IDX《インフィニット・ダブルクロス》   作:茨木次郎

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 つい調子にのって一睡もせずに書き上げちゃいました。
 早くもヒロインその1、登場です。


一人目 から 幼馴染み

 TRPGダブルクロス。日本製の現代モノのゲームだが説明は面倒くさいので省く。映画にもなったアメコミ『X-MEN』のような感じだと思ってくれ。

 転生したこの世界がダブルクロスの世界なら細部まで説明した方がよいのだろうが、この世界でこの能力を扱えるのは徹頭徹尾俺だけ(と正体不明の依頼主から説明された)だし構うまい。

 要は俺は正体不明のウイルスで怪物(ジャーム)となる危険性を孕んだ超人(オーヴァード)になった。これだけ憶えておいてくれれば良い。オーヴァードが保有する症候群(シンドローム)の名称でカテゴライズされた固有能力についてはそのうち説明する。

 

 

 

 さて、IS学園では限界までIS関連教育を行うため、入学当日からあっさり通常授業開始となる。他の学校ならありがちなオリエンテーションの類いも一切無し。施設の場所等は各自地図で確認しとけとさ。

 まあそんな感じで始まった授業なんだが、流石最先端超兵器ISを扱うIS学園の授業なだけはある。レベルが高いこと高いこと。『脳組織を組み換えることで、万能の天才になれる』ノイマンシンドロームでなかったら、隣の席で頭から煙をふきダウンしている織斑一夏の様になっていたに違いない。

 

 織斑一夏にとっての試練の時間は漸く終わり、休み時間。SHR(ショートホームルーム)の時とは違い、沈黙こそなかったが他のクラス、果ては上級生まで訪れて遠巻きに俺たちを雑談混じりに観察していた。来日したばかりの上野動物園のパンダになった気分だ。

「……なぁ、此処の授業、難しくないか?」

超兵器(IS)の扱いを学ぶんだ。簡単な方がおかしいだろ」

 元来物怖じしない性格なのか、もしくは周りの雰囲気に助けを求めたせいなのか躊躇い無く此方に声を掛けてくる織斑一夏をすっぱりと切り捨てるが同性とのコミュニケーションに餓えている奴は気にもしてないようだ。

「そう言えば自己紹介まだだったよな! 俺は──」

「SHRで聞いた。俺は斑鳩八雲だ」

 やっぱり聴いてなかったな、コイツ。

「そっか。俺のことは一夏で良いぜ、よろしくな八雲」

 あっさり人を名前で呼び捨て。許可した覚えなんか無いんだが。……狭量すぎるか、俺?

「いやー、それにしても八雲が入学してくれてホント助かったよ! 俺一人だけだったらどんなにキツかったか……」

 そもそもお前がISを動かさなければお前は勿論のこと俺だってIS学園(此処)に入学することはなかったんだがな。……まあコイツはある意味、この学園で、世界で唯一のお仲間(同類)とも言える。無闇に敵意を向ける理由は無いか。必要以上に仲良くする気も無いが。

「まあ、一人じゃないのはありがたいってのはよく分かる」

 分厚い参考書を開きながら『ある意味片手間で会話しています』な態度で返す。というかコイツは難しい難しいと言いながら何で予習、復習の類いをしないんだ? 訳わからん。

「そう言えばその首どうしたんだ?」

 一夏の視線が首にある幅広なチョーカー──飾り気皆無の見た目幅広の黒革製──に向けられる。ファッションとして見てもIS学園の制服に似合わないし不審に思ったのだろう。

「宗教上の都合だ」

 コイツを身に付けている本当の理由を説明する訳にもいかず、IS学園に強制入学が決まった際に学園側にごり押しした表向きの理由──理由と言える程高尚な言い訳ですら無いが──を口にする。

 俺の身体のことを説明出来ない以上、チョーカーに()()()()()()のことを話す訳にはいかない。

 

 コイツは俺が万が一ジャーム化した時の為の予防策で、内側に内蔵された超小型センサーが俺がジャーム化したと判断した場合、即座に首から上を爆砕するように仕掛けてある。

 ジャームとは基本オーヴァードが持つ《衝動》を満たすためだけに行動する。そこに理性の縛りは無い。ダブクロの世界ならばそうなった時のことを考え複数で行動するのがセオリーなんだが、あいにく此処ではオーヴァードは俺一人。しかも俺の持つ《衝動》は殺戮衝動。もしもの場合、なんの躊躇いも無く大量殺戮を行う天才的な頭脳を持った化け物が誕生してしまう。そうなったらマズイかと用意した保険がコレだ。

 

「へぇ……」

「──おい」

 あからさまに嘘臭い理由をあっさり信じ、逆に俺を呆れまじりに驚かせた一夏の背に声が掛けられた。一夏が振り替えると其処にはSHRの時から時折一夏を睨んでいた黒髪ポニーテールの女子生徒の姿。確か名前は篠ノ之(しののの)(ほうき)だったか。

