オレはオレの幸せに会いに行く   作:ほったいもいづんな

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映画見てぇけど銀魂の実写も見たい。
しばらくこの欲求不満は続く。 あと便秘。


33話 二つの羽があるから翼

 33話

 

 

 

 

 つい先日、六課が襲撃された。

 その結果、ヴィヴィオが攫われた。 現場に残されていたうさぎのぬいぐるみ、ヴィヴィオがいつも大切に持っていたぬいぐるみは、ヴィヴィオが攫われたという現実を突きつけるようにボロボロだった。

 

 それを見たなのはは……ただただ心が痛かった。

 

 

 

 

 

 なのはは一人、風を浴びながらどこかにいるであろうヴィヴィオの事を思っていた。

 

(ヴィヴィオ……)

 

 初めてヴィヴィオと出会った時、不思議となのはには一人で出歩いていたヴィヴィオの事が何となく理解出来ていた。 一人歩く、その孤独と虚しさと……もっとも欲しい愛を求めて一人どこかを歩くその姿を。

 

 なのはには分かってしまう。

 かつての自分もまた、一人孤独に歩いていた時があったからだ。

 その時は自分の父親が大怪我を負い、一家の大黒柱がない状況で家族達が必死に頑張っていた。 そしてその姿をなのははただ見ているだけだった。

 だからなのはは一人でよく外を歩いた。 独りでどこでもない場所を、同じような心の迷宮を彷徨い続けた。

 

 そんな時の自分と、あの時のヴィヴィオは似ていた。 だからなのははヴィヴィオに優しく微笑みかけたのだ。

 

『ほごせきにんしゃ……?』

『うーんとね? ヴィヴィオのパパとママを見つけるまで、私がヴィヴィオのお母さんになる……って事だよ』

『……ママ?』

『うん、少しの間かもしれないけど、なのはママだよ』

『なのはママ…………ママー!!』

 

 だからヴィヴィオに『ママ』と呼ばれた時、実はこそばゆかった。 本当は自分のような魔導師ではなく、ごく普通の家庭にヴィヴィオを託すつもりだった。 自分は常に命がけの仕事、いざという時にヴィヴィオに悲しい思いはして欲しくはない。 紛れないなのはの本心であった。

 

 だからヴィヴィオが攫われたあの瞬間、なのはの心には大きな悲しみの波が押し寄せた。 思わず腰が抜けてしまう程の衝撃。 自分でも予想外のショック。

 これほどのショックは、拳と離れ離れになった時よりも……大きかった。

 

(ヴィヴィオは……今どうなってるの……?)

 

 ヴィヴィオがクローン体である事は知っている。 そのヴィヴィオを創り上げたのは紛れもなくあのスカリエッティだ。 そのスカリエッティがヴィヴィオを必要としているのならば、間違いなく必ず来るであろう大型侵略でヴィヴィオが重要な役割を担っている。

 だからヴィヴィオが殺されるとは思えない。 それ故の恐怖がなのはの想像力を悪い方向へと掻き立てる。

 

(…………ヴィヴィオ……ッ……!!)

 

 なのははギュッと瞼を閉じる。

 今ヴィヴィオの身に何が起こっているか? それはもちろんスカリエッティによる何らかの細工。 ……悪く考えるならば何かを埋め込まれたり何かとリンクさせられる……改造。 間違いなくヴィヴィオの心を傷付ける恐ろしいコト。

 

 痛いかもしれない、辛いかもしれない、苦しいかもしれない、もはや……もはや……心が壊れているかも……しれないのだ。

 

 なのはにとって……辛すぎる。 辛すぎることになる程、なのはの中でヴィヴィオという存在が大きくなっていた。 拳の時とは違う心の痛みがなのはを傷付ける。

 

(ヴィヴィオのために……何もしてあげられない……!)

 

 なのはには、星を打ち砕く力がある。 空を飛ぶ力がある。 友を守る力がある。

 

(私は……ッ……!)

 

 それでもだ。 それでも感じずにはいられない。

 

(あの時と何も変わってない……ッ!!)

 

 己の不甲斐なさを、無力さを。 そしてそれを悲観するだけの自分が嫌になる。

 

 だが、不意に……

 

「ーーあれ?」

 

 自らの叱咤に、疑問を覚える。 どこに?

 

「私……あの時……?」

 

 それはなのはがうんと幼い頃。 それこそなのはがいくつの時だったか思い出せない時の話だ。

 

「…………あ」

 

 なのはの脳裏に、遠い遠い記憶が蘇る…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはそれは幼いなのは。 まだ小学校にすら上がってないかもしれない程幼い彼女は公園で泣いていた。

 

「うぅ…………グスッ……」

 

 泣いている理由は何だっただろうか……? 転んで膝を擦りむいたから? 家で嫌なことがあったからか?

