ソードアート・オンライン マザーズ・ロザリオ ボクの生きる意味   作:むこ(連載継続頑張ります)

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 こんばんはです。ふと思ったんですけど…リアリゼーションでユウキの添い寝のCGがあるじゃないですか。ってことはユウキを落としてユウキルートがあるってことになるじゃないですか。

 そうするとユウキENDに突入して…ユウキが助かる…っていう認識でいいんですかね!?ってのは流石に安直ですかね…ははは…でもそうだといいなあ…。

 それでは23話どうぞ。今回若干話のつなげ方に無理があるかもしれません。


第23話~レッスン~

 西暦2026年2月2日月曜日 午後15:15 新生アインクラッド第22層 キリトのホーム

 

 

 ユウキとセブンのチャリティーライブの日程は2月7日の土曜日に決定した。ユウキへ課せられたスケジュールは、残りの月~木曜までみっちりレッスン。そして翌日金曜にリハーサル、そして本番までは休息といった形で予定が組み込まれていた。

 

 

「ユウキちゃん、帰ってこないね……」

 

「うん、やっぱりちょっとキツくしすぎちゃったかな……」

 

「あの時の七色、ちょっと怖かったよ……、ユウキちゃんはまだ素人同然なんだから、もう少し優しくしてもよかったんじゃない……?」

 

「わかってる。……でも、ユウキちゃんには時間がないから……」

 

 

 キリトのホームのソファに腰を下ろしているのは仮想世界でアイドル活動を続けている七色博士ことセブン、枳殻虹架ことレインであった。この日はユウキの歌のレッスンのはずだったのだが、肝心のユウキの姿がどこにも見られなかった。

 

 セブンはこうなってしまったことの原因が自分だということもあり、非常にバツが悪そうに佇んでいた。普段、ファンやクラスタの前で見せる可愛らしくも勇ましいセブンの姿とは裏腹に、必要以上に厳しい態度をとってしまったことに、若干の後悔の念を抱いていたのだ。

 

 何故、ユウキがこの場から姿を消してしまったかは、今から二時間ほど遡る。

 

 

――――――

 

 

 二時間前、キリトのホーム屋外湖畔、仮ステージ前

 

 

「キミーがえがいたーみらいのせかーいは、いつかのそーらーにみちびかれてー」

 

 

 22層の湖畔にユウキの歌声が響き渡っていた。レッスンの直接の指導はセブンが、補佐はスメラギが担当し、つきっきりでユウキのレッスンを進めていった。現在ユウキが歌っているのは、一曲目に歌う事になっている曲目であった。

 

 

「それじゃだめ! 演奏止めて!!」

 

 

 眉間にシワを寄せたセブンが合図をすると、スピーカーから流れていたBGMがフェードアウトし、止まってしまった。先ほどまで重低音の大音量が流れ続けてたこともあり、スッっと急に静寂が流れ始めた。

 

 

「ユウキちゃん、それじゃ全然だめ! 最初のボイトレではすごくいい声出てたじゃない!」

 

「あ……うぅ、ごめんなさい……セブン……」

 

 

 年下のセブンから激しい怒号を浴びせられたユウキは、怯えるようにシュンとしてしまっていた。それもその筈、超スパルタとも言えるセブンのレッスンは、朝から二時間もこの調子で続いていたからだ。この道のプロであるセブンは、パフォーマンスの演出に一切の妥協を許さない。

 

 中途半端な演出では、会場に足を運んでくれたお客さんを満足させることなんて出来やしない。ましてや今回はユウキの実際の命がかかっている、いつも以上にセブンに力が入ってしまうのも無理もないことであった。

 

 

「ユウキちゃん、このイベントにはユウキちゃんの全てがかかってるの。もっと真剣にやらないとみんなにユウキちゃんの想いなんて届かないよ!」

 

「あ……、う、うん、ご、ごめんね……」

 

「そんなんじゃ……いつまでたってもキリト君と一緒になんてなれやしないよ! いつもの勇ましいユウキちゃんはどこいっちゃたの!?」

 

「う……、ご、ごめんなさい……、ごめん……なさい……」

 

 

 歌の直接的なレッスンに入り、なかなかそのあとの進捗がない内容にイラついていたセブンが、ついついその感情をユウキにぶつけてしまっていた。

 

 その罵倒に耐えきることが出来ずに、ユウキはとうとう泣き出してしまった。その姿を見ていたたまれなくなったキリトがユウキに駆け寄って励ましの声を掛けようとした。しかし駆け寄る途中にスメラギに手で道をさえぎられ、制止させられてしまった。

 

 

「スメラギ、何で止めるんだよ……!」

 

「キリト、貴様が本当に彼女のことを想っているのなら、この一件はセブンと俺に任せてもらおうか」

 

「なっ……お前、ユウキを泣かすのが、あいつのためだってのかよ!」

 

「貴様には分からないのか? セブンの気持ちが」

 

「セブンの気持ちだと……?」

 

「ああそうだ。キリト、貴様にはあの様子、どう見えている?」

 