「箒……」

 思わずといった風に呟く一夏。どうやら知り合いらしい。しかし箒って……。実の娘に掃除用具の名前を付けるとは、中々イカれたセンスの親だな。それ以上にそんな名前を受理した役所がスゲェ(小並感)。

「あ。紹介するよ八雲、コイツは──」

「一夏。話がある、顔を貸してくれ」

 俺を紹介しようとする一夏の声を遮り用件を口にすると篠ノ之はさっさと背を向けた。どうやら彼女は何の根拠も無く「自分の方が格上」と考える典型的な女尊主義者らしい。

「ゴメン八雲、アイツは──」

「お前が気にすることじゃない。さっさと追いかけた方が良いんじゃないか?」

 顔に僅かばかり不快感がにじみ出たのを察したのか一夏が慌てて謝罪するが、それを遮りさっさと送り出す。篠ノ之に「一夏が付いてこなかったのは斑鳩八雲のせい」なんて難癖付けられるのは御免だ。

 

 軽く謝罪してから篠ノ之を追って教室を出て行くと観衆(ギャラリー)の三分の二がそちらに付いていったため視線のプレッシャーが目に見えて減ったのは正直ありがたい。

 

「──ヤッホーやくもん、久し振り〜」

 

 独りになったし授業が始まるまでの暇潰しに参考書でも読もうかとした俺に声が掛けられる。のほほんとした、よく知った声でそちらに視線を向けるとやはり知った顔だった。

「相変わらず眠そうな顔してるな、本音」

「それは言わないお約束〜」

 俺と眠たげな、しかしにこやかな少女の気安い会話に周囲に緊張が走る。そんな周囲とは真逆に能天気な雰囲気を振り撒く彼女の名は布仏(のほとけ)本音(ほんね)。俺の幼馴染みのお嬢様姉妹の妹に仕える幼馴染みである。

 仕える主がIS学園に入学した以上、彼女がそれに従いIS学園(此処)に進学するのは何もおかしくはない。見た目や性格とは裏腹に知能、身体能力は結構高いし。そこに問題は無い。むしろ問題なのは──

「いくら此処が制服の改造を認めてるとはいえ……、ありなのか制服(それ)?」

 たとえ指先までピンと延ばしても爪の先すら見えないほどにだらしなく延びきった制服の袖だった。制服サイズそのものが合ってないのではなく明らかに袖の長さがおかしい。

「可愛いでしょ〜? 萌える? ねぇ萌える〜?」

「いやまったく」

 キッパリと否定するが、さすがに勉学に支障を来すような改造はNGだと思うのだが、良いのか? いやそれ以前に──

「よく虚さんが許したな」

 なんだかんだ言っても(本音)には甘い、されど元来生真面目な本音の二つ年上の姉、布仏(うつほ)さんでも許さないと思うんだが。

「入学式直前までお姉ちゃんには見せなかったから、無問題(モウマンタイ)〜」

 いや、無問題じゃないからそれ。というかよく怒らなかったな虚さん。それともまだ雷が落ちる前なんだろうか。なら俺に被害が来ない所で落ちてほしい。 まあそれはともかく──

 

「簪はこのクラスじゃないのか?」

 本音の仕える主兼俺たち共通の幼馴染みのことを問う。本音に負けず劣らずに優秀──得意分野においては確実に凌駕している──なアイツが入学出来ないなんてありえない。というよりもアイツが入学出来てないならそもそも本音が此処にいる訳が無い。

「かんちゃんは四組だよ〜」

 本音の答えに顔には出さないが少し驚く。一般には知られていないがアイツの実家はこの学園の運営に関わる立場だ。娘と同じクラスに従者をねじ込む程度の《ワガママ》くらいはやると思ってたんだが。 ……まあ、それはともかく。

 

「あれ〜? かんちゃんの処に行くの、やくもん?」

「ああ。無視して拗ねられても困るし、様子を見てくる」

 まだ少し時間もある、一夏を追って観客(障害物)も減ったし、丁度良いだろ。それに言い訳じゃ無いがアイツが拗ねるとシスコンの姉も動き出す。面倒くさいと放っておく方が確実に面倒くさくなる。

「ほほ〜う? おっけぃわかった、ごゆっくり〜♪」

「いや、それ無理だから」

 遅刻してわざわざ織斑先生(鬼教師)を怒らせる趣味はありません。教室を出た瞬間、プラプラと手を振る本音にクラスメイトが殺到したような気がしたが、気のせいだろう、多分。

 

☆★☆

 

「──此処か」

 廊下を、ギャラリー(障害物)がさっと二つに分かれていく様にモーセの十戒の1シーンを連想しながら進めば直ぐに目的地、四組の教室へと辿り着く。

 戸口から中を覗き込むと、教室に残って談笑していた女子生徒たちが目を丸くして此方を見詰めてくるが、それらを無視して目標を探す。ま、探す必要無いんだけどな、アイツの髪は目立つし。ほら、見付けた。……いつも疑問に感じるんだがあんなに目立つ髪──色素がかなり薄まった蒼──はどうなんだ、アイツの家の生業(なりわい)的に。

