オレはオレの幸せに会いに行く   作:ほったいもいづんな

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今回……うん。 あれだ……うん。
おめでとうと祝福してあげて


39話 「まぁこんな感じでちょうどいいんじゃない?」

 39話

 

 

 

 

「……んっ」

「お、目を覚ましたかおっさん」

 

 荒野に男二人。 ようやくゼストが意識を取り戻す。

 

「ほれ、飲む?」

「……頂こう」

 

 どこで買ってきたのか、そこら辺にはないであろう自動販売機に大体置いてある普通の水を手渡す。

 蓋を開けようと力を入れ、そこで不意に痛みが走る。

 

「……そういえばそうだったな」

「ははっ、忘れてたのかよ。 あんなに殴り合ったのを」

 

 何気ない動作から生じる痛みが、やっとゼストの意識をはっきりと覚醒させる。

 ついさっきまで夢見心地な気分で、いや本当に最高の夢を見ていた感覚があった。

 だがそれが現実に、ついさっきまであった事をようやく思い出す。

 

「そうか……あれは夢ではなく、現実だったか」

 

 ゼストは渡された水を一気に飲む。 水を腹に押し流しながら先ほどの戦いを一から振り返る。

 激しい肉体と肉体のぶつかり合い、それぞれの得物のせめぎ合い、そして研磨された技の攻防。 どれをとってもゼストにとって最上の経験。

 その記憶を全て思いはせたと同時に全て飲み干す。

 

「……ふぅ、美味い」

 

 そして息を一つ。 まるで三ツ星のレストランで極上のディナーを食べた時と同じくらいの幸福感を味わっているようだ。

 

「……ただの水だぜ?」

「確かにただの水だ。 どこにでもある自動販売機に大抵は常備されている飲料水。 これに金を払うなら隣にあるほんの少しだけ高い茶を買った方が美味いだろうな」

 

 激しい運動後ならばただの水よりもスポーツドリンクを飲んだ方がいい。 そんなのはゼストだって知っている。 水分補給には明らかにそちらの方がいい。

 だが、これが水分補給ではないのなら話は違う。

 

「ただの水、しかしここに先ほどの戦いという名の……『スパイス』が加われば話は別だ」

「……スパイス?」

「俺と貴様の戦い、その記憶が脳に……そして肉体に刻まれている。 それを全身が思い出すたびに得もいえぬ興奮と喜びが押し寄せる。 それを肴にすれば、例え味気ない水だろうと極上の料理に早変わりと言うわけだ」

「……なるほど」

 

 ゼストの言葉を聞き、彼の隣に座って同じようにキリンも試してみる。 するとゼストのように一気に飲み干してしまう。

 そして納得したような顔で……

 

「……美味い」

 

 同じ感想を口にしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人並んで荒野で黄昏ていた。

 目の前にあるのは戦闘によって生まれた戦闘痕。 間違いなくそこに二人はいた。 間違いなくそこで二人は戦っていた。

 

「……あの時」

「……ん?」

「貴様が限界を超えたあの瞬間、俺は瞬きなどしなかった」

「……」

「一切の油断も奢りもなかった。 お前の指先が動いた瞬間に残された最後の魔力を振り絞り、一閃を持ってお前を貫こうとした」

「…………」

「だが、結果から見れば俺の負け。 残された一発を放つことすら……叶わなかった」

 

 先ほどの戦いの決着の時、ゼストの感じた思いをキリンに伝える。

 キリンはそれを相槌も頷きもせずに黙って聞いていた。

 

「あの時……お前は限界を超える必要はなかった筈だ。 アレだけの攻撃、防御、魔法を繰り出してもお前にはまだまだ余力が残されていた。 余りある程にな」

「…………」

「だから俺の勝負を受ける必要もなかった。 じわじわと追い込めばいいからな……それでもお前は勝負を買ってくれた。 俺に……その力の全てを向けてくれた」

 

 お互いに満身創痍だったあの時、ゼストとキリンでは状況は似て非なるものだった。 あと一撃しか打てないゼスト、あと一撃しかくらえないキリン。 その状況で、放たれた一閃を避ける力も防ぐ力も、迎撃する魔力には困らなかったキリンだが、ゼストの騎士としての……男としての勝負をしてみたくなった。 だから限界を超えた、だからゼストに攻撃させることもなく勝った。

 

「お互いに全てをさらけ出し、そしてお前が勝った。 これほどまでに……」

 

 正統なる果たし合い、その決着は一瞬ではあったが……

 

「これほどまでに……気持ちのいい勝負はなかった」

 