「どうって、ただのスパルタじゃないか、こんなんでユウキのためになるってのかよ!!」

 

 

 一方的な感情に任せて声を荒らげ続けるキリトの態度に、スメラギは呆れて何も言えなかった。年はそこまで離れていないはずの二人のはずなのだが、今まで踏んできた場が違うのか、スメラギは終始冷静であった。

 

 

「かつて俺を剣で打ち負かした男の言うこととは思えないな、あれがただのスパルタに見えるようでは、お前はまだまだだ」

 

「なっ、何だと……?」

 

 

 キリトは握りこぶしに力を込め、興奮したままスメラギを睨み続けた。キリトにはスメラギの問いかけの意味が分からなかった。SAO時代にも友人恋人を危険な目にあわせまいと、がむしゃらに剣を振り続け、ただひたすらに優しさを貫いたキリトには到底理解できることではなかったのだ。

 

 

「貴様は何か勘違いしているようだから忠告をしておいてやる。いいか、 "優しくすることだけが仲間のためになるとは限らない" ……覚えておけ」

 

「な……なんだってんだよ……」

 

「セブンのレッスンを中断し、ユウキを励ましたければ好きにすればいい。ただその場合には、この件に関してセブンと俺は一切の身を退かせてもらう」

 

「なっ……、そ、そんな……」

 

 

 スメラギはあくまで冷静に、かつドライな態度で厳しい現実をキリトに叩きつけた。こう言われてしまってはキリトも踏みとどまざるを得なくなっていた。セブンたちあっての今回の計画だ、彼女たちに身を退かれてしまっては、当然ユウキは助からなくなってしまう。

 

 

「くっ…」

 

「分かればいい、黙ってみていろ。休憩の時間になったら接触を許してやる」

 

 

 キリトはギリギリという音がなるほど自分の拳に力を込め、プルプルと震わせていた。目の前でユウキが、大切な人が涙を流しているのに何もできないこの現状にやり場のない憤りを感じていた。キリトは怒りを噛みしめながら、泣いているユウキの姿をただ見ているだけしかなかった。

 

 

「ユウキ……俺は……」

 

「ほらっ! 泣いている時間なんてないよ! 今言ったことを意識してもう一回! それともやめる?」

 

「!! ……やめるのはいやだ、ボク……歌う……」

 

 

 ユウキの健気な姿は、はたから見ていてもつらいものであった。飛び交うセブンの怒号と曲の演奏、そして元気のないユウキの歌声だけがこの場に響いていた。ユウキはセブンに言われるがまま涙を流しながら歌い続けた。

 

 

「Aメロからもう一回! 演奏かけて!」

 

 

――――――――

 

 

 鬼のようなスパルタレッスンは2時間にも及んだ。前半のレッスンが終わり、漸く休憩時間となった。ユウキは全身から疲労の色をだし、とぼとぼとステージを降りて、キリトのいる方に歩いて行った。

 

 自分に駆け寄ってくるキリトの姿に気付いたユウキは、一気に走りより、キリトの胸に飛び込んで声を殺して泣いていた。それだけセブンのしごきはきつかったのだ。キリトは彼女に自分の胸を貸し、何も言わずに優しくユウキを抱きしめた。

 

 

「ッ……、キリト……ボク全然上手にならない、何回やってもだめなの、ボイストレーニングは上手くできたのに……歌うと全然だめなの……」

 

「ユウキ……」

 

 

 涙を流し続けるユウキの頭を、キリトはそっと優しく撫でた。本当ならこんな辛い目に彼女をあわせたくはない。しかし口が裂けても「つらいなら、やめればいい」なんてことは言えなかった。そうしてしまった結果がわかりきっているからであった。

 

 

「ボク、やっぱり才能ないんだよ……。マイクより剣を持って、敵と戦ってた方がいいよ……」

 

「ユウキ……ごめん、俺……何もしてやれることが出来ない、お前の力になるって決めたのに……」

 

「なら、やめるか?」

 

「え……?」

 

「スメラギ、お前……」

 

「つらいから、上達しないから、すぐに諦め、やめるのか?」

 

「――そんな……ボ、ボクは……ッ」

 

「別にやめても構わんぞ、予定を変更してセブンだけでパフォーマンスをしても構わんしな」

 

「……何が言いたい?」

 

「実力不足だと言ってるんだ。やはり付け焼刃でどうこうなるものではない。その程度なら、いっそバックコーラスでも歌っていたほうがいいのではないか?」

 

 

 スメラギがまるで二人を挑発するかのような口ぶりで言葉を並べると、我慢の限界に来ていたキリトが声を荒らげ、一気にスメラギとの距離を詰め、彼に殴りかかっっていった。

 

 

「――ッスメラギ……貴様ッ!!」

 

 

 キリトが怒号を上げると、彼の右拳は光とともにスメラギの左頬に吸い込まれるように放たれていた。PK保護圏内ということもあり、スメラギのHPは減らなかったが、激しいエフェクトとともにスメラギは吹っ飛び、キリトのホームの柵に激しく体を打ち付けた。

 

