32話
六課が壊滅的な損害を負った現在、はやては負傷した職員達の見舞いに向かっていた。 一人一人順番に回り、何も出来なかった事に対する謝罪と傷付きながらも頑張ったくれた事に対する労いの言葉を送っていた。
もちろん中にはそんな事を気にしないで欲しいと言う人もいた。 だが上に立つものとしての最大限の賞賛を送らなければならないとはやては言う。
そうして一人一人回って行き、ようやく終わりが見えてきた。
向かう先は重傷を負ったものも奇跡的に回復した翔次の元へだ。
「やっはー、調子はどうや翔次くーー」
扉からひょっこりと顔を出し中の様子を確認するはやては部屋の中の様子を目撃し一瞬固まる。
「ほら、りんご剥けたから食べなさい」
「……待て、何だその手は。 自分で食べられるからいらん」
「はぁ? あんたばかぁ? まだ腕上げるのだって辛いんでしょ? なら大人しく看病されてなさい」
そこには皮が剥かれたりんごをフォークで刺し、翔次の口元に近づけているティアナの姿があった。
俗に言う、あーんである。
「…………あ、はやて」
「はいはい、はやて部隊長の事はいいから。 さっさと食べなさーーーーはやて部隊長!?」
驚いた様子でティアナが翔次の視線の先にいるはやてを見る。 瞬間、ティアナの脳裏には(やっちまったー!!)という叫びと(見られたー!?)という叫びが交互に反響する。
そして当のはやては……
「……あ、お邪魔しました〜……」(大人しく身を引く上司の鑑)
「待ってくださいはやて部隊長!! 弁明の余地を私に!!」
「ええんやええんや……年寄りはこの場にはいらん存在や……二人で仲良くしいや〜……」
「はやて部隊長ぅぅぅぅぅぅ!!」
ティアナの絶叫がけたたましく響く中、静かにフェードバックしていった。
独り身であるはやて(彼氏がいない歴=年齢)は廊下を虚しく歩いていた。
「そっかぁ……戦場のラブロマンスちゃうけど……やっぱ危機的状況を乗り越えるとあぁなるんやなぁ……」
はやての重苦しい足音が廊下に響く。 はやてが歩いているのは余り掴まれていない通路。 このまま屋上に向かえるので一人黄昏る予定なのだ。
「いやね、私もね? そりゃあこの非常時に何やってんのって言いたいんやけどね? 私はみんなの人望厚い上司やし? 空気くらい読めるし?」
はやてはちょっぴり涙を浮かべながら屋上に行くためのドアを開ける。
すると閑散としている筈の屋上に、一人の子どもが。
「……あれ? フーカやん、どないしたの?」
「あぅ……おねーさん……」
そこには以前『フーカ』と名乗った男の子が立っていた。 しかし様子は少し違い、元気一杯な姿とは違い小さくもじもじしていた。
「おー……? どしたん? お姉さんに言うてみ?」
「あぅ……実は……お姉さんに謝らないといけねーのです……」
「謝る? 何かされたって私……?」
はやてがされた事と言えば、せいぜいアヘ顔を晒しかけた肩叩きくらいだろう。 確かに絵面がヤバかったのでそれはそれで謝られてもおかしくはないが。
しかし、そういう話ではなかった。
「実は……」
「実は?」
「お姉さんにウソ言っちまったのでごぜーます! 本当は『フーカ』って名前じゃなんでごぜーます!」
俯きながら自らの嘘を告白する。 そんな姿を見てはやては……
「いや知ってたよ?」
「ふえぇぇ!? 本当でごぜーますか!? お姉さんはエスパーでいやがりましたか!?」
意外と事情を察してた。
「だってあの時、不自然にどもとったし。 やからウソついとんのとちゃうんかな〜とは思っとったで」
「はぇ〜まるでパパみてぇでごぜーます……!」
「ま、私はそんなに気にしてないし。 本当の名前を教えてくれればそれでええよ。 名字はまぁ……言いたくないならええ」
「本当でごぜーますか? 怒って……ねぇでごぜーます?」
「怒ったらんよ〜むしろしおらしい姿見れてラッキーよ」
はやてのその言葉(事案)に安心してのか、改めて名前を言う。
「本当の名前は『アイカ』でござーます! ママにあんまり言っちゃいけないって言われてたでござーますが、パパがいいって言ってくれたのでごぜーますよ!」
「アイカ……か。 中々男の子にしては可愛い名前してるやん」
「えへー」
「おうおう可愛いやっちゃめ。 撫でてくれるわ〜」
「うひゃー! くすぐってーでごぜーますよ!」
