ソードアート・オンライン マザーズ・ロザリオ ボクの生きる意味   作:むこ(連載継続頑張ります)

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 こ、こんばんは……やはり仕事終わって話考えてキーボードに打ち込むのは…きつかった。ちょっちょっとだけ…ちょっとだけ更新ペース落としてもいいっすか? 休日にはちゃんと書きますので…。

 てなわけで18話どうぞ。今回から計画の最終段階の一部分が見えるかもしれません。
 


第18話~親子のけじめ~

 西暦2026年2月1日 日曜午前11:00 アルンの緑の丘

 

 

 ユウキとアスナは感動の再会を終えると、キラキラガールズトークに花を咲かせていた。ガールズトークというよりはキリトの話題ばっかりの、通称"キリトーク"である。

 

 

「んでさ~~キリトったらせっかくいいムードだってのにぶち壊すんだよ~? ほんっとデリカシーがないったらありゃしない!」

 

 

ユウキが顔をぷくーっと膨らませ、キリトへの不満をアスナにぶちまけていた。こんな話を気軽にふれるのは、元恋人で同じようにキリトのことを知り尽くしているアスナしかいない。

 

 

「そう! キリト君はいっつもそう! デリカシーがないっていうよりぜーんぜん空気が読めないの! ほんっと頭きちゃう!」

 

「ほんとだよ! この前だってボクのコト"重たい"つったんだよ!? 女の子に対してサイテーだよもう!」

 

「そのくせこっちに気があることを言ってもぜーんぜん聞こえてないの! 一回耳鼻科でもいってきたらいいのよ全く!」

 

 

 キリトークと言えば聞こえはいいが、ようはキリトに対しての愚痴と悪口タイムである。本人がいないのをいいことに二人は大いに盛り上がっていた。キリトのいいところ、悪いところ、憎めないところ、頼りになるところなど、キリトに対する話題には事足りていた。

 

 

――――――――――――

 

 

 一方キリト含む残りのメンバーはまだ空を飛んでいた。転移門から距離はそこまで離れてはいないのだが先にユウキのもとへと向かっていったアスナに気を使い、キリトが敢えて皆をゆっくりと先導をしていたのだ。

 

 

「へっくしっ!!」

 

「キリトどうした? 風邪か?」

 

 派手にクシャミをしたキリトにエギルが声を掛けた。別にVRMMOに風邪なんかないはずなのだが盛大にクシャミをしてしまっていた。キリトは鼻の先っちょを人差し指でごしごしとこすると寒そうな仕草をしながら参ったなといった表情を浮かべていた。

 

 

「うう……昨晩徹夜したのがこたえてきたか……若干頭がぼーっとするような……」

 

「ちょっと……これからユウキを励ますってのに、アンタがダウンしたりとかしないでよ……?」

 

「ぜ、善処します……」

 

「お兄ちゃんちょっと無理しすぎだよ? ユウキちゃんのためとはいえ……少しは体をいたわらないとだめだよ……」

 

「休むときはちゃんと休んでるよ。いつもより無理してるのは……まあ否定できないけど…でもユウキを助けるまでは……あまり悠長になんかしてられないんだ……!」

 

「あのねぇ~、ユウキを助けたいって思ってるのはアンタだけじゃないんだからね? あたしたちのこともちゃんと頼りなさいよ?」

 

 

 少しだけ体調が悪そうなキリトに対して、シノン、リーファ、リズベットが心配そうに声を掛けた。みんなキリトが無茶をしていることはお見通しだった。そもそもにしてSAO時代から無理をし過ぎなのだ。攻略組の最前線で戦い続け、ホロウ・エリアも攻略し、ヒースクリフとの決着もしっかりつけたあと生存したプレイヤー全員を現実世界へと帰還させた。キリトはVRMMOで一番の実力を持つとともに、一番の苦労人でもあった。

 

 キリトの体を心配しながらも、それとなく飛行を続けていた一行はユウキとアスナのいる丘へと辿り着いていた。キリトが上空からお~いと声を掛けると、それに気付いたユウキとアスナが地上から同じように上空へと返事を返した。