 激しい砂煙が上がり、その中からスメラギが自分の装備についた砂を手でぱぱっと払い落としながらムクリと立ち上がり、自分を殴りつけたキリトに視線を向けていた。キリトは相変わらず、厳しい視線をスメラギに向け続けていた。

 

 

「今のセリフ、もう一度言ってみろ……! 今度はそのアバターの首を吹っ飛ばしてやるぞ……」

 

 

 キリトの目には殺意に近いものが芽生えていた、ユウキを侮辱したことが何よりも許せなかった。お前にユウキの何が分かる、お前がユウキの何を知っている。かつて剣を交えた強敵(とも)といえども許すことが出来なかった。

 

 しかしそんなキリトをスメラギは嘲笑った。

 

 

「図星をつかれたから激昂し、暴力にものを言わせるか。……かつての冷静さは欠片も見られないな、キリトよ」

 

「……キ、貴様……ッ!」

 

「キリトやめてっ!!」

 

 

 キリトが背中のエクスキャリバーに手をかけたところで、いてもたってもいられなくなったユウキがたまらず仲裁に入った。自分の所為で、周りに迷惑をかけてしまっていることに、険悪な空気になってしまっていることが耐えられなかったのだ。

 

 

「ゴメンねスメラギ……、ボク全然上手くならなくて……、でも絶対にやめないから……、最後まで付き合ってくれていいかな……」

 

「それを決めるのは俺ではない、セブンだ」

 

「…………」

 

「しかしその態度を改めないと、貴様に先はない。己の才能と実力はよくわかっているだろう?」

 

「…………ッ」

 

 

 セブンに続き、スメラギもユウキに対して厳しい態度を緩めなかった。ユウキは表情を暗くしたまま、スメラギともキリトとも視線を合わすことが出来ずに、ただただ地面を見つめていた。

 

 

「…………」

 

 

 ユウキはしばらくの間考え込んだあと、突如翅を広げ、空高く飛び上がり、どこかへいこうとした。その姿を見たキリトも慌てて翅を広げると、彼女の後を追いかけるように地面を蹴り、空高く飛び上がった。

 

 

「お、おいユウキ! どこいくんだ!」

 

「ついてこないでキリト!」

 

 

 キリトからの声掛けを振り切るように大声を出したユウキは、全身をぷるぷると震わせて急停止すると、握りこぶしに力を込めて空中に佇んでいた。

 

 

「ごめんね、ちょっと……一人にさせて……」

 

「ユ、ユウキ……」

 

 

 ユウキはそれだけ言い残すと、再び翅を大きく広げてそのまま羽ばたかせて、空の彼方へと消えていってしまった。キリトはその悲しそうな後ろ姿を、ただただ見つめ続けることしか出来なかった。

 

 

「ユウキ……」

 

「……ユウキちゃん、どっかいっちゃったの?」

 

 

 キリトが空中で呆然としていると、彼のホームの中からセブンが姿を現し、遠くへ飛び去るユウキの姿を見届けながらつぶやいていた。

 

 キリトはセブンの姿を視認すると、ゆっくりと地面に降下し、地に足を下ろすとセブンに詰め寄って今日のユウキへの態度について問いただした。

 

 

「セブン……何でなんだ、何でユウキにあんな……ッ」

 

「キリト君、あなたの言いたいことは分かるよ? 何でユウキちゃんにあんな厳しい態度をとるのか?でしょ?」

 

「あ、ああ……、あれじゃあまりにもユウキがかわいそうじゃないか……」

 

「んー……、それじゃあ逆に聞くけどさ、キリト君……あそこで ”ユウキちゃんすごい上手いよ! これなら全然通用するよ! " ……とでも言えばよかったの?」

 

「えっ、い、いや……それは……」

 

「あそこで上手い上手いって褒めちぎって、そのまま大したレッスンも重ねないで、本番を迎えてもよかったの?」

 

 

 キリトは俯き、悔しさに拳を震わせていた。セブンの言っていることは正論だ。ユウキが未熟なままステージに上がっても、来場者、視聴者の感動は呼び込めないと悟っていたからだ。

 

 

「キリト君、優しくすることだけ(・・・・・・・・・)が優しさじゃないんだよ?」

 

「優しさ……だけじゃ……?」

 

「キリト君は誰よりも優しいから、多分わからないと思うけど。本当に人に優しくしたいのならね、厳しくしていかないとダメな場面もあるんだよ」

 

「き、厳しく……?」

 

「その言葉を理解出来ないなら、ユウキちゃんは上手くなれないし、キリト君も一緒に成長なんか出来ないよ」

 

「…………」

 

 

 基本的に、人は厳しい壁にぶち当たって成長をしていくものだ。つらいことを乗り越えて何度も何度も挑戦して、ようやく成功してというものの繰り返しなのだ。その壁を乗り越えれば成長でき、次なるステップへとまた踏んでいける。だが、躓けは所詮それまでなのだ。

 

 SAO時代からたった一人で攻略を進めていたキリトには、その言葉は理解し難かった。大切な人を失わない為に、ただひたすら一人で全ての責任を果たすかの如く、ソロプレイを繰り返していたキリトには難しいことだった。