アイカの頭をわしゃわしゃと撫でる。 先ほどまでのしゅんとした態度から一気に天真爛漫な笑顔をはやてに見せる。 それを見てはやても自然と笑顔が溢れる。
「う〜ん、アイカはすっごい癒してくれるからありがたいわぁ〜」
「ホントでごぜーますか?」
「ほんまほんま。 一家に一台欲しいくらいやわぁ〜」
「おー! アイカはいやしグッズでござりやがりますか!」
アイカの頭を撫でながらはやては暗くなっていた自分の気分を切り替える。 六課襲撃、大勢の部下の負傷、上に立つものとして毅然とした態度でいなければならないと理解はしている。
だがそれでも気分は重かった。 そしてそれをアイカが変えてしまった。
「ほんまアイカ天使やなぁ……空から降って来たんとちゃうか?」
「そうでごぜーますよ?」
「そんな訳あるかーい! アッハッハ! ………………マジ?」
はやての言葉にアイカは普通に返事を返す。 はやてが人差し指で空を指しながら「上、マジ上?」と聞くと、「上でごぜーますよー!」といい笑顔で答えるものだからはやては少し動揺する。
「あ、アイカ?」
「はい? 何でごぜーますですか?」
「それって……ママから言うのダメって言われてない? 大丈夫?」
「…………」
はやての言葉を聞いた3秒後。 アイカは少しずつ慌て始め、その目をグルグルさせている。
「ああー!? 言っちゃダメだったのですよー!?」
「やっぱりー!?」
「どどどどどどうしよう〜ママは優しいけど怒るとすっげぇ怖いのですよ〜!」
「だ、大丈夫やって! 私他の誰にもアイカの事言わないし、バレっこないって! なっ!」
「うぅ〜そうでごぜーますでしょうか……」
「へーきや、バレても私が一緒に怒られたる。 元はと言えば私がアイカイジって遊んどったのがいけないし」
「はやておねーさん……」
今までにキリンや翔次、心悟やに出会ったはやてにしてみれば、今更空から可愛い男の娘が降ってきたってどうって事はない。 むしろバッチコイと思っている。
それに、目の前のアイカを見てはやては奇妙な感覚を持っていた。
「なんやアイカとは不思議な感じがするんよ。なんだか『
それはシンパシーに似た感覚。 目の前の男の子に言葉にできない不思議な繋がりを感じていた。
「はやておねーさん……ありがとうごぜーます!」
「おう、これでも大人やからな」
しかし今のはやてにはその正体は分からない。
「それじゃあアイカはそろそろ帰るのですよ」
「お、気いつけて帰るんよ」
「バイバーイですよ!」
アイカはパタパタと走りながら屋上から退出しようと扉に手をかける。
と、そこではやてが一つ疑問に思っていたことをアイカに問いてみる。
「そう言えば、何でアイカは私の名前知っとるん?」
すでに身体のほとんどを扉の先に入れていたアイカは頭だけひょっこりと出してその問いに答える。
「『パパとママ』に教えてもらったのでごぜーますよ!!」
そう言ってアイカは扉の先に消える。
前回と同じようにはやてがすぐに扉に近づき開けるが、アイカの姿はもういない。 またも煙のようにどこかに消えてしまった。
「パパとママ……か」
はやては結婚していて子どももいる知り合いを脳内検索するが、アイカという男の子がいる知り合いはいなかった。
そもそも結婚している人間が少ないのだが。
「……ええな、家族がいるって」
不意に、叱りつけてくれる母と優しい父がいるアイカが羨ましく思えてしまった。 自分にはもういない、そんな存在から愛を受けているアイカが羨ましい……とここまで考えて、皆の顔を思い出す。
「……いや、うちは誰にも負けへん大家族や」
そろそろメンテナンスを終えてツヴァイが、検査を終えてヴィータ達が戻ってくる。 やる事はまだある、へこたれてはいられない。
「よし、帰るか」
スカリエッティに負けたままで、終われない。
「……ついでに翔次君とティアナをイジってから帰ろっと!」
少し茶目っ気のある子どものような顔でそう言った。
フーカと言ったな、あれは嘘だ。
本当はアイカです、つーか14話でそう書いてあるし。 私が忘れていたからフーカになっていたとかそういうのはありません。(小声)
次回は……というか、六課がやられてその代わりにみんなが拠点に使っているのってアースラでしたっけ? なんかでかい戦艦に乗っていたのは覚えてるんですけど……教えてエロい人!
今回も誤字脱字等のミスがありましたら、コメントにてお教えください。
あとセンセンシャル兄貴お帰り!(祝辞)