ソードアート・オンライン マザーズ・ロザリオ ボクの生きる意味   作:むこ(連載継続頑張ります)

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 こんばんは、お久しぶりです。前回の投稿から約二ヶ月、間が空いてしまいまして大変申し訳ありません。
 昨今になってようやく心身ともに安定してきまして、筆を執る猶予が戻ってまいりました。
 そして、そんなことをしている間に劇場版の円盤が発売と相成りました。私はループ再生でスクリーンの感動を思い出しながらニヤニヤしております。
 もちろん今後、ボク意味でもオーディナル・スケール編はしっかり書いていきます。

 そして、ボク意味の合計文字数が、とうとう100万文字に到達致しました。UAも気が付けば17万を突破し、毎日どなたかが読んでいただいている状況です。ありがとうございます。

 更新速度は遅くなりますが、確実に物語は進めてまいりますので、今後も何卒よろしくお願いを申し上げます。
 それでは、本編をどうぞ。今回、いよいよ満を持してあのキャラが登場です。
 
 


第76話~小さい大冒険~

 

 

 西暦2026年12月17日(木) 午後13:00 アルヴヘイムオンライン スヴァルトアールヴヘイム 浮島草原ヴォーグリンデ上空

 

 

 スヴァルトアールヴヘイムが実装されて、一番初めに開放されていた浮島エリア、ヴォーグリンデ。

 その名の通り、見渡す限りの美しい大草原と大空が広がり、あちらこちらには大きいものから小さいものまで島がプカプカと浮かんでいる。

 

 これを見ているだけでも十分に楽しめるスヴァルトアールヴヘイムだが、ここには地上エリアとは違うクエストや、空を飛ぶモンスターが多めに配置されているなど、明確な差別化が図られている。

 中でも、旧アインクラッドで実装されていた装備が手に入るという報告が上げられていることから、ドロップ目的でクエストやダンジョン攻略に走るプレイヤーも少なくなく、実装からかなり経過した今でも色褪せることなく、人気を博している。

 

「ふふーん、気持ちいいです!」

 

「キュルルーン!」

 

 そんなヴォーグリンデの大空で、気持ちよさそうにケットシーの女の子が空中遊泳を楽しんでいる。

 現実世界ではリアルタイムで風邪をひいてダウンしているはずのシリカである。その傍らには使い魔であるピナも楽しそうに羽ばたいている。

 

「……あの子確か、風邪ひいてるんだよな……?」

 

 楽しそうに舞っているシリカの数メートル後方から、今度はサラマンダー族の少年が彼女の後を追うように飛行している。

 ユウキが束ねるギルド、スリーピング・ナイツのメンバーの一人、ジュンだ。

 

「おーいシリカー! もういい加減クエストやりにいこうぜー!」

 

 両手を後頭部に回し、両足を大股開きにしてジュンがシリカに声を掛ける。

 かれこれ十五分間、シリカはただひたすらに大空を舞い続けていたのだ。

 特に敵と戦うわけでもなく、クエスト地を目指しているわけでもなく、ただただ飛び続けているという。

 

「あ……はーい!」

 

 現実世界では風邪で体が火照っている所為もあってか、大空を舞う中での向かい風が余程気持ちよかったのか、シリカはすっかり上機嫌になっていた。

 

「全くもう……、クエストに行くんだろ?」

 

 ふわりとホバリングをしながらこちらに向かってくるシリカに対して呆れた言葉を投げかけると、彼女は「えへへ、そうでしたね」と言葉を返しながら、ジュンの隣に居座る。

 

 ジュンの目の前にはクエスト欄が表示されており、今回受けたクエストの詳細が書き記されていた。

 

 内容はモンスター討伐クエスト。

 ここヴォーグリンデの南東の位置にある、草原エリアに沸く狼型モンスターを三十匹討伐する内容だ。

 フィールドエネミーとしてではなく、クエストエネミーとしてポップするため、通常の沸きモンスターと比べても強い個体が多く、舐めてかかると痛い目にあう。

 

 そして二十九体目を討伐し終わると、群れの親玉が出現、これを倒すことでクエストはクリア、目的達成となる。

 

 別にこれといってすごいレアドロップが出るとか、経験値や熟練度をたくさんもらえるという訳ではなく、手頃でサクッとこなせるだろう、との見立てで今回のクエストを受けたのだ。

 

 ジュンとしては、フィールドボスクラスの弩級のモンスターと戦闘をしたかったようだが、何せ初めてコンビを組む相棒だ。

 まずはそっと間近で実力がどの程度なのか、というのも自分の目で見ておきたかった。

 

 しかし、第一線で戦っていなかったとはいえ、シリカは元SAOサバイバー。キリトやアスナ程の戦闘力はないが、VRMMOのプレイヤーとしては並外れた実力を持っている。

 

 反応速度、状況判断力、身体能力と、どれをとっても一般のVRMMOプレイヤーと比べても比較にならない。

 

 試金石にかけるような目で彼女の立ち振る舞いを見ていたジュンにとっては、それはそれはいい意味で期待を裏切られる結果となりそうだった。

 