 

 

「キリトく――」

「キリトォ~~~~~~ッ!!!」

 

 

 アスナのキリトへの掛け声がユウキにかき消された。その様子にリズとシリカは若干のデジャヴを覚えていた。ユウキはキリトを視界に捉えると嬉しそうにジャンプし、キリトのいる方に翅を広げて一目散に飛び立っていった。そして一直線にお構いなしに突進するかのごとくキリトのみぞおちに頭から突っ込み、そのままキリトに抱き着いた。ちょっといつもより元気すぎる気がするが見たところ体調は以前よりいいみたいだ。やっぱり倉橋の言ってた通り、精神面がユウキにいい影響を与えるというのは間違ってなかったようである。

 

 

「おぐッ!? ユ、ユウキ……今日はいつになく強烈だな……というより元気いっぱいだな、アハハ」

 

「うん! アスナに会えたしいっぱいお話しできたんだ! それに、それにね? キリトが……キリトがまた会いに来てくれた!」

 

「わ、わかった!わかったから一旦離れてくれ! 空中だとバランスが……」

 

「えー、アスナはちゃんと受け止めてくれたよー……?」

 

 

 ユウキはキリトの胸板に頭をこすりつけ、精一杯の大好きをキリトに送った。周りの連中はほっこり見守っているものもいれば呆気に取られている者もいた。胸板に顔を押し付けながら、上目遣いでユウキはキリトを見上げていた。キリトは毎回この調子で突進されてきたらかなわんと思いつつも、毎度この顔が近くで見れるのなら……まあいいかと思い始めていた、全く役得である。それをアスナは地上から少しだけ寂しそうに見上げていた。そんなアスナにリズが近寄り、苦笑いを浮かべながら肩にポンと手を当て、優しく声を掛けた。

 

 

「まあ……元気出しなさいよ、私もさ……アスナの気持ち……わかるからさ」

 

「リズ……?」

 

 

 リズはSAO時代に一度キリトに失恋をしていた過去があった。キリトの武器を作るために一緒に素材を取りに行ったとき、窮地を救ってくれたキリトに恋心を抱いていたのだ。しかし当時キリトと一番近い関係をアスナが持っていたということを知ると、その親友であるアスナに恋路を譲ったというわけだ。その当時のリズと全く同じ気持ちを、今度はアスナが感じていた。

 

 

「今だから言っちゃうけどさ、SAO時代ね……あたしもキリトのコト……好きだったんだ……」

 

「え……?」

 

「でもね……アンタたちがすごいお似合いだと思ったからさ、あたしが身を引いちゃったワケよ」

 

 

「そう……だったの……」

 

 

 リズは参ったわねと言いたげな顔をしながら頭をポリポリと人差し指でかき、首を横に傾けた。どことなく寂しそうで、困ってそうで。そして微妙な空気が流れ続け、しばらくの沈黙が流れた後、リズはアスナの肩に手を回して顔を近づけて、高らかに言い放った。

 

 

「まあこれで、あたしら似た者同士ってことよ! 元気出していきましょ! アスナ!」

 

 

 アスナもこれには「アハハ……」と苦笑いで返した。でも不思議と今回の件でそこまで悔しさはなかった。清々しいまでの敗北感はあったが。アスナの目にうっすら涙が浮かんだ。何でだろう、あの二人を応援しているはずなのに、もう諦めてるはずなのに……。

 

 

「まあ少し悔しいっちゃ……悔しいかな……。私は今もキリト君のこと好きだし、それでもユウキならいいかなって思ってるんだ。でもユウキのことも……キリト君にとられちゃったみたいで……なんかもう……よくわかんないや……」

 

「まああれを見ちゃうと……ね……」

 

 

 そういうとアスナとリズは地上から、仲睦まじく、楽しくスキンシップをしているユウキとキリトを見上げていた。純粋無垢なそのやりとりは見てる方をも幸せにしそうな雰囲気を醸し出していた。それと同時に、誰もあの間に入り込めないような、そんな空気をも感じさせられていた。この時、アスナは初めて"失恋"したのであった。

