ソードアート・オンライン マザーズ・ロザリオ ボクの生きる意味 作:むこ(連載継続頑張ります)
32話でライブ始まるとかほざいてたんですけどいろいろ盛り込んだらまた尺が伸びてしまい、急遽前編中編後編の3話をまたいでの構成と相成りました!
相変わらずの前書き後書き詐称筆者でもうしわけないです…、
金曜が休みなので明日の仕事の終わりから構成を練り、ライブ本番の話を書き上げていきたいと思います。
本当にもう少しでユウキが助かる段階まで来ました…。
マザーズ・ロザリオを見るたびに、何でユウキは死ななければならなかったんだと何回も涙を流しました。
そのユウキを幸せにするために筆を執った今回のこのSS。
最後まで責任をもって完遂したいと思います。
読者の皆様には最後までお付き合いをお願いいたします。
それでは32話、どうぞ。
今回は血糖値が異常なまでに上がると思いますので注意してください。
西暦2026年2月5日木曜日 午前10:00 メディキュボイド内木綿季の部屋
和人と木綿季は2日ぶりに再会を果たすことが出来た。目の前で和人が倒れ、その光景にショックをうけた木綿季であったがなんとか乗り越え、成長しようとしていた。三日経つまで会ったら絶交するという一方的な約束をしていた木綿季であったが、変な意地を張るのをやめ和人と再会したのだった。
和人と木綿季はあれからいろいろなことを話し合った。
和人が倒れてからどうなったのか、レッスンでのこと、アスナとのことなど、たくさん話し合った。
いくら話しても話題には事欠かさなかった。
「そうか…本当に心配かけたんだな…ごめんな…」
「ホントだよもう…和人が死んじゃうんじゃないかって…本気で心配したんだからね…」
二人は和人が倒れた時の話をしていた。かけがえのない存在の和人が倒れたときの木綿季の心境はもう気が気でなかったであろう。精神崩壊を起こしかける一歩手前までいってしまったのだから。
その話をする木綿季の和人の腕を抱く手に力が入る。和人は若干腕が軋んでいたが気にすることはなかった。
「もうやだよ…大切な人が消えちゃうのは…」
木綿季は和人の腕に顔をこすりつけた。一昨日のことを思い返すと震えが止まらなかった、軽いトラウマめいたものを木綿季は植え付けられてしまっていた。
その不安を和人は抱擁という形で消そうとしていた。
「和人…」
「大丈夫だ…もう…あんな思いはさせないから…」
木綿季は「ありがと」と呟くとひらすらに和人の胸を借りて和人を感じていた。
「あ…そういえば…なんだけどさ…」
唐突に和人が話題を振ってきた。
「なあに? 和人」
「母さんが言ってたんだけど…木綿季、お前の退院後の受け入れ先…俺んちになったの…聞いてるか?」
木綿季はぽかんとした顔の後、すぐに笑顔になった。退院後の受け入れ先については和人の母親の翠からすでに話をしてもらっていたからだ。
「うん…翠さんがね…ううん、お母さんが…桐ヶ谷家にいらっしゃいって…言ってくれたんだ」
「……そか…知ってたのか…、まあ母さんも木綿季と話して正式に決めたって言ってたからな」
「えっとさ和人…その話なんだけど…ボク、そうなると…和人の家で暮らすことになるんだよね…?」
「…俺と同じことを言うんだな…、まあそうなるよな」
「お部屋とか…あるのかな」
「え…あ…そのな…」
木綿季が寝泊まりする部屋の話を振られた瞬間、和人は顔を真っ赤にして凍り付いてしまった。
どうやって答えたらいいか、素直に今はないと言えばいいのか、新しくこしらえると言えばいいのか…などなど。
「えっと…だな…今はないんだ…、部屋は一階に母さんたちの寝室と客間、二階に俺とスグの部屋と物置に使ってる部屋があるんだ」
「へぇ~…一軒家なんだ、和人のお家って」
「木綿季の家も一軒家だったよな?」
「うん、そうだよ! でも和人のお家ほどでっかくはないと思うよ? 確か剣道場もあるんだっけ?」
「ああ…爺さんにこっぴどく絞られた思い出しか無いな…あそこは…」
あの時は本当に参ったという顔をしながら和人はぽりぽり頭をかいた。
「ああ…んで木綿季の部屋…なんだがな…えっとその物置に使ってる部屋を空き部屋にして、そこに木綿季の部屋をこしらえようとしてるらしい」
「ホントに!? やったーっ!」