「あ、あれじゃないですか? ジュンくん!」

 

「あ、ああ……そうみたいだな?」

 

 ALOに存在する妖精の種族の中で、とびきりずば抜けて視力に長けたケットシーであるシリカが、草原の方に向かい指をさす。

 

 そう言われるとジュンは、よく目を凝らしてシリカの言った方角に視線をやると、何やら通常の狼とは一風変わった見た目をしたモンスターが数匹、群れをなして縄張りを主張しているのを確認する。

 

 その見た目は、現実世界の凛々しい狼とは程遠い見てくれで、全身を灰色の毛皮で覆われて、その背中からは鶏のトサカのような、氷柱のような棘が一直線に生えている。

 牙も剥き出しになっており、目は真っ赤で、とてもプレイヤーと友好関係を結べそうには見えなかった。

 

「……可愛くないです、あの子たち……」

 

「そりゃあ……敵だからな……」

 

 ここまで来る道中、もしも討伐対象がとても可愛い見た目をしていたらどうしよう、自分に手を下すことが出来るのだろうかと懸念していたシリカであったが、あの禍々しい見た目をしている狼を前にすると、それまで抱いていた心配事が一瞬で拭い去られ、腰に備えてあるダガーに手が伸びる。

 

 ジュンも背中から両手剣を引っこ抜き、臨戦態勢を見せる。今日の獲物は前方五十メートル程の位置にいる。

 目付きを鋭いものに変えると、ジュンは飛行速度を上げて一気に加速し、狼との距離を縮めていった。

 

 両手剣は攻撃力が高いのが売りだが、反対に動きが遅いという弱点がある。ソードスキルの硬直も大きく、全体的に隙が大きい武器だ。

 しかし、それをふまえてもその破壊力には目を見張るものがあり、時には一撃で相手を仕留めることも可能である。

 

「行くよシリカ!」

 

「は……はい!」

 

 ジュンが声を掛けると、シリカもギアを上げて真っ直ぐに狼の群れに突っ込んでいく。

 すると狼の視認範囲に入ったのか、モンスターがアクティブ状態になり、二人を敵と認識し、威嚇のポーズを取り始めた。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

『UGAAAAAA』

 

 おぞましい唸り声をあげながら、群れの中の一匹が、降下してきたジュン目掛けて牙と前足の爪を鋭く光らせて襲いかかる。

 しかし、ジュンはひるまない。その目は真っ直ぐに狼を、いや、狼の軌道と間合いを見ており、それに合わせて両手に握る剣の角度を変える。

 

 一瞬の出来事だった。

 

 ただ、すれ違っただけで、狼の体は頭から真っ二つに斬り裂かれていたのである。

 斬り裂かれた狼は細い断末魔をあげながら、二つに別れた体を光り輝かせ、爆散していった。

 

「す……すごい、です……」

 

 全身ずっしりとした真っ赤な重鎧を身に纏い、そして自身の身の丈はあろうかという長剣を

軽々と扱っている。

 普通、ここまで重量が重なるとスピーディな動きは到底できるものではない。

 

 だがジュンは装備全体の総重量がかなりのものであるのにも関わらず、キリトやユウキ程ではないが、素早い身のこなしを見せている。

 

 とてもタンククラスのプレイヤーが見せるような身のこなしではない。

 だからといって移動速度が上がるようなバフアイテムを装備しているわけとかでもない。

 あくまでもこれは彼のVRMMOのプレイ経験からくる、直感と感覚からきているものだ。

 

「次、くるぞ!」

 

「え……? あ、は……はい!」

 

 一匹目を葬ったやいなや、すぐに次々へと狼が二人目掛けて襲い掛かってくる。

 狼の群れは視界に写っているだけでも十匹は確認出来る。こちらは熟練のプレイヤーが二人いるとはいえ、数では圧倒的に不利だ。

 

 しかし、ジュンは怯むことなく再び剣を構えて群れに向かって地面を蹴る。

 そんな彼の正面には、横一列に三匹、狼がグループを作り襲いかかろうと群がってきている。

 

「はあぁッ!」

 

 すると、ジュンは気合いの入った雄叫びと共に、腰を深く落とし、剣を右に構えてモーションを起こし、自分の周りの敵を薙ぎ払う範囲系両手剣ソードスキル『サイクロン』を発動させた。

 

 彼の持つ剣の刃が白く光り輝き、地面に対して水平に、三百六十度剣が薙ぎ払われる。

 刀身からは金色に輝く鋭利な衝撃波が放たれ、ジュンの周りを取り囲む狼が次々にその餌食になっていく。

 

 このソードスキルだけで、四、五匹は倒しただろうか。最初にポップしていた数の半分ほどを片付けたようだ。

 しかし、すぐさま次々に新しい群れがポップし、彼らを敵と視認して襲いかかろうとしてくる。

 

 ソードスキルを使ったジュンは硬直で動けなくなっており、無防備になっていた。

 両手で剣を握っているため、キリトやユウキがやってみせているようなスキル・コネクトも使えないため、この時ばかりは隙を晒すはめになってしまっている。

 

