ソードアート・オンライン マザーズ・ロザリオ ボクの生きる意味   作:むこ(連載継続頑張ります)

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 さあ、今回でキリトとユウキは最初で最後かもしれない本気の決闘(デュエル)で剣を交えます。その全力でぶつかり合った先に一体何が待ち受けているのかは、皆さんの目でお確かめください。


第3話〜ぶつかる想い〜

 

 

「二刀流、だって……?」

 

 不意打ちを食らったような反応でキリトが言葉を返した。そう、キリトはALOでの対人戦では二刀流を使った事が一度もなかったのだ。狩りやボス戦の時ぐらいしか、周りに披露していないのだ。

 そして対人戦の時は片手直剣オンリーである。ユウキとの最初の決闘(デュエル)の時も、トーナメントの時もキリトは片手直剣だった。ユウキにはそれが解せなかった。

 

「キリト、ボク知ってるよ? キリトが本気の二刀流を使わない理由」

 

「……アスナから聞いたのか?」

 

「うん、ゲームがゲームでなくなった時なんだよね? SAOみたいにHPがゼロになると、本当に現実でも死んじゃう時のような……」

 

 ユウキの言う通り、キリトが二刀流を発揮したのは、仲間の命がかかってる時だけであった。当時のSAO、旧アインクラッド74層のグリームアイズ戦。75層のスカルリーパー戦。茅場晶彦ことヒースクリフとの決戦。

 そして昨今のクラウド・ブレイン計画の阻止等、絶対に負けられない戦いの時のみ、キリトは二刀流を使用していた。

 

 普段ALOで本気の二刀流を使わないのは、SAOでのキリトの役目が終わった事と、もう本当に命を賭ける戦いをしなくてよくなったからである。心の底からゲームを楽しみたいという気持ちがあるからだ。

 

「本気の二刀流を使ったのって、ボクが見た中じゃスメラギ戦と、セブンとの決着の時だけだったよね。でもあの時はALO全体の危機だったから、ボクは納得してたんだけどね」

 

 それでもユウキは若干腑に落ちない様子だった。スメラギやセブンには本気を出しておいて、ボクには何で二刀流で戦ってくれなかったのかという不満を抱いていた。

 ボクだって二刀流のキリトと戦いたかった。片手直剣のキリトに勝ったって本当の勝利じゃない。片手直剣装備としては本気でやっていたかもしれないけど、それは本当のキリトじゃない。

 

 二刀流のキリトに勝ってこそ、本当の勝利なんだ。

 

「あ! でもボク一回だけ戦ったことあったよ! 二刀流のキリトと!」

 

 楽しげに語るユウキの言う事に耳を傾けたキリトは思い出した。確かに一度キリトはユウキと二刀流で剣を交えていたのである。それもALOではなく、SAOの世界で。

 

 デスゲームが行われていたSAO時代、キリト達攻略組はアインクラッドの全100層を踏破して、ゲームを無事クリアした。しかしそんなキリト達の前に現れたのは、75層で倒したはずのヒースクリフこと.SAO事件の黒幕である、茅場昌彦だった。

 姿を現したヒースクリフは「ゲームをクリアする為には、この私を倒してからだ」と言い残し、キリト達に向かって剣を取ったのだ。

 

 キリトはヒースクリフに、自分一人で決着を着ける代わりに、自分以外の全員をログアウトさせるよう要請し、彼を除く全プレイヤーをSAOから強制ログアウトさせた。

 一切の邪魔が入らない状態でヒースクリフと一騎打ちをし、死闘の末ヒースクリフを打ち負かし、自身も無事にSAOからのログアウトに成功したのだ。

 

 ヒースクリフこと茅場を倒したキリトは、アインクラッド全域を見渡せる謎の空間へと強制転移させられた。特にすることも無く、ゲームクリアと同時に崩壊するアインクラッドを眺めていると、ふと見知らぬ少女がキリトに声を掛けてきたのだ。その少女こそが、何を隠そうユウキだったのだ。

 

「そうだったな、確かに俺はあの時二刀流でユウキと戦った」

 

「覚えててくれたんだ! 嬉しいなー! でもさ、あの時のキリトは全然本気なんて出してなかったよね?」

 