 

 アスナや仲間たちには決して無茶をさせない、俺が一人で全てやればいい。そんな生き方戦い方をしていたキリトではセブンの言葉を理解出来るはずもなかった。

 

 

「なら俺は……どうすればいいんだ……」

 

「本当にユウキちゃんに成長してほしいのなら、ただ見守って。どんなにユウキちゃんがつらそうにしても、泣きそうになっても、じっと見守って」

 

「…………」

 

「それで精一杯努力して、もっともっと上達して、ちゃんと結果が出たら、褒めてあげて? その時こそキリト君の出番だから……」

 

「……それまで見守るしかないのか、俺は……ッ」

 

「キリト君、見守るのもレッスンのうちだよ。キリト君も……ユウキちゃんと一緒に成長するんだよ」

 

 

 セブンに諭されていても、キリトは少しだけ納得のいかない顔をしていた。セブンの言いたいことはなんとなくわかる。しかしこれまで不器用な生き方をしてきた俺に、そんなやり方が出来るのだろうかとも思っていた。

 

 しかし、この道のプロであるセブンがそう言うのなら、彼女を信じて全てを任せてみよう、そう思ってもいた。

 

 

「わかった、まだ全部納得出来ているわけじゃないが……今はセブンの言うことを信じる。でも、俺は俺のやり方でユウキを支える。これだけは譲れない」

 

 

「……キリト君も意外と頑固者だね……。パニャートナ(わかったよ)、キリト君……ユウキちゃんのサポートはキリト君に任せる。……あとね?」

 

「……あと?」

 

「ユウキちゃんに才能がないなんてことないよ? 本当に見込みがなかったら、あんなに厳しくしないもの。練習を重ねれば絶対に上達するよ! それだけは……私が保証する!」

 

「セブン……」

 

 

 才能がある(・・・・・)、その言葉をセブンの口から聞くと、漸くキリトの顔にも明るい表情が戻り始めてきた。そんな安心したキリトに釣られるように、セブンもニッコリと笑顔で返事を返した。

 

 

「さてと、うーん……そろそろ休憩時間終わりなんだけどな……」

 

「ユウキ…戻ってこないな…」

 

 

 セブンが左手でメニュー欄を表示して、現在の時間を確認していた。休憩時間は終わりを差していたが、ユウキがステージに戻ってくる様子はなかった。どうやら今日のことがかなりこたえているようだった。

 

 

「うー……やっぱりちょっと厳しくしすぎちゃったかな……」

 

 

 必要以上に厳しい態度をとってしまったかもしれないと、セブンは頭をポリポリとかきながらユウキの飛び去った方角を見つめていた。考えてみればユウキは普通の女の子、素人同然なのである。時間が残されていないとはいえ、度が過ぎてしまったかもしれない。

 

 

「俺探してくる!絶対に見つけて連れ戻してくる!」

 

パジャールスタ(お願い)! 頼んだよ! キリト君!」

 

 

 キリトは駆け出し地面を蹴り、翅を広げ空高く飛び立つと、左手でメニューを開き、フレンドリストからユウキの居場所を確認した。どうやらユウキはアルンにいるようだった。

 

 

「アルン……もしかしてあそこか……?」

 

 

 キリトは翅をより大きく羽ばたかせ、最大速度で22層の転移門に向かい、アルンへと急いだ。今の俺には声をかけてやることしか出来ない、でも、それは俺にしか出来ないことなんだ。俺にできることを……精一杯やる! そう胸に抱き、彼はユウキの元へと向かっていった。

 

 

――――――――

 

 

 同日同時刻 世界樹の街アルン 緑の丘

 

 一方でキリトが探しているユウキは、一人でアルンの街の緑の丘に佇んでいた。アルンの街は今日も快晴で、心地よい風が木々や草、野花とユウキの綺麗なロングの髪を揺らしていた。

 

 

「ボク、やっぱり無理なのかな……」

 

 

 ユウキは自分に歌の才能なんてないと考え始めていた。セブンには最初太鼓判を押してもらっていたが現実はどうだ、何回やっても何回やっても上手くいかないじゃないか。セブンが怒るのも無理はない、自分には才能がないんだから。

 

 そんな考えをひたすら巡らせていた。もうこれ以上上手く出来ないのならいっそやめてしまった方がいいのではないかと、最悪の考えにまでいたってしまっていた。

 

 

「キリト……!」

 

 

 すっかり弱気になってしまったユウキは、膝に顔をうずくまらせて悲痛な声をあげていた。キリトが恋しい、キリトに甘えたい、頭を撫でてもらいたい、抱きしめてもらいたい、キリトを感じていたい。

 

 

「ッ……キリトォ……」

 

 

 やがて我慢出来なくなってしまったのか、とうとうユウキは目から涙をこぼしてしまっていた。今までつらいことは一人で乗り越えようとしてきた。スリーピング・ナイツやアスナの力を借りても、心まで預けるようなことはしなかった。

 