 いや、違う。

 

「なのは……うんどうおんちじゃないもん……みんなより遅いだけだもん……」

 

 公園で鬼ごっこをしていた。 だが足の遅い彼女はすぐに鬼になってしまう。 そして時々発生するドジによってなのはから鬼が変わることが少なかった。

 そんな鬼ごっこは楽しくない、そう言って他の子ども達はどこかへ行ってしまった。 なのはは置いてかれたのだ。

 

 子どもはある意味で正直、そして残酷である。 運動音痴であるなのはに、「ダメな奴」という烙印を押してしまったのだ。 走れない、よく転ぶ、ゲームが成立しない……。 子ども達の価値観ではもう、なのはは「つまらないダメな奴」と位置づけを食らっている。

 そう言われ、幼いなのはは幼いなりにショックを受けていた。 自分は無力なのだと思い知らされた

 

「うぅ……ううううぅ……!」

 

 何とか頑張って堪えようとする。 だが、もう我慢の限界。 今すぐ泣きわめこうとするその時。

 

「……大丈夫?」

「…………ふぇ?」

 

 目の前には自分と同じくらいの背丈の少年が立っていた。

 声をかけられたくらいではなのはの癇癪は治らない。 だがなのははその少年の事をじっと見つめてしまう。

 

「泣きそう……って言うかもう泣いてるみたいだけど、どうしたの?」

 

 その少年は美しいまでの白髪、吸い込まれそうな輝きを持つルビーとエメラルドの瞳。 まるで絵本の世界から出てきた不思議な少年に驚き先ほどまでの出来事などとうに頭から消えている。

 

「わぁ……!」

「えっと……あっと……」

「すごーい! お人形さんみたい!」

「え、あ……そ、そう?」

「うん! なのは、宝石みたいな目、初めてみた!」

 

 ころっと変わるなのはの表情に、少年は困惑しながら小さく「お姉さんみたいに上手くいかないな……」と呟いた。

 当然なのはには聞こえていない。 というか興奮してそれどころではない。

 

「ね! ね! なのはとお話しよっ! お願い!」

「へ? ……あぁ、うん。 いいよ」

「やたー! えっとね、えっとね!」

 

 目の前の少年と何故か仲良くなりたかった。 不思議とそういう気持ちにさせる魅力があったのかもしれない。 だがそれはなのはの知らぬ世界の話。

 

「あのね! あのね!」

「うん、うん」

 

 子ども特有の、脈絡のない取り留めもない話。 つたない言葉つかいで必死に少年と会話をするなのは。 はたから見れば一方的な言葉のキャッチボール、だが少年はそれを丁寧に受け取り聞き役に徹していた。

 

 だが、なのはが実姉の話をした所で少年は初めて自分の話をする。

 

「僕にもお姉さんがいるんだ」

「きみにも?」

「うーんと年が離れたお姉さん。 僕よりずっと大きいお姉さん」

「へー!」

 

 初めて少年の方から話してくれたからか、なのはは興味を持ってその話を聞く。

 

「お姉さんはすっごいんだ。 大人の男の人でも簡単に勝っちゃうくらい強くて……優しいんだ」

「なのはのお姉ちゃんも強くて優しいよ!!」

「お揃いだね」

「うん! おそろいー!」

 

 意外な共通点にはにかむなのは。 そんな表情をしたからなのか、少年はより一層優しい表情でなのはに話しかける。

 

「……そろそろ聞いてもいい? さっき泣いてた理由」

「あ、あぅ……」

 

 先ほどまで明るい笑顔だったのに急転直下で曇り始める。 どうしてそんな事を聞くの? そう思わずにはいられない。

 だがしかし、目の前の少年は穏やかな目でなのはを見つめる。 その不思議な色合いの瞳から何かを受け取ったのか、なのはは恐る恐る話し始める。

 

「えっとね……」

「うん」

「みんなで鬼ごっこしてたの」

「鬼ごっこをしてたんだね」

「うん、それで……それで……っ!」

 

 なのはは再び涙を落としそうになりながら、必死に話す。

 

「なのは……足遅いから……すぐ鬼になっちゃうから……」

「……うん」

「つまんないって……みんなでどこかにいっちゃって……うぅ……ひっぐ……」

「そっか……みんなが置いてっちゃったんだね」

「うん……!」

 

 そう言って俯くなのは。 少年はなのはを励ます訳でもなく、またその子ども達を批判するのでもなく……ただなのはの頭に手を置いた。

 