 ユウキの問いかけにキリトは肯定も否定もしなかった。SAOをクリアしたとは言え、まだアインクラッドにダイブしてる最中だったのだ。

 その為何かの間違いでもあったら、目の前の少女を殺してしまいかねない。ヒースクリフとの死闘の直後ともあって、あの当時は実力の半分程度しか出していなかった。

 

「倒したら本当に死んじまうから、初撃決着モードで決闘(デュエル)はしたけど、まあ……本気を出してなかったのは本当だ」

 

「やっぱりそうだったんだね……」

 

「ごめんな、別にユウキを舐めてたとか、そういうワケじゃなかったんだ」

 

「ううん、わかってるよ。ボクを死なせないために手を抜いてたんでしょ? キリトは優しいからね……」

 

「うぅ、ま、まあそうなんだけど……」

 

「でも、今回は本気の二刀流で闘ってほしいな。そうすれば……ボクもキリトの今の気持ちが、ううん、もっと以前からのキリトの想いが、わかるような気がするから……」

 

 そう言うと、ユウキは腰の愛剣、マクアフィテルに手を伸ばして切っ先をキリトに向けた。黒紫に光るその片手直剣は黒と紫で色調をそろえたユウキの装備によく合っていた。

 

「さあキリト、剣を取って」

 

「……ユウキ、本気なんだな……?」

 

「……うん、ボクは一日一時間、一分一秒、ずっと本気で全力だよ! 一瞬たりとも、全然無駄にしてなんかいないよ……!」

 

 ユウキの顔が勇ましくなる。真剣な眼差しでキリトを見つめる。その言葉と仕草に嘘偽りは全くない。

 

「だから、キリトも全力で応えてほしいんだ……!」

 

 ユウキは改めてマクアフィテルの剣先を、キリトに向け直した。そんなユウキの姿を見て、キリトは漸く覚悟を決めた。

 俺の目を覚まさせてくれたユウキの気持ちに応えるためには、今の俺が出せる全力でぶつかるしかない。

 そう思いながらキリトはALOでいつも愛用しているユナイティウォークスと黄金に輝くALO最強の片手直剣 "聖剣エクスキャリバー" をストレージから取り出した。

 

「そ、それが……エクスキャリバー……」

 

 ユウキは目を点にして驚いていた。このゲーム内に一本しか存在しないと言われる、ALO最強の片手直剣が目の前に出てきた。

 しかしその黄金色に光り輝くエクスキャリバーをみても、ユウキは臆するところか闘志を燃やしていた。相手が強ければ強いほど燃えるのである。

 

「へへ、やっぱりそうでなくちゃ……!」

 

 ユウキは冷や汗をかきつつも嬉しそうにしていた。本気のキリトとぶつかり合うことが、どのような結果を招くかはわからない。

 しかし絶対に後悔しない決闘(デュエル)になることは間違いないだろうと確信していた。勿論負けるつもりはさらさらない。二刀流のキリトも倒して、ボクはもっと強くなる。

 そして、キリトの本当の心に触れる。

 

 ユウキは左手を上から下にスライドさせ、メニューを表示させるとその中から決闘(デュエル)を選択し、キリトに決闘(デュエル)を申請した。

 

 ―Yuukiが決闘(デュエル)を申し込んできました―

 

 決闘(デュエル)を申請されたキリトは全損決着モードを選択し、決闘(デュエル)を承諾した。決闘(デュエル)開始まで60秒のシークエンスが流れる。この時間で最終準備をする。装備のチェック、スキル欄の確認等。

 ユウキも装備とスキルの確認をしながら、頭の中でキリト対策を練っていた。ボクが見た中でのキリトの最速は恐らく、クラウド・ブレイン計画のスメラギ戦の時だ。今回は…多分あれ以上に速くて重い斬撃が来る筈。

 

 しかし速さに関してはユウキにも自信がある。まずは確実にキリトの攻撃をかわし続けて動きを見極めていく。手数が多い二刀流でもどこかに付け入るチャンスはあるはずだ。作戦を考えながら心の準備を済ませている間、ふとユウキはキリトの顔を見ていた。そしてその様子のおかしさに気付いた。

 

(え、なんか違う……あれは……キ、キリトなの……?)

