オレはオレの幸せに会いに行く   作:ほったいもいづんな

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ーー怖くなんかないよ さぁ、手を取って


35話 No Afraid Come take my hand

 35話

 

 

 

 

 キリンは己の力を今一度見つめ直す。

 

 この力は元々キリンの為にキリトが用意した力。 用意と言っても神が適当に見繕った力ではあるが、それでもこの『魔法少女リリカルなのは』の世界で戦い抜くには十分にも程がある。

 しかし、それは世界の均衡を容易く崩す事が出来る程膨大であり、一種の災害にすら等しい。 『無限の魔力』、『雷神の力』、この二つがキリンを「化け物」と言わしめた力の元凶。 本人の出力可能な魔力数は500万、さらにここから出力可能と言われれば……どれだけ恐ろしいかは明白だ。

 

 だからこそ、キリトはキリンなら大丈夫だろうと信じていた。 キリンの本来の力、「優しい力」があるのならば膨大な力を手にしようとそれを御しきれる、と。

 キリトの信じた通り、キリンはその力を時には友のために、時には自分の為に、必ず正しき事に対して行使していた。 ……ローリに出会うまでは。

 

 ローリと対峙し、キリンはその力を暴力として振り回し、あまつさえ戦闘機人のナンバーズにまで暴力を向けようとし、その結果フェイトを傷付けてしまった。

 

(あの時のオレは……)

 

 ベットに腰掛けたキリンは自身の両手を広げ、そこにあるであろう力を見る。 己が持つ雷の力を。

 

(フェイトちゃんに声をかけられるまで……何も気に留めなかった)

 

 少しずつ、その手が震える。

 

(奴を……消し去るのに……!)

 

 その両手が放つ力……その重責に震える。

 

()()()()()()()()()()……!!)

 

 かつてのキリンの様に、守る為ならば脅威となる力をこの手で葬り去るのを厭わないという守る覚悟ではない。

 己の為に、『()()()()()()()()()()()()』があった。 怒りをぶつける為に、その力を振るう理由を()()()()()のだ。

 

 場合によっては、かつて対峙したジャガーの様な『理由のない殺し』よりもタチが悪い。

 

「…………なぁ」

 

 震える両手を握り締め、キリンは縋るように……救いを求める様に小さく呟く。

 

「オレはどうしたらいいんだろうな……拳君」

 

 ーーコンコン

 

 ……その言葉に反応するかの様に、キリンの部屋の扉がノックされる。

 

「……誰だ?」

 

 キリンはのっそりと立ち上がり、ノックされた扉に向かう。 数秒程開けるかどうか悩んだものの、何か大事な用かも知れないと考え扉を開けた。

 そこには……

 

「あっ……」

「き、キリン、その……今いいかな?」

「フェイトちゃん……」

 

 そこにはフェイトがいた。 いたのだが……何やら少し、いやかなり様子がおかしい。

 

(は、はやてやみんなに言われてキリンの様子を見に来たけど……)

 

 フェイトの脳裏には先ほどまでの、皆がキリンを仲間だと信じ助ける、と宣言した……そんな光景はすでに消えており……

 

『よっしゃフェイトちゃん、このままキリンのトコまで行って慰めてきいや! ついでに『色々』慰めてきてもええで!』

『ファッ!? 子どもがいるところでそういうワードはNG!』

『ええやん、なぁみんな?』

『(一同頷き)』(エリオとキャロは除く)

『何も良くないよ!? そもそもここはアースラ! 現在の六課の拠点!』

『大丈夫やって。 ……防音の魔法張れば問題無いし。 そもそも録画する気やけどな!』

『録画って何!? 右上に●RECとか付くの!?』

『後々ちびっ子達の教育ビデオ(意味深)にするから問題は無いはず!』(親指立て)

『大有りだよ! 何そのサムズアップ! こんなに人の親指を折りたくなったのは初めてだよ!!』

『ささっ、早よ行って行って。 うちらはここで酒でも飲みながら見てるから』

『最悪だよこの上司! 部下の情事を肴にするとか何てセクハラ!?』

『フェイトちゃん、多分セクハラよりはパワハラだと思うよ』

『ありがとうなのは、冷静な指摘をしてくれて。 でもそこにいる上司にもツッコミして! と言うかまともな事を言ってるの私だけ!?』

『そうだよ(一同全員)』(エリオとキャロはry)

『口揃えなくていいよ!!』

 

 ちなみにこの時、クロノや翔次はとばっちりが来るのを恐れて黙っていた。 フェイトは生け贄になったのだ……パワハラと言う名の弄り、その生け贄に。

 

(さっきあんな話をしてたから落ち着いてキリンと話せる訳ないよぉ!)