「全部言ってくれて、ありがとう」

「……ひっぐ……?」

「よく言えたね、キミは強いんだね」

 

 少年は褒めた。 なのはを、泣きそうな彼女を。

 それがまたなのはにとってよく分からない言葉だったから、つい顔を上げて少年を見てしまう。

 そしてその少年に問う。

 

「どうして……? だってなのは、うんどうおんち……って言われたんだよ?」

 

 何故自分が強いのか? その答えを少年はなのはに伝わるように、『誰かにそう教わった』ように話す。

 

「自分の怖い事を、嫌な事を、ちゃんと言葉に出来た。 だからキミは強い。 涙に負けなかった!」

 

 少年の言葉を、なのはは前半ぐらいしか理解出来なかった。 しかし少年が真っ直ぐに見つめてそう言うのだ。 もはや泣く事などどうでもよくなる。

 

「お姉さんがよく言ってた、『言いたい事をしっかり言える人間が一番強い、涙を流すくらい辛いことでも、泣き崩れて何も言えなくなるより相手に伝えられる方がずっと強い』って。 だからキミは強い!」

「ほんとう……? なのは……ダメじゃない?」

「大丈夫! 僕とお姉さんが保証するよ!」

 

 ニカっと笑う少年。 先ほどまでの大人びた笑みとは違い、自信満々な子どものような笑顔に、なのはも笑顔を取り戻す。

 

「……うん! ありがとう!」

 

 そこまでしか思い出せない。 だが少なくとも、『()()()()()()()()()()』の心の強さの根底には、この時の少年の言葉が根強く残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……思い出した」

 

 何故忘れていたのか……これほどまでに、今の自分になるまでに支えになっていたであろうその言葉を。

 

「間違いない……『キリト』君だったんだ……」

 

 それはキリンと出会う前からいた、本来のキリンの身体の持ち主にしてキリンの為に転生した『都 霧刀』。 忘れる事のないその姿を、何故記憶の片隅に追いやっていた? 何故?

 

 ……仕方のない事なのだ。

 なのは、及びすずかとアリサは、踏み台にならざるを得ないキリトによって嫌な記憶を刷り込まれていた。 今となってはもう過去の話となっている……が、だ。 それでも幼少期に出会っていたキリトの事を忘れてしまうのは仕方のない話。 そんなのが吹っ飛ぶほどの衝撃。 それほどの事をしないと踏み台とは言えないからだ。

 

「そっか……あの時名前を教えてくれなかったのは……私のためだったんだね」

 

 当時のなのはがキリトに名前を聞いても、上手くはぐらかされた記憶があった。 それは教えない方が良いとキリトが判断したため。 ここで名を教えては、『後』が辛くなるからだ。 キリトにとってもなのはにとっても。

 

 ならばこそ、なればこそ、どうしてキリトはなのはに声をかけたのだろうか?

 後で最悪なトラウマを植え付けると言うのに、今優しくしてしまっては後が辛くなるのはキリト本人。

 

 だがーーーーそんなの決まっている。

 

「ーーキリン君なら、そうする……だよね」

 

 誰かのために命をかけられるキリンから教わった。 例え記憶を失っても残っている思いが残っていたキリト。

 そんなキリトに、他人の為に命を捨てられるキリトに、目の前で泣いている子どもを見捨てる選択肢などありはしない。

 それこそキリトが受け継いだ優しさ。

 

「……なんだ」

 

 そこまで思いを馳せて……なのはは呟く。

 

「私、2度もキリン君に助けてもらったんだ……情けないなぁ」

 

 一度目は、拳との別れの際に勇気を貰った事。

 そして2度目はそれよりもずっと前に、『優しい強さ』を教えてもらった事。

 すでになのはは、キリンに助けてもらっていた。 その不変的強さに、揺るがぬ優しさに。

 

 だからなのははもう俯かない。

 

「『言いたい事がしっかりと言える』……か」

 

 受け継いだその言葉を、教えてもらったその言葉に、勇気をもらう。

 

「言いたい事、一つ出来たよ」

 

 大それた勇気ではない。 翼はもうある。 必要なのは背中を押してくれる小さな力。

 

「必ず……ヴィヴィオに伝えてみせるよ!!」

 

 高町 なのは、再び空を目指す。

 その背中に勇気と優しさを乗せ、守るべき『娘にしたい女の子(ヴィヴィオ)』を助ける為に。




難産……! 圧倒的難産……!
しかし……まだ……まだ!
これを上回ると予想される……逆子……! 心と身体を蝕む負担……!

……キリンとフェイト回……!
用意しなければ……! 備えなければ……!
砂糖を……!


今回も誤字脱字等のミスがありましたら、コメントにてお教えください。

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