 最高の瞬間があの瞬きすら追いつかない一瞬に込められていた。

 ならばそれ以上はいらない。 振り上げることすら出来なかった拳ではあったが、その先は望まない。

 

「……そうか」

 

 肯定も擁護せず、キリンは立ち上がる。

 

 

 

 

 

 

 と、ここで来訪者が二人。

 

「ゼスト……」

「旦那ぁ!! ようやく見つけたぜ!」

 

 やってきたのはルーテシアとアギトであった。

 二人はゼストを探していた様子。 どうやらゼストは黙ってやってきたようだ。

 

「ルーテシア……アギト……」

「もー! どこに行ってたんだよ! 心配したんだぜ?」

「確かに黙って行ったのはすまなかったが……どうやってここに……?」

「ドクターに聞いたの……ゼストがいないって……そしたら色々調べてくれて……」

「スカリエッティの奴め……」

 

 ジェイル・スカリエッティに何かされないように彼にも何も言わずに来たというのに、ゼストにはいやらしい笑みを浮かべているスカリエッティが容易に想像できた。

 どうやら彼には隠し事は出来ないらしい。

 

「まったく! ここに来るまでにえらいデカイ音とかすげぇ衝撃が伝わってきたから本当に心配したんだぞ!?」

「ゼスト……また無茶した……」

「……お前達」

「ゼストが強いのは知ってる……でも無茶しないで」

「旦那だって戦いすぎで疲れてんだから、あんまし勝手に行動すんなよ!」

 

 ルーテシアもアギトも、純粋にゼストを心配していた。

 確かにここ最近のゼストは連戦に次ぐ連戦。 しかもどれも手を抜くことのできない激戦。

 何かあってはいけない。 それはそれぞれの目的の為ではなく、ただ仲間を思っての事だった。

 

「……ふっ、次からは善処する」

「あー! それってしない奴の定型文だぞ!」

「ゼスト……メッ」

「そう声を荒げるな……ふっ」

 

 そんな二人の優しさに思わず笑ってしまう。 ありがたい優しさ。

 ゼストは改めて二人が自分の仲間なのだと実感した。

 

 と、ここで水を差すつもりでのないのだが。

 キリンが声をかける。

 

「あ、おっさん。 そもそもウチの魔導師がやってくるから逃げた方がいいぞ?」

『!?』

 

 キリンの言葉に驚く二人の少女。 驚いたのはその言葉にではない、その言葉を自分達に言ったことにだ。

 ゼストだけが唯一冷静に、だけども普通の会話のように続ける。

 

「……捕まえないのか?」

「捕まえても、逃げるだろ? それはそれで無駄に手間がかかるし、いいさ」

「……なら逃げさせてもらうぞ」

「おー行け行け、オレはもうボロボロだし。 三人捕まえんのは本当に骨が折れる」

 

 手をひらひらさせて、「シッシッ」と早く行けとジェスチャーする。 それだけを見ると意味不明な事ではあるが、今捕まるわけにはいかない彼らにとってはありがたい。

 

「バーカバーカ! アタシらを捕まえなかった事、後悔しても知らねぇからな!」

「…………」

 

 二人はすぐにその場から去る。 もちろん捕捉されないためにジャミングをしながら。 ゼストもその後を追うようにキリンに背を向ける。

 

「おい」

「…………」

 

 だがその背中にキリンが一言だけ、勝者の権限を使って言う。

 

「あんまし、人を殺すんじゃねぇぞ」

「…………」

「お前が何しようが知らねぇけども、復讐だけはやめとけ。 復讐で死ぬなんてくだらん。 どうせ死ぬなら死合って死ね」

「…………善処する、とだけ残しておく」

 

 それだけ言うとゼストもルーテシア達に合流し、完璧に姿を隠す。 もう荒野に残されたのはキリンだけ。

 

 

 

 

 

 

 

『いいのですか?』

 

 さっきまで律儀に黙っていたミョルニルがようやく口を開く。

 

「なにがよ」

『向こうは、重犯罪者ですよ?』

「いいんだよ」

『新しい職務怠慢ですか?』

「違えよ、今捕まえなくてもいいって話。 だってそうだろ? 戦うなら……みんなでだ。 みんなで戦わなくちゃ」

『……まぁ別に私が怒られる訳ではないのでいいのですが』

「あ、てめ!」

 

 などと二人でいつものように話していると……空から魔導師が手を振りながらやってきた。

 

「おーい! キリンくーん!」

『なのは様……と、フェイト様でございますね』

 

 やってきたのはなのはとフェイト。 フェイトは少しだけなのはより後ろにいる。 やはりキリンと顔を合わせにくい様子。

 

