オレはオレの幸せに会いに行く   作:ほったいもいづんな

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最近ヤバイ……全然投稿出来ない……
これがスランプ……!?
「いやお前サボり癖があるだけだろ」
お、そうだな。(Q.E.D)




10話 心の内側を包む雪化粧

 10話

 

 

 

 

 それはおおよそ8年前の事である。

 

「…………」

「……どうしたん拳君?」

 

 地球を離れ様々な星々を転々としながら生活をしていたキリン、翔次、拳の三人はとある管理外宇宙の中の一つの星に滞在していた。 地球を離れてからおよそ2年、まだまだ皆の元に帰れない時であった。

 

 拳こと『真条 拳』は普通の人間ではない。

 

『管理会』、無限に存在する世界を4次元的に管理しているこの組織に所属している拳はこの世界、『リリカルなのは』の世界を管理を任されている。 この世界が原作から大きくかけ離れないように原作のキャラクターや転生者を管理、及び削除をしていた。

 

 だかこの世界で起きた出来事が大きく拳を変えた。 転生者の肉体に憑依した「村咲 輝凛」、そして原作キャラクターの「高町 なのは」に出会ったことで拳はこの世界に愛着が湧いてしまった。 慣れ親しんだBAR、毎日出会う野良猫、いつも決まった場所にいる仲間や友人、これらに似た、自分にとってなくてはならないもの。 自分の中にある大切な歯車、それほどの存在にまでなっていた。

 

「拳君……?」

 

 そんな彼は今日はどこかおかしい。 そう気付いたのはキリンだった。 今日の彼は朝からおかしい、まるで何か覚悟を決めたような……そんな険しい顔をしていたからだ。

 

「……おい、どうした拳?」

「なぁ……どうしたってんだ?」

「……二人とも、よく聞いてくれ」

 

 拳はいつも真面目だった、どのよう時でも、常に真摯な姿勢でいた。 そんな彼はこの日もいつも通り、いつもの姿勢、声色でいった。

 

「俺は今日までだ……今日が……『最期』だ」

『!?』

 

 突然告げられる宣告、もちろんこれは別に想定していたことだったが、まさかこんなに早く来るとは思ってもいなかった。

 

「んな、変なジョークは止めようぜ……? だって君まだ11歳じゃん……?」

 

 管理会にはいくつかのルールがあった。 その中の一つに、転生者と接触する場合はその者と同じ年齢になる、というルールがあった。 そして元の年齢までその世界で歳をとらなければならなかった。 拳の元々の年齢は15、つまりまだ4年はこの世界に入れるはずだった。

 

「……今日この日、ある出来事が起こる。 ……翔次なら知っているはずだろう?」

「なに? …………まさか!?」

「そのまさかだ」

「いや待て! 『アレ』は別にバッドイベントって訳ではないし、そもそもストーリー的に大切な事で……」

 

 拳の言葉からあるイベントが推察された。 もちろんそれを知っているのは翔次だけだし、アニメを見ていないキリンにとってはさっぱり分からないことだが。 事実を知っている翔次はそんなことに拳が首を突っ込む必要はないと思った、だが拳は諭すように言葉を続ける。

 

「バタフライエフェクト……という言葉を知っているか?」

「バタフライエフェクト……?」

「……風が吹けば桶屋が儲かる理論のやつだろ……なるほど」

「そうだ、俺たちの今までの行動のツケが、ここに来てやって来てしまったのだ。 ……それもなのはの所にな」

「な、何でだよ!? 随分前になのはちゃんのとこに行って……それだけじゃねぇのかよ!」

 

 バタフライエフェクト、それは地球の反対側で羽ばたく蝶が起こした風が、やがて大きな津波を引き起こす。 たった数ヶ月とはいえ積み重なったこれまでの事が、なのはの身に降りかかっているのだ。

 

「……そしてこの介入で、俺は間違いなく管理会の裁定が入る。 つまりここでお別れ、というわけだ」

「なっ……なんで……ッ!」

「……どうしようもない……いや、何かあるのならとっくにやってるか」

 