 しかし今は違う、キリトが欲しくて欲しくてたまらない。孤独に耐えられる強さを持っていたユウキであったが、キリトというかけがえのない存在を手にして、もうすっかり彼なしでは生きていかれなくなってしまったのだ。

 

 

「…………」

 

 

 涙を拭ったユウキは何かをふと思い立ったのか、左手で仮想タブレットを開いてブラウザを起動し、動画サイトを開きだした。検索欄に[セブン ライブ]と入力して動画を探し出した。やがて画面にはセブンのライブの動画が山ほど表示された。

 

 

「こんなにあるんだ、セブンの動画……」

 

 

 すこし呆気にとられながら、表示されているたくさんの動画のサムネイルを目で追いながら見つめていると、数多くあるライブの動画の中から、一つだけ違う内容の動画があることに気付いた。

 

 

「……あれ? これ……ライブの動画じゃない……」

 

 

 ユウキがタップした動画はライブの模様を映したものではなく、セブンを取材したドキュメント番組であった。番組名のロゴには[Passion continent]と書かれていた。

 

 ユウキは今の気分を紛らわすかのように、その動画を食い入るように見ていた。その内容には決してセブンの楽ではなかった人生の模様が語られていた。

 

 今でこそ、七色・アルシャービン博士と尊敬され、同時にVRMMO界のNo.1アイドル・セブンと慕われているが、その栄光を掴み取るまでセブン本人も死に物狂いの努力を重ねてきたことが語られていた。その様子をユウキはひたすらに見届けていた。

 

 

「セブン、すごく苦労してきたんだ……ボクよりも年下で、あんなにちっちゃいのに……」

 

 

 そう、誰だって楽して栄光を掴めるわけではない、才能次第ではそれも可能であるかもしれないが、多くの人は人知れず努力しているものだ。努力しても掴めないこともあるが、努力しなければ最初の一歩ですら歩めないのである。

 

 その番組の中のセブンは、まるでユウキが見ていることを想定していたかのように、重たく、心にくることを、淡々と語り続けていた。

 

 

『私のことを、多くの人が天才だ、天使だなんて言ってくれています。でも……私は別にそんなんじゃないんです。ただがむしゃらに頑張って、成し遂げたいことのために前だけ向いて生きてきました。だから自然とその結果が付いてきただけだと思ってます。最初は歌なんて歌えなかったし研究だって全然分からなかった……』

 

「……え……?」

 

『でも、少しずつ出来るようになってくると歌うのも楽しくなってきたし、研究もどんどん奥深いものだと理解出来てきました。その時にはもう夢中になっていました。それ以外のことが全く見えなくなるほどに……』

 

「セブン……」

 

『だから私はもっとこれまで以上に頑張ろうと思うんです。だって、こんなちっちゃい子がこんなに出来るんなら自分にも出来るんじゃないかって、そう思う人達だってきっと出てくるはずだから』

 

「…………」

 

『私の活動が、世界中の人たちに希望を与えるものなら、私はどんなことにでも挑戦します。 "一切の妥協はせず走り続けます" ……これが私の、七色・アルシャービンの、セブンの "信念"です」

 

「――――ッ」

 

 

 ――信念。

 

 その言葉を聞いたユウキは思い出していた。ボクにも誰にも譲れない信念がある。"ぶつからなければ伝わらないことだってある"

 

 ボクは一体何にぶつかった? 歌うと決心してから……何にもぶつかってないじゃないか。ただひたすら厳しい環境から逃げてしまっただけじゃないか……、それで何が信念だ。

 

 

「ぶつかるどころか、キリトの優しさに甘えてただけじゃんか……」

 

 

 自分はただ目の前の現実から逃げていただけだ、それに気付いたユウキは、今の自分が次に何をするべきかを考えていた。

 

 今のボクに出来ること、一体それは何なんだろう? 何をするべきなんだろう? 何をしたらいいんだろう? 一生懸命歌のレッスンをすること? 与えられた内容をクリアすること?

 

 い、いや……違う、そんな具体的なことじゃない。もっと大事なことがある、ボクが今やらないといけないこと、それは――!

 

 

「ユウキ!」

 

 

 ユウキが物思いにふけっていると、突如上空から全身真っ黒な服に身を包んだスプリガンの少年が降下しながら声をかけてきた。恋人のキリトだった。

 

 キリトはユウキの姿を見つけるなり、彼女の目の前でふわっとホバリングすると、ゆっくり地面に足を付き、恋人のユウキに駆け寄り、優しく抱きしめた。

 

 

「キリト……」

 

「やっとみつけたぞ……」

 

「……うん、ごめんね……」

 

「……ユウキ、大丈夫か……?」

 

「…………」

 

 

 優しく声をかけてくれたキリトに対し、ユウキは無言で答えた。頭の中を色々な考えがごちゃごちゃに巡っていた。でも、それでもまずやらないといけないことがあることだけは、わかっていた。

 

 

「ゴメンねキリト、ボク……逃げちゃった……」

 

「……つらいか?」

 

「……うん、セブンのレッスン、物凄くハードだった……」

 

「そうだな、はたから見てても……厳しさの塊だったよ、あれは……」

 

 

