本当に申し訳ありません。
次は早く書くなんて宣っておきながらこの体たらく。
本当に、申し訳ありませんでした。
IS学園、学園長室。
本来なら単なる一生徒には最後の最後まで縁の無い場所に、オルコットとの試合を終えた俺は連行された。簡素な椅子に座らされた俺以外に三人の人物が沈痛な面持ちでこちらを見つめている。
一人はこの部屋の主、学園長。……
もう一人は織斑先生。一夏とオルコットとの試合の管理を山田先生に任せ、こちらに顔を出した。まあ事の重要性を鑑みれば当然か。妙に不機嫌そうに見えるのは実弟の初舞台を拝めなかったためだな。……あ、睨まれた。考えがバレたか?
そして生徒会会長にしてIS学園運営に関わる更識家当主の更識楯無。簪や布仏姉妹はここにはいない。流石に妹に甘いシスコンの楯無でも何ら権限の無い妹をこの場に招き入れるようなヤツじゃないし。
「──それにしても、
「私も初めて知りました」
俺の簡潔な説明──主義者教師(正確にはそいつに良いように翻弄された自分自身)にキレた俺が偶然コアへのハッキングに成功し、秘匿されていたシステムを起動させてしまったこと──を受け、目頭を
「まったく……。トンでもないことをあっさり仕出かしてくれちゃって」
「ちょっと待った。その台詞、お前にだけは言われたくないんだけど? 機体のチェックはしてあると太鼓判を押してくれた更識楯無生徒会長殿?」
自分自身でのチェックを怠ったのを棚にあげて軽く睨むと、呆れ混じりに嘆息していた楯無は口をつぐむ。実際、チェックした段階で機体の細工に気付いていればこんな事態にはならなかったのは事実であり、自身でチェックしなかったにもかかわらず太鼓判を押したのは楯無なので仕方がないと思っておいてもらおう。
「しかし、ライセンス生産された
頭が痛いとぼやく学園長。いや、本当に申し訳ない。特にデュノア社って今かなり落ち目らしいしな、どんな無理難題を言い出すことやら。……て、偉そうに言える立場じゃないよな、俺。
「重ね重ね申し訳ありません。ところで機体やモニタールームに細工をした教師はどうなったんですか?」
「彼女なら既に拘束している」
俺の質問に答えたのは織斑先生。あの試合の後、通信が回復した俺はモニタールームにいた面々に事情を説明し、貴賓室にいた教師を拘束するように依頼した。
どうやらモニタールームでも俺のISの細工に気づいていたらしく、織斑先生と楯無は即座に貴賓室に急行、そこで茫然自失となっていた主義者教師を拘束したとのこと。そして彼女を
「日頃からの言動と最近の不審な行動から今回の機体とモニタールームの異常は彼女が行ったものと判断してかまわないかと」
「……私がこのような事を聞くのも
楯無の報告に学園長はわずかに苦虫を噛み潰したかのような表情で問い掛ける。
「……申し訳ありません、下からはそのような報告はあがってきませんでした」
いつもの
「つまり、何者かによって意図的に情報が隠蔽されていた、と?」
「そう解釈せざるを得ない状況です」
常識的に考えるのなら、楯無の言は言い訳にしか聞こえないのだろうが、学園長と織斑先生の顔に疑いの色は見えない。そんな阿呆な報告をするような人間が長年日本の暗部を担ってきた更識家を継げる訳がないと確信しているからだろう。
「──失礼します」
不意に学園長室のドアがノックされる。学園長が入室を許可すると、入って来たのは虚さんだった。何故か妙に表情が青ざめているように見える。何かあったのか?
「ある程度ですが解析が出来たので御報告させていただきます」
訝しむ俺達を無視するように報告を始める虚さん。それによると──
・主義者教師が所有していたフラッシュメモリは現行のそれを遥かに超える記録容量を備え、内部にはモニタールームや機体を弄るためのデータ
らしき、と表現したのはデータの一部が欠損し現時点では確証が持てないからとの事。……後で楯無に頼んで調べさせてもらうか。
・予想が正しければフラッシュメモリ内のデータは現行の技術レベルを超越した代物で、万が一コレが外部に漏れ、復元・解析・複製された場合、IS学園のセキュリティは丸裸も同然らしい。その報告を聞いた学園長は即座にメモリの物理的破棄とセキュリティの見直しを決断した。勿体無いが責任者としては当然の判断だな。ん? 楯無がこちらをジッと見つめて──睨んでいる。……おそらく『アンタも手伝いなさい!』と言いたいのか。俺の能力を知らない人達が居るため口に出せないのだろう。とりあえず僅かに頷いておく。
・フラッシュメモリに製作者の手がかりはなかったらしい。メモリの外側に描かれていた
その報告を聞いた三人はそろって苦虫を噛み潰したような表情をつくる。もしや製作者に心当たりがあるのだろうか? ……って、世界最高峰のIS学園のセキュリティを突破出来るってだけで予想はつくよな。
・魔改造ISに関しては機体のほとんどがブラックボックス化していて現段階では内部データを調べることが出来ず、外部から観測データを取る以外方法が無いらしい。
そりゃそうだ。だってブラックボックス化すると同時に
あのISの武装群はぶっちゃけ俺のエフェクトを増幅しているだけだからなぁ……。もしそれがバレたら即モルモットの危機だ。幸運な事にあのISのコアは契約のおかげで俺の意思を上位としているから第三者に解析を許すことは無いだろう、
「──そうですか……」
虚さんの報告が一段落つくと学園長は疲れたように眉間のシワを揉みほぐしながら呟く。
入学したばかりの
「とりあえず、あのISについては『外部からの過干渉によってコアに秘蔵されていたシステムが誤作動を起こした結果』と発表するしか無いのではないでしょうか? 事実を全てさらけ出すのは危険でしょうし」
「……そうですね。偶然とは言えコアへのハッキングを成功させた等と知られれば面倒な事になりかねません」
織斑先生の提案に学園長も頷く。
この情報が他所に漏れれば、コアの解析が出来る(かもしれない)等とIS学園に情報公開請求が大挙して押し寄せるのは確定だろう。それだけならまだしも、
……ちなみに、今のところ誰にも明かす気は無いが、コアの解析はぶっちゃけ時間さえ掛ければ恐らく
そんな俺の思考に気付く筈もないお三方の話し合いは続く。
「──機体については……、コアを初期化した上で外し、デュノア社へと引き渡そうかと思います。
非常に勿体無いですがと提案する学園長に頷く織斑先生と楯無。あらかじめ話を通した上での魔改造なら何ら問題は無かったのだろうが、無許可でやらかした以上仕方ない。元々俺に所有権を主張する権利など無いのだから。むしろ
されどデュノア社に解析を成功されても困った事になるし、引き渡すまでに機体のセキュリティを可能な限り強化しとかなきゃな。……出来るかな?
「──その件で一つ、御報告しなければならない事があります」
コアを初期化し機体を引き渡す事で解決案としようとした三人にまだ顔を青ざめさせたままの虚さんが口を挟む。
「どうしたの虚ちゃん? 顔、真っ青だけど?」
虚さんは
虚さんの発言に学園長室の空気が凍り付いた。