 

 ……余談だが、ここからすでに皆に見られているのはフェイトには内緒の話。

 

「……フェイトちゃん?」

 

 色々考えすぎて少し頭が疲弊しているキリンの目にもその様子は手に取るように分かる。 『あぁ……またみんなにイジられたんだろうな』っと察した。

 

「あぁ〜……っと、その、取り敢えずお邪魔してもいいかな?」

「……あぁ……いや……いや、うん。 いいよ」

 

 一度断ろうか、そう思ったキリンの口からは意外にも肯定の言葉が出てきた。 誰にも会いたくはないだろう心境なのに、何故かフェイトの来訪を良しとしてしまった。

 

 むしろ……それを望んでいたかのように……

 

 

 

 

 

 

「……さっきね、みんなでミョルニルの話を聞いてたの」

 

 ベットに腰掛けたキリンの隣に座るフェイト。 取り敢えずはやては後で一度しばくと心に誓い、一先ず落ち着いて当初の目的を果たそうとする。

 

「ミョルニル……から?」

「うん……ローリの事を」

「っ!! そ……っ……そっか」

 

 フェイトの言葉に一瞬反応してしまう。 らしくないその反応はフェイトに当然伝わってしまう。

 だがフェイトはそれを気にしないのか、そのまま伝えるべき言葉を紡ぐ。

 

「ローリは……キリトとほぼ同じ時期に転生したんだってね」

「う、うん。 あいつの口ぶりだとそういう事みたいだね……」

「キリトとはあの時にしか会ってないけど、それでもキリトはキリンに取って大切な人。 だから……キリンの気持ちもちょっとだけ分かる」

「……っ」

 

 フェイトには少しだけ、キリンがローリにぶつけた怒りが理解できる。 フェイトにもプレシアという大切な母親がいた。 例え自分に酷い仕打ちをしようとフェイトにとって大切な人だった。

 そのプレシアを手酷く痛めつけたかつての翔次に怒りを覚えなかったか? と聞かれれば、そんな事はないとフェイトは答える。 少しはあると付け加える。 もちろんフェイトだって心ある人間だ。 大切な人が傷付けられれば怒りを覚えるのは至極当然の話である。

 しかし最後に、もう昔のことだからいいよ、っとかのじなら言う。

 

「……でも、だからってローリや戦闘機人達を殺そうとするのはいけないよ」

「ーーッ!」

 

 フェイトは優しい。 それは誰もが知っている事実だ。 だからキリンは怖くて堪らない。

 

 フェイトを傷付けてしまったのが。 また、自分が彼女を傷付けてしまうのが。

 

 それで……彼女が離れてしまうのが。

 

 キリンはフェイトの言葉を受け視線を下に降ろす。 フェイトの言葉にショックを受けたのではない。 フェイトから否定されるのが怖いのだ。

 フェイトがいるからキリンはここまで10年戦ってこれた。 これから先の何十年も戦っていけると信じている。

 しかしそれをフェイトに拒まれてしまったら、もはやキリンがこの世界で戦う理由も意義も失ってしまう。 守りたい者から否定されてしまったら……もはや……

 

「……ミョルニルが言ってたよ」

 

『もはや……』その先を想像し、深い絶望の底の底にまで落ちていく感覚があった。 だが、落ちゆくキリンを繋ぐように。 フェイトは立ち上がりキリンの前に前かがみで立ち、その手を握る。

 

 その、傷付いた『手』で。

 キリンよりも小さな手で、包む。

 

「キリンの為に、力を貸して欲しいって。 キリンと一緒に戦って欲しいって」

 

 その手の感触に一度怯えるキリン。 己が傷を付けたその柔肌に触れる事に、失われてしまったかもしれないその暖かさに恐怖する。

 

「…………」

 

 だが、それもすぐに消えてしまう。

 

「そしたらね、みんな口を揃えて言うんだ。 『もちろん』って」

 

 その手が、キリンの肌と触れる。

 

「私もそう言った。 みんな同じ気持ちだったんだ、だからキリンに伝えに来たの」

 

 その手から、温もりが伝わってくる。

 その手から、脈打つ鼓動が響く。

 その手から、優しさがじんわりと侵食してくる。

 

「私たちは……全員キリンの『仲間』だから」

「フェイト……ちゃ……」

 

 その手に包まれているのが、あんまりにも暖かくて。 あんまりにも心地よくて。

 感謝の気持ちと、謝罪の言葉と、グチャグチャだった感情が入り混じり……

 

