オレはオレの幸せに会いに行く   作:ほったいもいづんな

27 / 76
なんかいきなりノーヴェとウェンディと交戦してます。 以上!


26話 殺伐アイコンタクト

 26話

 

 

 

 

 

 木村 心悟は本日もコーヒーを片手に新聞を読んでいた。 本人にとって良くあるコーヒーブレイクだが、本日は少し違っていた。

 

「ふぅむ……そろそろ……かねぇ」

 

 コーヒーを飲み終え窓の外に視線を移す。 もうすぐ日は落ち夜へと変わろうとしていた。 だが遠くに見える暗雲が少し気味が悪い。 そんな空を眺めているところに、緊急のアラートが鳴り響く。

 

「……お、来たのか」

 

 心悟は緊急のアラートが鳴り響いているというのに非常にリラックスした状態で立ち上がる。 と、そこにシャマルが急いだ様子でやってくる。

 

「心悟君! 大変! 襲撃されてるわ!」

「だろうねぇ」

「いやそんなに悠長に構えてないで早く避難して!?」

「そんなに急かすなよ、どうせ僕は大して役に立たないんだし、勝手に避難してるさ」

 

 心悟は白衣を身に付けたまま優雅に歩き始める。

 

「走るの! もう、私とザフィーラが表に出るから心悟君はみんなの事をお願いね!」

「はいはい、死なないようにするんだよ」

「……心悟君もよ」

「当然だ、こんな所で『2回目』はゴメンだね」

 

 シャマルは急いで六課の表に出る。 その背中を見ながら心悟は一人リラックスした足取りで皆が避難している場所を目指す。

 

「そろそろ向こうも交戦中……といったところかねぇ……。 ま、僕も僕のやりたいようにするさ」

 

 木村 心悟、隠しきれない心の揺らぎを誰にも悟られる事なく、飄々といつもの調子で努める事にする。

 

「……みんな無事なのが一番だけども……厳しいだろうねぇ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 襲撃が発生したのは陳述会が始まってからおよそ4時間後。 突如として大勢のガジェットが襲来。 会場を大量のガジェットが囲むことで建物内の魔力結合を完璧に封じる。 建物内に残されたなのはとフェイトが別働隊であるスバル達の元へ向かっていた。

 

 そしてスバル達は現在、戦闘機人達と交戦していた。

 

「オラァ!!」

「ッ!」

 

 激しくぶつかり合う拳と拳、一人はキリンのもの。 もう一つは戦闘機人のだ。 現在会場付近及び内部は魔力結合を封じられている。 つまり自身が持つ魔力のみで戦わなければならないため普通の魔導師は消耗戦を強いられる。 だが戦闘機人は通常の魔力とは少し異なる魔力のためこの影響を受ける事なく動ける。

 

「それそれそれそれ!」

「くっ……疾い……!」

 

 サーフィンボード状の機械に乗りながらティアナ、エリオ、キャロを翻弄するもう一人の戦闘機人。 軽い口調からは感じる事の出来ない正確無比かつ速い魔法弾を放っている。 エリオはそれを何とか槍で捌くものの、まるで弄ばれてるかのように少しずつ被弾していく。

 

「エリオ!」

「余所見してんじゃねぇぞ!」

「ッ!」

 

 後方を気にするスバルに強烈な蹴りがお見舞いされる。 よく見ればキリンも攻撃されていたのか、ミョルニルを前にだし攻撃を防いでいたようだ。 僅かにだが痺れたように震えている。

 

「うぐぐ……こんな時に翔次君がいれば……」

 

 キリンの言う通り、この場に『翔次はいない』。 ヴィータは現在ゼストと交戦中だが、翔次は別行動をしている。 その真意はキリンにも分からないが、少なくとも確実に大切な事なのだろうと察しているため止めはしなかった。 だが魔導師が厳しい現状で翔次はむしろ貴重な戦力である。 それを無防備にも単独行動させるのは危険ではあるが。

 

『マスター、弱音吐いている場合じゃないですよ』

「わーってる。 オレも一対多なら得意だがこういう集団戦は得意じゃないからよぉ……多分そろそろだ」

「何ゴチャゴチャ言ってやがる!」

「うおっ!?」

 

 赤髪の戦闘機人から頭部を狙った蹴りが上空から飛んでくる。 キリンはこれをしゃがむ事で回避する。 だが避けられた瞬間に脚に装着されているローラーブレードから魔力が噴出し、空中で高速回転、素早い二足目が