「ちょっと甘く見たか……!」

 

「まだですよ!」

 

 狼がジュンに飛びかかろうとした刹那、突如として間に割って入る者の姿があった。今日組んだコンビ相手、シリカだ。

 

 シリカは彼を庇うように着地すると、すぐさまダガーを握っている手を後方に構え、モーションを起こすと素早い身のこなしで、右、左へとジグザグにステップを踏みながら、前方の狼を斬り刻んでいった。

 

 しかし流石にジュンの両手剣ほどの火力は出ないため、狼に致命傷を与えるまでとは程遠かった。

 ダガーがダメージを稼ぐためには、何よりも手数がいる。その為の身軽さ、その為の硬直の少なさがウリとなっているのだ。

 

 だが、シリカはたった一撃、斬撃を入れただけで攻撃の手をやめてしまった。まだ狼のHPはグリーンゾーンを維持しているというのに。

 

「ジュンくん! 今です!」

 

「あ……、ああ!」

 

 シリカに斬られて反撃を試みようとしていた狼郡であったが、それは叶わなかった。

 何故ならば、彼女のソードスキルを受けた狼は全て、状態異常:麻痺毒となっていたからだ。

 

 この時、シリカが放ったソードスキルは『パライズ・バイト』という、一定確率で相手を麻痺毒状態に陥れる効果のあるものだった。

 

 そう、手数を稼がなくても、こうしてアタックチャンスを得ることは十分に出来るのだ。

 

 他の武器ほどリーチはなく、攻撃力も低いが、それをカバーするための強みが、ダガーにはあったのだ。いや、ダガーの手数があるからこそ、その強みが発揮されたといってもいいだろう。

 

 ジュンはシリカが作ってくれたチャンスを無駄にしないために、ソードスキルの硬直が解けるや否や、麻痺毒で動けない狼を、今度は通常攻撃で次々に屠っていく。

 

 いつもは自分の防御力を活かしたゴリ押し戦法でことを運んでいたジュンであったが、ここにきてパートナーの大切さを思い知る。

 

 スリーピング・ナイツは一人一人が一騎当千の実力者揃い。気が付けば誰かが敵を倒している。自分のその一人だ。

 本能のまま、感覚のまま、経験のまま武器を振るい体を動かしていく。

 そしてHPがある程度減ればシウネーが回復してくれる。シンプルながらもゴリ押し気味の戦法で、これまでも戦ってこれた。

 

 しかし、スヴァルトアールヴヘイム実装時に、スリーピング・ナイツを手伝ってくれたキリトやアスナと触れ合ったおかげで、新たな風が吹いた。

 他愛のないやりとりもそうだが、戦闘でのイロハもそうだった。各々の強みを活かした連携、作戦など、これまでにない体験だった。

 

 今回のことだってそうだ、いつものゴリ押しではなく、ジュンはジュンで、シリカはシリカでそれぞれ得意な一手がある。

 それらは組み合わせていくだけで、可能性がぐんと広がっていく。

 たかが二人だけだと甘く見ることなかれ、連携次第では、新生アインクラッドの迷宮区を突破できることもあるのだから。

 

『SHAGAAAA』

 

 ジュンの斬撃を浴びた狼は次々にHPを全損させ、青白く光り、ポリゴン片となって爆散していく。

 欠員を即補充するかの如く、次々に新しい狼がポップしては、彼らに襲いかかる。

 しかしそれを見越してか、シリカは既に次の手を考えていた。

 

「ピナ! バブルブレス!」

 

「キュアッ!」

 

 シリカの指示と共に、ピナが可愛らしい鳴き声を響かせながら、状態異常:睡眠の効果がある泡状のブレスを狼の群れに放つ。

 泡は勢いよく発射され、真っ直ぐに狼群目掛けて飛翔していった。

 

 そして狼の目の前で弾けると、真っ赤な目が光る凶暴な顔が、とろんとしただらしない顔つきになっていき、やがてはすっかりと眠りこけてしまった。

 

 たちまち、彼らがいる狩場は風の音と獣のいびきしか聞こえなくなっていた。個体差はあるが、静かに寝息を立てているやつもいれば、グゴゴとやかましいやつまでいる。

 

「さ、ジュンくん、やっつけちゃいましょう!」

 

 ノリノリで、勢いよく狼群へと突撃していくシリカを尻目に、ジュンはすっかり関心しきっていた。

 彼女と同じケットシー族であるアルゴやシノン、はたまたケットシー領主であるアリシャ・ルーよりも自在に使い魔を操り、匠に戦場を駆け回るその姿は、脱帽の一言でしかなかった。

 

「あ、ああ……しかしすごいよシリカ! こんな戦い方があったなんて……」

 

「えへへ、私だっていつもお荷物ってわけじゃありませんからね!」

 

 互いにアイコンタクトを取り、笑顔を交差させると二人は真っ直ぐに残った狼群を仕留めるべく、地面を蹴った。

 