 

 

「完敗……だよね……」

 

 

 

――――――

 

 

 

 程なくしてしばらくすると、キリトとユウキは一しきり遊んだあと地上へと降りてきた。二人を待っていたメンバーも「いつまでいちゃついてんだよ……」とでも言いたげな顔を並べて、二人を迎え入れていた。

 

 

「みんなー! やっほー!」

 

 

 ユウキは左手を元気にぶんぶん振りながら満面の笑みで、羽を広げながらゆっくりと地上へ降りてきた。もう片方の右手はキリトの左手をしっかりと握っていた。キリトはユウキのスキンシップに付き合っていたこともあり、どことなく疲れている表情をしていた。

 

 

「それにしてもすごいメンバーだねー! ……あれ? クラインさんは?」

 

「遅刻」

 

「あ、ああ……そうなんだ……あ……あははは……」

 

 

 遅刻というだらしがないクラインの行動に、ユウキは苦笑いを見せていた。この場面に来てまで肝心なところで遅刻するというクラインのトホホな役回りに、メンバーはほんの少しだけ苛立ちを見せていた。そんな微妙な空気が流れている中、とある人物からキリトへとメッセージが送信されてきた。キリトは左手でメニューを操作して自分宛てに届いたメッセージを確認すると、意味深な笑みを浮かべていた。

 

 

「よし、ようやくお出ましだぞ……今回の作戦の要となる人物が……!」

 

 

 キリトは送られてきたメッセージを黙読すると、即座に上空へと視線を移した。他のメンバーもそんなキリトに釣られるように上空を見上げた。地上から100メートルほど離れた上空には人影が五人分、こちら目指して滑空をしてきていた。その中でもとびっきり目立つ少女が、元気に挨拶をしながら勢いよくキリト達のいる地点へと降りてきた。

 

 

「お~~い! キリトく~~ん! 来たよ~~! プリヴィエ~~トッ(こんにちは~)!」

 

 

 その女の子の姿をみたキリト以外のメンバーは大層驚いていた。ALOで、いやVRMMOで、いやVR技術界隈、いやいやそれどころか多方面界隈で知らないものはほとんどこの世界に存在しないであろうというぐらいの、超有名人がメンバーの前に姿を現した。銀色のロングの髪型に音楽番組で見るようなアイドル衣装に独特のデザインのベレー帽をかぶったプーカの少女であった。

 

 

「よーう! セブン! 急に呼び出してすまない! 来てくれてありがとう!」

 

「全く本当だよ! これでも結構忙しい身なんだからね! まあ……今は前に比べて研究時間もライブの回数も減ったから……ある程度自由に動けるけどね」

 

 

 キリトだけがそんな周りのことなど気にすることなくマイペースで挨拶を進めている。だからKYと呼ばれるのだ。そんなキリトの前に降り立ったこのプーカの少女の名はセブン。クラウド・ブレイン計画実行の黒幕(本人に悪意があったわけではないが)であり茅場昌彦に匹敵すると言われている頭脳の持ち主。そして世界的に有名なVR技術博士の一人で、同時に世界的に有名なカリスマアイドルこと七色(なないろ)・アルシャービン博士だ。その後ろには付き人のウンディーネの男性、スメラギが面白くなさそうな顔をして立っていた。身長180cmと広い肩幅といいガタイを持ち、顔もスマートで女の子が寄ってきそうな外見。ウンディーネらしくしろと水色を基調としたクロークに身を包んでセブンのあとをついてきていた。

 

 

「フン…ッ」

 

「キリト君! 久しぶりだねー!」

 

 

 セブン、スメラギに続いてレプラコーンの赤髪の少女が降り立った。赤と黒のゴスロリ調の服装に身を包み、その姿はさながらメイドさんといったイメージが似合う可愛らしい見た目をしていた。しかしこう見えても彼女の腕前はキリトに匹敵するほどの強さを誇る。その正体は元SAOサバイバーであり、キリトと同じく二刀流……いや、多刀流をスタイルとしたただ一人の廃人プレイヤーだ。クラウド・ブレイン計画が解決したあとはセブンと姉妹ユニットを組んで、仮想世界現実世界共に世界全国を回っている。

