オレはオレの幸せに会いに行く   作:ほったいもいづんな

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ローリ は メタルローリ に しんか した !

所謂メタルクウラ的な?


27話 罪状

 27話

 

 

 

 

 場所は変わり会場内の一つの空間。 ここでも激しい戦闘が繰り広げられていた。

 

「はああああ!!」

「ふっ……!!」

 

 ぶつかり合う二人の女性。 一人はギンガ、もう一人は小柄な戦闘機人。 眼帯をし、長い銀髪を棚引かせながらギンガの拳をバリアで受け止める。 そしてすぐ様後方へ飛びながらナイフを投擲する。

 

「っ! また爆発するナイフを!!」

 

 この戦闘機人、『チンク』の固有能力は触れた金属を爆発物に変化させる事が出来る。 しかもその威力は膨大で、以前ヘリに砲撃を放った戦闘機人のディエチと並び立つ程である。 しかも驚異的なのはそれがチンクの任意のタイミングで起爆できる所だ。 これほど恐ろしい能力は中々ない。 すでにギンガも数発貰っている。

 

「ーーーーそのまま真っ直ぐ飛べ!!」

「ッ!!」

 

 そこに一人の乱入者が。 ギンガにそのまま進めと叫ぶ。 その声の主を確認したギンガは、言葉通り真っ直ぐナイフに向かう。

 

「ッ!? 愚かな!!」

 

 チンクは向かってきたギンガにタイミングを合わせてナイフを起爆させようとする。 だが起爆する1秒前になってもギンガは怯まず向かってくる。 その理由が分からずチンクの思考は一瞬乱れる。 そしてそこに……

 

「天に飛び込めーー獄砕鳥!!」

「貴様は!!」

 

 高速でやってきた翔次がナイフを斬る。 いや正確にはナイフに宿ったチンクの能力を斬る。 この世の異能能力、全て等しく斬られる定めなのだ。 この刃のない刀に。

 

「だあああああ!!」

「くっ……そっ……!!」

 

 ギンガの拳が再びチンクに迫る。 焦りはしたもののチンクはすぐ様バリアを展開して攻撃を防ぐ。 しかし間一髪、予想外のエントリーに思考がさらに乱される。

 

「また塞がれた……!」

「そのままでいろ!」

「ッ!!」

 

 今度は翔次の斬魄刀がチンクのバリアを攻撃する。 するとバリアは豆腐のようにするりと刃を通す。 強固であったその守りに隙間が生まれれば、当然衝撃を吸収出来ずに破壊される。

 

「しまっ……!」

 

 小気味のいい音と共にバリアが破壊される。 そして……

 

「そこぉ!!」

「うぐっ!」

 

 ギンガの右拳がチンクの顔面に綺麗に入る。 そして力を緩めずにギンガはチンクの顔面ごと拳を振り抜く。

 

「っりゃあああああああ!!」

「ーーーーッ!!!」

 

 空中で全体重を込めた拳でチンクを後ろの壁目掛けて殴り飛ばす。 ギンガにとってようやく一発が入る。 もちろん翔次手を借りなければ難しかった一発だ。

 

 殴り飛ばしたギンガは地面に着地した後、突然現れた翔次に訳を聞き始める。

 

「翔次さん、どうしてここに……」

「ちょっとな、無理言って単独行動させてもらってる。 まぁキリンがいるから大体の事は大丈夫だろう」

「……まさか私の所にわざわざ来てくださったんですか?」

「…………」

「ありがとうございます」

「礼を言われる筋合いはない、特にお前にはな」

「?」

 

 困惑するギンガを他所に翔次は鋭い目付きでチンクが激突した箇所を見つめる。 土煙が晴れたそこには、何食わぬ顔で立っているチンクがいた。

 

「ふむ……魔法を斬る男か……」

「やはり……大して応えてはいないな」

「報告にあった男が何故ここに? てっきり妹達と交戦していると思っていたが……」

「ようやく入れた一発なのに……!」

 

 チンクが手にナイフを持ちながら翔次がここにいる理由を考える。 その姿は、先ほど攻撃を入れたギンガにとって挑発以外の何物でもない。 まるで気にしないといった様子は戦闘機人達の底知れぬ力の現れである。

 

「…………別に本当はボクはここに来なくてもいいんだ」

「?」

「ボクが来なくてもいい『話』なんだ……これがボクやキリンだけの『話』ならな」

 

 翔次の言葉にさらなる困惑が生まれるギンガ。 いやギンガだけでなくチンクも翔次の言葉に思考が空回る。 「来なくてもいい」とはどういう意味なのか? 来なければギンガは防戦一方になっていたかも知れないのに、この男は何を言っているのか? その真意は翔次自身にはなかった。

 