 無抵抗な相手を一方的に攻撃するのは少しだけ気が引けたが、これも作戦、悪く思わないでくれと、プログラムで動いている狼を次々に斬り捨てていく。

 そして、二十九匹目にあたる狼が爆散したのを確認すると、一旦敵の沸きがストップした。

 

「……ふう、雑魚はこれで全部……かな」

 

 周囲の様子を伺いながら、ジュンが手持ちの両手剣の刀身を自身の肩に乗せる。クエストの手順的に、この後はこの群れの親玉がポップすることになっている。

 しかし、いくら待っててもそれがポップする様子は見受けられない。

 

 キリトと違って索敵スキルを上げてない二人は、あくまでも目で周囲を警戒し、最後のターゲットを探している。

 

 するとシリカの真横で羽ばたいているピナが、突然真上に向かってキュルンキュルンと鳴きだした。

 

「……ピナ?」

 

 ピナの様子がいつもと違うことに気付き、シリカも気になってその方向を見上げる。

 何だと思い、ジュンも同じ方向に目をやる。

 するとその刹那、彼らが立っているエリアが影で覆われた。

 

「シリカ! 危ない!」

 

「わ……きゃあ!?」

 

 考えるよりも早く、ジュンの身体が反応していた。右手を剣から離し、空いた手でシリカを抱き抱えるとそのまま思い切り地面を蹴って、全力で前方へとステップした。

 その場から一気に十メートルは跳んだかといったところで、背後から『ズシン』という物凄い音が鳴り響く。

 飛んだ勢いそのままに、ジュンはシリカを抱き抱えたまま、思い切り土煙を舞上げながら地面を転がっていった。

 

「つつ……、シリカ、大丈夫……?」

 

 先に起き上がったジュンが、彼女の身体を心配する。幸い二人ともそれほどダメージは受けていないようだ。

 ジュンは剣を杖にしてすっと起き上がり、上空から何が降ってきたのかを見て確認する。

 

「な……、なんだよこいつは……」

 

 ヒヤリとした汗が、一滴ジュンの頬から滴り落ちた。そう、彼の目の前には常軌を逸した程の大きさを誇った、狼型の巨大モンスターが佇んでいたからだ。

 

 先程まで狩っていた雑魚モンスター比べても遥かに大きく、頭から尻尾まで全長十メートルはあろうかというくらいの大きさだ。

 

「シリカ立てる? 一旦距離を置いて……」

 

 ジュンが声を掛けるも、シリカの反応はない。

 おかしいと思って彼女の顔を覗き込んでみると、何やら先程とは様子が違うようだった。

 

「シリカ……?」

 

「え……? あ、ご、ごめんなさい」

 

 二階声を掛けられて、漸くシリカが反応を見せる。その顔はどこか赤らんでいて、少しだけ目の焦点が合っていないような印象を受けた。

 シリカはジュンの肩を借りてゆっくり立ち上がり、自身の服をパパっと手で払い、目の前の敵を確認する。

 

「お、大きいです……」

 

「こいつが親玉だよ、気合入れていくぞ!」

 

 これまでの雑魚とは強さもタフさも違う。再度気合を入れ直して自分の獲物をターゲットに向け、構え直す。

 その際に、剣の刀身が光を反射し、ギラりと光る。既にあちらさんは臨戦態勢だ。

 歯をむき出しにして、恐ろしい唸り声をあげながら、こちらを激しく威嚇している。

 

「こんなでかい狼なんて、ALOにいたか……?」

 

「……キリトさんが言ってました。ALOの管理に使われているカーディナル・システムには、無限にクエストを作り続ける機能があるとか……」

 

 シリカの言う通り、ALOの運営エンジンにはSAOと同様、カーディナル・システムが採用されている。

 と言うよりも、元々ALOはSAOサーバーのコピーであるため、ほとんど類似する点が多いのだ。

 

 そのおかげもあってか、新生アインクラッドやソードスキルの実装にさほどトラブルらしいトラブルは見られなかった。

 これも、カーディナル・システムという全ての事象に対して柔軟に対応、適応していくといったシステムの特性が活かされているためだ。

 

 そして、このカーディナルの特性の一つに『クエストを無限に生成する』といったものがある。

 元来、MMOのクエストというものは運営スタッフが発案し、バランス調整して実装するのがほとんどだ。

 

 しかし、SAOやALOは、それらの全てをカーディナルに一任している。

 コスト削減や、ユーザーを飽きさせないためなど様々な憶測が飛び交うが、このお陰でプレイヤーは毎日違う内容のクエストに挑み、このALOの世界を満喫出来ているというわけだ。

 

 今回、ジュンたちが受けているクエストも今までリストになく、今日新しく生成されたばかりのクエストだった。

 もちろん、それに合わせてエネミーモンスターも新しく生成されていくのも珍しいことではない。

 

 むしろ、旧SAOサーバーのデータをコピーしているあたり、これからまだまだ初見のモンスターの出現は見受けられることだろう。

 

