「ほほほっ――ご気分はいかが? 4世さん」
三叉槍を手に持って平然と立つヒルダの姿があり、撃ち抜いたはずの魔臓を示す目玉模様の傷も治っていた。
「あぁ、いいわ。4人とも、とってもいい表情。特に――理子。無念でしょうねぇ。命を投げ打ってまで戦ったのに……ほら。私はご覧の通り、平気よ。ねぇ、今、どんな気分? ほほほっ、もっと悔しがりなさい。それを串刺しにするから、面白いのよねぇ。私は生まれつき、見え難い場所に魔臓があるわけではなかった。その上、この忌々しい目玉模様を付けられてしまったの。だから――これはお父様にさえ秘密にしてたけど――外科手術で、変えちゃったのよ。魔臓の位置をね。ほほほっ、おーっほっ!?」
と、ヒルダの笑い声か途中で消えた。
タァン!と後から聞こえてくる。
理由は簡単。
俺がレキに指示したからである。
先ほど出した人差し指。
ヒルダがもう一度起きたときに撃てという意味で出した。
頭を撃たれた程度ではすぐに戻るだろうが、その隙が欲しかった。
「位置を変えたからなんだ?体をバラバラにすれば関係ないだろ?」
『赤霧の名の下に』
そう呟くと雰囲気が変わる。
「くっ!ウルスの従者の分際で!」
そう言って槍を振るってくる。
それをグロックを発砲し同時に着弾させる。
槍を弾き飛ばし、一気に距離を詰める。
「竜太流、一刀 太刀」
体を反転させて、胴体を一閃する。
「くっ!」
声を上げ、更に槍を振るってくるのをバックステップをして避け、グロックをしまい「るうと」を抜いて、二つの剣を少しずらし、二つをくっつける。
「竜太流 二刀
くっつけた剣を少しずらし、上から振り下ろす。
そこから反転し、胴体を二閃。
「るうと」を背の鞘に戻し、もう一度グロックを抜く。
ワトソンから預かった剣をヒルダに向け、グロックを引き、弓を射るような形を取り、撃つ。
その弾が燃え上がり胴体を焼いた。
風を使って飛び、金次たちのところまで退がる。
風を集め、槍のような形を取って顔めがけて投げる。
ヒルダの顔を吹き飛ばすところで、ヒルダが槍を掲げると槍をめがけて雷が落ちた。
その爆風を風の壁ではる。
「――生まれて3度目だわ。
その白煙の向こうから、ヒルダのそんな声がして目を凝らせば、さっきまで弱々しく纏っていた電光は、青白く、激しく変貌していて、近付いただけでもやばそうな雰囲気を出していて、耐電性の下着やタイツは残っていたが、髪をまとめていたリボンは燃えてなくなり、強風に煽られた長い金髪が暴れていた。
「お父様はパトラに呪われ――この第3態になる機会もない間に、
目の前の悪魔は高揚した気持ちを抑えられないのか、笑いながら俺達を殺そうと口を開き、槍を足元へと突くと、それだけでコンクリートの床に稲妻が走り、蜘蛛の巣状に亀裂が入った。
「
その力を見せつけるように、第2展望台の縁にあった鋼鉄の柱を槍で殴り、ひん曲げていく。
俺はふっと鼻で笑ってやる。
その俺を見てヒルダの顔が歪んだ。
「何がおかしいの?」
「いや、コウモリ如きが神だとか。笑い者にしかならねえよ。あっはははっ!」
俺の挑発に簡単に乗ってくれたヒルダは三叉槍を振り上げてその槍の先端に青白い稲妻を発生させ、その形を球体へと変化……雷球になっていく。
あまりにエネルギーがありすぎるからか、雷球は不安定でその形が揺らめく。
「私と長時間戦ったご褒美に見せてあげる。竜悴公家の奥伝――『
「出来るならな」
と、更に挑発しておく。
そこで理子が口を開いた。
「人生の角、角は、花で飾るのがいい……あたしのお母様の、言葉だ……」
理子がそんなことを言って近くの大きなヒマワリの花束を抱える。
「だから……ヒルダ。お前にやるよ。お別れの、花……」
「ほほッ……4世にしては殊勝な心がけね。でも慎んでお断りするわ。私、ヒマワリってキライなの。太陽みたいで、憎たらしいんだもの。お前も知っているでしょう? 私は、暗い所が好きなのよ」
「くふっ……暗い所が好きなお前に、1つ、日本の諺を教えてやるよ。『灯台もと暗し』……自分のすぐ足元には、何があっても……大抵、気づかない」
互いに姿が見えない中で、理子はヒマワリの花束を不敵に笑いながら解いていく。
「これは近すぎても遠すぎてもダメだった。ベストな距離が必要だった……」
その中から出てきたのは、銃身を短くされた散弾銃ショットガン。これが理子の言っていた作戦。
「理子、お前は――天才だっ!」
それを確認したキンジが横っ飛びし、柩からダイブするのと、俺が横に転がって理子の射線から出たのは同時。
理子が飛び出して、そこで理子の散弾銃に気付いたヒルダが、ハッとした瞬間。
「くふっ。今、サイコーのアングルだよ。ヒルダ。
――ガゥンッ!!
轟くような銃声が第2展望台に響き、放たれた銃弾は通常の銃弾とは異なって散弾。
小さな弾子となって空中で散開し、ビシビシビシビシビシッ!! ヒルダの全身を余すところなく撃ち抜いた。
「あ……ッう……ううッ……!」
「追加!」
風の壁を分解して、風で更に貫く。
全身を撃ち抜かれたヒルダは、呻きながらその場に片膝をついたのと同時に、頭上で輝いていた雷星が槍へと戻りヒルダの体を通過して足元へと流れ、それに伴って無限回復力を持つはずのヒルダの体が高圧電流で燃え上がった。
つまり、魔臓がその機能を失っているということ。
「あァう……! そんな……これは、これは悪夢……悪夢なんだわ……だって、おかしいもの……! 私が、この私が、こんなヤツらに……こんなに、ひどい……!」
柩から転げ落ちたヒルダは、悲鳴を上げながら俺達から逃げるように這って動くが、全身が燃えているために視界がないようで右往左往していたが、そんなヒルダに近付くことが出来ない俺達ははただ見ていることしか出来ない。
実際、風を使えば炎は消せるがやらない。
そして第2展望台の縁にまで行ってしまったヒルダは、そこで手を滑らせて、第2展望台から落下していった。
断末魔のような悲鳴は、徐々に遠ざかっていき、ついには聞こえなくなってしまった。