 キリンと翔次は拳が消える悲しみともう2度と会えなくなる寂しさと、今この瞬間何も出来ない自分に後悔していた。 そんな二人の姿に拳はポツリと呟く。

 

「……すまん」

 

 謝った。 小さく、短く、申し訳なさと、感謝を乗せる。

 

「もっと早めに言っておけばよかった……よかったはずなんだ。 だがどうしてだろうな……きっとお前達に言えば悲しむ、そう思ってしまった」

 

 以前の拳では考えられない、その『人間臭さ』は拳に慈しみと人情をもたらした。

 

「だが……それは正解だったようだ。 こんなに、二人がショックを受ける姿を見るのが……堪えるとはな」

「拳君……」

「お前達は管理局の管理している星に移す。 あとは二人でも生きていけるはずだ、あと8年経てば皆の元に帰るといい」

 

 キリンと翔次の肉体が光を浴び始める。 これは拳の時空間移動をするさいの術、もう別れはすぐそこまで来ていた。

 

「拳君! 待ってくれよ! オレ達も行く!」

「そうだ、何も一人で行く必要は無い! ボク達だって戦力になる!」

 

 二人は懇願した、もっと一緒に居たいと。 まだまだ側にいたいと。 そんな二人の姿を見た拳はひたすらに感謝をしていた。

 

「礼をいう……この俺に、そんな言葉を投げかけてくれるのはきっとお前らくらいだ」

「待てよ! 勝手に消えんな! 勝手に決めんなよ! 友達だろオレ達!」

「……そうだ、親友(とも)よ。 親友だからこそできる、最初で最期の我儘だ」

 

 こんなことを言うのは実に自分らしくない、そう思った拳の表情は優しい笑顔に変わっていた。

 

「翔次、お前はもう羽ばたける。 亡き兄の分まで生きることを楽しめ」

「拳…………!」

「キリン、お前はこの世界でもっとも真っ白な存在だ。 何にも属さないお前だからこそ、自由に、お前らしく行け」

「拳……っ……君……!」

 

 別れの言葉、それを聞いてしまったのなら……もうさよならしかない。 拳から二人へ送られる言葉はこの世界で生きる二人のための言葉。 二人は涙を流していたが……拳は泣いてなどいない。 シワのないまっさらな笑顔で二人を見つめている。

 

「さらばだ、我が親友(とも)達よ。 俺はいつも見守っている」

 

 光に包まれた二人はそのまま消えた。 恐らくは別の星に移動させられたのだろう。 残された拳は一人、自らの終わりへと向かう。

 

「これが滅びに向かう感覚か……存外、気楽なものだ」

 

 自分が消えるだけで、誰かを守れるのだ。 こんなにも容易い引き金はない。

 

 そして拳は……もう二度と姿を現さなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これがオレ達が知っている全てだ」

 

 キリンが話し終えると辺りは沈黙で包まれる。 だがその心中は穏やかではないだろう。

 

(うええぇぇぇ! 私めっちゃ関係あらへんのに何で聞いてしまったんやろか……場違い感半端ないで)

 

 はやてだけはしっちゃかめっちゃかだが……

 

「その……さ、本当は早めに話しておきたいなぁ……とは思ってたんだけどね? その……」

 

 言葉を選びながらなのはに事情を話すキリン。 この男にしては珍しく言葉に詰まっている。 と、そこに翔次が代わりに言う。

 

「こういう話は……聞いてもあんまし楽しくないし……それに……」

「拳が消えたのは高町、お前を助けたからだ。 そんな事情なのにそう簡単に話をするのもなんだかな、と思ってな」

「そうなんだよ……だって自分のために消えましたなんて……聞いてもアレだろ?」

 

 キリンと翔次は知っている、自分のためにその魂をも投げたもの達を。 知っているどころか体験している、だからなのはに伝えずらかった。

 

(自分のために……か)

 

 はやては不意に一人のお節介焼きのことを思い出す。 彼もまた滅びに向かう者だった。 そんな彼に救われたからはやてには分かってしまう、この話の、なのはにとっての重大さが。 だがとうの本人は……