 ユウキの目にはうっすらと涙が浮かんでいた、逃げてしまった罪悪感とキリトに迷惑をかけてしまったという気持ちが交差していた。しかし、キリトはそんな逃げたユウキを怒ったり、蔑んだりしなかった。

 

 

「キリトは怒らないの? ボクのコト……」

 

「え? あぁ……えと、怒った方が……いいのかな……」

 

「……優しいんだね、キリトは……」

 

「……そんなんじゃないよ、俺もつらいことから……逃げ続けてたことがあったからさ……」

 

「え……?」

 

 

 キリトはつらいレッスンから逃げたユウキに、過去の自分の姿、桐ヶ谷和人の姿を重ねていた。幼い頃に本当の両親を亡くし、今の桐ヶ谷家に養子として引き取られ、真実を知ったときにふさぎ込み、現実から逃げたあの時と重ねていた。

 

 

「……俺さ、ユウキに言ってないことがあるんだ……」

 

「……何?」

 

「俺の両親と、妹の直葉はな、……俺と血が繋がってないんだ」

 

「……え?」

 

 

 キリトからの突然の告白に、ユウキは目を丸くして驚いていた。今さっき挨拶を交わした直葉と翠さんが……、キリトの……、和人の本当の家族じゃない……? どういうことなの……?

 

 

「俺の本当の両親は……俺が物心つくかつかないかの時にな、交通事故で……死んじまったんだ……」

 

「……嘘……でしょ?」

 

「嘘じゃない、当時のことはよく覚えてない……。その後俺は母さんの妹、叔母家族の桐ヶ谷夫妻に養子として引き取られたんだ。直葉は……そこの一人娘なんだ」

 

 

 ユウキは正直、キリトが何を言っているのかわからなかった。今のキリトの家族は親戚で、本当の家族はもう既に亡くなっていて、……それじゃあボクと同じ、キリトは……ボクと……。

 

 

「そう……だったんだ。キリトは……和人は、ボクと同じだったんだ……」

 

「……そうなるな」

 

「…………」

 

 

 キリトのこの真実を知る者は少ない、元恋人の明日奈ぐらいだ。事故当時、和人は記憶を失っていた。その影響か今の両親、桐ヶ谷翠、峰嵩が自分の両親であり、従姉妹の直葉が本当の妹だと信じて疑わなかった。

 

 しかしある日、和人は翠が抹消したはずの住基ネットの存在に気付いてしまった。PCの扱いに長けた彼がデータを復元してみると、そこには自分の両親が既に他界しているという悲しい真実が書かれていた。

 

 しかし、和人はその事実を知っても、不思議と悲しいと感じることはなかった。少しだけ驚いたことはあっても、決して涙を流すようなことはしなかった。しかし、その真実が今の家族との間に溝を作ることになってしまったのも確かだった。

 

 だからこそ彼はゲームに夢中になった。仮想世界に憧れた。そしてSAOの世界へと足を踏み入れた。そこで様々な経験を重ね、大きく成長できた。

 

 しかし運命とは奇妙なものである。もしも和人の両親が交通事故にあっていなかったら、彼がゲームにハマることも、SAOに惹かれることも、明日奈と出会うこともなかっただろう。

 

 そしてそれは当然、ユウキと出会うことも、決してなかったであろう……。

 

 

「キリト…」

 

「それからだな、身の回りすべてのものから逃げ出すようになったのは。桐ヶ谷家の人間という事実からも、妹のスグからも……」

 

「そんな……、そんなことがあったら……ボクは仕方ないと思うよ……」

 

「いや……そうじゃない、俺はずっと逃げてたんだ。ガキの頃にやってた剣道からもな、爺さんがすげえ厳しい人でさ、当時幼かった俺に鬼の形相で厳しく指導してきてな、……体罰もあったよ」

 

 

 意外だった。あんなに強いキリトに、そんな壮絶な過去があっただなんて。キリトが時折見せていた寂しい顔は、アスナを失ったからだけじゃなかったんだ。もっと重い、悲しい過去を背中に背負って生きてきたから、なんだね……。

 

 

「あまりにも厳しすぎて、ある日俺は逃げ出したんだ。そしたら爺さんが今までにない形相で怒り狂ってさ、スグが庇ってくれたんだ。 "私がお兄ちゃんの分まで頑張るからお兄ちゃんを叩かないで!" ってさ……」

 

「リーファが……?」

 

「それからになるかな、スグを無意識に避けるようになっちまったのは。SAOでのデスゲームを通して……和解は出来たけど、その当時のモヤモヤは……まだ少し残ったままだ」

 

 

「………」

 

「だから言ったろ? 俺は強くなんかないって、逃げてるだけなんだ。アスナと別れた当時も、悲しさから逃げようとしていた……」

 

「キリト……」

 

 

 ユウキはなんて声をかけていいかわからなかった、キリトもボクと同じぐらい、心に闇を抱えていた。彼の傍にいる身として、これからその闇を照らしてあげられるのだろうかと思っていた。

 

 

「だけどなユウキ、お前は違う……!」

 

「えっ……?」

 