自分の部屋があるという事実を知った瞬間に木綿季はぱあっと明るくいつもの元気な木綿季に戻った。
やっぱり木綿季はこうでなくっちゃあな…、でも必死にこちらにすがってくる木綿季もなんだか可愛いと感じた和人であった。
「えーっとただな…新しい物置を建てなきゃいけなくなってな、外に物を放置するわけにもいかんから…」
「え…?」
和人はバツが悪いようにもじもじ話し出した、この先の言葉がなかなか表に出せないでいた。
「んと…掻い摘んで言うと…木綿季の部屋は物置が新しく建つまで使えないんだ。物置部屋を建ててそこに荷物を移動させて部屋を空っぽにしないといけない。多分掃除も必要だからな」
木綿季は興味津々に「フンフン」と和人の話を聞き続けていた。
「そしてだな…結構広い部屋なんだ…多分8畳ぐらいあったと思う、だから時間もかかる。木綿季が部屋に住めるようになるのはまだ当分先になるのかなと思う」
木綿季は「あ、そうなんだ」と返事を返す。この言葉の意味に気付かないまま天然っぷりを発揮していた。
「えーっと、木綿季さん。俺の言ってるコトが分かりますかね…?」
「え?」
和人の問いに木綿季はきょとんとした顔で反応を返した。ああだめだこれは、まったく気づいてない。
仕方ないので和人は最終的な回答を照れくさそうに話し出した。
「えーっとですね…木綿季先生…、ぶっちゃけた話になりますと…木綿季先生の部屋が使えるようになるまでですね…、お…俺の部屋で…一緒に…過ごすことになっておりまして…ハイ…」
上司に媚びへつらうような態度で和人は話を切り出していった。顔はもう真っ赤っかである。
「和人と…一緒のお部屋…?」
「ああ…物置がいつ建つか分からないが…それまでの間になるけど…」
その言葉の意味を理解した瞬間、木綿季の頭が水蒸気爆発をおこした。目には見えないがボンッという音と共に顔が真っ赤になり、あちら側の世界へトリップしてしまった。
「ちょ…木綿季!? 大丈夫か!?」
目を回してへろへろになっている木綿季を、和人は本気で心配し、介抱していた。
「うん…だいじょーぶ…ちょっとね…体温と心拍数があがっただけだから…あはは」
和人は本当に大丈夫なのか?と思いつつも木綿季を抱き寄せて、姿勢を正してやった。
声を掛けられて若干ではあるが冷静さを取り戻せた。
「えっと、和人…一つ聞きたいんだけど…」
「何だ?」
「それってつまりさ…ボクの退院が長引けば長引くほど…物置が建ってる可能性が高いってことなんだよね…?」
「ああ…そうなると思うが…それがどうかしたのか?」
木綿季は何かを決意したように真剣な顔つきになった。今まで見たことのない…
「ゆ…木綿季先生…?」
和人は苦笑いを浮かべながら木綿季を見つめていた。なんだかよくわからないがやばい感じがする、直感でそう感じ取っていた。少しだけ木綿季から距離を離そうと思った瞬間――。
「和人!! ボク頑張って早く病気治す!! だから…リハビリ手伝って!!」
木綿季は和人の胸倉に掴みかかり、前後にぐわんぐわんと和人を揺さぶりながら荒ぶるように声を掛けた。
「ぬごっ!? そ…それは結構なことなんだが…ちょっと冷静になってください木綿季さん!! 脳みそが揺さぶられ…」
その声を聴いた木綿季はハッとなり和人を離した。和人は軽い脳震盪を起こしているかのような感覚に襲われていた。
「あっ…ごっごめんね和人…」
「ああ…大丈夫だ…ちょっと頭がごわんごわんするけどな…」
「ごめんね…ちょっと興奮しすぎちゃって…、でも…ボク…頑張って早く病気治すよ!」
「おいおい…骨髄移植をしても…すぐに病気が治るわけではないだろうに…時間かかるんじゃなかったか?」
和人の言っていることはごもっともである。
木綿季の移植手術が成功しても、木綿季の体を蝕んでいるHIVウィルスが駆逐されていくのには時間がかかる。
何も移植手術をした瞬間にウィルスが死滅するわけではないのだ。少しずつ…少しずつHIVウィルスが消えていくのだ。
どのぐらいの速さでウィルスが消えていくかは、完全に木綿季の体次第なのでこればかりはどれぐらいのスパンでHIVが治るかどうかは想像がつかないと言うのが正しいだろう。
HIVウィルスが消えても、患っていた感染症などの合併症の治療、後遺症の検査、身体機能の検査などが待っている。