「だが……『あいつ』は、『木村 心悟』はそういう『話』では済まない」

「シンゴさん……?」

「あいつは力を望まなかった、故にやつはここにいない。 自分が望んだからこそ、あいつはここに来れない」

「何の話だ……」

 

 チンクには分からない。 木村 心悟という人物が『心の境界線を操る』能力を持っていること。 それ故に戦闘では戦う事が難しい事も。 だから心悟は来なかった、足手まといになるのは明白。 それがギンガにさらなる負担になる事を。

 

 翔次は理解していた。 心悟の持つ悔しさを。

 

()()()ボクが来た。 あいつの代わりになるつもりはないが……ボクの魂が、仲間の為に動けと叫んだ!」

 

 翔次は心悟とは余り仲が良い方だとは思っていない。 それでも、過去の自分を知りながら普通に接してくれる心悟を仲間だと思っている。 だから仲間の為にここに来た。 ギンガを助けにやってきた。

 

「……成る程、それ相応の覚悟を持って来たという訳か。 だが私も妹達の為に……ドクターの為にも、引くわけにはいかない!」

 

 チンクもまた自身の鼓舞するようにプレッシャーを放つ。 だがもうその程度で怯む翔次やギンガではない。

 

「『タイプゼロ・ファースト』、お前を回収する……!!」

「いやよ、私は帰る……心悟さんの元に必ず帰るのよ!!」

「お前も、お前のくだらん能力も、やつ(スカリエッティ)のくだらん計画も、ここでボクが『斬る』!」

 

 再び衝撃が地面を抉った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 外はもう真っ暗になっており、綺麗な月が飛行するキリン達を照らす。 だがその表情は険しいものだった。

 

「エリオ君……」

「どうしたのキャロ?」

「今のキリンさん……なんかちょっと……怖いね」

「そう……だね。 いつものキリンさんじゃない……ピリピリしてる」

 

 先行するキリンの後ろ姿を見ながらエリオとキャロが小さな声で会話をする。 いつもと様子の違うキリン、それを見ている二人は少し怯えている。 それも仕方のないことだ、いつものキリンはおちゃらけて誰よりも不真面目そうに見える自由人。 真っ先にふざけようとするいつもの姿に二人は心を和やかにしていた。

 

 だが今のキリンに笑みはない。 それが二人に恐怖を感じさせる。 だがそこにフェイトが声をかける。

 

「…………大丈夫だよ」

「フェイトさん……」

 

 フェイトは顔を二人に向けて安心させるように優しい声色で諭す。

 

「キリンもね? ちょっと色々あるんだ……もしかしたらその際で怖い顔してるのかもしれない。 でも大丈夫、私が側に付いているから二人は安心して、ね?」

 

 フェイトにそう言われればそれを信じるしかなくなる。 だがフェイトがそう言ってくれるだけで幾分か心持ちが楽になる。 フェイトに丸投げする形にはなるが、それでも小さい頃からの付き合いである彼女ならば大丈夫だろうと二人は考えた。

 

 そこに強襲する光が一閃。

 

「ッ!!」

「キリン!!」

 

 キリン目掛けて飛来してきた紫色のレーザー。 極細のレーザーがキリンの額に飛んでくる。 だがキリンは右手で誰もいない方向へと弾き飛ばす。

 

「…………」

「キリンさん、大丈夫ですかぁ!?」

「問題はない……けど……」

 

 キリンは痺れた右手を少しの間見た後、レーザーが飛んできた方向へと視線をやる。 すると先ほどまで漆黒の夜に影も形もなかったはずの場所に3人のシルエットが現れる。

 

「あれは……!?」

「フェイトちゃん少し下がって……」

 

 キリンは左手に持っているミョルニルを前に構え魔力弾を生成し、それをミョルニルで打つ。

 

「ボルト・スクリュー!!」

 

 打ち込むのは釘状の細い魔力弾。 お返しと言わんばかりに放つそれは螺旋回転をしながら高速でシルエットの方に向かう。 雷を纏いながら突き進む魔力弾は触れることすら憚れる圧倒的回転をしている。 だがシルエットのうちの一人がそれを難なく手で掴む。

 

「掴んだ!?」

「あれだけの超高速回転弾を!?」

 

 そして魔力弾を呆気なく握り潰す。

 

「握り潰した!? 高密度の魔力弾を!?」

「…………」

 

 見当はもうついている。 そのシルエット達の姿が視認できる距離まで接近してくる前から。

 

「……戦闘機人……!」

 

 二つのシルエットのうち一つは見た事がない桃色の少女。 もう一つは以前ローリ達と交戦した際にクアットロ達を救出した長身の女性。 どちらも戦闘機人であることは明白。

 

 そして最後のシルエットは当然……

 

「久しいな……転生者……」

「…………」

 