 

 

「キリト~~~久しぶりだよ~~~!」

 

 

 続いて大胆な服装をしたノームの少女、ストレアが降りてきた。かつてのアインクラッドでキリトたちと共に冒険をした仲間だ。プレイヤーと同じ外見をしているが、彼女は人間ではない。ユイと同じくMHCP(メンタルヘルスカウンセリングプログラム)としてSAOのコアシステム「カーディナル」によって生み出されたプログラムAIなのであった。しかしアインクラッド崩壊と共に、キリトのナーヴギアのローカルメモリに避難することが出来、このALOにもプレイヤーとして参加出来ていたのだ。

 

 

「よう、ストレア! 元気してたか?」

 

 

 ストレアはお馴染みのあいさつ代わりにとすぐさまキリトを抱擁しようとしたが、ユウキに光の速さで阻まれた。いつもなら問答無用で抱き着いていたストレアだったが、今までと違うまさかの障害物に驚きの様子を見せていた。

 

 

「ス~ト~レ~ア~……!! 今までみたいにはさせないよ! キリトはボクの恋人なんだからねっ!!」

 

 

「えっそうなの? それは知らなかったよ~、ごめんね~」

 

 

 一瞬驚いた様子を見せたストレアであったが、大して悪びれた様子もなく一応の謝罪をした。相も変わらずのマイペースっぷりである。これがプログラムAIというのだからこれまた驚きだ。

 

 

「ユウキさんが恋人って……どういうことですかパパ!!」

 

 

 ストレアに続いて、同じMHCP(メンタルヘルスカウンセリングプログラム)であるナビゲーションピクシーの姿をした、キリトとアスナの娘であるユイが上空から姿を現した。セブンから始まり、次から次へとキリトへの接触が止まらない。

 

 

「ゆ……ユイ!? あ、いや……違うんだ! これには……深い事情があってだな…」

 

 

 ユイの姿を視認するやいなや、キリトは慌てて今の現状を弁解しようと言葉を並べたが、焦るあまりに上手く言葉出てこなかった。今まさに修羅場を迎えているキリトを尻目に、アスナは一歩前へでて、最愛の娘との再会を果たした。

 

 

「ユイちゃん……久しぶり……! 元気だった……?」

 

 

「ママ……!」

 

 

 ユイはナビゲーションピクシーの姿からプレイヤーサイズに姿を変えると、アスナへと駆け寄り、ぴょんとジャンプをしてアスナの胸に飛び込み抱擁を交わした。ユイとアスナも一か月ぶりの親子の再会に、喜びの様子を見せていた。

 

 

「ママ……ユイは……ユイは元気です……! セブンさんたちに……とても楽しい経験をたくさんさせてもらいました!」

 

 

 実はキリトとアスナが別れた時、問題になったのはユイの行先でもあった。アスナはアミュスフィアを取り上げられ、キリトもまったくALOで活動しようとしていなかったため、自然とユイは孤独な状態になってしまったのである。

 

 そこでセブンが話を持ち出した。私たちと一緒にいろんなところを見て回らないか? という話だ。セブンの技術ならキリト以上に現実世界でのモニタリングが可能だしALOでもLIVEなど、普通は経験出来ないようなことがたくさんさせてあげられるということで、ユイはセブンに預けられていたのだ。ストレアはそれについていっただけだったが。

 

 

「でもパパの恋人さんが……ユウキさんというのは……その……どういうことなのでしょうか……」

 

 

 ユイはアスナとキリトとユウキを順繰りに繰り返し見ながら困惑していた。パパとユウキさんがお付き合いをしているということは、ママと……ユイの関係はどうなってしまうのですか? と子供らしい困った表情を浮かべていた。

 

 

「ユイ……それは俺から説明させてくれ」

 

 