 

 ユウキは今まで見たことのないキリトの出で立ちに若干怖気づいていた。眼光は鋭いが何処となく覇気がなく、脱力感が漂っている。しかしそれでいて隙が全くないのだ。

 そして何よりユウキが息を飲んだのは、心優しいあのキリトがユウキに向かって "殺気めいたもの" を放っていたからである。

 

 一方でキリトは考えていた。SAOにいたあの時、ボス以外に、茅場以外に全力を出さなくてはいけない時が来てしまったのだ。自分の本気の二刀流を振るう時が来てしまった。そう、相手を命を奪うために振るってきた二刀流を。

 

 その二刀流でたとえこの目の前の少女を殺すことになろうとも俺は全力を出す。そう考えると自然と体から無駄な力が抜けていったように感じた。鋭い感覚が体中から研ぎ澄まされて飛び出ているように思えた。

 

 ユウキはキリトの発するその異様な空気に飲まれ、無意識に半歩後退した。しかしその瞬間カウントがゼロになり、決闘(デュエル)がスタートした。決闘(デュエル)がスタートした刹那、瞬きをする一瞬の時間で、キリトの剣先がユウキの目の前まで迫っていた。

 

(え!? な……は、速いなんてもんじゃ……!?)

 

 ユウキは驚異の反応速度で手早く(かいな)を返して軌道をそらし攻撃をいなした。しかしかわした次の瞬間に、もう片方の剣先が迫っていた。片方の攻撃をやり過ごしても次の攻撃がすぐに迫ってくる。やはり剣が一本と二本とでは分が悪かったようだ。

 

(で、出鱈目過ぎるよ! この速さ……キリト、君は……!)

 

 しかしユウキも曲がりなりにもALO最強プレイヤー"絶剣"と呼ばれた存在だ。簡単に負けるわけにはいかない。キリトの斬撃を最速で確実にいなし、防げない攻撃は確実にかわしていく。

 その中でキリトに切り込むための機会を窺う、焦る必要はない、反応速度と動きの速さならボクの方がまだ少しだけ上だ。

 

「はあああああッ!!」

 

 この時のキリトの表情は、75層で茅場晶彦と対峙した時と全く同じ表情をしていた。相手を殺すための剣技を、必死に生き残る為の剣技を振るっている姿がそこにはあった。

 ユウキはキリトにとって、それほどの本気を出さなければ勝てない相手だった。……だがもしも出来ることなら、二刀流ではなく片手直剣で相手をしたかった。

 

 何故なら、もしユウキがSAOの世界にいたら、ユニークスキルはキリトではなく、ユウキに与えられたはずだからである。SAOのユニークスキル"二刀流"は全プレイヤー中最速の反応速度を持つプレイヤーに与えられるスキルだった。

 ならばキリトより速い反応速度を持つユウキは、もしあの場にいたら確実に二刀流を手にしていたはずなのである。

 

 だからキリトはユウキとの決着に片手直剣にこだわり続けたのだ。二刀流を使用して勝ってもそれは本当の勝利ではない。でもユウキにとってそれは関係なかった。

 今出せる全力でぶつかるからこそ意味がある。実際にユウキがあのSAOにいたとして、二刀流を使いこなせていたかもわからないし、だからといってそれを言い訳にしたくなかった。

 

 今、二刀流を振るうキリトに勝利してこそ意味がある。だから、ボクはそれにも全力でぶつかる。今あるボクの全てをぶつけて、二刀流に……キリトに、勝利してみせる!

 

「せやぁぁぁぁ!!」

 

 二人の剣は何度もぶつかり合い、火花を散らしていた。何度か剣を撃ち合った後鍔迫り合いにり、力比べになった。お互いHPが減少しているが、直接の攻撃はまだもらっていない。全て剣の撃ち合いによる削りダメージだ。

 

 ソードスキルも全く使っていない、通常攻撃だけで渡り合っていた。そこでこの状況がキリト側に有利に働いている。

 ユウキのもつ剣『マクアフィテル』はAGI重視の片手直剣である。驚異の反応速度を持つユウキとの相性は抜群で、実際今までも速さだけで勝てた場面もあった。

 