 キリンに襲いかかる。

 

「うぐっ……重い……ッ」

「ちっ、ギリギリでデバイスに防がれたか……」

 

 何とかミョルニルで防ぐキリン。 だがやはりと言うべきか、当然と言うべきか、一発一発が非常に重い。 隊長陣と同等かそれ以上の能力を保有する戦闘機人達に驚きを隠せない。 珍しく冷や汗がキリンから流れる……と同時にだった。

 

「キリンさん!!」

 

 ティアナがキリンの名を叫ぶ。 その表情は苦戦によって歪められておらず、寧ろ何かある自信に満ちた表情をしていた。 それを確認し、キリンは表情を和らげる。 そして……

 

「よっしゃー!!」

「ッ!? こいつ……ッ!?」

 

 キリンは一気に魔力を解放する。 放出された魔力の余波に思わず赤髪の戦闘機人は距離を取る。 キリンは最初から全力を出すタイプの人間ではない。 自身の引き出せる魔力の量が膨大かつ一般的な魔力変換気質とは異なる雷の魔力な為、相手や周囲に被害が出ることも当然ある。 故にキリンは相手の力量を見極めてから本気を出さないといけないのだ。

 

 当然この戦闘機人もキリンが最初から全力を出しているとは思っていない、しかし現在AMFを発動させているガジェットが大量にいるというのにそれを全く感じさせない魔力の解放に警戒レベルを一気に上げる。

 

「だあああああ!!」

「ッ! (あたし達はドクターの追加アップデートで数倍強くなったつもりだったが……それでもこの雷の化け物を相手にするにはやっぱ一人だとキツイ……!?)」

 

 魔力を解放したキリンを目の当たりにし、嫌な汗がジワリと流れる。 目の前のキリンの動きを見逃さないように慎重に観察し……キリンは一気に加速する。

 

「……ニッ!」

「ーーんなっ!?」

 

 加速する、ただしもう一人の戦闘機人に向けてだが。 キリンの最高速度はフェイトに肉薄するレベルまである。 だがキリンの恐るべき点はスタートダッシュの速さである。 キリンは余りある魔力を加速に使用する事で、瞬発的な加速のみフェイトを上回る。 まさに『閃光』。

 

「ウェンディ! 後ろーーーー」

「ーーーーへ?」

 

 それを見てから反応したのでは、教えることも無意味。 感知したとしてもそれを避けることが出来るスピードが無ければ、今から攻撃される事だけを知る羽目になる。

 

「ガッ!?」

「ウェンディ!!」

 

 キリンの蹴りが見事わき腹に突き刺さる。 そしてそのまま誰もいない方向へ飛ばされる。

 

 そこにキリンは一気に回り込む。 赤髪の戦闘機人はそれを見ているだけだった。 そう、完全にスバルから目を離してしまっている。

 

「だああ!!」

「うぐっ……!」

()()()してると危ないよ!」

「このっ……!」

 

 初撃の拳は見事顔面に入る。 続けざまにパンチを放つも全く同じ角度からのパンチによって相殺される。 だがスバルの勢いは止まらない。 大ぶりの左拳をすでに用意している。

 

「そんな見え見えの大振り……」

 

 スバルよりも早く左腕を前に突き出し魔法弾を撃ち出そうとする。 顔面に突きつけられた拳、だがスバルは避けようとも払おうともしない。 当然であろう。

 

「ーーッ!? (流れ弾!? いやこれは射撃……!?)」

 

 スバルに当てずに戦闘機人の拳のみを撃ち抜く精密な射撃。 それをやってのける事が出来るのは間違いなく……ティアナだけだ。

 

「あのやろう……!!」

「行け、スバル!!」

「しまっーーーー」

 

 この戦闘機人は少し短気である。 イライラ気味な性格のせいで、射撃をして来たティアナを必要以上見てしまった。 一瞬で済むはずの確認を、数秒かけてしまったのだ。 それはもうスバルの拳を避ける事など出来ない。

 

「リボルバー!」

「ガッ!?」

「シュートォォォォォ!!」

「アアアアアア!!」

 

 腹部に突き刺さるスバルの拳は胴体を空中に吹き飛ばす程の威力を発揮する。 スバルとティアナの信頼関係だからこそ生み出せるコンビネーション。 いや、これだけで終わらない。

 

「フンッ!」

「ーーーーッ!?」

 