「……なるほどね、よくわからないけど、毎日違った冒険が出来るってことなんだね」

 

「はい、そういうことです!」

 

 シリカも彼と同じように、利き手に持っているダガーの柄を握り直し、臨戦態勢をとる。

 それと同時に狼も二人目掛けて前足の爪を光らせて、飛びかかった。

 

 その攻撃を見てからシリカ達は左右それぞれにステップし、はじめの攻撃を避ける。

 二人が先程までいた場所の地面が『ズゴッ』という音とともに土煙が舞い上がり、袈裟懸け上に大きく抉られていた。その跡が、このモンスターの攻撃力の高さを物語っている。

 

「い、一発でももらったらヤバそうだぞ……」

 

「わ、私……あんなのに耐えられるんでしょうか……」

 

 初撃を外した親分狼は、首から先をぎょっと動かし、紅く不気味に煌めく瞳をこちらに向ける。

 正に血に飢えた獣といったイメージがピッタリのモンスターだ。

 

「当たらなければいいんだよ! 怯むなよ、シリカ!」

 

「は、はい! 頑張ります!」

 

 

 

――――――

 

 

 

 同日 午後13:30 スヴァルトアールヴヘイム 浮島草原ヴォークリンデ 南東の草原

 

 

「……さて、どうするかね……」

 

「うぅ、この狼さん……強いです……」

 

 巨大狼との戦闘はあれから二十分ほど続いていた。敵は巨大ながらも、四足動物さながらの素早さでふたりを翻弄しながら立ち回っていた。

 

 攻撃方法は全身を横回転させるスピン攻撃、一気に距離を詰めての飛びかかり攻撃、両前足を振りかぶっての爪攻撃など、隙が多いものばかりだったのだが、ジュンたちは思うようにダメージを与えることが出来ず、攻めあぐねていた。

 

 三本あるうちの敵のHPバーが二本になった途端に、巨大狼の毛皮が硬質化し、外側からの攻撃では、中々決定的なダメージとまで至らなかったのだ。

 ジュンの両手剣による火力も、硬質化した毛皮の前では、いくら武器を奮っても弾かれるばかりなのであった。

 更にはシリカやピナによる状態異常攻撃も通らずに、八方塞がりとなってしまった。

 

「オレの剣も弾かれるなんて、固すぎるよ……」

 

「でも、絶対に倒せます! 必ずどこかに弱点があるはずです!」

 

「そ、そうは言ってもさ……」

 

 必ずどこかに弱点がある、そう言われてボスの全身をくまなく観察する。

 全身の外側を覆う尖った毛皮には、まるで研ぎ澄まされた黒曜石の剣のように鋭く硬く、何者の攻撃を受け付けない鎧であると同時に、相手を仕留めるための武器であるかのような印象を受ける。

 

 しかし、よくよく観察を続けていると、数ヶ所だけ、毛皮に覆われていない部分があるのが確認出来た。

 

「頭と、腹だけは……無防備っぽく見えるね?」

 

「そ、そうみたいですけど……、これじゃあ中々内側になんか入れませんよ……」

 

「……そこだよな、さてと、どうしようか……」

 

 こいつに今まで通りのゴリ押しは通用しない。異常なまでの硬さと攻撃力の高さ、そして野生動物さながらの素早さ。

 正面からやりあうにはかなり面倒な相手だ。どうにかして、相手の隙を晒させるような作戦を展開しなくては勝ち目は薄い。

 

 奴の気を引いて、その間に弱点を攻撃して一気に攻める。シンプルだがこの陽動作戦が効果的そうだ。

 だが問題は誰がその役を買ってでるか、ということだ。ステータスや種族から、誰が適役かというと、素早い身のこなしが出来るケットシー族のシリカだ。

 更には使い魔のピナもいるため、細かい箇所へのフォローも任せられるだろう。

 だがしかし、ジュンはここに少し抵抗を感じていた。

 

 男の子である自分が女の子を囮にしていいのだろうか?

 否、出来るはずがない。そんなカッコ悪いこと、許されるはずがない。

 神が許しても、この自分の男としてのプライドが、断じて許さない。許せるはずがない。

 ならばどうするか? 考えるまでもない。自分が囮になって、シリカに攻撃してもらう。よし、それでいこう。

 

「シリカ、いい? ちょっと聞いてもらえるかな?」

 

「は……はい、何でしょうか?」

 

 巨大狼への警戒を続けながらも、ジュンは今頭の中で考えた作戦を口頭でシリカに説明する。

 

 作戦はこうだ。

 まず、ジュンが挑発スキル『バトル・シャウト』で狼の注意を引く。それと同時にシリカがAGI上昇のバフ魔法『クイック』でサポート。

 

 上昇したスピードを活かし、敵の弱点を晒させるために上空に飛翔。ジュンをターゲッティングしている狼は、当然彼を狙うためにその首を上に向ける。

 

 そこへすかさずシリカが懐に飛び込み、ダメージを狙う。状態異常も引き起こさされば設けもん、といった具合だ。

 