「…………」

「キリン…………?」

 

 言葉を失い、ただただ涙を流していた。

 

「…………」

 

 だが、それでよかった。

 伝えたい千の言葉と幾多もの感情。 それら全てを、この涙がフェイトに伝えている。 むしろそれが求めていた答えになっていた。

 

「キリン……」

 

 その涙が、キリンの手を包むフェイトの手に触れる。 その雫から伝わるキリンの葛藤、混乱、悩み……悲しみを受け取る。

 以前もこうして、涙を流すキリンを優しく包み込んだ時もあった。 だからフェイトは何も言わずに、何も聞かずに、そこにいる。

 

 そして、少し経って、キリンが少しずつ言葉にし始める。

 

「怖かったんだ……」

「うん……」

「ローリに会って……あいつがキリト君を殺したのは知っていた……だから、あいつを倒したら……自分が許されるんじゃないかって思ったんだ。 ……そんな考えに至った自分が嫌で……きっと違う人間だって思いたかったんだ」

「……うん」

 

 キリンはもうすでにキリトが死んでしまった事に対して何かを言うつもりはなかった。 なかった所に、ローリがやってきた。 そしてそのローリはヴィヴィオを狙っていた。

 キリンは掘り起こす事はないであろう事件への悲しみと怒りをローリによって表に這いずり出てしまった。 そしてその怒りの理由に、ヴィヴィオを……キリトを使ってしまった。

 

 それを理由にするのが、それに囚われるのが……そこで納得してしまうのが『怖かった』のだ。

 

「オレは……この感情をぶつける言い訳に……キリト君を……ヴィヴィオちゃんを……ッ……フェイトちゃんを……理由にしたんだ……ッ!!」

 

 涙が、止まらない。 感情の波がキリンを飲み込み、その限界を超えて溢れてくる。

 

「オレ……オレ……ッ……オレは……もう、この手に触れる事も……守る資格もないって……ッ……」

「……そっか。 そこが『怖かった』んだね」

 

 キリンは守る為に戦う人間である。 守る為に力を求める人間である。 一度守ると決めた者を全力で守る人間である。

 その人間が、そんな人間が守るべき大切な人を傷付けてしまっては……もはや裏切りも同然。 約束を違えては死も同然。

 相手を殲滅する為に戦い、そして守るべき者に傷付けて、ようやくその振り上げた力を降ろした。 我を忘れ、力に身を任せたのはフェイトに対する裏切り行為だとキリンは思っていた。

 現に力に任せた解決を行い、キリトに重傷を負わせているのだ。 この結果はキリンにとって『()()()()』と呼んでも過言ではない。

 

 だが。

 

「なのに……どうして……ッ……!」

 

 キリンのその手を、力を持つその手を。

 

「君はオレの手を握ってくれるの……?」

 

 フェイトは握っている。

 

「どうして、君の優しさを……温かさを……オレに分けてくれるの……?」

 

 その手を握る。

 包むように握る。

『守る』為に握る。

 

「……私がアリシアのクローンって聞いた時、私のこれまで積み上げていたものが全部偽物だって気付いた。 ……あの時」

 

 フェイトは思い返す。 なのはとの全力全開の戦いを終え、ジュエルシードを翔次に全て取られ、そして大切な母の悲惨な姿を見て……己の真実を知ったあの時。

 フェイトは心にヒビが入り、今にも壊れそうだったあの時。

 

「あの時、キリンを見て思ったんだ。 キリンは記憶も何も無いのに、魔法と何の繋がりも無いのに、私や母さん、翔次とも何の因縁も無いのに……私にいつも笑顔を見せてくれた。 私に笑顔をくれた」

 

 心が壊れかけたその時、フェイトは自分と同じ『何も持っていない』キリンを見た。

 その同士は、何も持っていないのにも関わらず事あるごとに自分に突っかかり、笑顔を振りまき、求めていた温かな気持ちをフェイトに向けていた。

 

「何も無かったあの時のキリンは……何も怖がって無かった。 『何も無い』からじゃなくて……あなたには『()()』があった。 真実を知る勇気を。 本当の自分を知る勇気を」

 

 キリンは自分の記憶を取り戻すことに躊躇は無かった。 いや、そこに残酷な真実があろうと足を止めない『勇気』が確かにあった。

 それは『愚直』とも取れる意思。 だがその意思をフェイトは『覚悟』だと信じた。

 だから、この手を握る事に躊躇はない。

 