 キリトは一歩前へ出ると、ユイにこれまで起こったことを全て説明した。アスナと別れてからのこと、ユウキの病気のこと、その病気を治してやると約束したこと、そして……ユウキと恋人同士という関係になった経緯など、事細かに全て包み隠さず、娘であるユイに語った。

 

 

「ユイ……お前には申し訳ないと思っている……。恨んでくれて構わない、俺は……それだけのことをしてしまった」

 

「キリト違うよ! それは……っ」

 

 ユウキがキリトは悪くないと弁解しようとするが、キリトは首を横に振って、それを制止させた。まるで全ての責任はこの俺がとるといわんばかりに、そうキリトの背中が語っているようにみ見えた。これは俺とアスナとユイ、親子同士の問題だとも言っているようにも思えた。

 

 キリトのこれまでの経緯について説明を受けたユイはしばらく考え込んだ後、複雑な表情を浮かべながら、胸に手を当ててキリトを見上げ、ゆっくりと胸のうちの気持ちを語り出した。

 

 

「…パパはずるいです、なんでそこまで……誰にでも優しいんですか……」

 

 

 ユイはうっすらと目に涙を浮かべていた。時間はかかってもパパとママはまた一緒にいられるようになると信じて疑わなかったからだ。しかし結果は違ってしまった。キリトは違う女の子を好きになってしまい、アスナとの関係も終わってしまったかのように見えた。しかしユイはそれでもキリトのことをどうしても責められないでいた。キリトの誰にでも優しい性格をよく理解していたからだ。

 

 

「えっと……多分すぐには……ユイは納得が出来ないと思います。でも……それでもユイは……やっぱりパパの役に立ちたいと……そう思っています……」

 

「ユイちゃん……」

 

 

 アスナは健気な姿勢を見せるユイに駆け寄ると優しく抱きしめた。私の力が至らなかったばっかりにユイちゃんに寂しい思いをさせてごめんね、こんなことになってしまってごめんね……と。

 

 

「ママ、大丈夫なのです。ユイは……ユイはこう見えても強い子なのですよ? セブンさんたちと世界中を旅した時も、全然泣かなかったのです……!」

 

 

 ユイは流れ出る涙を必死に抑えながらも、頑張って笑顔を作ってアスナを見つめ返していた。プログラムで組まれたAIながらも、ここまできてしまったらキリト達から親離れをする時が来てしまったのかなと、そんな空気を感じ取っていた。

 

 

「本当にすまない……ユイ……。でも……でも俺は、守りたいものを見つけてしまったんだ、俺の一生を賭けてまで……守っていきたいものが……! だから……すまない……」

 

 

 キリトは拳を握りしめ、小さく震えていた。その拳を優しく包み込むようにユウキが握りしめた。どう声を掛けてあげたらいいかわからないけど、今はボクがキリトの支えになるよ。その温かい手がそう言っているように感じた。

 

 

「大丈夫なのですパパ……、ユイは……ユイはっつっ……強い……子なので……す……」

 

 

 その瞬間、ユイは膝から崩れ落ちると滝のような涙を流した。アスナはより力を込めてユイを抱きしめた。キリトは一瞬その様子に焦りの表情を見せたが、ユウキが「行ってあげて、キリトにしか出来ないよ」と背中を押すと、そのままユイに駆け寄り、アスナと同じようにユイを抱きしめた。

 

 ユイは最後になるであろうアスナとキリトの温もりを体に感じながら、わんわんと泣き叫び、涙を流し続けた。プログラムで組まれたAIとはいえユイの精神年齢はまだ子供。まだこれから親の愛が必要なお年頃だ、様々なネットワークと繋がり、大人以上に豊富な知識を持っているといっても、中身はやっぱり子供なのだ。

 

 やがてユイはひとしきり涙を流し切ると、体を起こしてアスナとキリトから一歩後ろに下がり、少し畏まった姿勢をして涙で赤くなった目を手でゴシゴシ擦りながら、今までお世話になった二人に、子として最後の言葉を送った。

 

 

「パパ、ママ、……ユイは自立するのです。子供はやがて……親から離れなければいけない時がくるのです。ユイは……ユイは今がその時じゃないかと思っています……。でも……でも……」