どんなに早く病気が治ったとしても…最低でも半年はかかるだろう。リハビリを含めるともっとかかるかもしれない。
「うん…それは分かってるんだけど…、ボク…早く退院して…和人のお部屋で…暮らしたいな…なんて…」
その言葉を聞いた瞬間、またもや和人は凍り付いた。この男、一日に何回凍り付けば気が済むのであろうか。
「え…えええええっ!? ちょ…それはあまりにも…」
「ダメ…かな…ボクは和人と一緒なら構わないけど…、むしろずっとお部屋が出来なくても…そのままでいいかなっていうか…」
木綿季は言ってるうちに段々と恥ずかしくなってしまい、顔を真っ赤にして蹲ってしまった。
「あ…う…でもそういうわけにもいかないだろう…お互いプライベートがあると思うし…」
「もしかしてエッチな本とか隠してたりするの?」
木綿季が和人に核弾頭を投下した。地球全土が核の炎に包まれ、地は灼け、海は枯れ、人類が死滅したかに見えた世紀末が訪れるレベルの核弾頭を。
「がっ…なっ…あ…あるわけないだろう!!」
和人は両手をぶんぶん振り回し、必死に弁解をしようとしたが顔を真っ赤にして声を荒げても全く説得力がない。木綿季はその様子を見て、退院後の楽しみをまた見つけたようだ。…勿論悪い意味で。
「ほほう…それはそれは…楽しみですなあ~…」
木綿季は非常に悪い顔をしていた、悪魔の笑顔だ。和人はその顔を見て軽く戦慄し、次帰宅したら部屋の大掃除を絶対にしようと心に固く誓った。
「でもやっぱり…和人は男の子なんだね~」
木綿季はご機嫌でニヤニヤしながら和人に声を掛けていた。実に楽しそうで何よりである。
「そりゃそうだ…じゃなきゃお前を好きになったりしない」
「あ…うん…ありがと…」
急な不意打ちに木綿季はどぎまぎしてしまった。和人は普段はのほほんとしているくせに肝心なところで真面目になるから困る…そこがいいんだけど、と木綿季は思っていた。
「でもな木綿季…真面目な話…お互いのプライベートは大事だと思うんだ。どんなに親しい中でも絶対に表にばらしたくないっていうのはあると思うんだ。だから…少しの間ならいいがずっとってのは…」
「あ…うん…そうだよね…ごめんね…」
その声を聴いた瞬間に木綿季は
悪いことしたかなと思った和人であったがこればっかりは仕方がない、実際恋人同士とは言え問題も出てくるだろう。
「それにな…俺がお前を襲わないという保証がない」
「え…?」
その瞬間、和人は木綿季の肩を激しくつかみ、腕を押さえつけそのまま背後に押し倒した。
ALOのステータスが反映されてないこの仮想空間では木綿季はただのか弱い女の子。
男の和人に力で勝てるわけがなく抵抗する間もなく力なくそのまま和人に仰向けに押し倒されてしまった。
「か…ず…と…?」
顔を真っ赤にした木綿季はこの状況を理解できないでいた、何でこんなことになってるの? 和人はどうしてこんなことをしているの?と…。
「…こうなってしまわない保証は出来ないぞ…って言ってるんだ…木綿季、俺も男だからな…」
それだけ言い放つと和人は木綿季を優しく抱き起こし、先ほどと同じ体勢に戻した。
押し倒された木綿季の心臓は言うまでもなくバックバクである。かつてないほどの鼓動の速さを味わっていた。
「ごめんな、驚かせちゃって」
そう言うと和人は木綿季の頭にポンと手をあて、いつものように優しくなでじゃくった。
「あ…その…えっと…ボクは…構わないよ…? 和人が…よければ…」
木綿季は下を俯き、もじもじしながら小さい声で呟いた。和人も一瞬その発言に内心動揺するが、なんとか理性を働かせ何も言わずに木綿季を優しく抱擁した。
「和人…?」
「ごめんな…今はこれで…我慢してくれ…」
「……意気地なし…」
「うるせっなんとでも言え…」
「でもちょっと嬉しかった、ありがとう…和人…」
その後は先ほどのこともあってか口数が減ってしまい、すっかり仮想空間内は静かになってしまった。
しばらくぼーっとしていると和人はライブのことを思い出していた。
「そういえば…ライブは明日リハーサルで、明後日本番なんだよな…?」
「うん、明日は流れで最初から最後までやって、歌とかの最終調整とかもあるんだ」
「そうか…そしたら…ちょっと俺、明日は一度朝一で実家まで帰ろうかなと思う」
「え…帰っちゃうの…? 和人…」