「え……でも、私の方が素早く動けますし、私が囮役になった方がいいんじゃ……?」

 

 当然浮かぶ疑問。自分の長所は自分が一番理解している。しかし、ジュンは首を縦には振らなかった。

 

「オレに、女の子を囮に使えって言うの?」

 

「……え?」

 

「オレにはそんなこと、カッコ悪くて出来ないよ」

 

「え……で、でも……」

 

「…………」

 

 シリカからの返答を待たずして、ジュンは左手を前方に構えて、魔法詠唱の準備を始める。

 目の前にスペルワードが浮かび上がり、これの通りに唱えれば、魔法が発動する。

 

「オレはさ、確かに現実世界じゃ何も出来ない弱虫だよ? でもさ、仮想世界の中でくらい、強い自分でありたいんだ」

 

「……そんなことないですよ……」

 

「ましてや、女の子の前でカッコ悪い真似なんて出来ない。悪いけど、オレにも譲れないものがあるんだ」

 

 そう言い放つと、ジュンは目を閉じて、挑発魔法の詠唱を始めた。一つずつワードを唱えていくと、目の前に浮かび上がった字体が光り輝いていく。

 その様子をシリカは心配そうな表情を浮かべながら、見つめていた。この状況は、以前にも似たような経験があった。

 

 そう、旧アインクラッドで、初めてキリトと出会った時だ。あの時、モンスターにやられそうになっていた所を、間一髪キリトに救われた。

 そして死んでしまったピナを蘇生するために、第五十層の思い出の丘まで同行してもらい、蘇生アイテムを手に入れられた。

 

 しかし、それで終わりではなかった。オレンジギルドに後をつけられ、再び窮地に追いやられた。

 その窮地を救ってくれたのも、他でもないキリトだった。彼のおかげで犯罪者プレイヤーは全員監獄行きとなり、無事にピナも生き返ることが出来た。

 後々、第七十六層に到達した後は必死にレベリングに精を出し、第一線で戦えるようになるまでになった。

 もう、守られっぱなしは嫌なのだ。私だって戦える。足を引っ張ったりなんかしない。

 そして、決してもう犠牲は出させない。

 

「……ッ」

 

 ジュンとアイコンタクトを交わしたシリカは彼の意図を汲み、作戦通りに魔法の詠唱を開始した。

 同じようにスペルワードが浮かび上がり、一つ一つ唱えていくと同時に字体が光る。

 

「はあっ!!」

 

 先に詠唱を終えたジュンの頭上が、太陽かと思うくらいに眩い光を周囲に放った。この光には攻撃判定が設定されており、モンスターのヘイト値を一気に集める特性がある。

 それと同時に、巨大狼の目線がジュンに真っ直ぐ向けられ、鋭い眼光を飛ばしていた。

 

「シリカ……頼んだよ!」

 

 狼が飛びかかるよりも前に、ジュンは思い切り地面を蹴り、翅を広げて高く飛び上がる。

 当然、狼はジュンを狙うために首から上を動かして彼を凝視する。

 すると全身を覆う灰色の硬い毛皮とは裏腹に、顎から喉元、そして首から腹部にあたる部分までは真っ白な毛皮に覆われているのが確認できた。

 恐らく、ここが奴の弱点、肉質が柔らかく設定されている所なのだろう。

 

「任せてください、ジュンくん!」

 

 詠唱が終わったシリカは、目を見開き、腰を落として下半身に力を込める。瞬時に前方へとステップを重ね、敵との距離を縮める。

 

 バフ魔法のおかげで身軽になったジュンは、狼を翻弄するように飛行を続ける。

 そして、タゲがシリカに向かないように、詠唱時間の短い火球魔法『ファイアーボール』を小まめに放ちながら、ヘイト値を調整していく。

 

「シリカッ! いけえッ!」

 

「はあぁぁッ!!」

 

 ジュンの雄叫びと同時に、シリカも激しい叫び声をあげた。突進しながらもモーションを起こし、ソードスキルを発動させる。

 彼女の握っているダガーが光り輝くと同時に、切っ先が狼の首元から腹部に渡って斬り刻まれていく。

 八連撃ダガーソードスキル『アクセル・レイド』、今シリカが使える中で最高のダガー系ソードスキルだ。

 

 硬質化した毛皮の防御力が途方もないくらい高かったためか、内側の守りはそれほどでもなく、シリカのソードスキルで二本目のHPバーは一気に減少し、最後の一本を残すまでになった。

 

「よ……よし、いいぞシリカ! ようしオレも……!」

 

 シリカがソードスキルを決めると、狼が禍々しい悲鳴を辺りに轟かせた。

 それと同時にジュンが一気に下降し、両手剣を構え直し、ソードスキルでトドメを刺そうと狙いを定める。

 

 しかしジュンはこの時、忘れてしまっていた。ボス級のモンスターの残りHPバーが変化した時、パターンが変わる可能性があることを。

 ボス戦で一番注意しなくてはいけない瞬間が、今この時だということを。

 

「ジュンくんまだダメ! 一旦離れてまた様子を見てから――」

 