 キリンは自分で蹴り飛ばした相手に高速で回り込み右腕を掴む。 そして勢いに逆らわずに回転しながら赤髪の方へ投げ飛ばす。

 

「うぎゃっ!」

「うぐっ!」

 

 空中でぶつかる二人は痛そうな悲鳴を上げる。 だが戦闘機人が乗っていたサーフィンボードのような機械は未だ足に付いたまま。 ここから一度体制を立て直そうと赤髪の方へ視線をやる。 だがそれすらも許さない追撃が二人を襲う。

 

「うおおおおおお!!」

『ッ!?』

「いっけぇエリオ君!!」

 

 キャロのブースト魔法によって強化された肉体を駆使し、一気に接近していたエリオ。 その手に持つ槍は雷を纏っている。

 

「やばっーーーー」

「サンダーレイジ!!」

 

 フェイト直伝の魔法が炸裂する。 だが済んでの所でボードを盾のように使い直撃を免れている。 だがそれでも二人にはダメージは入る。 二人はそのまま仲良く吹き飛ばされる。

 

「よし! 上手くいったな!」

 

 ティアナの合図から始まった逆転のコンビネーション。 スバルとティアナの連携、それに合わせて一番動けるキリンが対応。 最後にエリオに攻撃させることでキャロのブーストをかける事によってかかる時間を無駄なく消費できる。 普段あまり無い連携だが、全てティアナが予め想定して置いた連携だ。 そして仕上げは……

 

「……撤退!」

「何だと!?」

 

 全員一目散に通路に向かって走り出す。 もちろんこれもただの撤退ではない。

 

「やろう、舐めやがって……!!」

「待つっス『ノーヴェ』! アレ! アレ見てっス!」

「……なっ!?」

 

 指を指された方を見る。 そこは別の通路の筈なのにティアナ達の逃げる姿があった。 と言うよりはこの一角から続いている通路全てにその姿が映し出されていた。

 

「幻術か……クソッ!!」

 

 予め全員分の分身を作り出して置いたティアナとキャロ。 ちょうどキリンが戦闘機人を蹴り飛ばした辺りから既に実行していた。 つまりここまで計算通り、二人の戦闘機人を見事手玉に取ることに成功していた。

 

「クソックソックソッ!」

「落ち着くっスよノーヴェ。 今追いかけても罠の可能性もあるっス」

「わぁってるよ……クソッ!」

 

 落ち着く為に地に足を付ける二人。 赤髪の方はノーヴェと呼ばれ、濃いピンク髪の方はウェンディと呼ばれている。

 

「とにかく、こうなったら一度『チンク』姉と合流するしかないっスねぇ」

「そうだな……チンク姉なら問題はないと思うが……」

「居なかったからっスからねぇ〜もう一人が」

 

 戦闘機人達はジェイル・スカリエッティから特に警戒するように言われている人物が二人いる。 一人は当然キリン。 もう一人はさっきの場に居なかった翔次であった。

 

「……もしかして『ファースト』の所にいる……とか?」

「……まさか」

「いやでもこの場に居ないってことはそういう可能性もあるっスよね?」

「……はやくチンク姉のとこ行くぞ!!」

「あいあいさー!」

 

 ノーヴェとウェンディはチンク姉と呼ばれる仲間の元に急ぐ。 その最中、ノーヴェは先ほど辛酸を舐めさせられたスバルとティアナの顔を思い出す。

 

(セカンドならいざ知らず、まさかあんな凡人な奴に一杯食わされるなんて……クソッ! 覚えてろよあのヤロー! 次会ったらボコボコにしてやる!!)

(……なんてこと思ってそうっスね……)

 

 ノーヴェの筒抜けな考えに少し困るウェンディ。 二人はキリン達とは違う方向へ真っ直ぐ進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「逃げろ逃げろー!」

「ちょっとキリンさん、大きな声出さないでくださいよ」

「あ、サーセン」

 

 キリンを先頭に全員走り続ける。 逃げるのには当然理由がある。 まず一つとしてはこちらの攻撃が余り効いていない事。 最後のコンビネーション攻撃のみクリーンヒットしていたが、あれでようやく一発。 あれを何度も繰り返すには全員の魔力が足りない。 むしろジリ貧となりこちらが負ける恐れが大きい。

