「では、古の作法に則り、まずは3つの協定を復唱する」
やっと本題に入る。
ヒルダやカツェたちのじゃれあい?も終わったから。
「86年前の宣戦会議ではフランス語だったそうだが、今回は私が日本語に翻訳した事を容赦頂きたい。
第1項。いつ何時、誰が誰に挑戦することも許される。戦いは決闘に準ずるものとするが、不意打ち、闇討ち、密偵、奇術の使用、侮辱は許される。
第2項。際限無き殺戮を避けるため、決闘に値せぬ雑兵の戦用を禁ずる。これは第1項より優先される。
第3項。戦いは主に『
それぞれの組織がどちらの連盟に属するかはこの場での宣言によって定めるが、黙秘・無所属も許される。宣言後の鞍替えは禁じないが、誇り高き各位によりそれに応じた扱いをされる事を心得よ」
……今のジャンヌの言葉を要約すればこうか?
各組織が師団・眷属・無所属を宣言し、その組織の中心戦力をぶつけて戦う。
その際に数でものを言わせるような戦いは認めない。
師団から眷属へ。また眷属から師団への組織の移動も有り。
しかしそれ相応の対応はされる。無所属もまた然り。といった感じか。
「続けて連盟の宣言を募るが……まず、私達イ・ウー
ルール説明を終えたジャンヌは、続けて連盟の宣言に移り、先程のやり取りからメーヤやカツェ、ヒルダを勝手に分けて各々の表情を確認する。
「ああ……神様。再び剣を取る私を、お赦し下さい――はい。バチカンは元よりこの汚らわしい眷属共を伐つ師団。
「ああ。アタシも当然眷属だ。メーヤと仲間になんてなれるもんかよ」
「聞くまでもないでしょうジャンヌ。私は生まれながらにして闇の眷属――眷属よ。玉藻、あなたもそうでしょう?」
メーヤ、カツェ、ヒルダと宣言に相違ないことを述べると、ヒルダは次に金次の隣にいた玉藻と呼ばれた少女を名指しして尋ねる。
「すまんのぅヒルダ。儂は今回、師団じゃ。未だ
師団に属すると答えた玉藻は、今度は近所の子供を呼ぶような気軽さでパトラに話しかけて師団に属するように言う。
「タマモ。かつて先祖が教わった諸々の事、妾は感謝しておるがのぅ。イ・ウー研鑽派の優等生どもには私怨もある。今回、イ・ウー主戦派は眷属ぢゃ。あー……お前はどうするのぢゃ。カナ」
「創世記41章11――『同じ夜に私達はそれぞれ夢を見たが、そのどちらにも意味が隠されていた』――私は個人でここに来たけれど、そうね。無所属とさせてもらうわ」
次々と連盟宣言が成されていく中、カナ。金次の兄だけが初めて無所属を宣言した。
……俺も個人だと思うから無所属でいいかな…。
ま、レキの敵にはなりたくないのでレキに判断を委ねよう。
「ジャンヌ。リバティー・メイソンも無所属だ。しばらく様子を見させてもらう」
金一さんに便乗する形で口を開いたのは、リバティー・メイソンの大使であるトレンチコートを着た男だった。
「ーーLOOーー」
次にそんなルウーという発声?をしたのは、3メートルはある巨大メカ。
……よく作ったな、あんなの。
そいつはそのあともルウー、ルウーと何かを喋っているようだったが、誰も理解できないので、ジャンヌが『黙秘』と判断し、それでルウーとひと声出したそいつはそれ以降黙った。
「――ハビ――眷属!」
そうして唐突に宣言したのは、10歳ぐらいに見えるトラジマ模様の毛皮を着た少女だったが、その少女は自分より大きな斧を軽々と片手で持ち上げてみせてから、それを地面に降ろすと、ずしんっ! と圧倒的な重量感を足に伝えてきた。
よく見ればバサバサの髪、跳ね上がった前髪の下に2本のツノが見えていた。これも人間じゃないのね。
吸血鬼のあとは普通の鬼か。
「遠山、バスカービルはどちらにつくのだ?」
「な、なんだ。なんで俺に振るんだよ、ジャンヌ」
この場にいる約半数が宣言を終えた辺りに、ジャンヌがここにいる理由が見えなかった金次に宣言を促す。
バスカービルは組織じゃないけどな。
「お前は、シャーロックを倒した張本人だろう」
「い、いや。あれはどっちかっつーと流れで……アリアを助けに行ったら、たまたまシャーロックがいたっていうか……」
「まだ分からないのか? この宣戦会議にはお前の一味、そのリーダーの連盟宣言が不可欠だ。お前はイ・ウーを壊滅させ、私達を再び戦わせる口火を切ったのだからな」
そこでキンジもあれやこれやとジャンヌに抗議をするが、ジャンヌは全く取り合わずにどちらにつくかを問う。
その様子に見かねたヒルダが割って入った。
「新人は皆、そう無様に慌てるのよねぇ。そこのウルスのお付きはなかなか立派よ?」
そいつはどうも。
「聞くまでもないでしょう? 遠山キンジ。お前たちは師団。それしかありえないわ。お前は眷属の偉大なる古豪、ドラキュラ・ブラド――お父様のカタキなのだから」
「――それでは、ウルスが師団に付く事を代理宣言させてもらいます」
ヒルダの言葉でキンジが師団に付いたとみなされた瞬間、レキが間髪入れずに師団に付く事を宣言。
レキ自身もバスカービルの一員だから当然の流れだな。
「藍幇の大使、
……従者じゃねえよ。
「チッ。美しくねェ。ケッ――バカバカしいぜ。強ぇヤツが集まるかと思って来てみりゃ、何だこりゃ。要は使いっ走りの集いってワケかよ。どいつもこいつも取るに足らねェ。ムダ足だったぜ。……いや、一人いいのがいたな」
そう言ってみてくる男。
……俺はホモには興味ない。
と言うかお断りだ。
「
「――関係ねぇなッ」
「……私達と同じ物を求め、奪い合う限り、いずれは戦う事になる。その際に師団か眷属に付いておけば、敵の数が減るのだ。私達は各々の組織の人数を明かしてはいないが、少なくともここの十余名のうち半数は敵に回さずに済む」
「関係ねぇ。この中で戦いたいと思うのは、そこのお前、お前だけだ」
そう言ってジーサードが指差したのは、
「俺か?」
そう、俺だった。
「ああ、お前だけが何もせずただジッと見ていたな」
「発言する機会がなかったからな」
「それに、そこの吸血鬼女には興味なしと最初から見ていなかったし、我関せずと傍観を極めていた」
「……」
「そして、こうやって俺たちがくるのを、そこの銀髪の女やウルスの女以外に気付いてたな。しかも、大体の実力を把握して」
「……はぁ、よく見てるな。流石GⅢと言うべきだな」
「ほう?俺の事を知ってるのか」
「お前自身は知らん。でも、
「ああ、じゃあな。また全力で殺しにくるぜ」
そう言って文字通り消えた。
……また、面倒なのが来たな。
しかしそれで全ての宣言が済んだことで、進行役のジャンヌが締めの言葉を紡いだ。
「最後に、この闘争は……宣戦会議の地域名を元に名付ける慣習に従い、『
「じゃあ、いいのね?」
と、解散ムードに変わると思って一瞬気を緩めた瞬間、怪しい笑みを浮かべたヒルダが最後まで聞かずに口を開いた。