変装食堂の衣装決めから数日。
その衣装の準備の締め切りが明日と迫った今日は、その仕上げを行うためにみんなで教室に集まって徹夜で作業することか伝統行事となっている。
衣装の締め切りは文化祭よりだいぶ前に設定されているのだが、その締め切りに間に合わなければ命がないので、みんな死に物狂いで教室に集まっていた。
そんなやつらで賑わう夜9時過ぎの教室には、すでに衣装を着て歩き回るやつらもいて、パッと見でどこかのコスプレパーティーである。
一応言っておくが、
私はと言うか梓は『女装』、金次は『神主』から『警官(警視庁・巡査)』、アリアは『アイドル』から『小学生』、理子は『泥棒』から『ガンマン』、白雪は『チャイナドレス』から『先生』、レキは『研究所職員』だった。
私はレキと一緒に作業しているが一言も話さず、今も制服の上に白衣を羽織ってブラウスをチクチク縫っていた。
そのレキに対して、白雪との会話をやめた――白雪が何やら独り言を言い始めてるので推測――らしい金次が、近くに置いてあったメガネを作業中にも関わらずレキにかける。
そのまま、レキが金次を見上げる。
金次は顔を赤くして離れていった。
恐らく、上目遣いのレキを見てヒスりそうになったのだろう。
そこに「みんな、おっはよー!」とガンマン姿の理子が現れた。
今は夜10時ぐらいだから絶対におはようではないが。
テンガロンハットを被ってへそ丸出しのブラウスを着て、革のチョッキとブーツ。デニムのミニスカートと実に理子らしいガンマン姿で意外と似合っていると私でも思う。
「ほら早く! 絶対ウケるって! 可愛いは正義だよ!」
ドア前で誰かの腕を引っ張る理子は、言いながら超笑顔で教室へその人物を引き入れていく。
ズルズルと引きずられてきた人物、アリアは、ようやく見えてきた足に真っ赤なストラップシューズとピンクと白のしましまソックスを履いていて、それだけでもう色々と同情する。
……でも、意外と似合うと思うんだけどねぇ。
「や、や、やっぱり! いーーやーーよーーッ!」
そしてアリアの全身が見えてしまい、その姿が明らかになる。
キッズサイズのフリル付きブラウス。ピンクのミニスカート。赤ランドセル。その側面にはリコーダーのホルダーが。
……うん。やっぱり似合う。
「ずるいわよ!亜里沙になるなんて!」
いつの間にか近くにいたアリアが吠える。
だから、私もそれっぽい理由を答える。
「梓は私に少しでも学園生活を楽しんで欲しいって変わってくれたんだよ?そんなこと言っちゃダメだよ」
「そ、そうだったの」
そう言って私は満面の笑みを浮かべてあげる。
「……本音は?」
「『上げてから落とす作戦』の続き」
「なんですって!?」
私が本音を言うとフリフリのスカートの中からガバメントを抜いてくる。
「冗談冗談。九割はさっきの梓の感想で合ってるよ」
「残り一割は本気じゃない!」
「あははは〜。退散っ!」
「あっ!こら!待ちなさい!」
私は走り出して、レキを抱えて逃げる。
レキも作業を終わらせていたので良かった。
あっ、私もちゃんと作業は終わらせてますよ?