 しかし、今回はそうはいかない。相手は二刀流で手数も圧倒的だ。更に片方はALO最強の片手直剣である聖剣エクスキャリバーが握られている。

 キリトの片手剣熟練度はMAX故にエクスキャリバーを装備出来る。ここまではいい、熟練度を上げれば誰でも装備(・・)だけは出来る。

 しかし問題なのはそこではなく、この重たい片手剣を最速で振るってくることにあった。

 

 要求熟練度が達してもまともに振るう事の出来るALOプレイヤーはそうはいない。全身フルアーマーで固めた重装備の鈍足戦士が、その重さからは有り得ない驚異のスピードで重い一撃を放ってくると想像すれば、いかにユウキがキリトの攻撃をいなしているかのすごさがわかってくる。

 

 しかしそのユウキの技量をもってしてもAGI型の片手剣マクアフィテルでは分が悪かった。エクスキャリバーと撃ち合えば当然こちら側の方が削りダメージが多い。何度も撃ち合いをしているうちに、いつの間にかユウキのHPはイエローゾーン手前まで削られていた。

 

 休むことなく重く、速い連撃が絶え間なく繰り出されてくる。事実戦いが長引くにつれてユウキは防戦一方であった。しかし、勝機が全くないわけではない。攻撃は重たいがキリトの方に僅かに隙がある。

 

(このまま打ち合ってたらいずれ負けちゃう……、ちょっと半分賭けだけどやるしかない……!)

 

 再び鍔迫り合いが続く中、キリトが次の攻撃に転じようと一瞬ではあるが、自分の後ろに重心をズラした。その一瞬の重心の移動をユウキは見逃さなかった。

 キリトならこのタイミングで重心をズラすと見切っていたのだ。キリトが後方に重心をズラした瞬間、絶妙なタイミングで(かいな)を返し、キリトの重心の移動を利用して右からの斬撃をブレイクしたのだ。

 

(今だ――――!)

 

「せえやああぁぁぁ――ッ!!」

 

 ユウキは最初で最後のチャンスとばかりに即座にソードスキルの構えを見せ、自らが編み出したオリジナルソードスキル "マザーズ・ロザリオ" を発動させていた。前代未聞の十一連撃オリジナルソードスキルだ。

 ユウキはそれに全てを込めてキリトに向けて放った。斬撃をブレイクしている今なら確実に決めることが出来る。

 

 しかし、それはもしも相手がキリト以外ならばの話であった。

 

 キリトはブレイクされた方とは反対の左手の剣でマザーズ・ロザリオの初撃目をガードすると三連撃ソードスキル"シャープネイル"を発動させ、マザーズ・ロザリオの四撃目までをブロック、さらにブレイクされた右の体勢も整え四連撃ソードスキル "ホリゾンタル・スクウェア" をナナメの軌道で発動し、さらに八撃目までを防いだ。

 

(こ、これは……スメラギ戦の時に見せた……)

 

 キリトの攻撃はまだ止まらない、更に追加で左手でシャープネイルを発動させ、十一撃目までを防いだ。完全にユウキはマザーズ・ロザリオの全ての連撃を防がれてしまっていた。

 

 キリトが行ったのは、システム外スキル「スキル・コネクト」と呼ばれているものであった。

 片手で発動させるソードスキルを左右交互に発動させることによりスキル使用後の硬直をほぼ無くし最大3〜4回までソードスキルを繋げられる、言わば反則じみたテクニックだ。

 

(そ……んな……ッ)

 

 オリジナルソードスキルと言えどもマザーズ・ロザリオはソードスキルだ。当然技の動作終了後にソードスキル独特の硬直時間が生まれる。手練れ同士の決闘(デュエル)ともなるとその隙が致命的になる。キリトが全ての斬撃を防ぐとユウキにソードスキルの硬直時間が発生した。

 そのチャンスをむざむざと見逃すはずがなく、キリトは四度目のスキル・コネクトでソードスキル "レディアント・アーク" を発動させてマクアフィテルを下から上へかち上げ、弾き飛ばした。

 

(しまった……剣が……!)