「……初めてキリンの手を握ったのは……ねぇ、覚えてる?」

「……」

 

 その問いに、5秒程経ってから答える。

 

「……フェイトちゃんに魔法を教わってる……あの時」

「そう、あの時」

 

 キリンがまだ魔法を上手く扱えていない頃、フェイトがキリンの指導をしていた事があった。 と言っても大した時間行なっていたわけではないが……間違いなくキリンの魔法がフェイトを基盤に行われているのはこの時の事があったからだ。

 そしてその時にキリンはフェイトの手を握った。

 

「あの時、私は思ったんだ。 『なんてこの手は温かくて優しいんだろう』って」

「っ!!」

「あの時のキリンの手が……私に温かさと優しさを分けてくれたんだ。 だから私は挫けなかった。 心を折らずに立ち上がれた」

 

 フェイトにとって、一度の暴走など大した問題ではない。

 何故なら『キリンの本質を理解している』からだ。 例え一度の間違いがあろうと、フェイトの気持ちに変化はない。

 

「10年あった……10年経ってもあの時のキリンの手を忘れる事はなかった。 そして10年、これまでの10年は……」

 

 ーーーー今度は私があなたを守る為にあった

 

「ーーッ!!」

 

 その言葉が深く深く、心に染み渡る。

 

「守るんだもん、そりゃ傷付く時だってある。 でも、守ってばっかりじゃあ……キリンがボロボロになっちゃう」

 

 そのじんわりと温かな気持ちを……キリンに届ける。

 

「だから……『キリンがみんなを守る時』、『私がキリンを守る』。 絶対に、約束する」

 

 キリンを守る。 フェイトが守る。 自分の事を、守ってくれると約束してくれた。 その誓いに、何と答えればいいのか? いや、言葉にしてしまうのはいけない。 この想いは言葉として表してはいけない。

 この温かな気持ちを、感謝や仁義などと……誰かが作った言葉で済ませてはいけない。

 

 だが、もし……仮にこの気持ちに言葉を付けるとするならば。 非常に近い言葉で表現するならば……

 

「ありがとう……フェイトちゃん……」

 

 キリンはフェイトに感謝を伝える。 涙を流しながらも、確かな笑顔を向けながら。

 

「ーーーー」

 

 それを見て、ようやくホッとしたのか。 それとも待ち望んでいた笑顔だからなのかもしれない。

 フェイトは不意に、目の前のキリンに顔を近づけーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………!?」

「……………………!?」

 

 ()()()()は、密かにモニターで見ていたなのはやはやて達すらも驚くものだった。

 アリサ達もクロノ達も、誰もが口をパクパクとさせて言葉が出ずにいる。

 その当事者達であるキリンもフェイトも、驚きのあまり目を大きく見開き思考が停止している。

 

 その空間だけ、10秒程静止していた。 そして……いの一番に言いたい言葉が出てこず、はやて達は揃って叫ぶ。

 

『『()()』したぁぁぁぁああああああ!!?』

 

 しかもだ。 しかも……驚くべきことにそれをしたのはキリンではなかった。

 

「ししししかも()()()()()()()()()!?」

 

 なのはの言葉通り、そのキスはフェイトからした。

 余りにも予想外、想像の斜め上どころか垂直飛行をして大気圏を突破するくらいの予想外。

 むしろ当の本人でさえ面食らう程である。

 

「…………」

 

 唇が触れている時間約14秒程。 その後フェイトの方から唇を離す。

 そして…………ようやく自分のしでかした事を理解する。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜……」

 

 フェイトは即座にアサルトファームへと変身し、叫び声がドップラー効果を起こす程の超スピードでどこかに消える。

 

 盗み見をしていた者達は阿鼻叫喚、特にクロノは死にそうな断末魔を上げていた。 エリオとキャロはそんなに騒ぐことはなかった。 恐ろしい程狼狽えているはやてやシグナム達は見習ってほしい程に。

 ちなみにリンディは唯一嬉しそうに赤飯を炊くと言っていた。 隣でアルフがとても複雑な顔をしていたが。

 

 部屋に残されたキリンは……

 

「…………ぅぉ」

 

 一人処女(オトメ)の様に顔を赤くしていた。




ようやくキスしましたね。 付き合ってもないし告白すらしてないのにキスしましたよこいつ。 やっぱ金髪巨乳は淫乱なんすね。(責任転嫁)

次回は……誰かの話ですね。 多分翔次君と眠ったままの心悟君の話ですかね。 それが終われば最終決戦かな?

今回も誤字脱字等のミスがありましたら、コメントにてお教え下さい

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