 

「おーい、簪ー」

 

 窓際の席に着き、空間投影型のモニターを見詰め、同種のキーボード──IS技術を流用した最新型。持運びに凄い便利だがその分非常に高価──を操作する幼馴染み更識(さらしき)(かんざし)に呼び掛けるが──

「……」

 簪は俺には気付かず集中してモニターに向かっている、訳ではない。ほんの一瞬だが此方に視線を向けたのをしっかりと把握してます。つまり、意図的に無視してやがる。あんにゃろう。

 オーケー。そっちがその気なら此方にも考えがある。無視できないようにしようじゃないか。

「おい簪」

 四組教室に侵入し簪の傍らに歩みより、再び声を掛けるが──

「……」

 当の簪はまだ気付かない、気付かない振りを続ける。しかしその冷静な横顔には一筋の汗が。

「てい」

「あた」

 軽く手刀を振り下ろす。「あた」などと言ってはいるが、当然ながら本当に痛いわけではない。大人しい癖になんだかんだでノリが良いんだ、コイツは。

「……いきなり何をする」

「いきなりじゃねぇだろ。気づかなかったんじゃなくて、気付いた上で無視したんだ。ならこの程度の意趣返し、して当然、されて当然と思っとけ」

 手刀が当たった部位をさすりながら睨む簪を逆に軽く睨む。中学時代の友人その1が同じことをやらかしたら問答無用で必殺のアイアンクローだ。それをこの程度で済ませた俺は十分紳士的と言える。

 嘆息混じりに簪の前の席に跨ぐように座り、黙々と作業を続ける簪をジト目で軽く睨む。

「たく。久し振りに幼馴染みの顔を見に来た相手に対する態度じゃねえぞ、それ」

「別に頼んでない。…………頼まれたの?」

「自主的な行動でござーますですよ、お嬢様?」

 コイツは中学時代にシスコンの姉とトラブルを起こし、一時期は他人の善意を素直に受け取れなくなったことがあった。トラブル自体は()()()()()()いるのだが、その時の名残か、時折こんな阿呆なやり取りを今でも交わすことがある。

「てか何やってんだ、さっきから?」

()()()()

 成る程、守秘義務のある案件か。なら聞くわけにはいかないか。胸ポケットからハンターケースタイプの懐中時計を取り出し、時間を確認。定期的にネジを巻かなきゃならない機械式なのが面倒くさいがデザインが気に入っているので愛用している。……本当はオーヴァード(ノイマンシンドローム)の能力のお陰で持つ必要はないのだが、まあそこは趣味ってことで。

「……」

「? どうした?」

「何でもない」

 簪が一瞬こちらを、懐中時計を見たような──ってそういえば懐中時計(これ)ってガキの頃簪たちがプレゼントしてくれたやつだった。俺の物持ちの良さに呆れてんのかね? まあいいや。そろそろ時間だし。

「簪、今日の昼飯一緒に食わねーか? 久し振りに同じ学校になった祝いだ、奢るぞ?」

「IS学園では食事は三食基本無料。奢るのはムリ」

「あれ、そうだっけ?」

 うっわ、はっずかしい!! 奢るなんて格好つけてコレかよ!? 「でも」ん?

「デザートやお菓子などの嗜好品は別。そっちなら奢られてもいい」

 ……何だよ「奢られてもいい」って。思わずもれそうになった失笑を全力で抑える。バレたら絶対に拗ねて物凄く面倒くさくなるし。

「ならデザートを奢るわ。常識の範囲で頼むぞ?」

 嫌がらせで高いデザートを大量購入されても困るし。

「わざわざ言い聞かせなくても分かってる」

 若干拗ねた表情を見せる簪に苦笑をもらしつつ席を立つ。織斑先生の指導(出席簿)を喰らいたくない俺はクールに去ることにした。

 

 結果俺は無事チャイムが鳴る前に自分の席に着けたのだが、一夏と篠ノ之は間に合わず織斑先生の一撃を仲良く喰らっていた。合掌。

 




ダブルクロス設定
☆ウイルス
 正式名称背教者(レネゲイド)ウイルス。
 ダブルクロスの世界の人類のおよそ七割が感染している非常に高い感染力を持った謎のウイルスで、保菌者が肉体的、または精神的に強いショックを受けると発症。保菌者の遺伝子情報を書き換えて超人(オーヴァード)、または怪物(ジャーム)へと変貌させる。

☆シンドローム
 オーヴァードが発現した異能力を特性ごとに13種にカテゴライズしたもの。ウイルスによって得られる為、症候群と表記される。
 オーヴァードはシンドロームを1~3種保有しており、その数からそれぞれ純血種(ピュアブリード)混血種(クロスブリード)三種混合種(トライブリード)と呼ばれ、基本的に使用できるシンドロームの数が増える程汎用性が高まるが、逆にシンドローム一つ一つの力は弱まるとされる。

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