木綿季が表情を暗くしてしまった、ライブの時までこっちにいるという約束だったのに何で途中で帰っちゃうの?とそう思った。
「ああっ違うんだ、ちょっと流石に寝泊まりするには軽荷すぎるから…一旦帰って荷物まとめてまたすぐ来ようと思う。片道2時間の往復4時間だから…最速でも5時間ぐらい間が空いちまうから…その間だけ離れ離れになっちまうけど…」
「ああ…そういうことか…びっくりした…」
木綿季は安堵の表情を浮かべた。それと同時に自分は和人がいないとやっぱりだめなんだなと痛感した。
「和人…でもボクやっぱり和人が傍にいてくれないと…不安でしょうがなくなっちゃったよ…。いくら自分を強く保とうと思っても…何かきっかけですぐだめになっちゃう…」
暗い表情で俯きながら木綿季は話し続けた。
「…それは俺も同じだよ…俺にとっても…ここ最近は木綿季が傍にいるのが当たり前になっていたからな。実際…今日お前と会うまでは…寂しすぎて死んじまいそうだったぞ」
「和人もなんだ…なんか変なの」
「ああ、お互い様ってな」
「でも…今日は一緒にいてくれるんでしょ…?」
「ああ…ずっと一緒にいてやる、倉橋先生は長時間のダイブはダメだって言ってたけど…構うもんかっ」
「え~? 怒られても知らないよ~?…でもありがと…」
和人は再度、木綿季を自分の胸に抱き寄せた。
「木綿季…ライブ…頑張ろうな…応援してる」
「うん…ありがと…そう言ってくれると…ボクも頑張れる…」
木綿季と和人はこの日の束の間の休日で、二日間という空白を埋めるのに十分すぎるぐらいの時間を過ごした。
たくさん話をして、たくさん触れ合って、たくさんお互いを近くに感じていた。
木綿季の命が助かるまで目の前に迫っている…ここだ、ここからが一番の正念場…大一番だ。
和人は一層気合をいれ、木綿季を支えていくことを心に誓ったのだった。
ここまで来て失敗は許されない、絶対にこの少女を助ける、その思いを胸に…。
――――――――
同日午後 15:05 ALO チャリティーライブ会場予定地
セブンはシャムロックのメンバー、セブン自身のクラスタの力を借りて、ライブ会場の建設、進行の流れなどを決めていた。補佐にスメラギとレインを連れて、細かい演出などの取り決めも考察しながら準備を進めていた。
「うーん、ここはこんなもんでいいか…」
「セブン、このままだとここで使う小道具が不足することになるぞ。至急仕入れないとまずいことになる」
「え…それは困るわね…仕方ないわ、誰かお使いに出してもらえないかしら…」
スメラギはその指示を聞くと頷き、近くにいたシャムロックメンバーに指示を出して買い出しに行かせた。
ライブ成功には細かい裏方での下準備などが非常に重要になってくる。
スモークの動作チェックやライトなどの照明の位置調整、明るさなど。
様々な分野で細かい準備が進められていった。
セブンは長年このアイドル活動の先陣を切っている、演出などに妥協はしない、常に前に出て最高の演出をする。
それはゲストが何人来ようが事前に時間があろうがなかろうが関係ない。
やるからには全力を尽くす、それがセブンの信念であった。
「こんにちはセブンちゃん…何か私に手伝えること…ないかな?」
セブンに声を掛けたのはアスナだった、ユウキと一曲デュオで合唱することが決まり、たった2日で歌唱力を仕上げてきたという。もともとピアノの経験と音感があったとはいえ目覚ましい才能を持っていたのだ。
お嬢様なのでそういったことが得意なのもうなずけるが。
「アスナちゃん…ありがとう、でもここは私とお姉ちゃんとスメラギ君とシャムロックのメンバーでやるから、アスナちゃんは休憩してていいよ?」
「んー、でも実際やることがなくて…」
「でもセルフトレーニングとかいろいろやることはあるよね? とにかく準備は私たちだけでやるからアスナちゃんは自由にしていて大丈夫だよ?」
「あ…うん…分かったわ、んじゃあお言葉に甘えちゃうね」
そう言うとアスナはセブンの近くにある切り株に腰を落ち着かせた。
「いよいよ…なんだね…ユウキを助けるための…大一番…」
「うん…ユウキちゃんだけじゃないよ、世界中のHIV感染者の人たちが…このイベントの成功を待ち望んでるはずなのよ。少なくとも…ドナー登録者が増えることによって、感染者の何人かは助かることになると思うし…」