 SAOで命懸けの戦いを強いられていたシリカは、ボス戦の鉄則というものをよく理解していた。

 決して闇雲に攻め入らない、パターンをよく見極めてから、こちらの攻撃に移るものだと。

 総攻撃を仕掛けるのは相手のHPがレッドに突入して、一気に勝負を決める時だけだ。

 

 かつて、その鉄則を破って、目の前で爆散したプレイヤーを見たこともある。キリトさんたちはこんな世界で戦っているんだと、非情な現実を突きつけられたこともあった。

 

 だからこそ、教えて貰った知識は、身についた経験は嘘をつかない。それはALOになっても変わらない。

 命を張る必要はなくなったわけだが、染み付いた癖は抜けることはなく、自然とSAOの時と同様の対処方法を守っていた。

 

 確かにスリーピング・ナイツのメンバーのプレイヤースキルはかなり高い。

 しかし、それはあくまでもVRMMO(・・・・・)プレイヤー(・・・・・)としてのスキルに過ぎない。

 だからゴリ押しなんて無茶が出来るし、敵にやられてもさほど気にはしていなかった。

 また次頑張ればいい、次はきっと成功する。その程度にしか考えていなかった。

 

 しかし、SAOサバイバーの面々は違った。全員無意識ではあるが、出来るだけ仲間がやられないようにして立ち回っていた。

 その中でも特に仲間の死に気を使っているのがキリトだった。

 

 絶対に仲間を死なせないというそのポリシーはALOでも変わらない。だからこそ、あのときユウキを必死に守り通したのだ。

 

 シリカも目の前でピナやプレイヤーが死んでしまったこともあり、ゲーム内での命だからといって軽く見てはいなかった。

 もちろんALOはSAOではないので、実際に死ぬ訳では無いので、そこまで神経質になる必要はないのだが、シリカらサバイバーにとってはそういう問題ではなかったようだ。

 

『UGAAAAAA』

 

 おぞましい雄叫びを響かせて、狼が形状を変えていく。HPバーが一本になったことによって、パターンが変わったようだ。

 そして、この雄叫びには攻撃判定があったようで、狼の頭めがけて下降してきたジュンは、これをまともに食らってしまい、自身のHPを半分ほど失いながら、後方に勢いよく吹っ飛ばされてしまった。

 

「ジュンくんッ!!」

 

 吹き飛ばされたジュンは持っていた武器ごと地面に投げ出され、土煙を舞いあげながら地面を転がっていった。

 シリカは翅を広げ、吹き飛ばされた彼を追いかける。

 女の子の前でカッコ悪い真似なんて出来ないといった、ちょっとした下心が、今回のことを招いてしまった。

 

「ジュンくんしっかり!」

 

 仰向けにぐったり倒れている彼の元へ辿り着くと、シリカは背中に手を回して彼を抱き起こし、介抱する。

 上体を支えてもらっているジュンは起き上がると「いつつ……」と言葉を漏らしながら、右手で頭を抑えている。

 彼の視界は、何やらもやがかかっているかのようにボヤけており、アバターも上手く動かすことが出来ないようだった。

 どうやら先程の狼の咆哮は、ダメージの他に特殊効果が乗る攻撃だったようだ。

 

「状態異常:気絶(スタン)か……、くそ、やられたぜ……」

 

「す、気絶(スタン)……」

 

 気絶(スタン)、動きを止められる状態異常の中では終焉の呪い(エンドカース)の次に厄介なデバフとなっている。

 熱毒や麻痺毒、ステータス低下などはアイテムでの治療が可能なのだが、今回の気絶(スタン)に至っては回復手段がなく、装備で耐性をつけるか、持続時間を減らすくらいしか、対策がないのだ。

 一回あたりの持続時間がやや長めだということもあり、最前線でこの状態異常にかかってしまうと、かなり危険に身を晒してしまうことになる。

 

「ご、ごめんよシリカ、ちょっと油断しちゃった……」

 

「…………ッ」

 

 彼を支えながら、シリカは先程までいた方向に目をやる。狼は先の見た目からまた大きく変化しており、硬質化していた毛皮が、さらに鋭さを増し、長い形状へと変わっていっていた。

 ただし、頭から喉元、首から腹部の変化は見受けられなく、弱点がここだということは、変わっていないようだった。

 

 しかし、そこは今問題ではない。

 動けない彼を庇ったまま戦えるだろうか? 自分の武器はダガー、そしてAGI型のサポートビルド。

 とてもじゃないがパーティの壁を担う、タンクの役割は出来そうもない。

 出来ることといったら、素早さを活かした陽動作戦だ。彼がデバフから回復するまでの間、ヘイトを買ってひたすらに逃げ回る。

 