 

「…………」

 

「これからも……今まで通り…お二人のことを…"パパ" "ママ"と……呼んでいいですか……?」

 

「ああ……! 勿論だ……!」

 

「うん……! ママは……いつまでもユイちゃんのママだからね……!」

 

「は……はいっ……! ありがとうございます! パパ! ママ!」

 

 

 それを聞くと安心したのか、ユイはぱあっと明るい顔になり、涙の混じった笑顔で答えを返した。キリトとアスナは少し複雑な心境になってしまっていた、誰も悪くないのに誰かが悲しんでいるこの状況にどこか心がモヤモヤしていた。そんな複雑な気持ちを胸に抱いているキリトに、ユウキが駆け寄って心配そうに声を掛けた。

 

 

「大丈夫? キリト……」

 

「ああ……俺は大丈夫だ……、サンキュな……ユウキ……」

 

 

 こうして、ユイはキリトとアスナの手から離れていくことになった。アスナとキリトが別れた時点でこうなることは必然的であったが、なんとも言えない気まずさに辺りは微妙な空気に包まれていた。しかしそれでもこの三人はそれなりにけじめをつけたのだ。すぐには無理かもしれないが、この環境を受け入れて各々強く生きていくことだろう。しかしキリトには今回の件でまた罪悪感がのしかかっていた。でもユウキのためにここまでしてきた、もう今更引き下がるわけにはいかないし、引き下がれないところまできてしまっていた。

 

 それからしばらくは静寂な時間がただただ流れ続けた。キリト、アスナ、ユイの関係はみんなが知っている、どれだけ仲睦まじい家族であったかどうかも充分にしっている。バラバラになるはずがない家族がバラバラになってしまった。その事実に皆口を閉じてだんまりとしてしまっていた。しかしそんな気まずい空気を拭い去るために、意を決してユイがこの静寂な空気に斬り込みをいれた。

 

 

「パパ! ユイはもう大丈夫なのです!それよりみなさんにお話ししたいことがあって、ここに集まってもらったのではないですか?」

 

「あ、ああ……そうだな……。みんなっまだ気持ちが落ち着いていない中申し訳ないが……そろそろ本題に入らせてもらっていいかな?」

 

 

 キリトからの問いかけに少しの無言が流れた後、全員視線を合わせてからキリトの方を向きなおしほぼ同時に頷いた。気持ちの整理はまだついていないが、ここに集まった本来の目的を考えると、今から聞かされるキリトからの話を、真剣に聞かなくてはいけない。何せ、ユウキの命がかかっているのだから。

 

 

「……ありがとう、それでは本題に移る。今日は俺の呼び出しに応じてくれてありがとう。今日呼び出したのは他でもない……ユウキのためだ」

 

 

 キリトがそう言うと、全員の視線がユウキへと集まった。ユウキがその視線に気付くと「へ? ボ……ボク?」と驚いた様子を見せた。アスナ達が集まってくれたのなら話は分かるがセブンやスメラギまで集まっていたことに理解が追い付いていなかった。ボクとどういう関係があるのだろうと。

 

 

「え……ボクのためにって……? どういうコト? キリト…」

 

 

 キリトはユウキの顔を見ると頭の上にポンと片手を乗せて「大丈夫だ、俺にまかせろ」と言いたげに自信に満ち溢れた表情を見せた。ユウキは何がなんだか分からないが、キリトが任せろと言うのならそれを信じようとした。その返事代わりにユウキはキリトの手をぎゅっと握りしめた。

 

 

「なあ、ユウキ」

 

「なあに? キリト」

 

「――歌って……みないか?」

 

「――へッ?」

 

 

 




 
 第18話、ご観覧ありがとうございます。ユイとストレアをどうからませようかとずっと考えていたんですよね。キリトとアスナが別れた時点で、蟠りが生まれることは必至でしたから……。こんな形になってしまって筆者も少し罪悪感を感じています。ほんとごめんユイちゃん……。

 それでは私は寝ます、おやすみなさい。以下次回!

 

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