「そう…だよね…ユウキを助けることばっかり考えてたけど…私たち冷静に考えてみたら世界的にすごいこと…やってしまってるのよね…」
アスナはいつの間にこんな大掛かりになってたんだろうと思い始めてみた。最初はキリトの口車にのり、ユウキを助けるために自分もただひたすらに走り続けてただけだったのに。
気が付いたら世界を巻き込む大イベントに首を突っ込んでしまっていた。
「ちなみに…ライブ中継は…世界80カ国以上で同時翻訳されることになってるからね、ディスプレイや大型モニターがない国々でもARヴィジョンでこのライブが見れるようになってるの」
「え…?」
セブンはさらりととんでもないことを言い放っていた。こんな短期間でライブの準備、宣伝を済ませただけでなく、様々なところへ根回しをして、世界同時中継同時翻訳というとんでもない荒業をしてみせようとしていたのである。
これにはアスナも開いた口がふさがらなかった。
「私を誰だと思ってるのよ? 弱冠12歳にして天才VR技術博士の七色・アルシャービンこと、世界のカリスマアイドルセブンちゃんだよ? これぐらいのことはお茶の子さいさいよ」
「え…あ…うんそうなんだけど…それにしたってこの短時間でものすごいコトやってるなあって思ったものだから…あははは…」
流石のバーサクヒーラ―ことアスナでもこれには苦笑いで返すしかなかった。こんな影響力をもった12歳は世界広しと言えどもセブン以外に決していないだろう。
「あ、それよりアスナちゃん…あの演出の件は大丈夫?」
セブンがアスナに質問を投げる。
「あ…うん多分大丈夫だと思う。私とユウキだったらぶっつけ本番でも行ける気がするし。…まあ明日調整はするけどね」
「OK、なら大丈夫そうね」
そう言うとセブンは近くにあったマイクを手に取りスイッチを入れると、作業をしているプレイヤー全員に対して演説気味に発言をした。
「みんな! 作業をしながらでいいからよく聞いて! このイベントは…ユウキちゃんを助けるだけじゃなく、世界中のHIV感染者の人たちの希望になる重責を担っているイベントなの! 従って絶対に失敗は許されない! ここまで急ごしらえな準備で申し訳ないけど…皆の力を貸してほしい! 絶対にこのライブを成功させるために! 皆の力を貸して頂戴!!」
セブンの声がスピーカーから響き渡ると、少しの間無音が続き、やがてスピーカーから少しのハウリングが響いた。
そのハウリングで作業をしていたプレイヤーは作業を一時中断し、満場一致で拍手喝采が巻き起こった。
「当然だよセブンちゃーん!」
「絶対成功させましょう! リーダー!」
「絶剣のユウキちゃんの助けになるなら…俺たちゃなんでもしますぜー!」
「アスナさん! 絶対にユウキちゃんを助けましょうねー!!」
あちらこちらからセブン、ユウキ、アスナを支援する声が聞こえてくる。ロスト・ソング事件の所為でシャムロックのメンバーとクラスタの数は減ってしまったのだが、残ったプレイヤーは引き続きセブンを信じてついてきてくれていた。
この会場の想いが一つになったことを感じたアスナとセブンはほろりと涙を流していた。
「みんな…ありがとう…」
「すごい…これが…セブンちゃんの…ユウキの…本当のファン…クラスタ…なんだ…」
ロスト・ソング事件当時は過激なシャムロックメンバーやクラスタの目に余る行為があったが、今ここにいるプレイヤーは純粋な気持ちでセブンを、シャムロックを支えてくれている人たちばかりであった。
アスナとセブンはこの温かい気持ちがあれば…絶対にライブは成功する…と確信していた。
「アスナちゃん…当日…よろしくお願いね!」
「こちらこそ…絶対に成功させましょう!」
セブンとアスナは盛大な拍手の音が鳴り響く中、お互いに固い固い握手を交わした。
目的も一緒だ、ユウキを何が何でも助ける、病気を治してやって現実世界に返す。
その想いは…絶対に世界中に伝わることだろう…。
西暦2026年2月7日土曜日のライブ本番まで、残り二日。
悪人がいるこの世の中で、このような人たちはやっぱりいるんです。
結構捨てたもんでもないですよね。
木綿季も和人に元気をいっぱいもらいましたし万全の体制で本番を迎えられそうです。
あとはもう天に祈るのみですね。
次回もよろしくお願いいたします。