギンガに向かって拳を突き付ける。 それはギンガの演算機能を持ってしても予測することの出来ない気合いの一撃。

もろに食らったギンガの身体はくの字に曲がったまま廃ビルに直撃する。

 

「ふぅぅー……」

 

スバルの目の前にいるギンガはジェイル・スカリエッティによって洗脳に近い改造を施され、スバルの声は届きはしない。

『原作』のスバルであれば、実の姉に対して全力を発揮する事が難しかった戦況ではあるが……この世界のスバルは違う。

 

心悟がいる。 ギンガや自分を良くしてくれている彼がいる。 六課の襲撃の際に瀕死の重傷を負い倒れている彼がいる。

例え戦う力がなくても、最後まで敵の前に立ち塞がる事を辞めなかった彼がいる。

現在は管理局直営の病院により容態は安定しているが、未だ目を覚ます事はない。 だが、もし彼が目を覚ました時、ギンガが敵の手によって改造されてしまったと知ったら彼は何を思う?

 

すでに知っているのかもしれない。 予測出来ていた事かもしれない。 あるいは寝耳に水かもしれない。

 

「ギン姉を救うには魔法を使ったノックダウン、それを狙うしかない。 ……マッハキャリバー、まだまだ行けるよね!」

『Of course』

 

だか、悲しむのは、きっと間違いない。 それは長年世話になってきたスバルには分かる唯一の事実であった。

故に、スバルは自分のために、姉のために、仲間のために、『守るため』に戦う事を決意する。

 

スバルはここにきて()()()()()()()()として『大成』しかける。

 

 

 

 

 

 

だが、それを阻む悪魔(クアットロ)の奇手。

 

「ーー!?」

 

突如、ギンガが激突した廃ビルの上層部が爆散する。

 

「な……何が……!?」

 

スバルの目に映るのは爆発で吹き飛ぶ瓦礫、瓦礫、瓦礫と……『黒い蒸気』。

 

「何……ギン姉から黒い……何あれ……!?」

 

ギンガのナックルから、ブーツから、彼女の全身から『黒い蒸気』が噴出される。 それだけなら良いのだが、それらは「魔力」による蒸気であることは離れた位置にいるスバルでも察せられる。

突然吹き出した『蒸気』はその勢いのままギンガの上に連なる階層を吹き飛ばし…………ギンガに纏わり付いていく。

 

「まさかスカリエッティが何か仕込んだ……!?」

 

何とか自分が納得できる答えを模索するスバルの目には、全身を『黒い蒸気』で包んだ自分の姉が立っていた。

 

立っていたが……()()()

 

「……ぇーー」

 

その瞬間、風が自分の顔面に叩きつけられる。 大した風ではない。

 

ただ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なだけだ。

 

そしてただ……すでに腰を深く下ろし拳を引いて、準備万端なだけである。

攻撃の、だ。

 

「早ーー」

 

防御も回避も、思考する前にギンガの拳がスバルの腹部に突き刺さる。

 

「ーーッ……ガッ……ァ……」

「意識の遮断、失敗。 出力再調整……」

 

みぞおちに受けた衝撃に膝を落とし、思わず身体を丸くしたくなる衝動を何とか抑えながらも、何とか片膝でギンガの方を見ようと試みる。

だが、苦痛に悶えているスバルの耳には……

 

「出力()()()()ーー『30%』から『40%』に出力上昇ーー」

 

無機質な絶望が届いていた。

 

不意に脳裏には……自分が地に伏す姿がよぎった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、絶望が。

 

絶望が、襲いかかってきたのだ。

 

「翔次! しっかりしなさいよ! 翔次ー!!」

 

ティアナの目に映る……『()()()()()()()()()』の姿が。

 

ティアナの思考を、『絶望』の二文字に支配した。

 

 

 




原作よりもピンチとかハーメルンじゃよくある事だよね! だよね?

今回も誤字脱字等のミスがありましたら、コメントにてお教えください

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