竜太と戦ってから一週間が過ぎた。
あのまま、倒れて病院に運ばれていつもの部屋に移動した。三日間は昏睡状態で眠ったまま。
そこからは療養生活、
一時間くらいなら動けるくらい。
もう少しで、三年次になる。
ついこの間、キンジから編入許可が受理されたらしい。
あいつは、多分馴染めないと思うけどな。
と、そこに高天原先生が来た。
「風切君、具合はどうですか?」
「割と良くなってます。何かご用で?」
「はい、校長先生がお呼びです」
「……怪我人の俺にですか?」
「とりあえず、学校の校長室へお願いします。レキさんも」
そう言って目線をレキにも向ける。
レキはこちらを見ていたので頷く。
「分かりました。梓さんは私が連れて行きます」
「はい。急がなくていいので、車椅子を借りてあります。それで下の私の車まで来てください」
そう言い踵を返して部屋を出て行く。
俺は痛む身体を無理矢理起こす。
そして、風を使いながら車椅子に腰を下ろす。
ガタガタと揺られながらエレベーターを使い、降りて先生の車に向かう。
そして、色々と助けられながら車に乗って運ばれる。
こうして武偵高に到着して、車椅子を押されて行く。
「ああ、またあいつ大怪我したのか」みたいな目で見られるのは慣れた。
別に大怪我したくてしてるわけじゃないんだけども。
そんなこんなで校長室へ到着。
「失礼します。高天原です。風切君とレキさんを連れて来ました」
「ご苦労様でした。では、少し外で待っていてください、高天原先生」
「分かりました」
そう校長先生の言葉を聞いて出て行く高天原先生。
校長先生、緑川尊はこちらを見てニッコリと笑っている。
こう見れば優しそうなおじいちゃんだが、侮るなかれ。
「見える透明人間」とも言われる人物で、99.9%の人間は「あれ?校長ってどんな人だっけ?」となる。
まあ、俺はこういう人種が一番危険であることは知っている。
「最近災難が多いみたいですね、風切君」
「いえ、自分が弱いから危険な状態に陥るんです。もっと、精進しないと」
「ははっ、君は向上心がとても強いようだ。っと、長時間座らせておくのも怪我に悪いので早速、話に入らせてもらいます」
「はい」
「君には、潜入捜査をしてもらいたいのです」
「潜入捜査?」
「それはこの人が怪我人と知ってのことですね」
校長の言葉に少し怒りを露わにするレキ。
俺はレキを宥めながら話の続きを促す。
「この潜入捜査は、武偵高にいるよりは安全ですよ。遠山君も一緒ですから」
「それは嘘ですね」
「……何故そう思うのですか?」
「キンジは一般高に編入、……ってそういうことか」
「何がでしょう」
「あなたがキンジの編入許可出したのは、わざわざ呼び出して言う手間が省けたからだ。編入を認めるとか言って俺の調べることを現地で感じてもらうため、そう言うことでしょう?」
「……ちっ、これだから勘の鋭いガキは」
俺が持論を展開し、論破すると舌打ちをして毒を吐いた。
「任務には行きます。あなたの言う通り少しは楽になるでしょうから。で、潜入捜査の内容は?」
「……最近、日本に中国の組織が違法に取り引きをしているらしいのです。君たちにはそれについての捜査と、出来れば、その組織の一人でも捕まえてくだされば幸いですね。任務開始日時は三年になると同時。遠山君と同様に編入生として行ってもらいます」
「分かりました。……そういえば、潜入捜査をするにあたってその高校に俺たちの写真とか送りました?」
「いえ、遠山君は送りましたが君たちのは何も。その高校には、その高校辺りで危険なことがあるかもしれないから武偵を編入という形で捜査に行かせて危険を排除してもらう、そういう風に言ってあります」
「そうですか。もちろん、このことはキンジには内緒でしょう?」
「はい。遠山君は優秀ではありますが、ムラがあるので潜入させるよりは普通に一般高に行ってもらったほうが実力を発揮させてくれるでしょう」
「分かりました。では、失礼します」
頭だけを下げて、校長室を出る。
高天原先生が居て送ってくれるらしいが拒否をする。
……久々に自由に動きたい。身体は動かないけど。
「あ、そうだ。高天原先生」
「はい?何でしょう」
「緑川尊校長先生に、レキが少し粗相を犯してすみませんと言ってもらえますか?優しそうなおじいちゃんとはいえ
少し苛立っておられましたから」
では、そう言って車椅子をレキに押してもらう。
その帰り道に潜入捜査をするにあたって少し大事なことを聞く。
「そういえば、レキは名字がないだろ。どうするつもりだ?」
「風切でいいのでは?」
「それなら、双子ってことになるんだが……。こうするか」
レキが頭にハテナを浮かべる中で、白銀の弾丸を使って髪の色と瞳の色を瑠瑠色に変える。
「これなら、双子でも問題はないな」
「……そうですね」
少し嬉しそうにするレキ。
……最近、表情が柔らかくなったなぁ。
最終的に流石に一日中、髪の色と瞳の色を変え続けることは出来なかった。