 ケットシー族であるシリカになら可能なことだが、それは永遠には続かない。

 ALOにはSP、すなわちスタミナという概念があり、このパラメーターは行動によって値が減っていく。

 高速移動、ガード、強めの通常攻撃、ステップ等など、スタミナを使う行動は多い。

 しかし、回復速度もまた早いため、普段小まめに使う程度なら問題はないのだが、特定の行動を続けて、一気に消費してしまうと、逆にピンチとなる。

 全てのスタミナを使い果たしてしまうと、SPは最大値まで高速回復するのだが、それまでの間『疲労状態』となってしまい、これまた大きな隙を晒すはめになってしまう。

 

(でも……私が、私がやるしかないんだ……ッ)

 

 自分が動かなければ彼はやられてしまう。せっかく二人で挑んだクエストだ、絶対に成功させたい。

 楽しい思い出の一つにしたい。初めてのペアでのクエストが失敗なんてことは、絶対に嫌だ。

 何より、目の前で誰かがやられる所なんて、もう絶対に見たくない。

 

「……ジュンくんは、少し休んでてください。私が時間を稼ぎます!」

 

「え……、む、無茶だよ!」

 

「無茶でもなんでも、そうしないとやられてしまいます! 私は、ジュンくんがやられる所、見たくないです……ッ」

 

 そう言うと、シリカはそっと彼を寝かせて立ち上がり、狼の方へと向き直し、右手に武器を構えて臨戦態勢をとった。

 狼は咆哮アクションを終えると、すぐさまシリカを視認し、こちらに向かい進撃を開始した。

 

「ピナ! ジュンくんをお願い!」

 

「キュルン!」

 

「……し、シリカ……」

 

 ああ、自分が情けない。ちょっといい所を見せようと思った結果が、このザマだ。

 敵のパターンが変わることなんて、これまで何回も経験したことじゃないか。それを忘れてしまうなんて、どれだけ慢心していたのだろう。

 ジュンは悔しさを胸に、拳に力を入れ、眉間にシワを寄せた。

 

「ジュンくんは……私が守ります!」

 

 もう、あの時の自分じゃない。

 キリトさんや、アスナさんがいなくても、自分は戦える。誰かを守れるだけの存在になれる。

 いや、ならなきゃいけない。例えここがSAOじゃなくても、自分の大切なものは守らないといけない。

 

 

 あれ……、大切なもの……?

 大切なものって、一体……なに……?

 

 

 

「し……シリカッ!」

 

「え……? あ……ッ」

 

 一瞬、僅かに一瞬、別のことを考えてしまったシリカの目の前にまで、狼が迫っていた。

 最終形態になった狼の素早さは、想像以上のものだった。

 追い詰められた狐はジャッカルより凶暴、しかし、そのジャッカルが追い詰められると、さらに凶暴となり、襲い掛かる。

 

「……うぅッ!」

 

 今から回避は間に合わない。狼は既に前足を振り上げ、鋭い爪で攻撃を繰り出そうとしている。

 さらには避けた所で、今度は自分の真後ろにいるジュンが直撃をもらってしまう。

 

 そんなことは絶対にしたくない。彼を、彼を守らないといけない。

 

 そう思ったシリカは決して刀身が長くないダガーを目の前に掲げ、防御の体勢をとった。

 両手武器である斧やハンマー、両手剣ならいざ知らず、この小さなダガーでの防御行動は自殺行為に等しい。

 

 ダメージ軽減も僅かなものにしかならず、攻撃の直撃をもらうも同然。下手をすると持っている武器が砕けてしまうかもしれない、非常にハイリスクな行動だ。

 

 でも、だからといって、逃げたりはしない。あの時のことを思い出せ、ピナが自分を庇って死んでしまった時のことを。

 もう、あんなことはごめんだ。自分だって誰かを守れる。いや、守らなきゃいけない!

 

(怖い……怖いけど、私が守らないと……ッ!)

 

 振り上げられた前足が、シリカ目掛けて振り下ろされる。赤黒く、禍々しい色をした爪が不気味に光りながら、シリカへと向けられる。

 

「……ッ」

 

 瀕死を覚悟した。武器を失くしてしまうかもしれないと思った。全身に力を込めながら、くるであろう衝撃に対して備える。

 しかし、いくら時間が経過しても、それらしい感覚は襲ってこなかった。

 『ズゴォン』という物凄い衝撃音が鳴り響いていた。それは敵が自分を攻撃した際の音だと思った。

 しかし、それはそうではなかった。恐る恐る目を開けると、目の前には土煙とともに倒れている狼、そして、どこかで見覚えのあるケットシー族のプレイヤーが立っていた。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「ヤア、シリカ。久しぶりダナ♪」

 

「あ、あなたは……アルゴさん!?」

 




 
 今更かよ! と思う方もおられるかもしれせんが、そうです。76話にてアルゴさん初登場です。闘病編と日常編の間は何してたんだよ! とつっこみたくなりますが、まあ彼女にもリアルというものがありますから、忙しかったということにしておいてください。
 そもそも彼女、リアルの事情が一切詳細不明ですしね( ̄▽ ̄;)

 そしてシリカは、自分の中に芽生えた新しい感情に気付いた模様ですね。今後、この二人の間は少しずつ進展していく……かもしれません。
 それでは、次回でまたお会い致しましょう。
 
 

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