 

「うーん、やっぱりそうだったんだ」

「……なのはちゃん?」

 

 思いの外普通だった。

 

「同じ時期にね、任務中に重傷の大怪我をおっちゃってね」

「えっ!? そうなの!?」

「その時一緒にいたヴィータちゃんから聞いたんだけど……」

 

 それは冬の出来事だ。 それまでの無茶と疲労と負担のツケが来たように任務中に重傷をおった。 その際もう二度と空を飛ぶことは叶わないと言われていたほど、なのははボロボロだった。 だがなのはは諦めず、文字通り血を吐くほどのリハビリをし、半年で復帰した。 そして復帰した時、ヴィータに言われたのがこれだ。

 

『誰かがなのはを守るように戦っていた跡があった』

 

 これは直接見たわけではないが、倒れたなのはの周りには戦闘痕があり、しかもなのはを守るように動いていたことが推測されていた。

 

「……多分その話の戦っていた奴は恐らく、いや間違いなく拳だろう」

「あ、やっぱりそうなんだ。 きっと拳君じゃないかなぁ……ってたまに思っていたんだけど、本当に拳君だったんだね」

「……もしかしてそんなに……ショック受けてないっぽい?」

 

 どうやらなのはは「高町 なのは」としての強さを持っていた。 強い心、本来のなのはの姿。 かつて拳によって取り戻した強さだ。

 

「はぁ……なら変にうだうだしてたオレ達がバカみたいじゃん……はぁ〜……」

「あはは、いやその……アレだよ? もちろん複雑だけど……」

「なのは、今の君はそんな風に見えないよ」

「にゃはは……」

 

 重かった空気が一気に軽くなる。 いつものような、明るい空気に。 なのははただ知りたかっただけなのだ、知っておくべき真相を、知る権利のある事実を。

 

「……拳君はね、私のことを助けてくれたの。 あと、頑張れって言ってくれた。 それだけで私は満足、十分に幸せなんだ」

「……そっか、ならこの話を終わり! 閉廷! みんなもう帰っていいよ」

「いやまだ仕事あるで……」

 

 いつものようにふざけるキリン、それを見て笑う皆。 もちろんなのははいつものような笑顔で笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは8年前の事だ。

 

『どうやら……もう時間のようだ』

 

 激しい戦闘痕が残る雪原で横たわるなのは。 その側で膝をつきなのはを見つめている拳。 拳の身体は淡い金色の光で包まれている。

 

『本当ならば……別に君を助けなくてもよかったのかもしれない。 きっと本来の物語と同じようになっていたのかもしれない』

 

 拳を包む光はかつて翔次の兄である一喜やキリンの身体の元の主のキリトと同じ、消える時に発する光と同じ。 今まさに拳はこの世界から消えようとしていた。

 

『だが何故だろうな……なのは、君が死にかけると考えただけで急に頭の中が真っ白になる。 目の奥が痛く、喉を掻き毟りたくなる』

 

 今まさに消えようとしている拳の声はとても穏やかで、その優しすぎる表情は少し儚げに見える。

 

『……俺はもう二度と干渉してはいけなかった。 だがこれで三度目だ、もう職務怠慢というレベルではないな……ふふ』

 

 何故自分がこのような事をしているのか、拳には分からなかった。 分からないからなのか不思議な笑いが込み上げてくる。

 

『……なぁなのは、俺はどうやらここにきてようやく理解したようだ』

 

 もう拳の身体は助け始め、光の輝きは一層増している。 もうすぐ消えてしまう、これがきっと最期の言葉になるだろうに、拳は今やっと気付いた自分の心の内側を、聞いてもいないなのはに打ち明ける。

 

『どうやら俺はーー』

 

 その言葉はこの世界の誰にも届かない。 そこにいたはずの場所にはただただ雪が積もっていくだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーなのは、君のことが好きみたいだ。




もうすぐ冬休みですね。 去年と同じように、またサボりだします。 詳しくは今度あげる活動報告にでも。


今回も誤字脱字等のミスがありましたら、コメントにてお教えください。

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