ヒルダとの戦いから数日経って、10月30日。
文化祭の日がやってきた。
朝は梓がちゃんと登校して、着替えの時に私に入れ替わった。
私は午後からのシフトなので、店を回っている。
梓がせっかくくれた2日間なのでルンルン気分で楽しく文化祭を楽しむ。
時折、人々の視線が刺さるのが嫌なところではあるけど。
やっぱり高校の文化祭というものは凄いもので、たこ焼きとかりんご飴とかアメリカンドッグやホットドッグなど、様々なものが点在していて、更には私たちのところのような店をやっている。
中学生の時はあまり私では外に出なかったのでこういうのは新鮮なのである。
さて、そんな楽しいひと時も終わり、店に戻った。
私は厨房もホールも担当していて、作っては出し、作っては出しを繰り返している。
文化祭というのがしんどい、ということが初めて分かった。
梓とは記憶しか共有が出来ないので疲れというものは分らなかった。
そして、梓と呼ばれるのが難点である。
最初の方はとても困った。
風切と呼んでくれたら楽なのに。
男子は、梓が女装した、としか認識していないからだろう。
「亜里沙!ちょっと来てくれ!」
そんなところで金次に呼ばれた。
同じ厨房の生徒に声をかけてから金次のところへ行く。
「どうしたの?」
「いや、玉藻が呼べって言ったからな。すまんが少し相手をしてやってくれ」
「これ遠山の!わしを子供みたいな扱いするでない!」
そう隣にいた小さな子が声をあげる。
賽銭箱と書かれた箱を背負って。
「分かったよ」
「じゃあ頼んだ」
走り去っていく金次に手を振っておく。
金次が見えなくなってから、押し付けられたと分かった。
私はため息をつき、玉藻の方を向く。
「それで、何か用かな?」
「うむ。風切の、取り敢えず梓とやら変わってくれんか?遠山のが入れ替われるというておったのでな」
そう聞いて内心で舌打ちする。
人の個人情報を勝手に流失してくれちゃって。
「ごめんね。今は変われないの。こんな公衆の面前で私と梓が同一人物ということをバラしたくない。話しがあるなら私が聞くよ。私と梓の記憶は同じだから」
「分かった。風切の。ようヒルダを倒してくれたの。大儀であった」
「ありがとう。でも梓は何もやっていないよ?」
「いや、リュパン4世の毒を消しておったじゃろ。そのおかげで戦力を減らさずに済んだのでな」
「そっか」
「うむ。用はそれだけゆえ、遠山のを連れて来てくれ」
「分かった。行こっか」
そう言って玉藻の手を握る。
見た目は迷子の子を連れて行っているお姉さんみたいな感じになっている。
と言うわけで自分の教室に戻って、わざと金次の名前を大声で叫んで呼ぶ。
玉藻を引き渡すと、恨めしそうにこちらを見てくるが、とびっきりの笑顔を向けて手を振ってあげる。
そして、玉藻に無理やり連れていかれた。
……頑張れ。
それからは普通に過ぎて行った。
ジャンヌの店に行ってからかったりもして、有意義な時間だった。