 そして向こうの戦力が分からないのが二つ目の理由である。 前回交戦した戦闘機人達とは違う、今回初の遭遇でありまだ他に潜伏している可能性が大いにある。 そんな中でフォワード陣全員が魔力を出し切り先ほどの2名を倒せたとしても、そこを狙われては元も子もない。 故にこの戦略的撤退は非常に英断なのである。

 

「……お、あれってフェイトちゃん達か?」

 

 走る事数分、開けた場所でなのは、フェイト、そして騎士カリムの補佐を努めるシスターシャッハがいた。

 

「あ、みんな!」

「おー無事ここまでこれたのね」

「ティアナ、状況は?」

「はい! 先ほどまで戦闘機人と交戦してて……」

 

 そこから少し状況の受け渡しを行う。 ヴィータが現在空に出ている事、翔次が別行動をしている事、先ほど2名の戦闘機人と交戦していた事。 そしてここまで撤退して来た事を。 報告を受けたなのははティアナの判断を褒め、預けていたデバイスを回収する。

 

「さて、取り敢えず戦闘機人達もそうだけど翔次君も探さなきゃ」

「あ、あとギン姉も! さっきから通信が出来なくて……」

「そうだね、それじゃあここからは班を分けるよ」

 

 現在六課が襲撃されているのでライトニング部隊は六課に戻り、スターズ部隊は残り翔次とギンガの捜索。 シスターシャッハやキリンも翔次達の捜索に当たる事に。

 

「もし戦闘機人に遭遇したらすぐに逃げる事。 それだけは守ってね?」

「はい!」

「私もお手伝いします!」

「よし、それじゃあさっさと翔次君達を見つけーーーー」

 

 ブリーフィングも大体終えた所でキリンが何かを察知する。

 

「……………………」

「キリン……?」

 

 キリンは言葉を発さずに誰もいない方向を睨み続ける。 奇しくもそれは六課がある方向であった。

 

「…………やろう……」

「どうしたのキリン?」

「どこにいるか、どれだけ離れているか知らんが……ここにいるオレ目掛けて殺気を飛ばして来やがった……!」

「えっ!? それってまさか……」

「……あの変態ロリコンやろー……!!」

 

 キリンに向けられた殺気、遠くの場所から射抜くように放たれた鋭い殺気は遠く離れた場所からだと一瞬で理解する。 そしてそれは間違いなくローリのものだと察する。

 

「ゴメンなのはちゃん、オレもライトニングと一緒に行くわ。 あのやろーはオレが相手しねぇといけねぇ」

「え、あ、うん……」

「ティアナちゃん、翔次君の事頼むわ」

「は、はい!」

 

 突然鋭い目付きへと変わるキリンに皆が動揺する。 この雷の様にピリピリする雰囲気を知っているのはなのはとフェイトのみ。 かつてキリンが稲妻を纏いながら自分の名前を思い出した時と同じ圧力が感じられる。

 

「…………」

『マスター、分かってますか? 貴方の魔力は他人を平気で傷付けられます。 シリアスになるのは構いませんが用法用量をキチンと守ってくださいよ』

「分かってる」

『…………なら良いんですけどね』

 

 不穏な会話をしながらキリンは殺気が飛んで来た方向を見つめる。 そしてお返しと言わんばかりの闘志を飛ばす。

 

「ーーーーキッ!!」

『ッ!?』

 

 全員思わず身構える。 一瞬感じたのは鋭い電撃、そしてキリンの姿が一人の女性に見える。 ほんの一瞬の出来事だが、フォワード陣は改めてこのキリンという男が化け物であると思い知る。 そんな中フェイトは一人、普段とは様子の違うキリンに何か引っかかる。

 

「キリン……?」

「…………」

 

 キリンは何も答えない。 その視線の先にいるであろうローリを捉えている。 その目はいつもとは違う力が宿っていた。

 

(キリン……どうしたの? そんなに怖い顔して……もしかしてあの戦闘機人の男と何かあるの……?)

 

 フェイト・T・ハラオウン、これほどまでに不安に駆られるのはなのはが大怪我をした時以来であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふっ……さぁ来い……!!」

 

 キリンが見つめる先、暗雲広がる空の中で確実にローリが待ち構えている。 不敵な笑みを浮かべながら、第二ラウンドを待ちわびていた。

 




次回は翔次君やギンガの行方とかキリンとローリの戦いとかですね。 なるべく戦闘描写を頑張りたいです。

今回も誤字脱字等のミスがありましたら、コメントにてお教えください。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。