 小五 楼人、この世界の転生者の一人だ。 しかしその姿は以前とは違う。

 

「……何だその姿は」

「ふふ、これか? これはスカリエッティが作り上げたこの私専用のボディだ」

 

 

 ローリの姿は全身が以前の姿をベースにした、シルバーメタリックの金属ボディになっている。 以前は体内に金属を隠していたが、今回は全身に金属を纏った姿での登場。 気味の悪い見た目にエリオとキャロは少し怯える。 それを見たフェイトは二人に先に行くよう促す。

 

「……エリオ、キャロ、二人は先に六課に向かって」

「えっ!? でもお二人は……」

「戦闘機人達も大事だけど六課のみんなの方が大事! ここは私達に任せて先に行って!」

『……はい!』

 

 フリードは速度を上げて先に急ぐ。 それをローリ達は気にも留めない。 ありがたい事だがそれ故に不気味である。 二人が見えなくなった所でローリはキリンに指を指す。

 

「貴様と戦うのはこの私だ」

「…………」

「以前の雪辱を晴らす……そして殺す!!」

「…………やってみろ」

 

 お互いに殺気を飛ばし合う。 この空間にエリオとキャロが入れば怯えて泣いていたのかもしれない。 それほどまでに濃密な殺気が放たれている。

 

「……そういう訳で、我々の相手をお願いしようか」

「……二対一……」

「戦闘機人二人……これは最初から飛ばさないとダメだね」

 

 フェイトの相手になるのは二人の戦闘機人。 ピンク色の髪をたなびかせている少女はセッテ。 男勝りな紫のショートカットがトーレ。 どちらも一筋縄ではいかない相手である。 だがそんな二人掛かりでフェイトと戦うというのだ。 それは確実にフェイトの足止めを行う事と同時にキリンとローリの戦闘には足手まといになるという裏返し。 キリンもそうだがメタル化したローリのパワーも計り知れない程あるという事だ。

 

「ここではお互いの戦いが邪魔になる、こちらに来てもらおう!」

 

 トーレが先行して場所を変えるため飛ぶ。 セッテもすぐ後ろに付いていく。 フェイトは直ぐには付いて行かず、少しキリンの事を見てから追いかける。

 

「キリン……気を付けてね」

「…………」

 

 それだけ言うと返事も待たずにフェイトは飛び立つ。 その理由は本人にも分からない。 ただ、今のキリンは返事を返してくれない。 何故かそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく…………二人きりになれたな」

「…………」

 

 ローリは静かに佇むキリンに言葉を投げかける。 依然として無言だったキリンだが、誰もいなくなった事でようやくその口を開く。

 

「…………少女誘拐」

「ピク……」

 

 その口から発せられるのは……罪状だった。

 

「監禁、暴行……殺害」

「貴様…………」

「被害となった少女の数はおよそ20人強、いずれも全て全身にアザが出来ていて暴行の末に殺害されていた」

『マスター……? 一体何の話ですか?』

 

 キリンの口から出てくるのは何かの事件の概要だった。 だがそれはデバイスであるミョルニルですら聞いた事のない物である。

 

「犯人は精神が錯乱した状態で『トラックを運転』、歩道を歩いていた少女を轢き殺そうとし、付近にたまたまいた『少年』が庇い、『少年が轢かれ、死亡』」

『!?』

「そして犯人が運転していたトラックはそのまま建物に激突。 シートベルトを着用していなかった犯人は衝突の衝撃でフロントガラスを突き破り建物内の壁に激突。 即死だった……」

 

 これを聞いているローリの表情はどんどん険しくなる。 何処かで聞いたことがあるのか、眉間にシワがどんどん寄る。

 

「20人強の少女を殺害し、『少年』を轢き殺した犯人の名前は……」

 

 ーーーー楼人・ビレッジストレート

 

『……え』

「てめぇの事だよ……ローリ!!」

 

 鋭い視線でローリを睨むキリン。 そしてそこまで聞いたミョルニルは気付く。 轢き殺された『少年』の事に。

 

『まさか……『マスター(霧刀)』が死んだ原因は……!!』

「てめぇが殺したんだ……『()()()()』をよぉ!!」

「…………ほぅ」

 

 生まれるはずのない殺意。 今ここに雷神の怒りが轟く。 それを見たローリはただただ小さく笑っていた。




何のこっちゃって方は「オレを知っているやつに会いに行く」の32話を見てください。

怒れるキリン、だがしかしメタル化したローリの猛攻の前に苦戦を強いられる。 だがローリの口から語られる犯罪を犯した理由を聞き、ついにキリンの怒りは爆発する。 次回、「Rage of Thunder」(唐突な次回予告)

今回も誤字脱字等のミスがありましたら、コメントにてお教えください。

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