緋弾のアリア〜傭兵からの転生者〜   作:SAMタイム

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第四十二弾 開戦

宣戦会議の締めを語っていたジャンヌに割り込むように不穏な言葉と怪しい笑みを浮かべたヒルダ。

……うわぁ、何か始める気だ。

 

「……もう、か?」

 

「いいでしょ別に。もう始まったんだもの」

 

「待て。今夜は……ここでは、お前は戦わないと言っていなかったか」

 

「そうねぇ。ここはあまりいい舞台ではないわ。高度も低いし、天気もイマイチよ。でも、気が変わったの。折角だし、ちょっと遊んでいきましょうよ」

 

そう話しながらに俺と金次を見るヒルダとジャンヌ。

よく見ればジャンヌはマバタキ信号で「逃げろ」と送ってきている。

俺は風を展開してレキを抱える。

 

その間、同時にデュランダルを持ち上げたジャンヌは、その刃に氷を纏わせ、ヒルダは足元の自分の影に溶け込んで姿を消した。

その光景に驚愕するキンジは棒立ち。手に持つベレッタも対象が定まってない。

 

「遠山、逃げろッ! 30秒は縛る!」

 

「レキ、あの影を撃てるか」

 

「はい」

 

影に潜んだヒルダが金次へと近寄ってくる中、ジャンヌは叫んでデュランダルをうごめく影に投げつけてザクッ!

と影と地面とを縫い付けた。

 

「今!」

 

そこでレキが引き金を引く。

タァンタァンと後から聞こえるが、ブラドと同じなら効かないだろう。

 

「金次、下がれ!俺たちが対処する!」

 

俺は風を操作して金次を掴み、迫って来たボートへ投げ込む。

俺はナイフとベレッタを取り出し、弓を射る形を取る。

 

「ジャンヌ!離れろ!」

 

俺の意図に気づいて、ジャンヌが飛び下がる。

そして、銃弾をナイフに掠らせ燃え上がる。

その銃弾が影に当たり、穴が開く。

 

不意に視界に入った玉藻が、学園島の方を向いていることに気付き、俺もそちらを見ると、ゾロゾロと他のやつらもそちらを向いた。

まあ、気づいてたからな。

 

その数秒後、その方向から小型のモーターボートの走る音が聞こえてきて、この空き地島に接舷する音がしてから、その辺りから見覚えのある姿が現れた。

 

「SSRに網を張らせといて正解だったわ! アタシの目の届くところに出てくるとはね。金次が飛んで来たのは驚いたけど、その勇気だけは認めてあげるッ!そこにいるんでしょ!? パトラ! ヒルダ! イ・ウーの残党! セットで逮捕よ! 今月のママの高裁に、手土産(ギフト)ができたわね!」

 

……アリア、無謀にも程がある。

 

「アリア!ここは、ダメだって言ってるだろ!?」

 

金次も叫ぶが、アリアはその手にガバメントを抜いて尚も接近してくる。

そのアリアに振り向くLOOと音を上げる巨大メカ。

その動作で警戒レベルを上げたアリアが、いきなり発砲。

巨大メカの頭上に位置していた風車のプロペラを折ってその重量で巨大メカを潰した。

 

その様子に心底楽しそうに踊り始めたのは、身の丈以上の斧を軽々と持つツノ少女ハビ。

 

それと同じように潰れた巨大メカに爆笑していた魔女カツェ。

その背後にはそろりそろりと大剣を振りかぶるシスターメーヤが、

 

「厄水の魔女……討ち取ったりィーーーーッ!」

 

そう叫びながら大剣を振り下ろした。

……倒す気あるのか?

折角の背面攻撃を台無しにしてる。

そのメーヤに最初から気付いていたらしいカツェは、その手に西洋短剣を持ち出して切り結んだ。

 

「あー、メーヤ……お前ホント、いっぺん死なないと治らねェなァ。そのアホさ」

 

俺と同じようなことを言葉にしたカツェは、短剣で大剣をいなすと、大剣は足元のコンクリートに落ちて突き刺さった。

 

「お、大人しく斬られないとは……ああ神よ、この者の罪をお許し……いえ、許さなくて結構です! 神罰代行ッ! 謹んで務めさせていただきます!」

 

そう言うメーヤは、すでに肩で息をしながら大剣を下段に構える。

……スタミナないな、シスターさんよ。

 

そんなメーヤに対して、カツェはその懐から骨董品のような形状の銃を取り出しメーヤに数発ほど発砲するが、明らかに近い距離内にも関わらず、その弾は1発としてメーヤには当たらなかった。

 

「チッ。やっぱダメかよ。とことん運のいいヤツだな」

 

やっぱ、と言った辺り、あらかじめ予測していた節のあるカツェは、その銃をすぐにレッグホルスターに収めて短剣を構え直しメーヤめがけて駆ける。

二人が切り結ぶ瞬間。

その間に素早く割って入った人物がいて、その人物、カナは、持っていたサソリの尾の背で大剣を、柄で短剣を器用に静止させていた。

……本当に器用だな。

 

「お2人さん。今はまだ――ちょっと早いわ。もう帰りましょう? ね?」

 

転んだ2人に笑顔で語ったカナは、それでまた霧の中へ後退。

そのタイミングでアリアと金次が俺の元まで辿り着いた。

 

「アリア、今はギャアギャア暴れてる場合じゃないぞ。そのくらいわかるな」

 

「ギャアギャアなんてしてない! でもそうらしいわね。最初は霧でよく分かんなかったけど……」

 

俺の言葉に1度噛みついたアリアだったが、そんなこともどうでもよくなる状況だと理解はしたようで、その手のガバメントを威嚇するように周囲に向けた。

 

「パトラはキンジのお兄ちゃんと一緒みたいだし――ヒルダは、逃げたみたいだし」

 

アリアに言われてさっきデュランダルに縫い付けられていたヒルダを見てみると、確かに影はなかった。

 

それで改めて周りを見回してみると、リバティー・メイソンを名乗ったトレンチコートを着た男はいなく、金次の足元には手毬?がある。

さらにさっきの巨大メカの中から出てきたスクール水着みたいな紺色のコスチュームを着た女の子が、アリアを指してルールー! と喚いてどこかへと逃げてしまった。

 

「なぜ来た、アリア……! 気をつけろ、ヒルダはまだいるッ。それも、近くに……! 逃げるぞ! ヤツはイ・ウーから――『緋色の研究』を盗んでいる! 危険だ!」

 

そこへ地面からデュランダルを抜いてジャンヌが近寄ってきて、この周囲にダイヤモンドダストの霞を作り出し俺達の姿を隠していく。

 

ジャンヌの意図を瞬時に理解した俺は、そのダイヤモンドダストが濃くなるのを待ち、タイミングを図っていたのだが、不意にアリアの影の中からヒルダが現れて、その背後を取った。

 

「――Intâi gândeste, apoi porneste.(よく確かめてから来れば良かったのにねぇ。)Prilejul te face hot...(まるで飛んで火に入る夏の虫……)」

 

恐らくルーマニア語で何か言ったらしいヒルダは、その左手でアリアの後ろ首を掴んで捕らえる。

 

そのヒルダに対して先手を打ったのは、レキ。

レキの撃った弾はヒルダの頭部を左上から右下へ貫通。したのだが、そのヒルダはアリアから手も放さずに頭をグラリとさせただけ。やっぱりブラドと同じ、か。

 

「愚かな武偵娘に、おしおきよ」

 

撃たれても平然としていたヒルダは、笑いながらその口を開いて、鋭く伸びる2本のキバを見せてアリアの首に突き立てた。

 


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