 

 ユウキは愛剣を手から飛ばされ自衛手段がなくなってしまった。丸腰になったユウキにソードスキルの硬直が解けたキリトは、左手でシャープネイルを発動させユウキの体に容赦なく斬撃を入れていった。

 

「あぐっ! うっ……」

 

 シャープネイルの直撃を受け、ユウキのHPはレッドゾーンまで落ちた。あと一回でもソードスキルを喰らえば、HPは全損してしまうだろう。

 キリトはトドメとばかりに右手のエクスキャリバーで突進技ソードスキル "レイジスパイク" を発動させて、真っすぐユウキ目掛けて前進していった。

 

(これが本気のキリトなんだね……、あはは、ボクなんかじゃ……かなわないや……)

 

 キリトの攻撃はユウキの目の前にまで迫っていた。ユウキはゆっくりと目を瞑り、攻撃を受け入れようとしていたが、いつまでたっても体に衝撃を感じなかった。

 様子がおかしいと思ったユウキは恐る恐る目を開けてみる。するとユウキへ放たれたソードスキルはユウキの首の真横で静止していた。

 

「キリ……ト……?」

 

 エクスキャリバーを握るキリトの眼には涙が浮かんでいた。キリトはユウキにトドメを刺すことが出来なかったのだ。

 トドメを刺してしまったらこの目の前の少女を、本当に殺してしまうことになるのではないか、取り返しのつかないことになってしまうのではないかと、恐ろしい想像をしてしまっていた。

 しかしここはSAOの世界ではない、プレイヤーを倒しても現実の肉体は死ぬことはない。だがキリトはユウキを斬ることが出来なかった。

 

「違うんだ……こんなのは本当の強さじゃない……。こんなのは……うくっ……」

 

「キ、キリト……」

 

 そう言うとキリトは全身の力を失い、両手から剣を離してそのまま前のめりに、ユウキに覆いかぶさるような形で崩れ落ちてしまった。

 ユウキは咄嗟にキリトが地面に倒れないように両腕で支え、そのまま自分の胸で受け止めると一緒に地面に膝をついていた。

 

「だ、大丈夫? キリト……」

 

「アスナ……アスナ……、お……俺は……ッ!!」

 

「キリト、ボクはアスナじゃないよ……」

 

 ユウキは涙を流し続けるキリトを優しく抱き締めていた。今抱き留めてあげないと、キリトが壊れてしまう、そのような気がしたからだ。かつてSAOの英雄、VRMMO最強のプレイヤーと言われた黒の剣士が、絶剣であるユウキにだけ見せた意外な一面だった。

 

「キリトはさ、その腕でみんなを助けてきたんだよね? 誰かを悲しませないように。ずっとずっと、一人で頑張ってきたんだよね? ならさ、ちょっとぐらい……泣いてもいいと思うよ?」

 

 キリトは黙って涙を流し続けた。体は触れば壊れてしまいそうなぐらいに小さく見え、腕は小刻みに震えてしまっていた。アスナを失った悲しみだけではない、今まで積み重なり、その体に背負ってきた悲しみ全てを、ユウキが受け止めてくれていた。

 

「大丈夫だよ、キリトは弱くないよ? キリトは強い、その優しさがキリトの強さなんだよ? だからさ、もう……自分が弱いなんて……言っちゃあダメ……だか……らね?」

 

 ユウキはキリトと直接剣を交えたことで、キリトが今までどうやって毎日を過ごしてきたかを感じ取っていた。キリトはこうやって生きてきたんだ。そのキリトの心にちょっとだけ触れることが出来たユウキも、言葉の途中から涙を流していた。

 ALO内での時間は夕刻に差し掛かっていた。偶然か必然か、ユウキとキリトが初めて出会った光景とよく似ていた。キリトは時間の許す限り、ユウキの胸の中で気がすむまで泣いた。

 

(アスナ、ボク頑張ってキリトを支えるね。もしかしたら二度と会うことが出来ないかもしれない君の代わりに、ボクがキリトを支えるから……)

 

 





 今回はここまでです。キリトとユウキ、同じ仮想空間で必死に生きてきた者同士感じるところがあったんだと思います。ここまでのやり取りで、二人には今までと違った感情が芽生え始めます。その感情が何なのかは、追々明らかになるでしょう。
 

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