 

 キリトは表情を変え、ユウキの肩を両手でガッチリ掴み、彼女の瞳をまっすぐに見つめながら、今思っていることの本心をぶちまけた。自分とは違う強さをもっている彼女の、本当の強さを気付かせてあげるために……。

 

 

「前にも言ったが何度でも言う、ユウキはどんな困難にも立ち向かえる強さを持ってる! 俺よりもずっと強い! そのぶつかっていく信念があれば、きっと今回のことだって乗り越えられる!」

 

「キ、キリト……?」

 

「セブンは厳しいことを言うが、それはユウキに見込みがあるから言うんだ。本当に見込みがなかったらとっくに見切りをつけている」

 

 

 密着してしまうぐらいに距離を詰められ、鼻と鼻の先っちょがくっつきそうなぐらいに顔を近づかれたユウキは、頬を真っ赤に染めながら彼の言葉を受け取っていた。

 

 ボクは強くなんかない、ボクだって悲しい現実から逃げようとしていただけだ。皆が言ってるような強さなんて全然持ち合わせてないよ。

 

 ……でもね、それでも……キリトがそう言ってくれるんだったら、もう少し、もう少しだけ……自分を信じてみようかな。こんなボクを信じてくれてるキリトの為に、自分を……もうちょっとだけ、信じてみようかな……。

 

 

「ありがとう、やっぱり優しいね……キリトは。アスナの言ってた通りだ……」

 

 

 キリトからの精一杯の言葉を受け取ると、ユウキは自分の眼に溜まっていた涙を手でゴシゴシと拭い、気持ちを切り替えるように両頬を「パァン!」という音が鳴り響くぐらいの強さでひっぱたき、自分自身に喝を入れた。

 

 気合を注入し直したユウキはキリトから少しだけ距離を置き、今度はニッコリ笑顔になり、いつもの明るく、活発なユウキへと戻っていった。

 

 

「本当にありがとう、キリト。ボク……もう少しだけ頑張ってみるね。ここで頑張らないと……キリトと永遠にお別れすることになっちゃう。ボク……それだけは絶対に嫌だ……!」

 

「ああ、俺もユウキとお別れなんて絶対に嫌だ!」

 

「うん、キリトとも約束したし、それにさ……、くよくよするなんてボクらしくないや!!」

 

 

 眩しい笑顔を見せたユウキを、キリトまた力強く抱き締めていた。今の自分に出来ることは、こうして彼女を元気づけて支えてあげることだ。歌も歌えなければ指導も出来ない、なら……こうやってしてあげられることをしていけばいい。

 

 むしろこれは……自分にしか出来ない。今ユウキを支えられるのは自分しかいない。彼女の笑顔を守っていくためにも、絶対にライブを成功させる……!

 

 

「ああ……そうだな、ユウキはやっぱりこうでなくっちゃあな……!」

 

「うん! ……それじゃ、戻ろっか。セブンにも……謝らないと……」

 

「そうだな……、とりあえず戻ろう、話はそれからだ」

 

 

 一通り気持ちの整理がついた二人は翅を広げて、アルンの大空へと羽ばたき、転移門を目指してまっすぐ飛んでいった。ユウキは先程よりもいい表情をしていた。その顔を見たキリトも、自然とほころんでいた。

 

 

――――――

 

 

 同日 午後15:30 新生アインクラッド第22層 湖畔エリア

 

 

「うう……セブン、やっぱり怒ってるだろうなあ……」

 

「大丈夫だ、その時は俺も一緒に怒られてやる」

 

「……でも悪いのはボクなんだし、ボクが謝らないと……」

 

 

 二人はキリトのホームへと続いている湖畔のすぐ傍を歩いていた。転移門から徒歩で10分、空を飛べば5分ほどで着くホームへの道を、足取り重く歩いていた。

 

 どんな言い訳を並べようと、どんな理由があろうと、セブンのレッスンから逃げてしまったのは事実だ。すべての予定をキャンセルし、自分の命の為にここまでしてくれているセブンたちに対し、レッスンから逃げるなんて言語道断だ。失礼極まりない行為だ。何よりまずは彼女らに謝らないといけない。

 

 

「おかえりなさい、キリト君、ユウキちゃん」

 

「随分と時間がかかったな……」

 

 

 気が付くと二人はキリトのホーム前に設置された仮ステージにたどり着いていた。そんな彼らを出迎えたのは先程まで厳しい態度を取り続けていたセブンとスメラギだった。

 

 決して彼女らは自分に厳しくするために厳しくしていたわけではない。本当に自分のことを考えてくれていたからこそ、あのような態度をとっていたのだ。ならば自分はその気持ちに全力で答えないといけない。

 

 ここで逃げてどうするんだ、全力でぶつかるのがうりじゃなかったのか、逃げるな! ぶつかれ……!