『おーい、聞こえるー?』

「はやてちゃん」

『あ、ようやく通信入ったわ。 もうさっきから全然繋がらなかったんよ? そこそんな電波悪い? ちゃんとアンテナ3本立ってる?』

「へ? あ、あぁ……」

 

 思わず生返事。 何故ならミョルニルが意図的に通信を無視していたからだ。 なお『だってぇ〜戦闘中に音とか鳴ったら危険じゃないですかぁ〜キャハ☆』と申している模様。

 

「うわ、キリン君お腹とか肩とか穴空いてるけど大丈夫?」

「ん? まぁそこら辺はこう……雷で火傷させて止血してるから大丈夫よ」

「えぇ……あ、それはそうと……」

 

 平気そうな顔で痛そうな事を言ってくるキリンに若干引きつつ、ちらりとフェイトの方を見ながらキリンに質問をする。

 

「……で? 答えは出たの?」

「……おう、とりあえずやる事があるってのは分かった」

「じゃあ……いってらっしゃい」

 

 大人しく道を譲り、フェイトまでの距離を一直線にする。 なのはが横にずれた事でキリンの顔が正面に来ているのでフェイトはわちゃわちゃしながら狼狽えている。

 

 もちろんこの様子も六課職員全員にNow On Air である。(当然のような公開処刑)

 

「あ、え、あ、キリ、キリン、キリンその……」

 

 産まれたての子鹿のように足をプルプルさせながら涙目で手をわちゃわちゃさせる。 キリンはそれを見ているのか無視しているのか、黙ってフェイトに歩み寄る。

 

『(わちゃわちゃしてるの可愛い……)』

 

 この瞬間でさえ尊みを感じる六課の職員は終わってるのではなかろうか。(呆れ)

 そんなことよりも、とうとうキリンとフェイトの距離は手を伸ばせば届くくらいになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーー時に、ホモは一旦攻勢が得意である。

 ホモはヤラレっぱなしでは終わらない、必ずやり返す瞬間がある。

 だから、そもそもの発端がフェイトからのキスであるのならばーー

 

「ーーーーッ〜〜〜!?」

『な、なにぃいいいいいいい!?』

 

 キリンからの一点攻勢は自明の理であろう。(意味不明)

 

「んっ〜〜!? ンンッ!?」

『やだ……ちょっと濃密的……』

 

 ミョルニルのコメントはさて置き、キリンはこの間の、唇と唇が触れるくらいのキスとは違いがっつりいっている。 がっつりだ、がっつり舌が入っている。

 

 時間にしておよそ……11秒くらいか? そこでようやくフェイトの唇は解放される。

 その光景を見て中々に衝撃を受けながらも、キリンの男らしい行動に驚いていたなのは。

 

「(あ、あのキリン君が何も言わずにキスするなんて……ぶっちゃけいきなり過ぎて情緒も何もないけど、スゴい!)」(小並感)

 

 と素直に感嘆していたが……

 

「こ…………ここ……これでおあいこだぜ!!」(顔真っ赤)

 

 レスバに負けたなんJみたいに顔を真っ赤にしてそう言う。

 この時、誰もが確信した。

 

『こいつ何も考えてなかったぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 しかもここからキリンの暴走は拍車をかける。

 

「フェイトちゃん!!」

「ふぁ! ふぁい!?」

 

 キリンはフェイトの手を取る。

 

「オレは……オレはぁ! フェイトちゃんの事が好きです! ずっと好きだったんだよ!」(突然のカミングアウト)

 

 大胆な告白はホモの特権。

 

「わ、わわ……私だって! ずっとキリンの事が好きだったんだよ!!」(やけくそ)

 

 大胆な告白は女の子の特権。

 

「だからその……!」

「だからその……!」

 

 やけくそになりながらも、二人の『言葉(気持ち)』は重なる。

 

「「『()()』してください!!」」

 

 ……

 

『いや色々段階飛ばしスギィ!!』

 

 荒野に咲く新たな愛。 こんなドリフでも起こらないであろうグダグダの流れにて、ようやく。

 

 村咲 輝凛、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン、この両名が繋がる。

 

 

 

 

 

 

「いや二人とも、もうちょっとロマンチックなのをなのはさん期待してたんだけどなぁ……」

 

 少なくとも、自分はこんな感じにはなりたくないと思うなのはであった。




いやぁ〜ね。
ごめんなさいねフェイトファンの皆さん。
あのねぇ〜……いやなんかこうなった。

今回も誤字脱字等のミスがありましたら、コメントにてお教えください。

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