 

 

「あの……セブン、逃げ出して本当にごめんなさい。もう二度と逃げないから……最後までやり抜くから、もう一度、もう一度だけ、チャンスを……くれないかな」

 

 

 ユウキはばつが悪そうにしつつも、まっすぐにスメラギとセブンの目を見つめて言葉を並べていた。これからもつらいレッスンは続くだろう、逃げ出したくなる時もあるだろう、でも自分は絶対に逃げない。何があろうとも逃げない、その気持ちを言葉に込めて、二人に送った。

 

 

「もうつらいことから目を背けない、だから……もう一度、ボクにチャンスを下さい!!」

 

「俺からも……頼む!!」

 

 

 一緒に頭をさげ、反省の気持ちを示した二人に対し、セブンは困ったような態度を取っていた。厳しくしすぎた自分にもこうなってしまったことの責任があるのに、一方的にこうやって謝られてしまうと、なんだかやりづらいものがあった。

 

 

「……はぁ、こうなると私もやりづらくなっちゃうよ……」

 

「……え?」

 

 

 セブンが「どうしよう、スメラギ君」という視線をスメラギに送ると、彼は「フッ」と鼻で笑い「セブンのしたいようにすればいいだろう」とアイコンタクトで返事を返した。

 

 微妙に自分が謝りづらい状況になってしまった、いわゆるタイミングを逃したというやつだ。しかしうだうだしてても話は前に進むことはない。微妙に言いづらいがセブンも意を決して二人に謝罪の気持ちを伝えようとした。

 

 

「わ、私の方こそごめんなさい……。ユウキちゃんにちょっと厳しくしすぎちゃったかもしれない……」

 

「セブン……?」

 

「ユウキちゃんの本当の命がかかってるから、ちょっと私も力入れ過ぎてしまってたかもしれないの。……本当にごめんなさい」

 

「そ、そんな……セブンが謝ることないよ。ボクのためにしてくれたことなのに、それから逃げたのはボクなんだし……」

 

「そうだとしてもよ、ユウキちゃんは初めてなのに……あんなこと言ってしまって、本当にごめんね……」

 

「……俺からも謝罪する。侮辱するようなことを言ってしまい、申し訳ない……」

 

 

 セブンに続いて、まさかのスメラギも頭を深々と下げ、ユウキに謝罪をし始めた。気持ちに素直になれず、堅物だと思われていたスメラギが、まさかまさかの素直に謝っているのである。こればかりはユウキもキリトも目を丸くして驚いていた。

 

 

「あ……そんな、うぅ……ボクこうゆうの苦手だよー! 二人ともお願いだから顔あげて!」

 

 

 ユウキにそう言われると二人はゆっくりと顔を上げた。三人の間にはしばらく無言の時間が流れたが、その空気を断ち切るかのように、今度はキリトがずいずいと前へ出て、スメラギに頭を下げた。

 

 

「スメラギ、その……さっきは殴ったりして、悪かった……」

 

 キリトから謝罪を受けると、スメラギは一瞬だけ驚いた顔を見せたが、すぐにいつものキザったらしい顔に戻り、いつものように口を開きだした。まさかまさかの、ここにいる四人が四人、全員謝罪するという、なんとも奇妙な現象が起きてしまっていた。

 

 

「……フッ、かまわんさ……あんな拳、常日頃からうけているセブンの駄々や癇癪に比べれ――」

「わ――――――――――ッ!!」

 

 

 スメラギの話の途中でセブンが突如として割り込み、小さい身長で精一杯手を伸ばし、スメラギの口を塞ぐと、顔を真っ赤にして慌てて今の話をなかったことにしようとしていた。

 

 

「なんでもない! なんでもないの!! そんなことより……レッスンはこれからもビシバシいくんですからね!」

 

「……クスッ」

 

 セブンの口調は相変わらず厳しいものであったが、顔と雰囲気までは厳しくなかった。変な緊張感と硬さが抜け出ていた気がした。キリトはこれならここから先はいいレッスンが出来そうだなと、思わず笑みをこぼしていた。

 

 

「う……うん! ありがとうセブン……改めて、よろしくお願いします!」

 

「こちらこそよろしくね、ユウキちゃん……!」

 

 

 この件については一応の一件落着となった。そしてキリトはふとセブンの言葉を思い出した。 "優しくすることだけが優しさではない" 確かにそうだ、時には厳しくしないといけない瞬間もやってくるだろう。

 

 ……しかしそれでもキリトは、その優しさは捨てることが出来ないであろう。何故なら、それがキリトの何よりの強さでもあるからだ。この厳しい世の中で一人ぐらい、心優しい少年がいてもいいではないだろうか。

 

 少なくとも、この心優しい少年がいたからこそ、救われた者がいたのも事実だ。厳しくしなくても、優しい世界を作っていける、そう信じていきたいものだ。

 

 

「よーし! それじゃーさっきの続きからやるよー!」

 

「はい! セブン先生!」

 

 

 To be continued......

 

 

 

 




 
 やっぱりプロの目は厳しかったですね。ユウキはキリトのことを好きになる以前のユウキのままだったら……恐らく厳しいレッスンから逃げなかったと思いますね。

 キリトと出会って、生きたいと思い、好きな人に弱さを見せれる面が出てきたからこそ逃げてしまったと自分は思います。それでは以下次回!
 

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